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神華  作者: 紫音
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二章 十七話


 朝日が昇り、カーテンの隙間から日差しが入ってくる。麗華はまだ鳴る気配のないベッド脇に置いてある目覚まし時計に手を伸ばし、時間を確認した。5時半を少し過ぎた時間に、目覚まし時計をオフにしてから起き上がった。

 麗華が危惧していた、華神剣の儀式は暫く様子を見てから行うと真琴たちから言われ、麗華は気がだいぶ楽になっていた。

 一昨日の夜はどうしようかと、困っていたが正直、真琴以外の守護家たちには悪いが、やらなくてすみ良かったと思っていた。あの儀式をするためには、麗華の痛みに耐えるための覚悟が必要だと思う。彰華には、こうなると思ったと呆れられた。華神剣の儀式が以外でなるべく彼らに力を送るようにと言われ、とりあえずは落ち着いた。夜に手から手へ、力を送るようにしている。今まで飢餓状態だった彼らは、それでも力が送られてくることを喜んでくれていた。


 早く起きた理由は昨日渡された、課題がまだ途中なのでそれを速めに終わらせようと考えていた。一度大きく体を大きく伸ばしてから、パジャマから制服に着替える。麗華の部屋には洗面所が付いているので軽く身支度を済ませて、部屋の扉を開けた。

 開けると、部屋の前に座っていた式神が麗華を丸く大きな瞳で見つめてくる。おはようと挨拶を交わし、麗華は式神を手の上に乗せた。

 洋子曰く、麗華から力をもらい生きている式神は、毎朝ちょっと触れるだけで力をあげることが出来ると言う。麗華は、手の平におさまる可愛らしい式神を軽く人差し指でなでる。

「今日も一日よろしくね」

 式神は嬉しそうに頷いて麗華の手の平の上で器用に、正座をしてからお辞儀をした。食事はとる必要はないが、飴玉が好物だ。麗華は床に式神を下ろしてから、制服のポケットに入っている飴玉を一つ取り出し、袋を開けて一粒の飴玉を手渡す。式神は貰ってすぐに口にほおばって幸せそうに目を輝かせた。

「すぐ戻るから」

 もう一度、式神の頭を指で撫でて一階へ向かった。


 式神の名前を考えているのだが、いまだに良い名前が思いつかない。可愛らしい名前が嫌いのようだから、いっそのことカッコいい名前系を付ける方がいいのだろう。

聡太朗ふさたろう惣吉ふさきち小衛門こえもん。んー。違うな。名は体を表すって言うし、式神君に合う名前がいいと思うんだけど……」

「おはようございます」

 エプロン姿で挨拶をしてきたのは、岩本家次男のりょうだ。すらりとした身長だが、人のよさそうな柔らかな物腰の青年で、朗らかに笑みを浮かべて挨拶をされると、麗華もつられて笑みになる。

「おはようございます」

「式神の名前を考えていらしたのですか?」

 一階のキッチンから出てきて、朝食のセッティングをしているようだ。手には、食器を持っている。岩本家の二人は洋子が掃除と部屋の管理、怜が料理、雑務を行っている。華白館の管理を岩本家は式神を器用に使い行う。彼の周りには、5歳児ぐらいの身長の式神がせっせと箸を運んでいた。ふわふわの狸のような尻尾に、兎のような長い耳をひょこひょこ動かして働いているエプロン姿の式神はとても可愛らしい。怜は料理をする時に、三匹の式神を呼び出して行っている事が多い。キッチンからは踏み台に上り鍋をかき混ぜる式神と、ネギを刻んでいる式神の姿が見える。

 相変わらず可愛らしいな、と思いながら、せっせと働く式神につい目が行ってしまう。

「……そうなんです。まだ、名前が考えられなくて。怜さんはどんなふうに名前を考えましたか?」

「私の場合は、式を作るときに使用した石から名前を付けました。小川で拾った石の場合、川が透き通る清らかな美しい様子から、清美きよみのようにしましたね」

「出会った情景から名前を考える……」

 麗華が式神との出会いの事を思いだす。藤森家にいた時に戸の前にいたらしいが、見えていなかったのでわからない。見えるようになってからは、可愛らしいとそのことしか、覚えていない。麗華は名前をどうしようかと考える。そして、思いついた。

「……甘い物が好きだから、飴男あめおなんていいかもしれない!」

「その名前では、あの子は拒否しそうですね」

お水を飲みに来たと、怜にはわかったらしい。麗華が式神の名前を考えているうちに、いつの間にかキッチンに消えた怜が手に、お盆を持ってやって来た。お盆の上にはレモンのスライスが入った水差しと、コップと、小さな器にブルーベリーの乗ったヨーグルトが置かれていた。怜は麗華の方を見て苦笑いしている。

