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東19番街1



 垂れ込める灰色の雲からは、今にも雪が降ってきそうだった。

 窓の外を眺めながら、私はコーヒーカップを両手で包んだ。

 店内はストーブが焚かれているものの、窓の隙間から冷気が入り込んでいるのか、私のいる席は少し寒い。


 ここは東19番街のとなり、東18番街のとある喫茶店。

 私たちはここで人を待っていた。

 東19番街の様子を偵察しに行っているユートレクトの(彼いわく)『手下』に、安全を確認してもらってから現地に入ることになっている。


 この喫茶店というにはメニューもサービスもお粗末なお店で、宰相閣下は私にいくつかのことを言い渡した。


 東19番街に入ったら、何を見ても動揺しないこと。

 決して身分を明かさないこと。

 そして、万が一騒動があった場合は、自分の護身を最優先にすること。


 私は平民育ちだけど、東地区とは反対側の西地区に住んでいたので、王宮に入るまで東19番街のことはあまり知らなかった。

 生活に苦しんでいる人が多いことは知っていたけど、闇取引の会合場所があったり、武器を使うような争いがあるだなんて知らなかった。女王になってからそういうことを知って驚いた。


 そんなところへ行くのだから何が起きても不思議じゃないし、もし身分を明かした相手が東19番街の住民じゃなくて闇の商売人だったりしたら、本気で危険な目に遭うかもしれない。


 それに、闇商人たちのいざこざが起きたりしたら、東19番街の住民だけでなく、私も危険にさらされることになる。そのときは住民たちの身柄より、なによりも自分の安全を確保しろ、とわが偉大なる臣下は暗に忠告したのだった。


 私のことだから、住民が危ない目に遭っていたら、後先考えずに飛び出して行きかねないと考えたのだと思う。図星だから反論はしなかった。いざとなったら身体が勝手に動くかもしれないけど、そのときはそのときってことにしておこう。


 私は保温のしすぎで苦くなっているコーヒーをすすると、明らかに汚れで曇っている窓の外を見やった。




 あれから……応接室に戻ってから、さんざんめそめそして後悔したけど、自分が女王であることを忘れるわけにはいかなかった。


 今朝、執務室に顔を出したときには、普通に挨拶もしたし会話もできてほっとした。

 それからも、執務のことで何度も話したけど、普段通りに接することができた。

 ここに来るまでのあいだだって、必要なことしか話さなかったけど、険悪な雰囲気ではなかった……と思う。

 ユートレクトも、いつも通りに接してくれていた。だからこそ、私も普通にできているのだと思う。


 昨日は……じゃない、昨日も、本当に申し訳ないことをしてしまった。自分の臆病さが、ずるさが、いやでたまらなかった。

 だけど、公務のあいだは、個人的な感傷に囚われてはいられなかった。

 主君としての態度は守り通したかった。これからも、主君と臣下としてあり続けるためにも。


 それに今は、この国を統治する者として、生活に苦しむ民の実情を視察しに行く。浮ついたことを考えていたら、日々苦しんでいる東19番街の住民に合わせる顔がない。

 彼らを救うにはどうしたらいいのか、よい方策はないのか、真剣に考えたかった。


 昨日だけじゃなく、一昨日の夜から大きなことが重なりすぎて、かえってうまく理性が働いているのかもしれないけど、それならそれでこの際大歓迎だった。


 私の理性も捨てたもんじゃないわね、これも誰かさんにさんざん鍛えられたおかげかしら。頑張ってよ私の理性……今日はポメオラーヌと命名するわ。

 とりあえずねポメオラーヌ、今日の目標は、公私ともに何事もなく王宮まで帰りついて、無事に自分の部屋に戻ることよ。それまで決して倒れずにいるのよ、いいわねポメオラーヌ……なんて、自分の理性に名前までつけて声援を送っていると、


「出るぞ」


 ユートレクトが席を立ったので、慌ててコーヒーを飲み干して後を追った。私があれこれ考えているあいだに、ユートレクトの(彼いわく)『手下』さんから報告があったようだった。

