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恋さくら  作者: Ayumu M
3/9

幼なじみ

 洋館とか御屋敷と聞くと、なぜだか心がワクワクします。


 桜守(さくらのかみ)の家は辺鄙な場所にあります。


 生い茂る木々に囲まれ、ひっそりと佇んでいます。

 身内目にも大きな御屋敷で、元来は和様建築を主としていました。


 しかし、今の桜守邸はちぐはぐな景観になっています。


 元凶は母です。

 彼女の我儘で増築された離れは偽洋風建築でした。


 それでも美を感じさせるところは、母の奇天烈なセンスが為せる業とも言えるのでしょう。


此花(このはな)、でいいんだよな?」


 桜守と刻まれた表札を苦々しく眺めていると、懐かしい声が聞こえてきました。


 油断していました。


 努めて冷静を装い、答えます。


「お久しぶりです。葛籠(つづら)さん」


 彼は私の言葉に軽く目を開いた、……ように見えました。


「なんだ? 高校デビューってやつか。似合わねえな」


 おそらく、さん付けで呼んだことを驚いたのでしょう。

 見た目ではないはずです。きっと。


「あなたは相変わらずのようで」


「そこはお世辞でもカッコ良くなったね、って言うところだろ」


「その言葉、そのままお返しします」


「確かに。まぁなんだ、綺麗になったんじゃねえか?」


 一瞬どきっとします。

 ……してやられました。


 彼は意地の悪い笑みを浮かべていました。


「お世辞、ありがとうございます」


「顔が赤くなれば最高だったな」


 嬉しそうに言う姿は悪ガキそのものです。


 私は気を取り直して、尋ねました。


「母のお手伝いは順調ですか?」


 最近、彼は母の家業を手伝い始めたと聞いていました。


 古や平安の頃ならばいざ知らず、凶悪な魑魅魍魎(ちみもうりょう)は既に祓われ尽くしています。


 近年は新たな妖を人の習わしに触れぬよう説得したり、理から外れた悪鬼を説得することなどが家業の主となっています。


 書に伝わるような家業の時代は、土御門(つちみかど)の衰退、科学の発展と共に消え失せた、と母がぼやいていたことを思い出します。


「人使いは荒いが、その分報酬貰ってる。慣れれば楽だな」


「あの捻くれ女は」


 人使いが荒いと聞いて、私は納得しつつ、ぼやきました。


「お前もな」


 彼は苦笑いをします。


 それからしばらくは母の悪口で盛り上がりました。


 ですが段々と彼の様子がおかしくなっていきました。


 急に黙り込んだり、間を計ったり、何かを言いかけてはやめたり、と彼らしくありません。

 

 私の記憶にある彼は、そんなことをする人ではなかったはずです。


「どうかしました?」


「なんでもねーよ」


「能天気だけが取り柄のあなたらしくもない」


「うるせえな。……その、なんだ、願い事の一つはできたのかと思ってな」


 彼は視線を逸らして言います。


 正直、あの約束を覚えていてくれたことが嬉しかったです。

 しかし、同時にちくりと心が痛み出します。


 なぜ彼は視線を逸らしたのでしょう。


 私の心境を探ることが目的だとしたら……。

 あの手紙は冷戦中の母に頼まれて出したものだとしたら……。


 心の中で疑念が膨らんでいきます。


 行き場のない疑念は悪意となって、口から出てしまいました。


「ありますよ。視る力をなくしたいです。私の願いはそれだけです」


 それは本心からの言葉でした。


 しかし、同じく視る力を持つ彼には、決して言ってはならないことです。

 私の力はかなり強く、皮肉にしか取れないでしょうから。


 それに、絶対に叶わないお願いでした。

 あの母ですら無理だと断言したのですから。


「やっぱりか」


「分かっていて、聞いたんですか?」


 もしかして、母から聞いていたのでしょうか。


「まあな。……でもそれだけは叶えられない。他の願いを思い付いたら、言ってくれや」


 私の知る彼ならば、茶化すか怒ったはずです。


 こんなに真剣な表情で答えはしません。


 そうできなかった理由は、何か後ろめたいことがあったからでしょう。


 やはり母に頼まれていたのですね。


 おそらく、私を説得するように。

 だとすると、あの手紙は……。

 あの手紙は方便だったんだ!


 私は苦しくて、泣きそうになりました。


「どれだけ時間を置いても変わりませんよ」


 両手をぐっと握りしめて、私は敷地へ入りました。


 誤字脱字があったら、申し訳ございません。


 今後もこのような感じで書いていきます。

 なるべく読みやすくを心がけていますが、逆に読みにくいか心配ではあります。

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