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時間犯罪者、時野美月の共犯者リスト  作者: 末井翔
第二章 明日を祈る少女
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第15話 昨日祈った今日



 ――世の中には、死期を悟るという言葉があるらしい。



 普通は、死ぬ数日前とからしいけど、私は違った。死期(ソレ)を初めて悟ったのは、ちょうど一か月前。

 自分の部屋で、宿題をしていた時の事だ。


 ――急に頭が痛くなった。


 吐き気、めまい、立ち眩み。息が出来ず、ゼーゼーと呼吸が空回りをするようなそんな感覚に陥る。まるで、体調不良のオンパレードだった。そして、挙句の果てには倒れた。

 親は家にいなかった、だから誰にも助けてもらえない。

 そして、次第に目の前が暗くなっていく感覚。それが、単純に体調不良のせいなのか、酸欠のせいなのかは分からない。

 ゴホッゴホッとせき込むのと同時に何かが口から出る感覚。最初は、胃の中の物が出たのかと思った。でも、違った。


 ――血だった。




 ――あっ、これ死ぬなと思った。



 勘違いなどではなく、本当に死を感じた。薄れゆく意識の中、思い出したのは家族や友人の顔。これが、走馬灯というやつなんだ。と、お気楽にも、薄れゆく意識の中でそう思った。

 そして、私の視界は完全に暗転する。



 その暗転の中で、私は初めてあの夢を見た。あの日から私は、毎日あの夢を見ている。






                 ◆◇◆◇◆





 「   っ!!起きなさいっ!!」


 その怒鳴り声と同時に、体が激しくゆすられる感覚。そして、シャーっとカーテンが開けられて日光を感じる。私の意識が少しだけ覚醒する。でも、まだポワポワするし、寝ていたい。


 「うぅ……おかあさん、おはよう……」


 「早く起きないと、学校に遅刻するわよ」


 「はーい」


 私の返事を聞いたおかあさんは、はぁっとため息をついてから部屋を出ていく。その足音をBGMに私はまた深い眠りに――、


 あれ、おかあさんが起こしに来たって事は時間ヤバい?


 そう思って、ばっと布団を跳ね上げ起き上がる。跳ね上げられた布団が、パサッとベットから落ちるが気にしない。

 そして、急いで時計に目を向ける。と、そこにはいつも出発する一時間半前、6時45分を示す時計があった。


 「なんだ。まだ全然余裕じゃん」


 そう思い、再び横になろうとするが、一度覚めてしまった目と脳が、起きた方がいいという警告(じゃま)をしてくる。さらに、ベッドの横に落としてしまった布団のせいで、再び寝る気にはなれなかった。


 「はぁ……起きるかぁ」


 仕方なく私は、ベッドから立ち上がる。そして、落ちた布団をパッパッと軽く払ってからベッドに投げて、リビングのある一回に降りた。


 「おはよう、おかあさん」


 「おはよう、   。ご飯出すから顔洗ってきなさい」


 「はーい」


 そんな風に、いつものやり取りを返しながら洗面所に向かう。洗面所には、おかあさんが使った後のような痕跡があった。今日はどこかに出かけるのだろうか。そう思いつつ、洗面台の鏡をのぞき込む。そこには当然、私の顔が映っている。


 「ひどい顔……」


 そうは言っても、隈があるわけでも、体調が悪そうなわけでもない。ただ、寝起きでひどい顔になっているだけだ。特に髪がひどかった。動きやすいようにボブにしてある黒い髪は、寝癖がひどすぎて、もはや原型を留めていなかった。

 そして、顔を洗ったり、寝癖を直したりしてから、リビングに戻る。するとそこには、いい具合に焼かれたトーストと、コーヒーがあった。


 「いただきます」


 手を合わせながら、そう言う。前は言っていなかったけどここ最近は言うようになった。それもこれも、あの夢と自分の体調のせいだが。私は、トーストを食べながら、テレビで流れているニュースを見る。


