第30話 無事でよかった
「ガァ.......ガ........」
赤鬼は両腕をだらんとさせるとそのまま膝から崩れ落ちた。
赤鬼の左胸には未だ赤く輝く金属の棒が刺さっており、皮膚を焼いたのかやや焦げ臭いにおいが充満する。
そして、金属から帯電した紫電を纏わせながら赤鬼は後ろ向きに力なく倒れた。
「終わった.......」
倒すつもりで投げた一撃だったが、どうにも赤鬼が倒れたことに実感が湧かなかった。
また立ち上がったらどうするとか。他にも打つ手を考えた方がいいんじゃないかとか。そんなことを考える。
しかし、数十秒経っても動く気配がない。
すると、ようやく俺の体は決した勝敗に疲れたように膝から崩れ落ちた。
やはり左胸を集中攻撃したことが有効だったらしい。
赤鬼の皮膚は鋼のように硬くても皮膚であることには変わりない。焼けば強度は落ちる。
だから、必要に左胸に電撃を当てて焼いていたんだが.......上手くいくかずっと不安だったから常にひやひやものだった。
「終わったよ、凪斗」
「二斬.......」
近づいてきたのはゆーちゃんでもいーちゃんでもなく、二人を合わせた人物である二斬であった。
二斬はいつもの無表情ではなく、少し口角を上げて嬉しそうに目を潤ませていた。
そして、そっと俺の頭に抱擁する。
「よかった。よかった.......凪斗が無事で........」
「ごめん。心配かけさせないつもりで来たのにおもくそかけてた」
「全くだよ。でも、それは私も一緒。ごめん」
「全くだ」
安堵を感じる。心からの安堵を。
二斬の無事。それは何よりも俺の体を温かくさせるものであった。
二斬の胸元に頭を寄せられたせいか心音が聞こえてくる。まだ少し早めの鼓動をしている。まあ、あんな後だしな。
一先ず二斬から頭を離すと体調について尋ねてみた。
「二斬、体の方は大丈夫か?」
「うん。凪斗が渡してくれたあの薬品。あれはゲームで言う回復薬みたいなもの。といっても、応急処置程度の回復しかないけどね」
「そっか。なら、礼弥さんにもお礼しないとな。もちろん、二斬にもだけど」
「それはお互い様だから気にしなくていい。それから、凪斗――――――」
「ん?」
「思い出してくれたんだね」
二斬は目を細めながら少しだけ口角を上げた。
俺はその笑顔に思わず魅入られて、それを隠すために二斬の頭を雑に撫でた。
「お前ら大丈夫か!」
「シュバーンと助けに来ましたよ! ってあれ.......もう終わってます?」
「なんとかなったみたい」
背後から声が聞こえて振り返ると所長と来架ちゃんが来ていた。
ということは、事務所には礼弥さんが残っているのだろう。まあ、非戦闘員だから仕方ないけど。
「おーまーえーらー!」
「「ひっ!」」
所長がすごい剣幕でドスドスと歩いてくる。あれは完全にキレてやがる。
まあ、怒られる原因はわかっている。俺が赤鬼と会った時点で本当は逃げれていたことを。
俺が二斬の場所についた時点で手袋型システムデバイスに赤鬼のマークを追加すれば、別にここから離れたとしても居場所は特定できるのだ。
それを行う時間は数秒とかからない。そして、二斬を抱えても俺の足なら余裕でその場から逃げれる。
しかし、それを俺はしなかった。
俺は「増援が来るまでの時間稼ぎ」とかなんとかで自分の本来取るべき行動を誤魔化して赤鬼と戦ったのだ。
ぶっちゃけ、私的理由だ。二斬があれほどまでにダメージを受けておいて、何もせずに帰るのが嫌だった。
それが結果左腕を粉砕され、二斬をもう一度戦いの場面に出させてしまうという醜態をさらしてしまったのだが。
その説明は俺と二斬がここにいて、さらにけがをしている時点で説明は不要だろう。
命令違反ではないが、本来取るべき行動をしなかったということで減給かもな。
加えて、実は「もし上級と遭遇したときは逃げろ」って所長から注意されていたし。
