15-推しは推せるときに全力で推せ
『ゲーム』の中のシエルは、いつも、何かを欲しがって、でも最初から手に入らないものだと諦めてしまっていて。
15歳のシエルは、父のただ一人の息子となるために。
母を、後継者の生母として、父や世間に認めさせるために。
でも、「もう一人の息子」がいたせいで、かなわず死んだ。
10歳のシエルは、正統な後継者として、より優秀であるために。
嫡子として、腹違いの子に負けるなどありえないと、手段を選ばず闘った。
でも、「より優秀な兄」には真っ当な努力も搦手も、どちらでも力及ばず死んだ。
5歳のシエルは、悲しみのあまり魔力を暴走させた。
普段会えない両親も、誕生日なら会いに来てくれるのではないかと期待して。そして失望した。
自分は誰からも望まれていないと、絶望して、死んだ。
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全部知っている。何度も見た。
だから、目の前のシエルが、ほんの少しだけ口元を緩めて。
嬉しそうに笑った、その姿が、たまらなく愛おしかった。
(なんだ。そんな顔、できてたんじゃないか。)
『ゲーム』の中では見えなかっただけで。
祖父からの手紙を嬉しく思って。
会えないことを寂しく思って。
心配してほしいと思って。
普通の子供だ。
悲劇の登場人物なんかじゃない。
普通の小さな男の子だった。
その笑顔が見られて良かったと思った。
生きている。ちゃんと。ここにいる。
それだけで。
十分すぎるほど嬉しかった。
でも。
胸の奥が、少し痛む。
この子が。
これから先、何度も諦めることを。
欲しいものを欲しいと言えなくなることを。
期待することをやめてしまうことを。
そんな未来が来るはずなんだ、本来なら。
考えたくもないけれど。
もしかしたら、あと数か月後。
笑うことより、諦めることの方が上手になる。
欲しいものを口にする前に、手に入らない理由を探すようになる。
(嫌だな。)
そう、思った。
救いたいとか守りたいとか。そんな立派な話じゃない。
ただ、今みたいに。
祖父の話で、嬉しそうにしたり。
綺麗な花を見て、やさしい気持ちになったり。
たわいもない話を友人と笑いあったり。
そういう当たり前を。普通を。
この子が経験できないなんて、嫌だ。
それだけだった。
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「レインくん。」
シエルが俺の名を呼んだ。
マジか。名前呼ばれたよ。めっちゃかわいい声。
「はい。」
「辺境には、」
少し考えてから。
「どんな花がさくのですか?」
あまり外にも出ないだろうに、頑張って俺との会話を続けようとしてくれてる。
なんて健気なんだろ。天使かな。天使だったよ。
俺は、窓の外を見る。
整えられた、いろんな花が咲く庭だ。
村の景色を思い浮かべる。
よく言えば素朴。
春になれば、勝手に咲く野花ばかりだ。
女の子達が花冠を作ろうとしたのに、カイが踏み荒らして怒られた、なんて余計なことまで思い出す。
そして、それは、シエルがまだ見たことのない景色だろう。
「いっぱいありますよ。」
「いっぱい?」
「聞きます?」
シエルの目が少しだけ輝いた。
「聞きたいです。」
即答だった。
「春だとですね。」
村の野原を思い出す。
「黄色いのとか。」
「黄色。」
「白いのとか。」
「白。」
「紫のとか。」
「むらさき。」
シエルは復唱する。
まるで知らない宝物の話を聞くみたいに、キラキラした瞳で。
(ぐうかわ。)
あらためて声を大にして言いたいと思います。
――俺の推しは、最高に天使で!最高に!最高です!!




