第29話 初戦#4
「あ、あの.......た、立てますか?」
オドオドとして少し歯切れの悪い言い方をする方がいーちゃん。
内気な性格なのか基本俺が見ると顔をうつむかせる。
「早く立ってくれよ。後がつっかえてんだからさ」
そう言って俺の肩を軽く叩くのがゆーちゃん。
ハッキリとした物言いと勝ち気でサバサバしてる性格が特徴的だ。
いわゆる対照的な二人。しかし、その容姿はあまりにも二斬を酷似していて「分裂しましたー」と言っても信じるレベルだ。
とはいえ、赤鬼は危険だ。俺を助けてくれた勇気には感謝するが、あまりにも体格差が違い過ぎる。
「二人とも助けてくれてありがとう。けど、ここは引いてくれ。そして、出来れば外の壁にもたれっぱなしの二斬のことを見てくれて欲しい。俺の大事な仲間なんだ」
「だってよ? いーちゃん?」
「あ、あわわわわ! それはユーちゃんも同じだよ!」
いーちゃんは恥ずかしそうにフードを被ると顔をうつむかせる。
その反応を見てゆーちゃんはケラケラと笑う。
ん? どういうことだ? どうして二斬の話をしてこの二人が反応するんだ? 礼弥さんも兄妹は二人って言ってたし.......まだ頭が混乱しているのか?
「ほ、ほら、しっかり言ってあげないと凪斗さんが混乱してるよ」
「えー、もう少し反応楽しみたかったのにー」
いーちゃんナイスアシスト。どうやらからくりがあるようだ。
「んじゃあ、状況が状況だから手短に説明するぞ。私ことゆーちゃんといーちゃんは"二斬結衣"と二人合わせて同一人物だ」
「つ、つまりですね、私達は二斬結衣の分裂体なんです。名前がないので"結衣"からそれぞれ名前を取って互いにそう呼んでいます」
「そうそう、これが私達の能力である【複数分裂】。一人の時よりちょびっと全体的なパラメータは低くなるが、当たり前だけど遺伝子レベルで一緒だから互いの息を読んだコンビネーション攻撃が得意ってところかな」
「に、二体以上は分かれたことがないのでわからないですけど、この能力は凪斗さんの『雷を操る』能力のようなものと考えていただければ」
「な、なるほど.......」
つまりは俺は二斬に助けられたってことか。全く助かったとはいえあんなダメージを受けといてここに来るなんて......説教が感謝の言葉に変わっちまうな。
そして、ここに来たって事はきっと俺と一緒に赤鬼を倒そうってことか。
俺は立ち上がる。
左腕は完全に使い物にならなくなっていてだらんとしている。痛みはない。きっと今のうちだけだろうけど。
幸い、骨は飛び出していないようだ.......いや、飛び出す骨もなく微塵に砕かれたって言うのが正しいのだろうけどな。
ともあれ、左腕だけなのは助かったし、アドレナリンで背中や腰の痛みも感じない今が好機!
「それじゃあ、よろしくなヒーロー二人」
「よっしゃあ、任された!」
「が、頑張ります!」
「コロス! コロスコロスコロス! ゼンインコロス!」
赤鬼は怒り心頭って感じだ。まあ、千載一遇の好機を逃されたんだからな。
けど、それがフェイクじゃないと祈るばかり。
「二人は出来る限り注意を逸らしてくれ」
「何か策があるのか?」
「ああ、一つだけ。だけど、失敗すると警戒されて狙えなくなるし、こっちも後がなくなる」
思わず右手を見た。火傷をしている。咄嗟に放電させたことが原因で間違いない。
握れば痛みを感じる。けど、ゼッタイに左腕の非じゃないし、気にしている余裕もなし。
「わ、分かりました。任せてください」
「伊達に二人に分かれたんじゃないとわからせてやる」
「コロス!!」
俺が後方へ下がると同時に二人は前方に駆け出した。
赤鬼はどちらを優先的に攻撃しようか迷った挙句に無視して跳躍――――――俺を狙ってきやがった!