所長はどんどん近づいて来る。
俺と二斬は疲労や痛みで上手く動けない。
そして、所長が目の前に立と両手を伸ばしてきた。
なんだ? まさかこの状況でアイアンクローとか――――――
「本当に生きててよかった」
「「!」」
所長は俺と二斬を両腕で包むように抱擁した。
俺の頬に所長の柔らかさと透き通った香水の匂いが伝わってくる。
そして、しゃっくりのような声と腕から震えを感じる。
「良かった。生きててくれて。本当にどうしようもない馬鹿どもめ。一人は自分の信念に向き合い過ぎだし、一人はバカかもしれないと思ったら大バカ者だった。けど、欠けたらダメなんだ」
「「.......」」
「結衣は数少ない事務所の女性メンバーだし、可愛い妹のように思っていた。凪斗はまだ入ったばかりだけど、この世界に巻き込んでしまった負い目もあったし、それに私が思わず見込んだ男でまだ短い付き合いだけど大切な仲間だ。心配かけさせんじゃない、大バカども」
震えた声だ。時折鼻をすする音も聞こえる。
首から背中へと回された手はより強く引き寄せるように抱きしめる。しっかりと存在を確認しているように思えた。
所長の言葉は考えなくても本心から出た言葉だとわかる。
紡がれた一つ一つの言葉か耳の中へとスッと入っていき、頭の中に染み渡っていく。
所長がこれまでどんな経験をしてきたのかわからない。
しかし、きっと辛い目を何度も経験してきたのだろうとすぐに思った。年の差はたった2歳なのにだ。
所長がどれぐらいこの仕事に関わってきたのかはわからない。
確かなのは俺がのうのうと平和を保っていてくれた世界で生きていたの裏で、こういう人達の頑張りがあったからなのだと思う。
そういう意味では俺は案外この世界に来たのは悪くない。
俺の今回の頑張りはきっと今普通に暮らしている人達には知る由もないことだろう。
そういう人達からすれば、俺の頑張りなんて評価されない。知らないんだから当然だ。
けど、こんなボロボロになってまで頑張ったんだからきっと誰かの普通の暮らしを支えているんだと思う。
俺がそうだったのだから。
それに、俺の影の頑張りが全く評価されないわけじゃない。
表の世界には知られなくても、裏の世界―――――同じ事務所の仲間には見てくれている人がいる。
.......そっか。
きっとヒーローってのは、俺が思っていた"一人で何でも解決する頼りになる存在"じゃなくて、"たとえ多くの人に存在を知られなくても、支えて見てくれている仲間とともに協力する1人1人"のことを指すんだろうな。
俺が思っていたヒーロー像とは違うけど、それぞれを補って助け合うヒーロー達なんかもいいじゃないか。
別にヒーローは一人なんて誰も決めてないわけだしな。
「所長、迷惑かけてすいません。俺、自分で思っているよりも大バカ野郎みたいでした」
「私も過保護バカでした」
「ははは、全く......私はとんだ教育し甲斐のある奴らを引き入れたもんだ。帰ったら説教だからな......ったく」
「「はい」」
所長は肩に手を置くと俺から離れた。
月明かりに所長の少し赤くなった瞳と頬に煌めく一筋の涙の川が輝く。
「それで凪斗」
「はい?」
「その......なんだ、左腕の調子はどうだ?」
そう言われてふと左腕を見る。
軟体生物のようにグニャリとしている。
あれ? なんだろう? なんか急に痛みを感じてきたあああああぁぁぁぁぁ!
「いってえええええぇぇぇぇ!」
「だろうな! アドレナリンがが切れたせいだ! 私は凪斗を担いでいく! 来架は結衣を頼む!」
「ラジャーです! 任されました!」
そして、俺は高熱を帯びたように熱く痛みに叫びながら、所長に「うるさい」と首を叩かれ気絶させられ、痛みで起きては叫び、気絶させられを繰り返しながら帰路に戻った。
一先ず戦いは終わりましたね
読んでくださりありがとうございます(*'▽')