 まずいコーヒーだったのに、全部飲まないと損した気分になるのは、平民時代からの小市民根性が抜けてないせいだと思う。


 お会計を済ませた臣下の後について店を出ると、私たちは東19番街へと足を踏み入れた。


 石柱に取り付けられている『東19番街』と書かれた街区表示板が、視界の端に入った。心なしか文字がすすけているように見えた。

 街の空気がその印象を更に強めた。かすかにだけれど、においがあった。東18番街にはなかったにおいが。

 いいにおいではなく、あまり説明したくないにおい……排水溝からただよってきそうな。その他にも、今までの人生の中で嗅いだことがないにおいも混じっているような気がする。


 道路や家々の塀や屋根も、街区表示板と同じようにすすをまとっているみたいに見えた。

 東19番街の住民の皆さんには失礼だけど、ずいぶん長い間掃除されていないように思えた。


 通りにいる大人たちは、みんな数人ずつで集団を作って話し込んでいた。今日の天気のこととか、家の隙間風が身体にこたえるだとか、そんなことを。

 働き盛りの大人が、そろいもそろって昼間から井戸端会議をしているところなんて、今までに見たことなかった。この人たちには本当に職がないのだと、改めて痛感した。


 住民たちが着ているものも似た型の服ばかりで、誰のものも道路と同じように汚れていた。こちらから配給した服を着ているのに違いなかった。そうでなかったら、みんながみんな同じような服を着ているはずがないから。


 東19番街の配給を担当しているのは誰なんだろう。もっといろいろな服を取り混ぜて配給してあげたらよかったのに。

 貧しくて、あらゆるものに選ぶ余地がない人たちに、せめて服ぐらいは選ばせてあげてほしかった。どこを見ても同じ服を着た顔ばかりでは、ますます気持ちが暗くなるかもしれないのに。


 今までの私なら、すぐとなりの人に言っていたはずだった。みんな似たような服ね、もしかしてこちらから配給した服かしら、って。

 けどやっぱり、今までのようには口を開けられなかった。だから、心の中で一人ぶつぶつ言ってしまうんだろう。


 本当は自分が、並んで歩いている人と会話を楽しみたいと望んでいることに気がついて、恥ずかしくなった。

 まだそんなことを許される立場だと思っていたことが。


「みな似たような格好だな」

「え?」


 突然頭の上から降ってきた声に驚いて聞き直すと、ユートレクトはいつもと変わらない調子の声で、もう一度同じことを言った。


 どんな返事をしたらいいか迷ったけど、いい返答を考えてる暇もないので、今考えていたことを率直に言うことにした。


「そ、そうよね、私も思ってたんだけど、こちらから渡した服かしら」


 ユートレクトはそうだろうな、とつぶやいて言葉を足した。


「趣味の悪い話だ。これでは新品を配給されても嬉しくないな。どこを見ても配給物を着ている者ばかりでは、気も晴れまい」

「そうだよね……」


 私は相槌を打つと、街の路地裏へ目をやった。子供たちが座りこんで遊んでいる。子供たちの服はみんな違うことにほっとした。


 ユートレクトも同じことを考えていたんだと思うと、少し心が温かくなった気がした。だからって、浮かれているわけにはいかない。


 街の人たちは、私たちがよそ者だというのが一目でわかるのか、こちらをあからさまにじっと見ている人もいれば、逆に全く私たちを視界に入れないようにしている人もいた。子供たちも大人たちと同じ素振りだった。


