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神華  作者: 紫音
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二章 十八話


 昼休みになった事を告げるチャイムの音が校内に鳴り響き、教鞭をとっていた先生は挨拶と共に教室を出て行った。妖魔生態学なんてものがあると知らなかったと、今まで受けていた授業の教科書を閉じて、これから学ぶことが多そうだと思う。妖魔の写真が表紙になっている藍色の教科書を見て、妖魔が存在するなど、一般生徒に知られればパニックになるのではないかと思っていたが、この教科書は術が使える人しか読むことの出来ない術がかけられている。普通の人からは国語の教科書に見えるらしい。

「麗華! 昼食べに行こう」

 真琴が華神剣の儀を行てから一週間が経つ。教室に入って来た学ラン姿の大輝を見る。昨日もこんなふうに飛び込んできたのだ。特進科の校舎は、一階が中等部、二階が高等部となっている。授業が終わるのとほぼ同じに、金色に染められた髪を跳ねさせながら駆け込んでくる大輝に麗華はちゃんと授業受けているのかな、と少し思った。

 食堂は本校舎の方にしかない。お弁当を頼んでおけば、寮で用意してくれることもあるらしいが、大半の生徒は出来立ての食事が食べられる食堂を利用していた。食堂は、昼と同時に大変な賑わいで混雑する。

 食堂を利用したこともあるが、本校舎の方へ行くと一般女子生徒たちから冷やかな視線を送られるので、麗華はあまり食堂を利用したくない。混雑で食べづらいと相談すると、華白館の怜が特製のお弁当を作ってくれ、特進科の校舎屋上や校庭の空いている場所で食べるようにしていた。

 麗華はお弁当を取り出し、今日は雨が降っていたのでどこで食べようかと考える。教室は中等部の大輝が高等部の教室で食べることをあまり良く思わない空気が流れるので、違う場所がいい。

「どこか空き教室みたいなところないかな」

「空き教室に入るには鍵を借りないといけないんだ。弁当を食べるために開放している教室なんてないよ」

 お弁当を取り出している優斗が困ったように言う。

「じゃあ、食堂で食べる?」

 お弁当を持参しても、食堂でも食べられるようになっている。麗華は取り出した、桃色のチェック柄のランチバックを掴んで考える。雨のため屋上で食べることの出来ない生徒たちも食堂で食べる。普段よりも人で賑わっていると思われる食堂で、女子生徒たちから冷やかな嫉妬の視線と馬鹿にされた視線を浴びることになるのかと、憂鬱になる。

