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10月 秋の憂鬱

 

 10月2日(日) 秋晴れ

 

 今日の空は気持ち良く、本当に空らしい空だ。

 世の中は秋だ秋だと言うが、今年の()()()と言う切迫した状況が、季節の話題を聞く度にまた感じる度に憂鬱にさせる。

 秋冬は好きな季節なのに。

 空の鱗雲や風の香り等、風物詩は全て怨めしい。

 George Winston をひいて癒されよう。


 勉強が上手く進まない事は予想していたけれど、こんなにもグズグズするのが嫌だとは思わなかった。要するに急ぎ過ぎているのだ。志望校の高さと準備期間の短さ、それらに負方向に働く要因・病気の為に。

 

 自分の勉強の本質を見抜いていないのだろう。不安は焦燥を生み、苛立ちが諦めを生む。

「急がねば、成績を上げねば」

「しかし、少し考えて見なければ」

考える時間も無いくせに。

 そうだ、時間が無い。全く無い。しかし考えねば。その結果が、

「ただ闇雲にやるしかない」

と、分かっていても、立ち止まって全体を見回してみる必要がある。全体から自己の位置を客観的に把握する事が難しい。

 「立ち止まって」

 「考えてみて」

それでも明日は来る。時は変わる。流れの中で心を落ち着かせるのだが、本当に近頃これが出来ない。

 


 今、凄く楽しい。

『字を書く事』が僕は好きなの。

 もう寝る時間だけど、もったいなくて眠れない。

 

 今日は字が枯れている。父方の亡くなった祖父は、凄く素適な字を書いたそうな。あのジサマに俺は似ているんじゃないかしら。俺も、

()()がキレイ」

と言われるし。

 祖父は絵も上手だった。だから最近になって、自分は絵が下手ではないと思うようになった。きっと才はあるけれど、いろいろ絵についての知識と努力が足りないだけじゃないかな。今後、楽しみの中に入れたいな。書道だって同じ。楽しむんだ。

 

 とりあえず、明日は何をしよう。二週間単位で勉強の計画を立てて、我武者羅にやってみよう。

 計画に遅れないよ。

 僕は大学に受かるよ。

 頭いいもん。           

           1時41分




 10月3日(月) 晴

 

 年間予定表に『国体リハーサル』とあるので期待して軽い気持ちで登校したのだが、やはりきっちり授業があった。それでもフワフワして学校へ行けたのだから、今後もこの気分を持ってフワフワ学校へ行こう。

 

 中間テストの結果は目も当てられぬ様なり。兼部がまたいーんだよ。惨めな気になってしまったけど、人は人。自分のペースでやるんだ。自信があるんだ。

 

 三宅島噴火。ケガ人が少なくて良かったけど、四千人住民が居るそうだ。大変。何故噴火する島に住みだしたのかな。時代も文明も進んでいるのに、天災には凄く脆いものだ。避難も対策もパッとしないし。  

        2時13分




 10月6日(木) よくわからない

 

 こんな気分の時に、自分の部屋がある事は大変嬉しい。考えてみれば大した贅沢だ。ドアを閉めれば、自分の好きな物、気に入った物だけになるのだから。自分の部屋に感謝。

 

 昨日、病院に行った。このはっきりしない気分の悪さは何としよう。これを貧血に似た状態と言うのか。かなわんな、鬱陶しくて。本当に具合が悪いのか、気分が先に参っているのか、分かったもんじゃない。思考が落ち着かなくて、あちこちに注意が引っ張られて、身体の方まで疲れてしまいそうだ。

 もっとゆっくりと字を書いて、気を落ち着けよう。

 


 『うる星やつら』が昨日も放送しなかった。悲しむべき事だ。一週間の原動力としているのに、二週も抜かれたのでは力が出ない。

 はっきり言って、随分迷ったけど言っちゃうと、『うる星やつら テレビ版』も一時のパワーが無くなってきている。安定期に入ってしまったからか。新鮮さが薄れた所為か。僕の方も、一時の燃え方はもう無いから、そういうものかね。盛者必衰の理かね。その人が自分の個性を打ち出し、世間に自身を見せて、皆が受け入れて。そして、すれていってしまう。


 

