視えなければいいのに
久しぶりに実家へ帰るとき、なぜか緊張する人っていますでしょうか?
黒い長髪の女性が、車の行き交う横断歩道を渡っていきます。
すり抜けていく車を気にも留めず、女性は歩き続けていました。
間違いありません。あれは霊の類です。
「ねぇ聞いてる? 此花」
友人のむっとした声で、飛んでいた意識が戻りました。
「すみません。少し考え事を」
「ふぅーん。怪しいなぁ」
思わず身を縮めました。
私は霊や妖を視ることができます。母方の実家は古の時代より、魑魅魍魎を退治する家業を継いできました。運悪く、私はその血が濃く出てしまったのです。
ですがこの力を誇ったことはありません。
いつも通り、私は視なかったことにしました。
「ま、いっか。そんなことより春休みの予定だよ、予定! 来週空いてる日ある? 買い物行こうよ。いっぱい見たいのあるし」
彼女は明るい色の髪を軽く弄りながら尋ねてきます。
ゆるりとしてふわっとした髪。
女の私から見ても、とても可愛らしいです。
前に羨ましいと話してみたところ、憤慨されました。
彼女は私の地味で長い黒髪を気に入っているようでした。不思議な話です。
「ごめんなさい。来週から実家に帰らなくてはいけないんです」
「そうなんだ。残念、また次の機会だねぇ」
「はい、帰ってきたら連絡します」
「でも此花の家って、凄いんでしょ。面倒だったりするの?」
「正直なところ、塵ほども帰りたいと思ったことはありませんね」
そもそも家から離れるために、今の学校へ進学したのですから。
「ほぉ~、やっぱりお嬢様って大変なんだねぇ」
「だからお嬢様じゃないですって」
「お嬢様! なにとぞ、お土産いーっぱい、よろしくお願いします!」
「……ええ、考えておきます。そういえば、鎌倉へ行った誰かさんのお土産は安産祈願のお守りでしたね」
「あ、あはは。まだ根に持ってたんだ」
「となると合格祈願の鉛筆辺りが妥当でしょうか?」
「もう許してってばぁー」
そうやって話している間も、私は他のことに気を取られていました。
頭にあったのは一年ぶりの帰郷。
私の心は不安と期待が入り混じっていました。
久しぶりに彼に会える。
そう。彼からの手紙がなければ私が帰郷することなんてなかったでしょうから。
読者の方で霊感をお持ちの人はいらっしゃるでしょうか?
ちなみに、私は全くありません。少し羨ましかったりします。




