第九話 責任者に相談しよう
男になってきます。byテオ
そう一言だけ書いた手紙をテオの家に置いて、サイレントがダンジョンの中に避難したのが数日前。その後、街に何も起きないのでテオを家に戻したのが二日前。帰ってきたテオを生ぬるい目で暖かく両親が迎えてくれたのも二日前。そこから二日経っても全くその目が変わらない事にテオが絶望しているのが今現在。
「書くとしても、旅に出ますくらいにしとけや・・・」
書き置くにしても言葉があんだろうが、とテオも文句を言いたかったが後の祭りである。
公園のベンチに座りながら噴水を見つめるテオの目には、明日への希望が何一つとしてなかった。
「テオ様よろしいですか。そろそろ新しいダンジョンの制作に移りたいのですが」
「ちょっと黙っていてくれるかな」
メンタル最底辺のテオを更に追い詰める存在がいた、そうサイレントだ。
今もテオの横にいて、的確にテオの冷静さを削いでくる。
テオがこうなった原因百パーセントのはずであるが、サイレントの立ち方には一つの揺らぎも存在しない。鋼鉄のメンタルが為せる業である。
「前回の反省を生かして、今回はもっと小規模かつテオ様が一つ一つダンジョンを作り上げる形にしようかと思っているのですがどうでしょうか」
「ダメかな」
「わかりました、ではもう少し改善した案を練っておきます」
ちなみに現在、テオは新しい髪形に変えており、頭部全体を短く切り上げた髪型に変えている。失恋のショックだとかなんだとかではなく、単純にカトリーヌが街に来訪した時に性的な目標にされることを防ぐためである。
「それと申し遅れましたが、新しい髪型も似合っていますよ。それも男になった証でしょうか?」
「褒め言葉ありがとう。とりあえずダンジョン以外の話を始めたことについては喜んでおくよ」
「ありがとうございます」
とはいえ、テオもこれからどうすればいいのか悩んでいた。
別に、日常生活について悩んでいるわけではない。今まで通り実家の手伝いをしていればいいだけなので、そちらは問題ない。問題は、つまり今自分の横にいるこれ関係である。
ダンジョンとかいう摩訶不思議で変な物の責任者にされた挙句、しかもそのダンジョンの中には人類だかモンスターだかよくわかんねえカトリーヌとかいう規格外のバケモンが封じられている。
今はまだ大人しくしているのか地上に出てきていないカトリーヌだが、今後どうなるかわからない。それを抜きにしても、自分の隣にいるサイレントとかいうこれまたよくわからないメイドの恰好をした変な存在に付きまとわれていると来た。
そうして悩んだ末にテオはついに解決策をひらめいた。
「そうだ領主様に相談しよう」
我天啓を得たりとテオが喜んでいると、サイレントが不思議そうに首を傾げた。
「この土地の領主に相談しても、テオ様の女性問題は解決しないと思いますが」
「普通はそうだね、でも僕の女性問題は全部この土地に直結してる問題なんだよね!!」
目の前にいるサイレントやダンジョンの奥深くで封印されているカトリーヌなど、全部が全部恋愛関係とは全く関係ないという事実にテオの目頭も熱くなってきた。
「まあ、私もテオ様はこの土地の領主に一度は会っておくべきだと思っていましたから丁度いいかもしれません」
「……領主様に会ったらサイレントさんの事も含めて解決してもらうつもりだからね」
「分かっております。テオ様がこの土地を支配する手駒にする為、この土地の領主と会うのですよね」
会話が一つも噛み合ってない事にテオも切れそうになるが、そこはこらえておいた。
「そもそもサイレントさん、あなたなんなの? いきなり現れてダンジョンとかよくわからない物を見せてきて……いや違うな、それだけならどうでもいいけど、僕を巻き込んでるのが一番意味わかんないんだよ」
「それについてテオ様に説明する必要がありますか?」
「それは……」
あるかないかと言えば全然ある。テオは当事者そのものだし、これ以上ないってほど巻き込まれている。もっと言えば、サイレントの方はテオの事を根掘り葉掘り調べ上げているのに対して、テオはサイレントの情報を全く知らない。
「いいからさっさと話してくれないかな。こっちの事は全部知ってるのに、そっちの事は何も話さないのは違くない?」
「ではテオ様もどうか、ご自身の力で私の事を調べてください。であれば私は何も文句がありません」
宿屋の一人息子で、ただの民間人であるお前に何ができるのかとサイレントは言外に示していた。そして、友人皆無で大した伝手もないテオに何もできないのはその通りである。
「ですが、私の目的だけは話しておいてもいいかもしれません。私の目的はただ一つ、テオ様に支配者として人生を歩んで欲しい、ただそれだけです」
テオはサイレントの真剣な顔を見ながらふとわかった。あ、こいつ嘘ついてやがるなと。短いながらも実に深い時間をサイレントと過ごしてきたテオである。こんなもんに騙されるような甘い心は持ち合わせていない。
「では領主の元に行きましょうかテオ様、この街の事についてはすでに調べ尽くしています。私が領主の元まで案内いたしましょう」
そして、全てがサイレントの掌の上で踊らされているような感覚が、テオはどうしても拭い切れなかった。