「変ですかね」

 怜は困ったように微笑む。その微笑みは肯定だろう。

「名前を決められていない間は、仮契約のような状態になります。お考えになるのは難しいとは思いますが、早めにお決めください」

「わかりました……」

 麗華は、怜が持ってきてくれたものに感謝を述べて、お盆を受け取ろうとした。すっと、怜が手を除けて麗華にお盆を持たせようとしなかった。

「お部屋までお運びいたします。カル、おいで」

 ひょこひょこ、飛び跳ねるようにエプロン姿の式がみがやってくる。カルと呼ばれた式神に、怜はお盆を渡す。

「麗華さまのお部屋までお持ちしなさい」

 式神は了解の意を示し一度頷いて、麗華に向かい軽くお辞儀をする。

「あ、自分で持っていけます」

「麗華さま、彼らの仕事ぶりを見るのがお好きでしょう?」

 怜は微笑んでカルの頭を軽くなでる。嬉しそうに首を揺らす式神に、麗華は癒された。本当なら抱き着いてふわふわを堪能したいところだ。だが、藤森家を管理する岩本家の式神を一体、知らぬ間に奪ってしまった麗華は、個人の式神に気安く触ってはいけないという事を学んでいた。

「大好きです」

「この子も仕事をするのが好きなのです。この子にお任せくださいますか?」

 柔らかく笑う怜につられて麗華も微笑む。

「はい、わかりました。お願いします」

「それと、何か御用が御座いましたら、式神に伝えてくだされば、私たちにも伝わりますのでお申し付けください」

 洋子にも用事があるときは、式神に伝えれば対処すると言われていたと思いだす。自分で来たほうが早いと思ったのだけど、それが、彼らの仕事だと言うのなら、式神に伝えたほうがいいのだろう。

「わかりました。今度はそうします」

 麗華の前をひょこひょこと、式神が歩く。階段を上がり、尻尾がふあふあと揺れているのを見ながら可愛さに悶える。部屋の前にたどり着くと、麗華の式神が、扉を器用に開けてお盆を持ったカルを中に入れさせた。カルはお盆をテーブルに置くと麗華に一礼して部屋を出ていく。その前に、麗華の式神の前で正座してから丁寧にお辞儀していた。

 式神たちの序列では、麗華の式神は上らしい。部屋の戸が閉められて、麗華は水差しからコップへ水を注ぎ、一杯の水を飲み干す。

 さて、と気を取り直し、机に向かい残りの課題に取り掛かった。




 勉強に集中して一時間。自分が解けそうなものは大体解けたと思うが、数学や英語が自分の習っている範囲以上のものが出題されており一人で解くのが難しい。不意に、戸の前にいる式神が蓮の来訪を頭の中に伝えてきた。

「どうぞ」

 麗華が声をかけると、蓮が入るぞと声をかけてから中に入って来た。

「おはようございます」

「おはよう」

 朝の挨拶を交わしてから、時計を見るとまだ六時半だ。華白館の朝食は七時半なのでまだ朝食の時間にはある。椅子に座ったまま、蓮を向かい入れて麗華は問う。

「どうしました?」

「怜から起きていると聞いた。昨日出された課題をやっているのか?」

「はい、そうなんですよ。早めに課題提出したほうがいいだろうと思って」

 一週間の期限が与えられている課題だが、早めに提出しすっきりしたいと思っていた。最下位と言う不本意な成績を取った事を少しでも挽回できる時にしておきたいという気持ちもある。

 蓮が眼鏡に軽く触れて、麗華の机までやって来た。

「わからないとことはないか?」

「蓮さん救世主! 丁度、わからないところがありまして、ここの式の解き方がわからなくて」

 麗華が指さす問題を見る。

「あぁ。それは」

 蓮が麗華のペンを借りて、すらすらと公式を書き数式の解き方を説明した。蓮の説明を聞いて麗華は納得してから、問題を解いてみると無事に答えを導き出せた。蓮に感謝を述べると、問題に集中していたせいで、今まで気が付かなかった蓮の顔が、意外に近くにあることに少し驚いた。蓮の眼鏡越しに映る瞳の中に麗華の顔が映っていると思うと、少し恥ずかしくなる。過敏に反応しては変だと思い、軽く笑う。

「蓮さんって、意外に教えるのが上手ですね」

「このくらいなら、誰でも出来る。それに弟にたまに教えるからな」

「弟? あれ、蓮さんって弟さんいましたっけ?」

 蓮は守護家の土屋家に養子入りしたと聞いている。上に義兄が二人、下に義妹の映子がいた。

「実弟が花守学園に通っている。中学三年で術はほぼ使えないため、一般科だ」

 初めて聞く情報だ。神華を名のってから麗華は華守市にいる多くの藤森関係者、守護家関係者と会ってきていた。その中に、蓮の実家は含まれていない。

「じゃあ、大輝君と同じ学年だ。学園で会われているんですね。蓮さんには似ています?」

 大輝と同い年の蓮の弟を想像してみる。蓮と同じ長身で鋭い眼つきを想像する。

「中学の生徒会長だな。軽い。チャラついてはいない。仕事も真面目にやるが、動言が軽すぎる。俺には似ていないな。容姿も違う」

「……軽い。でも中学の生徒会長なんですよね。なんか、想像が出来ないな」

「そのうち会う事もあるかもしれないが、近づかなくてもいい」

「弟さんですよね?」

 弟に麗華を近づけたくないらしい、蓮は眉間に皺が寄っている。

「公に弟とは断言していない。守護家は知っているが、一般的には知られていない。だからあいつも、俺の事を兄とは呼ばない」

「そうなんですね」

 蓮の家庭環境はちょっと大変そうだなと、麗華は改めて思った。

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