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死ネタ不可避の推しを生き延びさせるために、転生モブは全力を尽くします!  作者: ちまはは


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17/40

15-推しは推せるときに全力で推せ

 


『ゲーム』の中のシエルは、いつも、何かを欲しがって、でも最初から手に入らないものだと諦めてしまっていて。


 15歳のシエルは、父のただ一人の息子となるために。

 母を、後継者の生母として、父や世間に認めさせるために。


 でも、「もう一人の息子」がいたせいで、かなわず死んだ。


 10歳のシエルは、正統な後継者として、より優秀であるために。

 嫡子として、腹違いの子に負けるなどありえないと、手段を選ばず闘った。


 でも、「より優秀な兄」には真っ当な努力も搦手も、どちらでも力及ばず死んだ。


 5歳のシエルは、悲しみのあまり魔力を暴走させた。

 普段会えない両親も、誕生日なら会いに来てくれるのではないかと期待して。そして失望した。


 自分は誰からも望まれていないと、絶望して、死んだ。




 **********




 全部知っている。何度も見た。


 だから、目の前のシエルが、ほんの少しだけ口元を緩めて。

 嬉しそうに笑った、その姿が、たまらなく愛おしかった。


(なんだ。そんな顔、できてたんじゃないか。)


『ゲーム』の中では見えなかっただけで。


 祖父からの手紙を嬉しく思って。

 会えないことを寂しく思って。

 心配してほしいと思って。


 普通の子供だ。


 悲劇の登場人物なんかじゃない。

 普通の小さな男の子だった。


 その笑顔が見られて良かったと思った。

 生きている。ちゃんと。ここにいる。


 それだけで。

 十分すぎるほど嬉しかった。


 でも。

 胸の奥が、少し痛む。


 この子が。

 これから先、何度も諦めることを。

 欲しいものを欲しいと言えなくなることを。

 期待することをやめてしまうことを。


 そんな未来が来るはずなんだ、本来なら。

 考えたくもないけれど。


 もしかしたら、あと数か月後。


 笑うことより、諦めることの方が上手になる。

 欲しいものを口にする前に、手に入らない理由を探すようになる。


(嫌だな。)


 そう、思った。


 救いたいとか守りたいとか。そんな立派な話じゃない。


 ただ、今みたいに。


 祖父の話で、嬉しそうにしたり。

 綺麗な花を見て、やさしい気持ちになったり。

 たわいもない話を友人と笑いあったり。


 そういう当たり前を。普通を。

 この子が経験できないなんて、嫌だ。


 それだけだった。




 **********




「レインくん。」


 シエルが俺の名を呼んだ。

 マジか。名前呼ばれたよ。めっちゃかわいい声。


「はい。」

「辺境には、」


 少し考えてから。


「どんな花がさくのですか?」


 あまり外にも出ないだろうに、頑張って俺との会話を続けようとしてくれてる。

 なんて健気なんだろ。天使かな。天使だったよ。


 俺は、窓の外を見る。

 整えられた、いろんな花が咲く庭だ。


 村の景色を思い浮かべる。

 よく言えば素朴。

 春になれば、勝手に咲く野花ばかりだ。

 女の子達が花冠を作ろうとしたのに、カイが踏み荒らして怒られた、なんて余計なことまで思い出す。


 そして、それは、シエルがまだ見たことのない景色だろう。


「いっぱいありますよ。」

「いっぱい?」

「聞きます?」


 シエルの目が少しだけ輝いた。


「聞きたいです。」


 即答だった。


「春だとですね。」


 村の野原を思い出す。


「黄色いのとか。」

「黄色。」

「白いのとか。」

「白。」

「紫のとか。」

「むらさき。」


 シエルは復唱する。

 まるで知らない宝物の話を聞くみたいに、キラキラした瞳で。


(ぐうかわ。)


 あらためて声を大にして言いたいと思います。


 ――俺の推しは、最高に天使で!最高に!最高です!!



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