 『今週いっぱいは全国的に、厳しい暑さが続く見込みです』


 ちょうど、天気のニュースが終わりかける所だった。お天気のお姉さんから一転、スタジオに画面が戻る。


 『続いてのニュースです。西野海斗博士が開発した、『収納ちゃん』が世界で高い注目を集めております』


 次のニュースは、すこしだけ気になるニュースだった。日本人が世紀の大発明をしたらしい。それも、私が住んでいるこの町で。


 『収納ちゃんに使われている原子操作技術は、物資の運搬はもちろんのこと、医療技術にも応用できるるということです。今回は特別に総合病院の――、』


 それからは、偉そうなおじさんが長々と解説を始めるパートに入った。そのタイミングで私の注意もテレビから朝ごはんに移る。

 それにしても病気、か……。でも、私のは多分、()()()()病気じゃない。それどころか、病気ですらないかも。


 なぜなら、症状が適当なのだ。


 おなかに激痛が走ったり、頭が割れそうになったり、血を吐いたり、心臓が破裂しそうなほど痛くなったり。症状がバラバラで、いい加減。まるで、世界からお前が死ぬのならば、理由は何でもいいと言われているような気分だ。

 それもあって、「死期」というものを信じるようになった。まぁ、他の理由ももちろんあるのだけれど。


 「ごちそうさまでした」


 そう言って、わたしは手を合わせて、台所のおかあさんに皿を渡して、二階に上がる。そして自分の部屋の扉を閉める。勉強机、カバン、ベッド。自分で言うのもなんだけど、そっけない部屋だ。ここから増やす気にはなれないけど。


 「とりあえず、着替えるかぁ」


 そう独り言をつぶやいて、クローゼットへ向かう。私の部屋のクローゼットの扉は、スライド式なので開けやすい。 


 そして、クローゼットを開け――、


 「あ……がっ、……」



 ――心臓に激痛が走った。



 痛い、と思う時間すらなかった。

 思わずわたしは、膝から崩れる。かろうじて、近くの机に手を置き、完全に崩れる事だけは避けれた。心臓の鼓動を感じる。そして、その鼓動ごとに、激痛が走る。

 数回、その激痛を体験してからようやく、思考が感覚に追い付いてきた。痛い、痛い、痛い、痛い、いたい。その思考(ことば)が、頭の中で何度も反響する。


 だいじょうぶ。おちついて、むり。いたい。さけんだらばれる。いたい。「痛い」の次に来たのはそんな言葉達だった。でも、耐えるしかない。その言葉を外に出せば、バレてしまう。

 私は唇を噛んで、必死に耐え続ける。




 結局、それが何分続いたのかは分からない。いや、もしかしたら何秒、かも。私が落ち着いたころには来ていたパジャマも、汗でひどく気持ち悪い触感になっていた。痛みは治まっているが、まだ胸に違和感がある。


 「はやく、着替えて、行かないと」


 じゃないとバレてしまう。心配させてしまう。そう、かすれた声でつぶやく。

 わたしは、机に体重をかけて立ち上がり、ふらふらとクローゼットを開ける。そして、着替える。時間を掛けてゆっくりと、できるだけ体を休めながら着替えていく。


 そして、着替え終わると、ちょうど、出発時間くらいだった。少し余裕が出来たからか、早起きしてよかったなんて考えが浮かんできた。


 一階に降りると、おかあさんがテレビを見ていた。


 「あら、今日は随分と余裕の出発ね……って、あんた顔真っ青よ?」


 「大丈夫。ちょっと足の上に物落としただけ」


 「あぁ、それであの音ね。納得だわ」


 私は靴を履きながら、そう答える。着替えながら考えた言い訳だが、我ながら嘘が下手だなと思う。そして、それに騙されるおかあさんもおかあさんだと思う。いや、おかあさんは変な所で鋭いので、体調が悪いと言う事はバレてるかも。


 「それじゃあ、行ってきます。おかあさん」


 「はい、いってらっしゃい。   、」


 私は扉を開いて、外に出る。扉の先の空は、快晴だった。 



 そして、そこで気づく。



 その異常に。


 その違和感に。



 「あれ、わたしの名前、なんだっけ?」



 その疑問を口にするのと、玄関の扉が閉まるのは同時だった。


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