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神華  作者: 紫音
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二章 十話




 祥子は二階の案内を終えた後、一階へ連れて行き案内をした。一階にはリビングとダイニング、キッチン、風呂場、客室、応接室、会議室、洗濯室、和室がある。麗華の引っ越しと、守護家たちの入寮を終え、夕飯はダイニングで麗華の歓迎会が行われた。

 華白館は、岩本家の三男怜りょうと末娘の祥子が管理を任されている。怜と祥子は改めて、麗華に挨拶をした。怜は落ち着いた優しそうな青年で、祥子がなにか失礼な事をしていないかと心配した様子だった。料理を担当しているらしく、歓迎会で用意された料理は怜がすべて作っていた。

 歓迎会中も麗華は、小百合達ばかりに話しかけ、真琴たちと会話をしようとしなかった。あからさまな態度だが、悪いことをしたと自覚しているらしい真琴たちはその事に触れず、暗い空気を漂わせていた。何度か気を利かせたらしい莉奈が、会話を取り持とうとして失敗に終わり、さらに気まずい空気を生み出していた。

 彰華は歓迎会が終わると、明日からの準備があるのでと早々に自室に戻って行き、陽の守護家たちもそれに続いて自室へ引き上げてしまった。麗華もそれに続いて戻ろうとしたけれど、真琴にダイニングを出る戸を防がれ止まられた。

「麗華さん、少し話をしてほしいの」

 麗華はあからさまに嫌そうな顔をしてから真琴を見た。

「何ですか? 通りたいんですけど……」

「麗華さんが怒るのはもっともよね。ごめんなさい」

 真琴の謝罪に続くように、その場にいた蓮たちが頭を九十度に下げて謝罪する。

その姿を見て、麗華は大きく息を吐く。いつまでも怒っていても、仕方がないことはわかっている。もうすぐ学校が始まるため、真琴たちの事を怒り続けてはいけないという事はわかる。

 彰華は陰の守護家を操れるだけの器を持てと言った。守護家が神華を守るために動くのは当然な事で、それは受け入れなければいけない。妖魔や危険な人から守ってもらうのだから、傍にいて護衛されることに慣れなければいけない。

 彼らには、実際何度も助けられている。麗華が本当に嫌がることであっても、彼らと今後も付き合っていくのだからお互いが許容できる範囲を探すことが大切だと思う。


「私は、彰華君とは違います。陰でこそこそやられても、それが守護家だからと納得できません」

「そうよね」

「ついてくるなら、隠れて付けてこないで言ってください。守護家として、私の言葉を聞けないと気はそう言ってください。真琴さんたちが、私を守るため護衛してくれていると分かっています。今回の事は、華守市以外へ行く時に私が、護衛として真琴さんと蓮さんだけに頼んだことが原因でした。神華として自覚のない行為でした。ごめんなさい」

 蜜狩りと言う、藤森家の血を狙った事件があった直後であることと、一般人として育ってきた麗華が陰の神華だったという事が、世界中の術者に知れ渡っていた。狙われる危険性を考え、守護家が護衛に付くのは当然な事だ。世間体を気にして、二人だけに来てもらおうと思った麗華の考えが甘かったと、藤森に来てから考えていた。

 彰華や伯母の聞くかも、麗華が実家に一時帰ることを了承したのは、当然守護家が付いていくと分かっていたからだ。

 結局、自分だけが何もわかっていなかった。


 それでも、真琴たちをすぐに許すことはできなかった。前科のある真琴たちをすぐに許してしまえば、彼らはまた同じことを繰り返すと簡単に想像できた。学校が始まる直前まで、怒り続けていると思われることで、反省し今後のやらないで貰うための作戦だった。

「謝らないで。私たちが、麗華さんの気持ちを考えて居なかったわ」

「麗華が嫌がることはしないようにする」

「僕たち、調子に乗ってたよな。本当に反省してるよ」

「麗華のゆ、友人殴って、悪かったよ。短気だった。悪い」

「ごめんね、麗華さん」

 歓迎会中も葬式のように落ち込んでいる真琴たちを見て居ると、この辺でやめておこうと思う。


「わかりました。みんなの気持ちはよくわかりました。今後のため、一つルールを作りませんか?」

「どんなルール?」

「私に関わることをする時、私に教えてください。私が嫌がって、真琴さんたちが実行しなければいけない時でも、やると気はやると言ってください。嘘を付いてやらないでください」

