第四十一話 公国へ
「それで、どこを目指しているんだ?」
「兄貴! この椅子凄え! 体を包んで離さないぞ!」
「一路東を目指しますわ」
「ふふん、王家御用達のソファだからねっ! しかも全然揺れないでしょー!」
「東に行けばいくほど魔大陸が近づくからか。この国……。ゼオスだったか? ほぼ西端に位置しているんだったもんな。まずは東の隣国に入るところからスタートということか」
「確かに馬車とは比べものにならないな!」
「そうですわ。中立公国アリトスといいますの」
「へへへー他国にも負けない王家自慢の竜車なんだよ!」
「中立公国って何に対して中立なんだ?」
「マジ速いし! でもなんでアンヘレスがそんなに自慢気なんだ?」
「全てに対してですわ。同盟国はゼロ。交易は全ての国と同量で友好国もありませんの。他国で争いが起きて援軍要請があっても絶対に引き受けませんわ。あの人魔大戦の時でさえ、人間側に味方しなかったほどです」
「え!? それは……。王国民としては王家の物を誇るのは当然よ!」
「それはまた徹底しているな。でも、同盟国がいないとなると、他国から攻められると辛くないか?」
「そういえばお姫様って何処に乗っているんだ?」
「中立公国の防衛軍は無類の強さを誇ってますの。それこそ周辺国の連合軍に攻め込まれた時でさえ、押し返したほどですわ」
「え!? え、偉いんだから後ろの車両じゃないかな。そ、それよりもここのお茶菓子って美味しいのよ! ねえ、あれを持ってきてくれる!」
「周囲から攻め込まれても負けないってよっぽどだな」
「こちらの雪結晶で宜しいでしょうか、姫さ――」
「ひ、秘めされし! 王家のお茶菓子よ!」
「ナンバーズと呼ばれる幹部は一騎当千と言われておりますの。二十番より少ない数になると冒険者レベルでいうところのAランクに匹敵する強さらしいですわ」
「滅茶苦茶うめーぞこれ! こんな甘い菓子を食ったの初めてだ」
「そこまでなのか……。明らかに敵に回したらやばい奴らだな。もしかして一桁にはS級がいるんじゃないか」
「むむむ……。口溶ける。我、猛烈に感動! 肉に匹敵!!」
「ええ、恐らくは。ただ一桁に関しては謎に包まれていてよく分かっていないのですわ」
各国に一人いるかどうかと言われるSランク。それが軍だけで数人はいるのか。そりゃ、無敵を誇るわけだ。欲を出して他国に攻め込まないのが不思議で仕方ないな。
「何を言っているんですか! 肉に勝る食べ物はありません!!」
ぷちん。
「ええええええい! お前らさっきからごちゃごちゃうるせーぞ! 大事な話をしているのを邪魔すんな! しかも気づいたらプラテアやアクアまで混ざっているし!」
「ご、ごめんなさい!」
即座に謝るアクアに対し、アンヘレスは首を傾げて俺を見つめる。
「なんだよその不思議そうな目は!」
彼女は左の手の平を上に向け、右の拳でぽんと叩く。まるで何かに気づいたかのように――。
「そうか! 糖分が足りてないのね!」
「違うわ!? うぉっっ!?」
俺の口の中に何か白い塊を投げ込みやがった。
「何を――。えっ? この味は……。ホワイトチョコ?」
ココアバターとミルクの懐かしく優しい味だ。
「雪結晶よ。その昔、天空より天使が舞い降りた時に手にしていた物らしいわ。長年かけて王家がそれを再現したのよ。気が立っている時に食べると落ち着くのよ」
よくわからん。なんで天上人がホワイトチョコなのだろう。白い菓子が出来たから天使にかこつけたのか? まあ、美味しいから何だっていいけどね。
「いやいやいや! そうじゃないだろ。俺は今、これから訪れる国の詳細をレオーラから聞いているんだ。頼むから静かにしてくれよ。いやむしろ、お前らも聞けよ!」
「兄貴ぃ―、俺は難しい話ちょっと」
