第31話 これは加里奈さんが悪い
「あ、あの.......ここは病院ですので......その、安静にベッドとかの上には......」
「ならん。まだたった1時間しか経っていないだろう。それよりもあなたはあなたの職務に戻ってくれ」
「そうよー。ここは付き合いの長い私に任せなさい。さすがに目に余る時は止めるから」
「わ、分かりました。それでは失礼します.......」
わからないで! 失礼しないで!
俺の悲痛な思いも虚しく唯一の救いだった看護婦さんは颯爽と消えてしまった。
声も出せない中、伝える手段はもはやテレパシーしかないと思って念じてみたが、やはり上手くはいかないようだ。
「さて、私が何で怒ってるかわかるよな?」
「「ひっ!」」
現在、俺達は激闘の一日を終えてから病室で二斬と二人して正座させられていた。
看護婦さんが言っていたように正座が始まってからかれこれ1時間が過ぎている。
ただでさえ正座をしないというのに、病室という固い床に加え俺の左腕はギプスで固定され、右手は肘辺りまで包帯グルグル巻き。
それだけではなく、腰や背中にも塗り薬が塗られた包帯で巻かれ、頭も巻かれ、巻かれていない箇所が下半身だけとなっている状態だ。
二斬も俺ほどではないが、筆や頭には包帯が巻かれている。
どう考えても人道的な人がやる所業ではない!
確かに、無茶したのは大変申し訳なく思っていますしね、説教を受けることも認めましょう。
だけど、怪我しているんだからせめてベッドで寝かせてもらえればとか思うわけですよ、俺は!
全く昨日の夜とは全く別人に思える。さながら、鬼か悪魔―――――――
「何か言いたそうだな、凪斗?」
全力で首を横に振る。
いやいやいやいや、滅相もありません! ただ出来心で鬼か悪魔と思っただけで.......
「ほう、鬼か悪魔か.......鬼とはあれか? 昨日倒した鬼とかけているのか? 頑張れば私も倒せると?」
な、なぜこうなった!?
あ、あれ? 今俺声に出してた? いや、さすがにこんな状況でヘマするわけ――――――
「テヘ☆ 面白そうだったからつい」
加里奈さんかー! テヘじゃねぇよ! 一体何をしたんだ!
「そのねー、私はね普段は看護婦だけど、時々事情聴取の仕事をするために警察官に変貌することあるのよー。なぜなら、私の【真実を語らせる】能力がとっても便利らしくてー。それに患者さんでも時折色目使ってカッコつけてやせ我慢する人がいるのよー。それでてっきり―――――」
「てっきりあの状況でどうやせ我慢していたと?」
あれは眠る獅子を起こさないためだというのに!
「.......テヘ☆」
テヘじゃねぇ!
「さーて、お前の処遇は後で考えるとして」
え、やめて。そういうやつって一番きつい仕事に回されるやつ。
「結衣。どうした? 足をもじもじさせてもしかして痺れたのか?」
「そんなことない」
二斬は無表情ながらもキリッとした目で所長に返答した。
だがその割には.......正座ちょっとズレてません?