「麗華さんに関わることを連絡すればいいの? 守護家が行っている、朝の会議の内容を伝えればいいのかしら?」

 藤森家にいる時もしていたが、守護家は毎朝、神華についての会議を行っている。

「そうですね。一応今も教えてもらえていますが、詳しく聞きたいです」

「わかったわ。今後麗華さんに関することで、何か行う時は言う事にするわ」

「麗華が、やめろって言ったことを、報告すればなんでもやってもいいって事?」

 大輝の言葉に、麗華は軽く睨む。

「なんでも、かんでもやっていいかどうか、考えて常識の範囲でお願いするわ。間違っても、いきなり人に殴りかかることはしないで」

「わ、わかってるよ。もうしないって」

「やることは教える。それだけでいいの?」

 真司の言葉に麗華は頷く。

「嘘ついてやられるよりはずっと、マシ」

 麗華の言葉に、彼女の本心が如実に現れていた。麗華の表情を見て、真琴たちは彼女がどう思っているのか分かった。

「わかった、約束しよう」

 



『奥方は強かで賢い女性でした。麗華さまも奥方のように、強かで賢く芯の強い女性になられるよう』


 麗華は新しく自室になった部屋のベッドに転がり、菫が書いた手紙を読み返す。守護家に知られることのないようにと、手紙に書かれた内容は麗華の今後を案じるものだ。

「強かで賢く芯の強く、器のでかい人」

 そんな、人になれるのだろうか、麗華はベッドに転がり今後の自分について、大きく息を吐いた。




 


 真新し制服に袖を通し、麗華は鏡の前でくるりと一回転する。

 深緑色のベストに、緑色をベースにした深緑と黒と黄色の線が入ったチェックの巻きスカートは二つのベルトにより止められている。前の学校の制服はよくあるセーラー服だったので、花守学園高等部の制服がブレザーだと知った時は嬉しかった。

 普通のプリーツスカートではなく、サイドと後ろがプリーツで前がストレートで、ベルトで止まっているところがまた可愛らしい制服だと思う。


 コンコンコンとノックをする音と同時に、戸の前に居るのは真司だと麗華の部屋付式神が伝えてきた。式神が麗華の従属になってから、頭の中に言葉とは言えない物を式神が送ってくる。感覚としては何かを思い出した時に頭の中で浮かぶ時と似ている気がする。


「どうぞ」

「麗華準備、出来た? そろそろ学校へ行くよ」

 戸を開けて入って来た真司は、赤色のネクタイに市販のシャツを着ていた。ズボンは緑色をベースにしたチェックだ。学校の指定のベストとニットベストがあるが、個人によって制服の着方が異なる。

「うん、待ってね。今行くね」

「制服にあってるじゃん」

「ありがとう。前の学校がセーラーだから、花守学園の制服がブレザーで嬉しいな。まだ夏服だから、ベストだけどね」

「へー。よかったね。中等部はセーラーと学ランだよ」

「じゃあ、大輝君は学ランなんだ。なんか真っ赤なTシャツで裏に金色の竜とか背負ってそう」

「あぁ、似たようなものかな」

「え? 本当? 早く見に行かなきゃ!」

 大輝の姿を想像して麗華は笑う。

「じゃあ、行ってくるね。式神君、御留守番宜しく」

 麗華の部屋の前に正座をし、つまようじほどの小さな刀を腰に付けている式神は、丁寧にお辞儀をして麗華を見送った。

「あの式神、麗華に付いてきたんだってね」

「うん、祥子さんが、名前を付けてあげてって言っていたんだけど、まだいい名前が浮かなばないんだ。うさくんか、たーくんにしようとしたんだけど、式神君があの大きな瞳を顰めてげんなりした顔するからさ」

「驚きの、名前のセンスなさだね。式神じゃなくても、麗華に名前を付けられるのはごめんだね」

「そう? 可愛らしい名前だと思うんだけどな」




 二階から降りて行くと、すでに玄関には陰の守護家、陽の守護家、彰華、祥子が鞄を持って待っていた。祥子は紙袋を持っている。

「遅くなってごめんね。お待たせしました」

「うちの制服にあっているね。麗華さん」

 青い市販のニットベストを着た優斗は同じ学園の制服を着ている麗華の姿を見て微笑む。

「ありがとう。優斗君」

「遅くなると面倒だ。行くぞ」

 彰華が登校を促す。

「では、学校へ出発です~」

 祥子がのりのりで、華白館の扉を開けた。大学生の真琴と麻美と怜はみんなの出発を入口で見送った。

学園までの道のりは下りになっている。生垣になっている道を通り、学校の西門へ出た。花守学園は中等部高等部が全寮生のため、華白館以外に寮塔が6つある。他の生徒は南門から学校の校舎へ入ることになっていた。