「じゃあ、生徒会室で食べる? 彰華はいつもあそこで食べているし、他の執行部もあそこで食べているから、麗華一人増えても大丈夫だよ」

 真司の言葉に麗華は首を振る。生徒会でもない麗華が生徒会で弁当を食べていたなど、他の人に知られたら、冷やかな視線が倍増すること間違えないだろう。

「俺、いい場所を知っている。あそこなら、鍵壊してあるから、出入り自由でテーブルもソファーもあるから丁度いい」

 大輝がいい場所があると、得意げに言う。その言葉に、優斗と真司が一瞬目を合わせて、眉間に皺を寄せる。

「……あそこって、まさか、大輝のヤリ―」

「おい! 麗華に変な事を言うなよ!」

「汚い。変な場所提案するなよ」

「最近は使ってないし! 掃除だってしたから汚くない!」

「大輝が掃除? まさか、麗華を連れ込もうとか考えて掃除したの?」

「そ、そんなわけないだろ! 人が入らないとほこりっぽくなるから、たまに掃除するのは当然だろ! 別にやましい気持ちはない!」

 焦って喚く大輝を真司と優斗は疑わしい目で見る。

「麗華さん、大輝の言った場所は忘れて」

「あぁ、うん。あんまりよくない部屋そうだから、遠慮しとくよ」

「本校舎の三階で第四視聴覚室の斜め右の多目的室だから、そこに連れて行かれそうになったら、逃げなよ」

 真司の言葉に麗華は素直にわかったと頷く。

「なんで場所を教えるんだよ!」

「今までは、見逃していたけど、多目的室を私物化するのは良くない」

「そうだ。生徒会の一人として、中等部生の悪行を見逃せないね」

 大輝は、優斗と真司の言葉に大きく舌打ちをする。

「もういい、あの部屋はもう二度と使わねーよ!」

「そうだね、その方がいいと思うよ」

 麗華が苦笑いで言うと、大輝はもう一度舌打ちをして顔を逸らした。やっぱり食堂で食べようと、麗華が考えていると声が掛かった。

「麗華さん、ちょっといいですか?」

 黒縁眼鏡で髪を一つに纏めている小百合が麗華の座っている席までやって来て、一つの本を渡す。背表紙に図書室で張られるシールが張られているのを見ると、学校の本であることがわかる。

「食事前に申し訳ありませんが、私、急用が出来てしまい、この本を湖ノ葉の居る図書室に返していただきたいのですが?」

「はぁ? 普通に先に返しに行ってから、用事を済ませればいいんじゃないの?」

 大輝の言葉に、小百合は軽く彼を見てから、もう一度麗華にお願いをした。

「あぁ。うん。わかった。ありがとう」

 昼休み開始すぐの混み合った食堂に行くよりも、少し時間を空けて行くようにと小百合が遠回しに進めているのだと気が付いた。だから麗華は素直に本を受け取る。

「ついでに私も本でも借りようかな」

「湖ノ葉に言うとおすすめの本を貸してくれると思います。本を宜しくお願い致します」

「うん、わかったよ」

 小百合は軽く会釈してから教室を出て行った。麗華たちはランチバックを持ち図書室に向かった。大輝は図書室の独特の落ち着いた空気が苦手らしく、図書室に行くことを不服そうにしている。


 図書室に着くと麗華は小百合から預かっていた本をカウンターにいる湖ノ葉に渡しに行った。湖ノ葉は受け取り返却業務を行う。そして麗華たちの持っているランチボックスを見ると、立ち上がり付いてくるように言い、図書室の隣にある図書委員室の扉をあえて中に麗華たちを招いた。

「今日は……私だけ。ここ使って……いいよ」

 図書委員室の中には長テーブルが一つに椅子が一二脚置いてある。修理中の本が長テーブルに置いてあるが、麗華たちが食べる場所は十分にあった。

「いいんですか?」

 図書委員だけが使っていい場所だろうと思い聞いてみると、湖ノ葉は頷いた。

「いいよ。私は……もう、食べた」

「ありがとうございます。それじゃあ、ありがたく使わせてもらいますね。」

 麗華たちは湖ノ葉の気づかいに感謝して、図書委員室を借りて食べることにした。怜の特製弁当を食べながら、今後屋上が使えない時など、何処で食べるかちゃんと決めないとダメだと思う。


 教室に戻る前に図書室の近くは人通りもなかったので、お手洗いに麗華は立ち寄った。誰か居たら嫌だなっと思っていたが、使用中の戸が二つあるだけで、女子の姿は見えなかった。さっさと済まそうと思うと、使用中の戸から大人しそうなショートボブの一般生が出てきた。ちらりと麗華を見るが特に反応はなく、麗華は空いている個室に入った。

 数分もしないで個室から出たのに、三つある手洗い場を六人の一般生徒で占領されていた。どこから湧いてきたのかと吃驚する。鏡越しに髪や化粧を直している女子生徒と目が合う。

「トイレ内が臭いと思ったら、裏口がいたせいだったんだね」

「クサい、ほんと最悪――」

 髪をコテで巻きなおしている生徒が片手でポーチから器用に制汗スプレーを取り出して、鏡越しに麗華に向けてかけてきた。ちょっと距離があるので麗華は一歩下がり避ける。

 口々に麗華の悪口を言いだした女子生徒に、手を洗いたかったけれど、どうしようと麗華は少し困る。


「邪魔よ」

 トイレの個室の方から肩にかかる前に切りそろえられた黒髪の特進生徒が出てくる。麗華と同じ真新しい緑色のチェックの巻きスカートを軽く揺らして、手洗い場を占領している生徒を睨みつけた。