 東19番街の大人にも子供にも共通して言えることは、どちらにも生気がないことだった。子供の方がまだ元気だったけど、よその街中で見る子供に比べると、眼に輝きがない。


 二、三分歩くと、ユートレクトはある古びた建物の前で足を止めた。


 見渡した限りでは、この建物がこのあたりでは一番大きな建物らしかった。

 もしかしてここは、闇取引の会合場所になっているところなのかしら。

 なんだか薄気味悪そうな感じだし、あまり……かなり、いやすごく、できれば、絶対に入りたくない。


 って、こんな見るからに悪の温床みたいなとこ、行くわけないじゃない。

 いくら東19番街の実情を知るためにここに来たとはいっても、まさかそこまでのことはしないわよ。第一、真剣に危ないし……と思っていると、


「いいか、絶対に口を開くなよ」


 そう言って、わが最強の宰相閣下は悪の巣窟(じゃないかもしれないけど、どう見てもそんな感じの雰囲気なんだもの!)へ向かっていった。


「え、ちょっ……!」


 この中に入るのは確かに怖いけど、一人で取り残されるのはもっと勘弁してほしかった。


 私は急いで無敵の宰相閣下を追いかけた。



**



 建物の中は、思ったより暗くもなければ怖くもなかった。

 それどころか『感謝祭』と書かれた、あまり悪の巣窟には似合わない言葉の看板が立てかけてある。少なくとも今は闇取引をしているわけではなさそうなので、ひとまず安心しておくことにした。


 けど、『感謝祭』というわりには、提灯もなければ陽気な音楽も流れていない。看板にも『感謝祭』以外の文字が書かれていないので、誰が何をどう感謝しているお祭りなのか、まるでわからない。


 一体なんの『感謝祭』かしら。

 センチュリアでこの時期お祝い事といえば、女王誕生祭……つまり私の誕生日なんだけど、私の誕生日はまだ少し先だし、『感謝祭』というのもおかしい。建物の外にもおめでたい雰囲気は一切なかったのに。


 もしかして、この悪の巣窟に集う人たちの『祝! 闇取引1000件突破! 記念感謝祭』とかだったらどうしよう……なんて考えながら、早足の臣下の後ろを歩いていると、次第に視界が明るくなって、広々としたところに出た。どうやらこの建物のホールらしい。


 ホールにはたくさんの出店が並んでいた。

 とはいっても、どの出店も『感謝祭』というわりには静か……むしろ普通に街で見かける出店よりも活気がなかった。派手に飾りつけてるわけでもなければ、お客さんちょっと見ていってよ、などの呼び声もない。

 にも関わらず、同じ服を着た人たちは結構な人数が集まっていて、真剣に出店の商品を物色している。


 ユートレクトが顔をこちらに向けて促したので、私も出店を見て回ることにした。

 コートについているフードを目深に被ると、出店の列に近づいて……


 違和感があった。


 洋服、かばん、時計、アクセサリーに置物……


 間違ってはいない。

 街で見かける露店にだって、こういうものは売っている。


 だけど、街の露店で売っているものの値段は、今ここに並んでいるものの三分の一以下だ。


 値札が間違ってるのかと思って、商品を改めて見て。


「これ……買う人いるのかしら」


 気づかないうちにつぶやいてしまっていた。


「いるらしいぞ」


 釘を刺されていたのに口を開いてしまったので、怒られるかと思ったのだけど、周りもそこそこうるさかったせいか、ユートレクトはとがめる様子もなく私のつぶやきに答えてくれた。


 彼の視線を追ってみると、二件先の出店では私と同じ年くらいの女性がハンドバックを買っていた。

 そのハンドバックも、私が見ている出店で売られている洋服も、どれもが高級品とされる銘柄のものだった。例えば、キアラさんが好んで買いそうな銘柄の……


 他の出店にも、客がそこそこ集まっていて、どの人もさほど迷わずに商品を買っているように見える。


 どういうことなんだろう。この街の人たちには、これほどの高級品を買う余裕なんてないはずなのに。


 違和感と何か……なんと言ったらいいんだろう、気味悪い寒気みたいなものを感じつつも、出店を見ながら歩いていくと、テーブルと椅子が何組か置いてある場所に出た。どうやら休憩スペースらしい。人々が出店で買ったとおぼしき食べ物を広げて、宴会みたいな雰囲気になっている。