 だけど、西門に入った瞬間、黄色い声が聞こえてきた。

「華白館の方々が登校して来たわ!」

 ただ歩いているだけで、女子がきゃっと声を上げている。軽く見渡すだけで50人ぐらいはいそうな女子たちが道の左右に分かれて、華白館の人たちを出迎えていた。その姿に、夏祭りの様子を思い出す。彰華たちの人気は知っていたが、すさまじいなと引き気味になる。

「おはようございます」

 彰華が微笑を浮かべて歩きながら言う。

「おはようございます!!」

 きゃっと言っていた、女子生徒たちが一斉に頭を下げて返事をしていた。その統制がとられた動きに引きながら、隣を歩いていた真司の方へ少し逃げる。

「すごいね」

「今日は少ない方だよ」

「あれ、あの女子たち青色の制服を着ていない?」

 麗華は自分の制服の緑色を見てから、彰華や守護家に黄色い声をあげて居る女子たちの制服が麗華たちと色違いの青を着て居ることに気が付いた。

「一般生と特進科の制服の違いだね」

「私、特進科だったんだ……」

 麗華は転校の手続きをしていたが、自分が特進科へ行くことになることは知らなかった。彰華を先頭に歩く守護家たちの真ん中を歩く麗華は、ふと聞こえてきた声が気になった。


「微笑みの貴公子さま、今日も素敵!」

「挨拶してもらえるなんて幸せだわ。微笑みの貴公子さま、カッコいい!」

 先ほどから、女子たちが興奮気味に言っている言葉が気になる。

「ほほえみのきこうし……」

 ちらりと前を歩いている彰華が横を向いて微笑んでいるのが見えた。

「彰華君が、『微笑みの貴公子』なんだ!」

 わかってしまうと、笑いがこみ上げてきた。口を押さえて笑わない様に努力をしてみたが、女子たちの言葉が頭を巡りこらえきれなかった。


「ぶ、しょ。彰華君が、ほ、微笑み、微笑みの貴公子、さま! だめ、もうおかしすぎる!」

「ちょっと、麗華?」

「微笑みも、うけるけど、貴公子! 貴公子!」

 麗華は隣の真司の肩に片方に手を置き、もう片方で鞄を持ちながらお腹を押さえて大爆笑した。

「麗華」

 彰華が片方の唇を引きつりながら、振り返った。

「な、なに? ほ、微笑みの、き、貴公子さま!」

「私の従妹殿は、転校の緊張から少し、可笑しくなっているようですね」

 彰華の目が怒っていたので、麗華は顔を引き締めようとして失敗する。

「ご、ごめん。反省するよ。き、貴公子さま」

「どこを反省しているんでしょうね……」

「貴公子さま呼び、嫌いなの? 彰華君の所謂、二つ名でしょ? もう、これからは、私も彰華君に敬意を払って、微笑みの貴公子さまとお呼びするよ」

「……どこが敬意だ。私は、知りませんからね」

「あ、」

 笑いすぎていて気が付かなかったが、周りの女子たちが麗華に冷やかな視線を送っていた。それは陽の守護家からも感じる。

 その冷やかな視線を麗華は一度すべて見渡してから、開き直って笑った。

「おはようございます。今日から転校してきた、岩澤麗華です。これから皆さんの目の前をちょろちょろして鬱陶しく思う人も出てくるでしょうが、お手柔らかに。これから宜しくお願いします」

 深くお辞儀をしてから、顔をあげて、未だに冷やかな視線を送ってくる人に笑いかけた。

「さぁ、行こうか」

 麗華は周りにいた真司たちに声をかけて、麗華の方を苦笑いで見て居る彰華を見る。

「先に職員室行かなきゃいけないから、ここからは私たちだけで行くね。微笑みの貴公子さま」

 通り過ぎる時かるく彰華の肩を叩いてから、麗華たちは校舎に入って行った。

 周りで騒ぎ出す、少女たちに祥子が前に出てきた。


「みなさ~ん。これ、花守学園新聞の号外で~す」

 新聞部兼写真部の祥子は、紙袋から号外と書かれた花守学園の新聞を紙吹雪のように振りまいた。

 中には、名門藤森家の親戚、彰華の従妹が転入して来た事、麗華が学園長、菊華に可愛がられている事、守護家をはじめとする、華守市名士に好意的に扱われている特集が書かれていた。

 この花守学園で麗華に危害を加えることを行えば、即効退学にすると匂わせる内容に、号外新聞を読んだ少女たちは顔を青ざめていく。そして、新聞を振りまいている祥子を見た。

「皆さん。学校生活は、快適に仲良くやって行きましょーね!」

 祥子は満面の笑みを浮かべて、ふわふわしたツインテールを揺らした。




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