 僕は何をしたら良いのか。したい事、せねばならぬ事。それも具体的に目の前に山積みにされていながら、何を迷っているのか。知りたい事は沢山ある。ボンヤリしていたら、時間が無くなってしまう。勉強したいが手につかぬ。

 

 病院へ行こう。悩むのにも飽きた。気が重くなるのも、もう嫌だ。少し我慢して見て貰え。色々と掴み処の無い想像をするなんて、どうかしている。

 これさえ治れば、本当にどんなにサッパリするだろう。行動力は二百%UPする。元気になれば、どれほど頑張れるか。勉強もフッ飛ぶように向上するかも知れない。いや、するに決まっている。

 明日、明日行って来よう。




 10月7日(金) 晴

 

 やはり『うる星やつらは』はまだまだ面白い。嬉しい。まだまだ楽しい『うる星やつら』




 10月8日(土) 雨


 僕は自分を土着の人間ではないと思っていた。父は樺太からの引揚者だし、母は九州出身だし。


 兼部が

「十年前に生まれたかった」

と言った時、同志か!?と思ったが

「ツェッペリンも現役だったし」

と続く。ここなんだ。僕が日本人で、どうしょうも無い土着の民である事を証明するものは。

 僕ならここに

「拓郎も若かったし」

と来るのだ。

 彼と付き合うようになって、随分洋楽に傾倒してきたし、それを良しと思った。

 でもそれは、偽りだったのだ。

 

 僕の本質はやっぱり、重く汚くみっともない、でも真面目でひたむきで飾り気の無い、日本の音楽であり、それに象徴される日本の文化だ。

 芸術に憧れ、他国の文化を良かれと思い、そんな話に打ち興じて、アイロニカルな態度でニヒルに気取ってシュールな世界を欲し、自身を隠して鼻で笑うような自己を、本物で理想と思い込んでいたけれど、それらは真の感動を己に与えたか? 本物の手応えと共に感じられたか?


 本物の僕は()()なんだ。畑氏、北氏達の『バンカラ』な無茶苦茶な世界、憧憬する世界にはそんなニヒルな僕なんか、どこにもいない。

 笑いたい時に笑い、泣きたい時に泣く。もっとずっと直接的で素朴なものが、自分の筈だ。僕は何を隠していたのか、何を気取っていたのか。


 それは病気の所為だ。無意識に精神面に大きくそれは覆いかぶさって、感情を平坦にし、全てを消極的にした。無茶一つにしても、自己セーブしてしまう。


 素朴さは何処へ。

 燃える情熱は何処へ。

 

 感情的に喋れないのは情けないから。情けない事しか言えないから。一生懸命に生きていれば、言ってしまえた筈なのに。どうして我武者羅に生きられない?

 

 時代まで僕の真似をしている様だ。

 皆が臆病になって誰もがつまらない振りをしている。




 10月11日(火) 雨のち晴

 

 本当はもう眠ってしまいたい。書きたくない。人生の一部として、失くす訳にはいかない気がするので記す。

 

 不思議なもので、三年も悩んでいたくせに、割とサラりと行けちゃうものだ。

 病院の受付に若い女の人ばかり並んでいて、何時もなら喜ぶけど、うんざりして、事務的対応が逆に有難かった。ただ、受付嬢達が雑談で笑っているのを見るのが辛い。足早に去りたくなる。案内は要らないから、話掛けないで欲しい。泌尿器科の受付もお姉さんで、うんざり。

 結局、出たとこ勝負になったのだが、待ち時間も辛い。

 いざ、勝負!

 

 ……良かったな、お医者さんが分かってくれて。さて、原因は? 

「検査結果が出ないとハッキリとは分からないけど、最も考えられ易いのは……」

聞いてくださいよ、皆さん。病気の治療の所為だってさ。

「その治療をしている間は影響が出やすい」

いつ治るとも分からない病気なのにさ。頼むよ。泣くよ?


