翌々週への伴走 北を往く皇帝からの書簡と贈物
『親愛なる友人であり妹へ
寒い日が続くが、元気にしているかな?
貴国に滞在中は非常に世話になった。御礼申し上げる。
あれから少し日が経ったが、体調はどうだい? なによりそれを一番心配している。くれぐれも、無理はせぬように。
私たちのあの演説以来、マレイ・アスは公の場に一切姿を見せていないが、どうやら表舞台から一時的に姿を消そうとしているようだ。
ほとぼりが冷めたら、また暗躍を再開しようという魂胆のようだが、そうはさせない。ごく近いうちに国際警察の捜査の手が伸びるだろう。
北方地域ではもちろんだが、『世界機構』やマレイ・アスのやり方に対し、各国で非難の声が大きくなっていると聞いている。
センチュリアでも、みながあなたの結婚と共同統治を祝福している様子に、とても心が温まった。
『世界機構』上層部とマレイ・アスを糾弾する声も、非常に大きかった。
センチュリアの民の意識の高さには非常に感心した。あの民のもとでなら、共同統治もうまくいくだろう。
あなたの結婚とフリッツとの共同統治が支持され、奴らの真実がみなの心に届いたのは、ひとえにあなたの真摯で誠実な演説の賜物だと思っている。
さて、今回はあなたに事前に伝えておきたいことと、頼みごとがあって筆を取った。
先日の非公式会談で少し話に出した、『世界機構』の新しい本部総長の人事だが、めでたいことに、ネフレタ教授が了承してくれた。『世界機構』上層部の改革は、幸先よい出だしになったと言えるだろう。
ただ、ネフレタ教授はある条件を一つ提示した。
キアラ・ピアスカ司法官を自分の秘書につけよというのだ。
ネフレタ教授は人見知りであるし、側近には気心の知れた人間にいてもらいたいのだろう。
ピアスカ司法官に対しても、司法以外の経験も積めば、彼女の仕事の幅も広がるという期待もしているのだと思う。
諜報員に、彼女が所属する部署の上司に探りを入れさせたところ、ピアスカ司法官の上司は、熱烈なネフレタ教授信奉者だったらしい。
ピアスカ司法官が部署からいなくなるのは痛手だが、今すぐにでもネフレタ教授にお越しいただいて、ピアスカ司法官を使ってもらえたら、と大喜びだったそうだ。
そういうことで、ピアスカ司法官の人事異動には何ら障害はないわけだが、私が見たところ、彼女はネフレタ教授を少々苦手にしているのではないかと懸念している。
だが、彼女なら『世界機構』の改革と発展のため、ネフレタ教授を陰で支えてくれると信じている。
それよりも問題となるのは、彼女が穏健派の指示で動いていたことだ。
彼女自身が持っている穏健派の情報は、ごく限定的で重要度も高くないだろう。
しかし、自らの保身のため、わずかでも秘密の漏洩を恐れる穏健派の上層部が、彼女に接触を図るかもしれない。既に穏健派の手先が、センチュリアに潜入している可能性もある。
そこで、彼女を一時、ローフェンディアにある彼女の実家……ピアスカ伯爵家へ戻すことにした。
先日伯爵に依頼して、ご令嬢に実家へ戻るよう連絡してもらうことにした。
そして、私とネフレタ教授が戻るまで、彼女を外へ出さないよう頼んだのだ。
ついては、まもなくピアスカ司法官には、至急実家に戻るよう書かれた書簡が届くはずだ。あらかじめ了承しておいてもらいたい。
それまで……彼女がローフェンディアに戻るまでの間、彼女の身辺に注意してもらえないだろうか。
できれば、王宮の外へは出さないように取り計らってもらいたい。
あなたもセンチュリア王国軍も多忙な時期であると思うが、われわれの重要な国際機関の未来のため、ぜひとも協力をお願いしたい。
そういえば、ララメルとハーラルは、あれからどうしているのだろうか。
別れ際にファレーラ王国に旅立つと言っていたが、二人の幸せを願ってやまない今日この頃だ。
幸せといえば、フリッツの帰還だが、もう少しだけ待ってもらいたい。
私の行幸が終わり、ローフェンディアに戻れば解放すると約束しよう。
同送したものは、北方地域の名産品だ。とても精がつく飲物らしい。美味しいからつい杯が進んでしまいそうになるが、飲み過ぎには注意だ。
一日一杯、就寝前に飲むのが一番効果があるらしい。よければ試してみてくれ。
私もこれを一杯やりながら、文をしたためている。北方地域に着いてから、毎晩欠かさずこれを飲んでいるが、非常に調子がよい。
フリッツの分も送っておくから、帰ってきたら一緒に飲んでもいいだろう。その日の夜が楽しみになること請け合いだ。
それでは、近く再会した折の、あなたの花嫁姿を楽しみにしている。
北方地域 第五公領より
あなたの英断に誠の感謝をこめて
盟友にして兄 クラウス・ハイドレイツ』




