プロローグ ――ネイトの場合
「出ていきなさい。ネイト。ここにあなたがいる意味はもうありません」
義父が亡くなった次の日、義理の叔母に、そう言われた。
※
三日前だった。
俺と・・・本来なら祖父ほど歳の違う義父の容態が悪くなった。
ただの風邪だと言っていたのに治らず、義父の咳がひどくなっていった。
「とうさん・・・!」
ベッドに横たわる義父の喉から、ヒューヒューと音がする。
呼吸をするのも精一杯なのか。
「ネ イト・・・」
「いるよ!いるよとうさん」
俺は義父が動かしたてを掴んだ。
ここにいるよと、伝えるために。
「ゲホッ ガハッ つ 伝えたいことが」
俺は手を握る力を強める。
「ああ。しっかり聞いているよ」
風の強い夜だった。
薪の燃えが激しかった。
煙突と暖炉の火と、周りの音が大きい割に、
俺と義父以外、人の気配はなかった。
「ゲホッ ぐ」
だめだ。
「とうさん、大丈夫。呼吸を整えて。おれはいるから。話を、聞いているから」
背中を撫でる。
「とう、さん・・・」
外の嵐が収まったと同じ頃、義父が死んだ。
※
この家が外野で騒がしくなったのは、夜が明けて昼に差し掛かってからだった。
「昨夜は嵐で馬車が進まなくて、夜中に立ち往生したの」
「姉さんから連絡をもらって急いで来たが・・・道は大木が倒れていたりと大変だった」
義理の親戚が集まる。
「で、あなたがジョン兄様の最後に立ち会ったのね・・・名前は?どういう関係?」
「俺は・・・ネイトです。
5年前、ジョン義父さんに、引き取られました」
「はあっ?養子っていうこと??」
「・・・。だと思います・・・」
「だと思うって・・・ははっ。君、年齢は?」
「17歳です・・・」
「じゃあ5年前は12歳か。それってでももう殆ど子供じゃないよねえ?姉さん」
「そうよ。そんなに大きい体格なんだし、いくらでも丁稚ができたんじゃない?ねえほんとに養子なの?
アハハハ!居候でしょう?」
――――なんて考えなんだ。
「ネイト。私達はあなたを知らない。そして、兄の養子だったなんてことも認めません。
今日から出ていって」
「荷物を・・・まとめます」
「え?あるの?家のものを盗んでいくんじゃないわよ」
俺はその言葉に刺されて、
もう、
そのまま扉をくぐって出ていってしまった。
着の身着のままで。コインもナイフも持っていない。
だが今はもう何も、いらない――――。