「お前は黙っていればそれでいい」
理解できるとは期待していないからな。
「私、あそこの人たち嫌い!」
「は? なんでまた?」
「何を言っても表情が変わらないの。まるで能面よ! 気持ち悪いの」
狐の仮面をずっと被っていたお前がそれを言うか。
「感情の起伏があまり見られないのですわ。うちの第三王女と公国の皇太子との間に一度婚姻の話もありましたけど……」
「あんな無表情な男なんてお断りよ!」
「アンヘレスは皇太子なんて見た事あるのか?」
「レッドはお黙り!」
「ひぃっ!?」
「そんなに嫌なら何で公国に行くんだよ。東に進むにしても迂回していけばいいじゃないか」
「それは……。レオーラが行きたいっていうから」
「彼の国は中立で、人族、魔族どちらの味方でもないのですわ」
「魔族が潜伏するには格好の国ということか」
「ええ、そうですわ。それにあそこは獣人族に対しても一切の差別がありません」
「ああ、海賊たちも獣人ばっかりだったもんな」
「それに、犯罪者の巣窟でもありますの」
「え? 軍隊がそれこそめちゃくちゃ強いんじゃないのか? 取り締まればいいじゃねーか」
「悪も必要だと考えているのですわ。目だってやり過ぎると潰されますの」
「なんかそれってもう中立というか……」
「ええ、混沌としていますの」
魔族はどこに潜んでいるかはわからない。ならば確率の一番高そうな国からあたろうということか。
「はぁ、行く前から気が重いな」
「でも、楽しみだってありますわよ」
「そうなのか? 国民は能面で犯罪者の巣窟なんだよな」
「中立公国はまさに人種のるつぼ。国中で様々な文化を見ることができますわ。料理も各国の良いところがうまく融合していますの。周辺国では一番レベルが高いと言われていますわ」
「「肉!」」
「もちろん絶品ですわよ。種類もアレンジも多種多様ですわ」
「わ、わたし。今回は食堂でずっとお留守番してます!」
それお留守番っていうのか?
「我、全ての肉。食い尽くす。」
「国民が飢え死にするから止めなさい」
「知らぬ。野菜と穀物残る。それ食えばいい」
「はぁ……。そうだ! 公国についたらとりあえず各自が自由行動ということにしよう」
「ルイスは駄目。王女の警護という契約があるもんね!」
「王女なんてどこにいるんだ?」
「うっ――」
「うーん、俺と一緒にいる奴が王女ということになるのか?」
「いやいいんじゃない! ルイスは一人で好きに街を回ったら!」
「そうか。まあ、王女が現れて依頼されたときだけ仕事をするとしようか」
よし! 公国では一人気ままに過ごせそうだ。俺は心の中でガッツポーズする。
「ルイスさん。何か忘れてらっしゃいませんか?」
「へ? 何を?」
「わたくし実は神官戦士なんですの。確か国外に出る条件に魔族調査への同行ってありましたわよね?」
「くっ――」
「え!? レオーラってイカれ阿婆擦だだだだだ!? 痛でぇええ!?」
「いけないお口ですわね」
レッドの両頬を抓り上げるレオーラ。
「姉御やめて!?」
「いい度胸ですわ」
にこりと笑ってフォークを掴み上げたレオーラは――。
「ぎゃぁぁああああああ!?」
レッドの太腿目掛けてフォークを突き刺した。
「あらあら大変ですわ」
太ももを押さえて絶叫するレッドに慈愛に満ちた顔でヒールをかけると、一瞬にして傷が塞がった。が、再び――。
「ぎゃぁぁああああああ!?」
「お忘れにならないで。神官は聖なる存在。決して阿婆擦れではありませんのよ。姉御とも呼ばないでくださるかしら」
こ、怖え……。俺は絶対にレオーラを怒らせないでおこう。同行を断るとかマジ口に出さなくて良かった。
「はぁ……。やっぱそうはうまく行かないか……」
やはり早い所、Aランクを目指さないと俺に自由は訪れなさそうだ。