 いい匂いがしてきたので匂いの元を探すと、近くのテーブルに焼き鳥が置いてあって、おじさんたちが酒盛りをしている。

 あの焼き鳥はどこの出店で売ってるのかしら。

 私も食べてみたいけど、となりの人はきっと許してくれないわね……なんて考えてたら、急にお腹が空いてきた。


 どこかのテーブルの会話が聞こえてきたのは、そんなときだった。


「……こうもうまくいくなんてな」

「今の王宮も大したことない……あほうばかり、ちょろいもんさ」


 自分の耳を疑った。


 けど、その話し声に大笑いが続いて、今の会話が空耳でないことを思い知った。


 うまくいく?

 王宮も、あほうばかり?


 明らかに王宮を……私と大切な臣下を嘲り笑う声に、血の気が引くのを感じた。


 声が聞こえてきた方を見やる。

 そこには……その周りもにも、同じ服を着た人たちしかいなかった。


 ということは、今笑っていたのは、東19番街の人たちしか考えられないということだ。


「こんな簡単に金が手に入るんだから、ここの暮らしはやめられんな」

「そうそう、他の街の奴らに何を言われようと、聞き流してればいい」

「あいつら、あたしたちをばかにして憂さ晴らししてんだから、その慰謝料だと思えばいいのさ」


 この人たちは何を言ってるんだろう。

 簡単にお金が手に入るって、どういうこと?

 やっぱり悪の組織とか、よからぬものに手を染めているの?


 わけがわからないながらも、なぜか先ほど感じた気味悪い寒気だけが増していく。

 それでも、この会話を聞き逃してはいけない気がして、ここから動けなかった。


 そうしていると、反対側からみんなと同じ服を着た男性がやってきた。

 別に特徴のある人じゃない、普通の……どちらかといえば冴えない感じの男性だった。

 もっとも、この街の人たちはこう言うと失礼だけど、みんな同じような顔をして、生気に乏しい。


 だけど、休憩スペースにいる街の人たちがその男性を認めた途端、みんなの顔が一斉に明るくなった。


「よっ、大盗賊!」

「王宮から金をもぎ取る名人が来たぞ」

「今回はあんたの感謝祭だよ!」


 頭の中で、決定的なものが噛み合ういやな音がした。


 こうもうまくいく……

 私たちをだましてお金を……

 大盗賊……


 先日東19番街へ送った復興費用は、跡形もなく消えたと聞いていた。

 でも、どうやらそれは大盗賊とやらの仕業で、その大盗賊が今、街のみんなから賞賛を受けている。


 あの復興費用消失騒ぎは、街ぐるみの偽装だったってことなの?


