第二章プロローグ 死神の足音
夢を見た。
いつも見る、不気味な夢。暗い病室で私はベットの上にいる。上半身だけを起き上がらせて、病室の入り口――病院の廊下が除くドアの方を虚ろな目で見続ける。
病室を照らすのは、窓から差し込む月光のみ。そして、病室全体を私は三人称の視点で見ている。まるで私が、違う人物であるかのように。
――足音が聞こえる。
かちゃりという骨の音。そんな足音を病院の廊下に響かせながら、死は近づいてくる。ベットの上の私は、微動だにしない。それどころか、受け入れているように微笑んでいる。その表情が、月光も相まって、私には不気味に思えた。
――足音が聞こえる。
昨日見た足音よりも、明らかに近づいている足音。その足音を聞いて私は、焦りを抱く。恐怖ではなく、焦り。死が怖いと思う時期は、とうに過ぎていた。今感じているのは何も残せないという焦燥感。
何かをなさなければ。せめて、家族や友人には何かをしてあげたい。そんな感情ばかりが頭に浮かぶ。
――足音が聞こえる。
でも結局、私は友人を悲しませ、家族すらも悲しませる。皆、優しい人だから、私が死んだらきっと悲しむ。ならばせめて、私との出会いをなかったことにしたいとすら思う。
でも、そんな事はできない。
だからせめて、時間が欲しい。少しでも恩返しできる時間が。何かをしてあげられる最後の時間が。だから祈る。その足音が、まだここまで来ませんようにと。もう少しだけ、遅れてきてくださいと。
――そうして今日も私は、明日を祈る




