薄紅色の思い出
お休みがてら、お気軽に読んでくださると幸いです。
青空に太陽が輝いていた。
眩い日差しは一本の桜を照らし、薄紅色の花びらをきらめかせる。
風が吹けば、花びらは甘酸っぱい香りを漂わせて、零れ落ちるように散っていく。
ひらり、ひらりと。また散っていく。
それを目で追っていた私の耳に、優しげな声が届いた。
「願い事、一つ言ってみろよ」
一人の青年が木の幹に寄りかかっている。
木の陰で顔ははっきりしない。
しかし小麦色をした頬と艶やかな朱色の唇は印象深く、見えるはずのない顔を私は視ていた。
「願いごと?」
幼い声が響いた。
「ああ。お礼に叶えてやるから」
少年は面倒くさそうに答えながら、鼻の頭を指で掻く。
「わたし、何もしてないけど」
「い、いいだろ別に! さっさと言えよ!」
「でも、ないよ?」
「はぁ? 願い事だぞ。一つぐらいあるだろ」
「ないんだもん。今はツヅラいるし、楽しいから」
何かを言いかけた少年を遮って、幼い声は続けた。
「でもね。大きくなったら、おねがいたくさんできると思う。だからね、その時にもう一回聞いてほしいな」
「……我儘な奴だな」
「あー、ツヅラのせいなのに!」
「わかった、わかった。約束するよ」
その時、一際強い風が吹いた。
地面に積る花びらが一斉に舞い上がる。
「大きくなったら、願いを叶える。これでいいんだろ?」
その言葉を聞いた瞬間、急に意識が遠くなっていく。
月日が経っても色褪せることのない思い出。
それは淡い薄紅色をした大切な思い出だった。
そして、幾度となく感じてきた名残惜しさの籠った余韻に浸りながら、私はゆっくりと瞼を開けた……。
桜を見ると昔の友人を思い出してしまうのは私だけでしょうか?