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神華  作者: 紫音
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二章 九話


 華白館は彰華が生まれたことをきっかけに学園の敷地内に建てられた二階建ての洋館だ。名前の通り白を基調とした建物で、左右対称の作りをしている。車を降りた麗華は、目の前に見えた華白館を見上げた。

「ドールハウスみたい。それか、二時間ドラマとかで殺人事件が起きそうな孤島の屋敷」

「麗華さん。縁起でもない事を言わないでください。ここは孤島ではなく、花守学園の敷地内です」

 黒縁眼鏡を規則正しく直し、小百合は訂正する。麗華は小百合の言葉を聞きながらも、乙女の憧れが詰まったような洋館を見て興奮していた。

「小百合さん、あの正面玄関の上にある半円バルコニーって素敵ですね。見放しも良さそう!」

「あそこはホールからの続きになっているバルコニーで、テーブルも置ける場所になっているのでお茶も出来ます。華守市を見渡すことが出来るようになっています」

「すごいね。星もきれいに見えそう!」

 麗華がうきうきとしていると、華白館の玄関からツインテールが緩やかに波打つ、メイド服を着た少女が飛び跳ねるように麗華のもとへ駆け寄って来た。

「ようこそ、華白館へいらっしゃいました! 麗華さま」

 大きな瞳とぷくりとした愛らしい唇で背の低い少女、岩本祥子が麗華の手を取って笑う。

「さぁ、さぁ。このようなところで立ち止まらず、華白館の中へお入りください~」

 祥子は麗華に向かい愛らしくウインクすると、麗華の手を引っ張りながら、飛び跳ねるように華白館の中へ案内した。


 二輪の花と、その周りに左右対称に五つの葉と一つの月のような丸い物が彫られている玄関の扉を開けると、らせん階段が目の前に入って来た。上には上品にきらめく小さなシャンデリアが三つ下がっている。

「わぉ」

 華白館は予想以上に中も凝っている。螺旋階段の手すりにも細工が施され美しい。

「はい、御履物はこちらで履き替えてくださいね」

 祥子がスリッパを麗華の足元にそろえて置く。玄関の横を見ると、縦長の靴棚が二つ並んで置かれていた。

「ありがとうございます」

 麗華が履き替えると祥子はまた麗華の手を、引っ張り案内を再開させた。

「さぁさぁ、麗華さま。まずは麗華さまのお部屋までご案内致しますね!」


 麗華の部屋は二階にあるので祥子に手を引かれながら螺旋階段を駆け上るとホールに出た。ホールには丸テーブルが四つ猫足の椅子が三脚ずつ置かれてある。ホールの壁には、真琴が描いたと思われる海外の町中の風景画が飾られていた。バルコニーへ続く扉が、全面ガラス張りになっており日当たりのよいホールになっている。


「バルコニーが見えるここから見て左手の扉が音楽室、右側は遊技場です。麗華さんの部屋へは一度遊技場を通った続き戸を開けて出る廊下の先にですよー」

「音楽室に遊技場!?」

「はい。守護家の皆さんが和楽器とかピアノもやるかたがいらっしゃるのであるんですよ」

 右側の戸を開けると、ビリヤード台に、デジタルダーツ、60インチのテレビの前には革張りのソファーとテーブルが置かれている。横にはバーカウンターまである。酒が並んでいるはずの、カウンターの後ろの戸棚には色々なジュースが置かれている。ジュースは全国各地の百パーセントジュースとご当地ラムネが並んでいた。

「悪かと思ったけど、健全だ!」

それを見つけた麗華は笑う。

「一応、学生寮ですからねぇ。堂々と、お酒を並べたりしませんよ」

「じゃあ、裏に隠されているとか?」

「どうでしょうねー。祥子、わかりませ~ん」

 祥子は可愛らしく体をくねらせる。それから、また麗華の手を、引っ張り案内を開始する。遊技場のもう一つの戸をあけると廊下に出た。右側に戸が五つならんでいる左側には三つ戸がある。祥子は右側にある扉を指さしながら歩く。