「……登世子」

 もう一つの使用中だった個室に登世子が入っていたようだ。

「はぁ? 今使ってるの見て分からないの?」

 六人の女子生徒が不愉快そうに登世子を見る。登世子は端にいた女子生徒の腕を掴み、乱暴にどけさせた。

「ちょっと何すんのよ!」

 文句を言う生徒たちを無視して、登世子は手を洗いポケットに入っていたハンカチで手を拭いた。麗華をちらりと見て、鼻を鳴らしてその場からトイレから出て行った。

「何あいつ!」

 怒鳴り散らし、汚い言葉で登世子を罵倒している女子生徒たちと颯爽と去って行った登世子を見比べて、何だか彼女が少しカッコよく見えた。内心で拍手を送り、麗華に登世子の分の苛立ちをぶつけることに決めた女子生徒が、使っていたポーチにコテを仕舞いこんだ。一人の女子生徒が逃げ場を塞ぐように個室に繋がる道に立つ。麗華が広い手洗い場の方へ軽く避けると、二人が麗華を間に挟むようにしてキラキラとした飾りの付いたポーチを片手に持ち、わざと彼女にぶつかるようにして手を振り歩いてきた。

 キラキラした飾りが付いたポーチが当たり傷でも付いたら、トイレの入り口にいる大輝たちがこの女子生徒たちに何をするかわからない。麗華は壁側を歩いてきた一人の方の手首を掴み、もう一人の方に、その女子生徒を投げつけた。よろめいてもう片方にぶつかり、さらに、熱していたコテが金具を熱くしていたようで、「熱い!」とぶつかった少女が小さく悲鳴を上げた。

「何すんのよ! 危ないじゃない!」

「喧嘩を売ってんの! このブス、頭おかしいんじゃない!」

「火傷したじゃない! どうしてくれんのよ!」

 一斉に騒ぎたした女子生徒たちに麗華は頷く。

「そうね、危ないよね。丁度、水場にいるんだから、早く冷やしたらいいんじゃないかな? 私もそのポーチにぶつかって火傷なんてしたくなかったよ。振り回して歩くことは危ないからやめた方がいいよ」

 怒鳴り散らし麗華に掴みかかってこようとする、女子生徒を軽く避けて、女子トイレから出ようとする。

「手も洗わないで出るなんて不潔!」

 怒鳴られたので、麗華は軽く女子生徒を見てから手洗い場からちょっと離れたところにある、用具入れの横にあるマルチシンクの蛇口を開き、手を洗う。

「無視してんじゃないよ!」

 麗華の肩を掴んで来ようとした生徒の気配に麗華は蛇口をちょっと塞いで、水を後ろに飛ばした。

「きゃあ!」

「あら、ごめんなさい。怒鳴られて吃驚しちゃった。ハンカチを使う?」

 軽く水しぶきが掛かり体を払っている、女子生徒に振り返ってまるで謝っていない口調で謝罪をし、ハンカチを取り出して差し出す。

「いらないわよ!」

 手を払われて、麗華はそのままハンカチで手を拭く。

「そう? じゃあ、失礼するわ」

「裏口入学の癖に、生意気!」

 まだ、怒鳴ってくる女子生徒たちを無視して麗華はトイレの扉を開けて女子トイレから出る。


「長かったな」

 扉を開けた瞬間に、待ち構えていたように立っている真司と大輝、優斗と目が合う。

「女子はトイレで色々しなきゃいけないことがあるの」

「何か騒いでいるような声が聞こえてきたけど、大丈夫なの?」

 女子トイレの声が完全に聞こえていたわけではないと思う。もしも聞こえていたら、大輝たちは気にせず飛び込んでくるだろう。中にいた生徒たちも、大輝たちが外にいると分かっていて、トイレから出ようとしていない。

「うん。問題ないよ」

 麗華は真司に預けていた、ランチボックスを受け取り教室に向かい歩き始めた。

 ショートボブの子があの一般生徒を呼んで麗華に嫌がらせをしてきたのだろう。いつも、真司たちと共に行動しているから、はっきりと言葉や態度をぶつけられることはなかった。

 妖魔や恐い経験をしてきたせいか、一般女子生徒からの言葉を冷静に対処することが出来たと思うけれど、やっぱり傷つく。

人気がない女子トイレだとしても、今度からトイレも一般生徒が出入りできる場所は使わないようにしようと麗華は固く心に誓った。


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