 もしかすると、一昨年前から渡した資金が消えたり、盗まれたりする事件が度重なっているっていうのも……


 『感謝祭』というのは、この男に対する『感謝』のお祭りだっただなんて。


「しかし今回は迫真の演技だったな」


 誰かが男の肩を叩いて言うと、


「役人の追求が厳しくてよお、冷や汗もんだったが、なんとかごまかした」


 男は大役を果たしたと言わんばかりに、薄い胸板を反らせると、気をよくしたのか演説らしきものを始めた。


「俺らのことを悪く言う奴らのことなんか、構うこったない。

 誰のおかげで、この国の奴らが生きていられると思ってんだ。俺らのご先祖さまが日陰の仕事を全部請け負ってきたおかげで、お上品な暮らしができてんだ。

 礼を言われるならまだしも、ばかにされる覚えなんかこれっぽちもねえよ」


 そして、今日は思いっきり楽しもうぜ! と言うと、どこかへ行ってしまった。


 残った人たちは陽気に手を振って男を見送ると、また酒盛りを始めた。

 立って見送ったりする人がいなかったところを見ると、あの男、偽装盗難を装いはしたけど、みんなのリーダーというわけではなさそうだった。


 本当は今すぐあの男を捕まえて、王宮の牢屋にぶちこみたい。

 けど、今の様子からするとあの男は、復興費用が消えたと嘘をついた実行犯なだけで、東19番街の人たちみんなが共犯の可能性が高そうだった。

 それなら男一人牢に入れても、根本的な解決にはならない。


 いろいろな気持ちが、心の中で荒れ狂っているけど、ここで爆発させるわけにはいかなかった。


 ユートレクトが行くぞと言わんばかりにコートを引っ張った。私が身動きひとつしないのを、おかしいと思ってるんだろう。でも、私は動かなかった。


 気味悪い寒気は、吐き気に変わっていた。握っている手には汗が吹き出している。

 身体が小刻みに震えているのもわかっていた。

 それでも、今ここを離れてしまったら、この街の人たちの声はもう聞けないと思った。


 守るべき民が、自分と臣下を欺いて悪態までついていた。

 そんな人たちが住む場所に、再び足を踏み入れる勇気が持てそうになかった。


 人々の話題は、別のことに変わっていた。


「聞いてよ、この前北10番街に行ってうちらの話をしたら、泣きながら『きぼうのかけはし』を買った奴がいたの!」

「今更かよ、何も知らねえんだな」

「俺らの悲惨な歴史、世間じゃ蓋をしてるらしいしな。知らねえ奴も多いんだろう」

「冗談じゃないよ! 今度王宮に訴えてやろうか!?」

「今の王宮なら、俺らに同情して授業で教えるようになるんじゃねえ? 小学校の授業とかでさ!」


 『きぼうのかけはし』というのは、東19番街の歴史を書いた本だ。私が目にしたのは、女王になってからだった。


 東19番街は昔、人々が嫌がる仕事をする人たちが住む場所だった。例えば死に関する仕事や、汚れたものに関わる仕事……過去にはその職業を理由に差別も受けたらしい。

 だけど、今は職業で住む場所が限定されることはないし、差別されることもない。少なくともセンチュリアでは。


 それに、東19番街の人たちが、ご先祖さまの『日陰の仕事』を受け継いでいるわけではなかった。東19番街の人たちの就業率は五割にも満たない。


 『きぼうのかけはし』には、東19番街の人たちが過去に受けた差別のことと、そんな地に暮らす自分たちを差別しないでほしい、というようなことが書いてあったけど。


 今、東19番街が他の街の人たちから冷たい目で見られ始めているのは、過去のせいじゃない。


 東19番街の人たちがどうやって生計を立てているのか。各家庭への生活補助だけでは、毎日食べるのがやっとのはずなのに。


 他の街の人たちがこの『感謝祭』を見たら、どう思うだろう。

 自分たちの税金をだまし取って高級品を買い漁り、お酒を飲んで高笑いしている人たちを。


 話はいつの間にか、私のことになっていた。


「今の女王は何番街出身だっけ」

「西12番街」

「なんだ、普通のお嬢さんだな」

「前の国王から金をもらって、いい暮らしをしてたんじゃねえの?」


 私が住んでいた西12番街は、確かに母娘二人で住むには少し贅沢な土地だった。

 前の国王……私の父親が、治安のいい場所に住まうようにと、母に家賃を渡していたらしかった。

 だから、この人たちが言ってることは否定できないけど、決してお嬢さま暮らしをしてたわけじゃない。


「居酒屋で働いてたって言ってたっけ」

「とんだ女王さまだな」

「『マロ食』だろ、娼婦店じゃねえか」

「あそこの給仕娘はレベル高いよなあ、全員べっぴんだし、いい身体してるぜ」

「だが、女王は美人でも巨乳でもねえぞ」


 そう、私が本当にお嬢さま暮らしをしていたら、『マロ食』で働くことも、恐らくなかったと思う。

 失礼なことを言ってくださっているけど、『マロ食』は神さまに誓って身体を売るお店ではない。最後の台詞に限っては大正解だけど。


 多少余裕なことを心で言っていられたのも、次の瞬間までだった。


「こりゃ永世中立国の名も長くはねえな」

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