「こっちは、陰の守護家の部屋で、手前から言うと真ちゃん、ゆ~くん、大坊、レンレン、まこっちゃんです。左側は怜兄様、物置部屋、そして麗華さんの部屋です~」

 麗華は祥子の部屋割りを聞きながら、首を傾ける。

「あれ? なんで、男ばっかり? 普通女子の部屋のところに私の部屋があるんじゃないんですか?」

 祥子はにっこり可愛らしく笑う。華奢な人差し指で、麗華の腕を突く。

「れ、い、か、さ、ま。んもぉ。わかっているじゃないですかぁ」

「…………え?」

「わかりませんかぁ?」

 祥子は照れたように頬を押さえてくねっとする。 

「わかりませんが?」

 戸惑いながらも、少しイラッとする。

「夜這いをかけやすくするためですよ! きゃぁ、言っちゃった」

「はぁ?」

「ちなみに、音楽室から行ける戸の部屋はこの部屋と左右対称で、映ちゃん、莉奈、小百合、湖ノ葉、麻美さんで、私の部屋、物置部屋、彰華さまの部屋ですね」

「私の部屋と彰華君の部屋交換できないんですか?」

「無理ですね。麗華さまは部屋割りに不満ですかぁ?」

「不満にならない方が無理です」

「でも、本家の離れでも似たような部屋割りでしたよね?」

 確かに、藤森家の離れに用意された、麗華の部屋へ行くまでに陰の守護家の部屋の前を通るようになっていた。

「そうだけど」

「では、変わりはないと同じですよ~。さあ、麗華さまのお部屋の前に来ましたよ。開けてみてくださ~い」

 まだ納得はいかないが、麗華は祥子に言われた通りに部屋を開けてみた。まっすぐ目に入って来たのは、アンティーク調の勉強机と、棚。横を見ると、白い天蓋付きのベッドが目に入った。壁紙は落ち着いたクリーム色の花が書かれていた。