あ、あれだ。片方の脚に体重を乗っけてもう片方を休ませる感じのやつだ。
ただまあ、それは愚策ですな。二斬さん。
「加里奈、チェックだ」
「はいはーい」
軽い返事で加里奈さんは二斬の背後に回る。
そして、看護服のスカートからちらりと白いベルトを覗かせる。あれはガータベルトですな。
「凪斗、そんなに見たいなら私が見せてやろう。ただしセクハラだがな」
「いいえ、結構です。嫌な予感がするので」
「私のは見たくないだと?」
「なんでちょっとキレてんですか!? それからそれ以上はパワハラです」
「チッ.......」
え、舌打ちしましたよ、この人。
ともかくまあ、ここは一先ず待ちの姿勢で――――――
「えい」
「ひゃっ!」
加里奈さんの掛け声に続くように隣から可愛らしい声が聞こえてきた。
俺は瞬間的に二斬りの方を向いてしまった。
すると、頬を染めながら両手で口を覆っている二斬の姿があった。珍しく二斬の恥じらいが表情でわかる。
「ここはどうかな?」
「.......んっ!」
「こっちはー?」
「ん"っ! ゴホン――――――ひゃっ!」
「ふふーん♪ それー!」
「んっ! 嫌、ダメ........んっ!」
な、なんかエロい。
声だけなのに耳がゾワゾワしてくるし、見ているものは正座して痺れた足を突いているだけなのにイケナイものを見てしまってる気分になる。
口を手で押さえているのに殺しきれなくて漏れてしまっている声とか、触った瞬間に体をビクッとさせているところだとか.......あれ? 正座ってエロくね?(※混乱しています)
「加里奈それぐらいにしておけ。もう十分だ」
「えー、これからがお楽しみだったのにー.......ね?」
ね? じゃないです。やめてください。同意を求めるのは。俺の保身に関わります。
「凪斗、後で必ず八つ裂きにする」
ohu......不可避ルートとだったか。
二斬が赤く染めた頬で強烈な睨むようなジト目をしてくる。正直すげー可愛い。
が、きっと殺されてしまうので、せめて感謝の意だけ伝えておこう。ごちそうさまでした。
「ぷふっ、くふふふふ......この子.......面白い......あはははは!」
「はあ、お前ってやつはどうしようもないバカだな」
「ん?」
加里奈さんが腹を抱えて大爆笑している一方で、所長がどうしようもないダメ人間を見たような感じで頭を抱えてため息を吐いている。
これは一体.......?
わけもわからず、ふと隣で正座している二斬を見た。
「........」
背筋が凍った。
あまりにも冷淡で感情が見えない瞳はまるで死神にでも心臓を握られているような気分であった。
心なしか寒気を感じてくる。意味もなく体がガタガタと震え始める。
.......あのー、ですね、とても怖い表情をしてらっしゃいますよー、二斬さん。
するとここで、二斬がブツブツと何かを呟いていることに気付いた。
普通に耳を澄ませても聞こえないので、耳を集中強化―――――
「コロスコロスコロスコロス、斬殺、絞殺、圧殺、溺死殺、焼殺、毒殺、転落殺、感電死殺.......は意味ない可能性があるから、拷問殺に銃殺に餓死殺に窒息死殺、それからそれから.......」
聞かなかったことにした。うん、これは聞いてはいけない類のやつだ。
人間誰しも都合の悪いことは記憶から消したいってことあるよね? そう、それが今の俺の気持ち。
ああ、でも、俺の明日は暗いことは確かかな.......病室同じだし。
って、それもそうだけど! そもそもの原因は!
「加里奈さん! なんてことするんですか!」
おかげでこっちは半泣きだっての! 明日以降の退院するまでに二斬に何をされるかわかったものじゃない!
「いやー、やっぱりちょっとエッチな反応を示した女の子の近くで生殺し状態に合っている健全な少年の気持ちってのを知りたいじゃん? だから、すこーし覗いてみたら、とっても......いい反応.......してて......ふふふふふっ」
「笑わないでください!」
誰のせいでこうなっていると思ってるんですか! 誰のせいで!
「誰のせいって確かに私よね」
「あ! 今また!」
「だーかーらー」
加里奈さんはしゃがんで艶めかしい体を近づけてくると頬に手を触れる。
なんか触り方もエロい!
「私がなんでも一つ聞いて上げる」
僅かに揃えていた足を広げる。
スカートが少し上がり、靴下とベルトのつなぎ目が見えてくる。それから、柔らかそうな太ももの肌がチラリ。
だ、ダメだ! 見てはいけないのに! め、目が吸い込まれる! どうにかして逸らさなきゃ!
「な・ん・で・も」
「ほんとですか!? って屈しるかー!」
「もう遅いわよ........ぷふ、ふくくくく」
「あああああああ! しまったああああああ!」
「八つ裂き八つ裂き八つ裂き八つ裂き八つ裂き八つ裂き........」
「はあ、全く収拾がつかなくなってしまったな」
俺が後悔の叫びを上げていて、加里奈さんが爆笑で床を転げまわっていて、二斬が俺を見ながら目から光すら無くして殺人予告を連呼している光景を見ながら、所長は大きく呆れたため息を吐いた。
読んでくださりありがとうございます(*'▽')