 ここまで影響されるとは思わなかった。病気を意識しないも、へったくれも無いもんだ。僕の人生の様々な要因は全て病気と関連しているらしいな。人としての義務を果たし得ないかもしれない。ハハハッ、冗談じゃないぜ。


 

 帰り道、学校帰りの女子高校生達。いつもなら、

「風よ〜、もっと吹け〜」

ぐらい思うけど、もう無価値に思えた。

 悲しいじゃないか。もう、どうしようもなく悲しい。

 後ろ姿を見ながら思ったよ。君等は良いよ、適当に悩んで、男に振られたって泣けばいいんだからね。お前らに悩みなんかおかしいぜ。悩みなんてある筈無いじゃないか。

 兼部がどんなに面倒臭い事を言おうが、恐くない。俺の方がもっと卑屈だからな。

 幸せな連中が歩いてやがる。全てに幸せな連中が歩いてる。生意気だよ。

 

 信号で止まった時、横に居た事務員風の女の人。背が低くて田舎臭い。でも女の人。お前みたいなのが何で幸せなんだよ。

 皆、馬鹿で、物事を深く考えもしない癖に、幸せなんだ? どうしてなんだ?

 


 今日、本当に車に轢かれても良いなと思った。轢かれれば死ねるし。もう、死ねる以外は考えない。危なかったね。今日は本気だったよ。いつもみたいな飾りじゃない。本気だった。

「危ないな」

と自分を笑った時でさえ、まだ、おかしかったのだから。

 

 「数学教師の前でも狂えるな」

って、ニヤニヤしながら思った。あいつがおっかない顔をしても、何か言ってやって

「ハッハッハッ」

と笑う。あいつの怒りが増してもニヤニヤ、デレーとしていると叩かれて。それでも

「ハッハッハッ」

と笑うんだ。

 僕はまた一気に有名になっちゃう。だけど今回はちょっとシビヤなんだ、噂する皆の顔が。遂に冗談を超えちゃうんだ。でも、将来の同窓会なんかでは

「病気のアイツも、遂に最後にきて狂ったなぁ」

と皆で笑い合う。その笑いには陰があるけれど。




 親にはまだ言っていない。検査結果が出てから、今後の事を相談する。どう思うだろう。

 


 今日の15時頃。僕は本当に狂っていた。今、僕が無事なのは何でだろう。理性で抑えているのかしら?

 そうじゃない。

 病気に支配されている僕に、さらなる大きな力が(神様が)はたらいて(守って)いた(くれた)ような……。

 何だろう? 慣れかな?




 10月19日(木)

 

 太田の病院へ行って、聞いてみた。

「治療しているうちは、髪はまた抜けるかもしれない」

だそうだ。そうか。

 東京の主治医に、太田の主治医が電話を掛けてくれて、聞いてみた。妥協せず、事実に最も近く話をしようとする彼も、

「髪は抜けるだろう」

と言った。

「病気が治るかどうかを、電話で話す事は難しい事だが……」

そう言いながら何とか話してくれた。『ちょっとの期間』と言うのが一、二年であると知ってたまげたが。

「ちょっとの期間では治らない。地味に()を治して行かねば」


 天使先生が電話に替わって

「髪が抜けると言うのは、医学的には minor (マイナー・小さい、些細な事) なのよ」

つまり許容せねばならないのだそうだ。

Human being(人) としては困るし、格好悪い事だけど、()()としては構わない、仕方のない事だそうだ。主治医曰く

「治療しないで髪を残すか、治療して髪が抜けるか、どっちを選ぶか」

なんだそうだ。

 でも天使先生は言ってくれた。

「小さい頃から治療している人は、()()()


 ありがとう。治るんだね。

僕は、今を耐え忍んで、治療して、生きて行かねばならんのだ。

 天使先生は言う。

「人生は長いからね」

 

 聞きたかった言葉

 確かにね

 でも先生

 青春は短いんだよ



 どうもやっぱり夜になると、人間はセンチメンタルになってしまうようで、ガックリしてしまう。『人間は独り』なんて。どうしようか。どうにもならぬ。

 こんな寂しい事があってよいのでしょうか。癒してくれるものは、何もない。心の支えが無いんです。

 どうなるのでしょう。本当のところ。医者は軽く言ってくれますね。本当のところ、僕はどうなるのでしょうかね。

 

 世の中の『健康』なんて、凄く浅く思える。

 僕は『健康』と『命』の重さを知っている。

 

 友達だって、浅いものだ。僕等の友情何て、信じられない。大したものじゃない。

 

 入院した級友、いいネ。五十日入院すれば治るなんて。皆いいな。

 

 体が怠いよ。今までの感じと違う。

 明日、学校へ行くけど大丈夫かな。

 理性で抑え切れるかな。







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