「可愛らしい部屋ですね」

「内装や欲しい物があったら何なりと言ってくださいね。部屋には洗面所とお風呂も付いています。こちらで~す」

 祥子は続き戸を開けて洗面所と風呂場を案内する。洗面所の隣にトイレがあり、その奥に風呂場があった。

「ちょっとした、ホテルみたいだね」

「気に入っていただけましたか? よかったです~」

 にっこりした祥子と目が合う。麗華は確かにいい部屋だと思うが、祥子が言っていた言葉が引っかかる。

「あの、でもやっぱり、彰華君と部屋割りを交換しほしいです」

「無理で~す」

 にっこりした祥子は断言する。

「そこを、なんとか……」

「無理で~す」

「彰華君にお願いしてみますね」

「無理ですってば。大体同じ華白館に住む以上、部屋割りに変わりはありませんよ~」

 祥子の言分に麗華は、戸にちらりと目をやる。

「部屋に、鍵付いていないようですが?」

「鍵なんて意味ない物は付いていません。気になるなら、扉に、『開けたら絶交』って紙でもかければいいんじゃないですかぁ?」

 祥子は自分のふわふわとしたツインテールに指を絡ませる。

「ずいぶん適当な感じですね」

「だって、私は、着替え中に開けちゃって『きゃ、着替え中! 開けないでよ!』って言うのを見たいですもの!」

「いやですよ。祥子さんは良いんですか?」

「私の部屋には鍵が付いていますからそんなへましませんよ」

「ずるい! 私の部屋にも付けてくださいよ! やってくれないなら自分で付けます」

「付けてもいいですが、どうせ壊されるもの付けても、無駄だと思いますよ」

 祥子の言葉に眉間に皺が寄る。

「壊すって断言されるほど、陰の守護家が信用されていないんですか?」

「違いますよ~。私が壊します」

「壊さないでくださいよ」

「掃除担当も私ですもん。トイレやバスの手入れ私の担当なので、勝手に鍵をかけられたら不便じゃないですかぁ」

「掃除ぐらい自分で出来ます」

「駄目です。麗華さまにそんなことさせられませんよ。させたら私のお小遣い止まっちゃいます。絶対やめてくださいねぇ」

「でも……」

 不服そうにする麗華に祥子は片方の頬を膨らませて首を傾け、腕を組む。それから、いいことを思いついたと顔を明るくさせる。

「では、麗華さまが納得するものを差し上げましょう。じゃじゃあぁん~」

 祥子は一度後ろを向いてから、麗華に向き直り手の上を広げた。手の上には、手の平ほど大きさで、兎の様なたれた耳と、ふわっとした狸のような尻尾を持ち、狩衣に似たような着物を着た藤森家を管理する式神が正座をしていた。

「それは、私の部屋の前に居た式神さん!? え、朝まで部屋の前にいましたよね!?」

「ふふふ、実は、これは岩本家から転入祝いのおくりもので~す」

 麗華が手を広げると、式神は麗華の手の平に移り、正座をして丁寧にお辞儀をする。麗華が藤森家の離れにいる時にこの式神は部屋の前に座っている役目だった。

「え? え? いいんですか!? だって、式神って岩本家のもので、藤森家に居るものじゃ?」

「麗華さまが飴玉をあげ続け丸々太ってしまって使い物にならなくなったので、藤森家に置けなくなってしまったんですよねぇ」

 麗華は藤森家にいる時に、この愛らしい姿の式神に毎日飴玉をあげていた。今まで見えて居なかった式神が見えることが嬉しくて、必要以上に飴玉をあげていた結果、他の部屋付の式神よりも体重がニ倍に膨れ上がってしまった。彰華にも怒られ、岩本家は怒っていると聞いていた。

「藤森家に置けなくなるほど、丸くしてしまったんですか……」

 申し訳ないと思うが、手の上にいる式神の愛らしさに頬が緩む。

「ん~。それも、ありますけど。ここだけの話、どうやらこの子、麗華さまを主と決めてしまったようで、私たちの声を聞かなくなったんですよね」

「そんなことがあるんですか?」

「ありますよ~。麗華さまの方が私たち岩本家の力より強いんですからね。麗華さまから懇意にされ、飴玉を下賜され続けたら、勘違いして付いていきたくなっちゃうんじゃないですか?」

 前に、彰華に式神の名前を言うと力が上書きされ、従わせることが出来るようになると言われたことを思い出した。式神の主の岩本家にはすぐにわかるし、自分の家のものを奪ったこととされるので、やらない様にと言われて居たのだ。


「それは、ごめんなさい」

「いいえぇ。これは転入祝いですからね。気にしないで受け取ってください。でも、この子の事を可愛がって上げてくださいね。文字通り、一生面倒見てあげてくださいよ」

「一生?」

「この子は、麗華さまから力をもらう事で生きていく事になるので、麗華さまに見捨てられると生きていけませんからねぇ」

「そうなんですか」

 手の上の式神はお辞儀をしたまま、動かない。微かに尻尾がいつもより下がっていて震えているように見えた。

「拒否してもいいですよぉ? 一生ついて回られるのは鬱陶しいですものねぇ」

「まさか! 私、一生懸命この子を可愛がります! これから一生宜しくね。式神君」

 お辞儀をしたままの式神がかばっと顔をあげて大きな瞳をくりっとさせ何度も頷く。

「可愛いなぁ」

 麗華は式神に夢中になり落ちない様にしながら指で式神の頭をなでる。


「この子を、戸の前に配置すれば、麗華さまが嫌がる人を入室できなくすることが出来ると思いますぅ」

「ありがとうございます!」

「いいんですよぉ。私、麗華さまが、陰の守護家と同じ部屋並びをものすっごく嫌がっているって言う、彼らを面白おかしくいじれるネタをもらいましたからぁ」

 にっこりと祥子は微笑み、ツインテールの髪を揺らした。




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