俺が咄嗟の足に集中強化をかけて横っ飛びする。
赤鬼は振りかぶった拳を俺の居た場所に叩きつけて地面を爆散させる。
すると、赤鬼の後方から二つの鎌が飛んでくる。
その鎌はダメージを与えられずに投げた所有者のもとに戻っていったが赤鬼の注意を向かせることに成功した。
そして、二人の死神幼女はまるでホームラン宣言をするバッターの如く赤鬼に向かって指を向ける。
背後に見える明るく大きな月が二人の存在を一際輝かせていた。
「あんたは絶対に殺す」
「あなたを絶対に倒します」
それは赤鬼の注意を引くための二人なりの挑発だったのだろう。
その挑発に―――――――
「コロス! オマエラヲコロス!」
見事に乗った。
赤鬼は軽く屈むと地面を割るほどの踏み込みで飛び出した。
その動きを見ながらゆーちゃんといーちゃんは左右に散開する。
赤鬼は戸惑った様子を見せた。これまで一対一で争ってきたのだから先にどちらを狙うとか考える必要も無かったしな。
しかし、その数秒にも満たない思考は戦闘では致命的になり得る。
ゆーちゃんは小さい体を活かして足元に滑り込むと右脇腹に向かって鎌を振るい、いーちゃんは壁を蹴って赤鬼より高く跳ぶと頭を狙った。
しかし、その攻撃はそれぞれ右腕と左腕で止められる。
赤鬼の腕には鎌の一撃など傷一つつくことはない。しかし、二人にはそれでいいのだ。
今の状況は両腕を封じているに等しい。
赤鬼とていくらダメージが通らない体をしているとはいえ、簡単に懐に入られてウザったい攻撃されるのはイライラするのだろう。
だから、二人はそこを突く。
同時に赤鬼から離れると時計回りにグルグルと回り始める。
赤鬼は増々青筋を頭に走らせながら地面を叩く。
それによって周囲は一時砂埃で視界不良になる。
その砂埃からいーちゃんが跳んだ。すると、いーちゃんを狙って赤鬼が右手を振りかぶらせたまま近づいて来る。
「危ない!」
「心配いらないよな、いーちゃん」
「うん、二人の考えは常に一緒だからね、ゆーちゃん」
俺の思わず出た心配の声とは他所に二人は冷静だった。
そして、ゆーちゃんはおもむろに鎌を振ると赤鬼の振りかぶっていた右腕の肘に引っ掛ける。
「ガッ!」
その動作に赤鬼は思わず一瞬たじろぐ。
「いけ、いーちゃん!」
「せいやー!」
その瞬間を見逃さず、いーちゃんは鎌を赤鬼の首に引っ掛けると自身を赤鬼の下へと引っ張らせた。
そして、その勢いのまま赤鬼の胴体を地面へと蹴り落とした。
赤鬼は舞い上がっている砂埃を周囲へと散らしながらドスンッと地面へ叩きつけられる。
「ガアアアアアァァァァ!」
しかし、すぐに立ち上がると胸を大きく逸らしながら、赤鬼は咆哮した。
その瞬間を逃さない!
ゆーちゃんといーちゃんは赤鬼に責めるように走り出す。
赤鬼はまさに鬼の形相で両腕を構えた。
「二人とも散れ!」
俺はすぐに叫んだ。
すると、二人は同時に互いに向かって飛び蹴りし始め、互いの足を合わせるとそのまま両サイドへと飛ばすように押し合った。
耳元にバチバチと聞こえてくる。
赤鬼が破壊しまくったおかげで手に入れた細長い金属の棒は鼠色を赤く染め上げて紫電を纏わせている。
右手が焼けるように痛い。まあ、実際本当に焼けてんだがな。マギでもカバーしきれてないんだろう。
そりゃあ、当然電撃にしこたまマギをぶち込んだからな!
「覚悟しろよ、赤鬼――――――」
俺は掲げた右手をさらに少し後ろに引いていく。
右腕、集中強化!
「これで終わりだあああああ!」
感情を震わせる。手に持った金属の棒が纏った紫電がより一層激しさを増加させる。
俺は全力投球で赤く染まった紫電を纏わせる金属の棒を投げた。
ブンッという勢いのまま俺の体は勢いに持ってかれ前のめりに倒れていく。
それを赤鬼は構えた両腕を一気に打ち出した衝撃波で打ち消そうとしてんだろうが―――――
「レールガンだぞ? おせぇよ」
「ガァッ!」
一筋の雷光とともに打ち出された一撃は目にも止まらぬ速さで移動する。
風よりも速く空間も突き抜け、尾のように紫電の光を輝かせる。
赤鬼より赤々としたその熱を帯びた棒は―――――――赤鬼が拳を打ち出す前に金属の棒は左胸に突き刺さった。
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