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神華  作者: 紫音
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一章 六十九話


 紅い花を胸に咲かせた麗華の胸元を登世子は、信じられずに暫く口を閉じたまま見つめていた。無意識に自分の胸元に登世子は手を当てる。胸元にある花と麗華の花が明らかに違う。麗華の花は本当にそこに咲いている。麗華が花を触ると花弁がくすぐったそうに揺れた。

 


「違うわ。違う! 嘘よ。作りモノよ! 幻術で私を惑わそうとしているのね!」

「そんな小賢しい真似、登世子さんには通用しないんでしょ?」

 登世子が先ほど言った言葉を利用し笑う。

「それに、幻術を私が使えるはずがない。勾玉を通す糸すら作れないんだから」

「あ、貴女じゃなくて、そうよ、そこの彼が使っているのよ!」

「優斗君が?」

 麗華の前で仰向けに倒れ血の気の失せた顔で、麗華の胸元を凝視している優斗を見る。麗華の視線に気が付いた優斗が麗華に何か言いたげな視線を送る。


 ――ごめん。あんなに否定したけど本当に優斗君の言う通りだったみたい。


 心の中で謝罪し、登世子に視線を戻す。

「どう見ても、優斗君が幻術を使える状態に見えないけど?」

「他の誰かが隠れているのよ!」

「誰かね。もしこの状況で隠れている様な誰かが居たら、その人の人格疑うよね。そして私は、完全に人間不信になるわ」

 登世子は自分の胸を押さえる。

「私は神華よ! 陰の神華が二人も居るはずない! 貴女が偽者よ!」

「登世子さんが偽者なんだよ。今まで、神華として生きてきたって言ったけど、全部騙されていたのね。お気の毒に」

「嘘よ!」

「特別な存在だってもてはやされたのに、ぜーんぶ騙されていたの。登世子さんがここにいる理由なんだっけ? あぁ。神華として蔑ろにされた事が許されなくて陽の神華を殺して、藤森家壊すんだっけ? でも唯の血族だったんだもの、当然の扱いを受けていたのよね」

「黙りなさい!」

「あれ? でも唯の血族って言うのも怪しいかもね。神華だって騙されて育ってきたなら、全部嘘で固められていたかもしれないもんね」

「私にはちゃんと蜜が流れている!」

「へー。そうなの。良かったね。血族ではあるみたいで。これで、藤森家と全くの無関係だったなんて言ったら、笑っちゃうよ」

「私が神華よ! そう認められてここにいるのよ!」

「誰が認めたの? 登世子さんが連れてきた人達?」

「藤森家当主よ! 私に平伏して藤森家に戻ってきた事を喜んでいたわ」

 藤森家当主である伯母、菊華の顔を思い浮かべ、麗華は不思議に思う。菊華は何故登世子を認めたのだろう。

 今まで、麗華に神華がする仕事をさせていたのは、菊華が、麗華を神華だと考えていたのだと思っていた。でも、登世子を神華だと認めたと言う事は、菊華は麗華を神華として扱っていたわけではなかったらしい。

桃華の娘だから勾玉廻りをさせていたのだろうか。いや。麗華に勾玉廻りをさせるように進言したのは彰華以外にいると思えない。初めから彰華は麗華が何者か分かっていたに決まっている。麗華の記憶にはないが、菫と共に記憶とたどった時に幼い麗華と彰華は会っていた。


「彰華君は? 陰の神華の対になる陽の神華である彰華君には認められたの?」

「……か、彼は性格が悪いのよ」

「それは認める。私も彰華君って性格悪いと思う。でも、彰華君には認められなかったんでしょ。偽者を認めるはずないものね」

 胸元の花を軽く触り笑うと、登世子は力を爆発させるように声を荒げる。

「違う! 私が神華なのよ!!」

「じゃあ、登世子さんの陰華を見せてよ。ほら、刺青じゃなく本物だって私に見せつけてよ」

 登世子は自分と違う花を咲かせている麗華を憎々しく睨む。自分が偽者だと思いたくないが、麗華の花と比べられると、登世子のモノは劣っていた。睨みつけられても自分が本物であると、自信に満ちた態度で麗華は余裕の笑みを浮かべる。

「どうしたの? 違う、違うって叫ぶぐらい素敵な陰華があるんでしょ? 見せてよ」


「……陰華は二つもいらないわ」

 登世子は刀を強く握り、麗華に向けて不気味な笑みを浮かべる。

「え?」

「そうよ。二つもいらない。なら余計な陰華を刈り採ればいい」

「自分が偽者だって認める事になるから比べるのが本当は恐いでしょ?」

「違うわ。私は危うく貴女の戯言に惑わされるところだったわ。どっちが本物なんて決まっている事を、比べるなんて馬鹿げている。貴女の言葉なんか聞かない。これから死ぬ人の戯言を聞いても時間の無駄だもの!」


 刀を簡単に振り回す危険な思想の持ち主が、麗華の言葉を簡単に認めてくれるとは思っていなかったけど、やっぱりこうなるか。

 麗華は登世子が刀を構えたのを見て、倒れている優斗を守るかの様に上からかぶさる。

「さっきまでの威勢はどうしたの? 指一本触れずに私を壊すんじゃなかったのかしら!」

 登世子が可笑しそうに笑う。麗華は優斗の耳元で小さく囁く。


「結界を解いて」

 結界を解けば、登世子の攻撃が麗華に直接当たる事になる。そんな事をこんな状況で出来る筈がない。優斗は声が出せないまま首を振る。

「いいから、私を信じて。合図送ったら、絶対に解いて」

 

「さぁ、死になさい!」

 登世子が刀を振りかざし、優斗の結界にぶつかり弾かれる。

麗華はゆっくりと体を起して登世子を見た。

「ねぇ、登世子さん。私の言葉は外れてないよ。だって貴女。もうすでに壊れているじゃない」

「だ、黙りなさい!」

 登世子が刀を振り上げた瞬間麗華は優斗の手を強く握り合図を送った。


 結界が解かれたと同時に、麗華は登世子の足に飛びついて登世子を床に押し倒した。

 足の怪我で走る事は出来なくても、飛び付く事は出来る。今まで結界の中で大人しくしていた麗華の意外な行動に対処が出来ず、登世子は激しく頭を床に叩きつけ、小さくうめく。麗華は素早く起き上がり登世子の顔を優斗にかぶさった時に拾った、菫の治療薬の缶で殴る。それから、刀を持っている手を缶で何度か強く叩く。指が潰され痛みで力が緩み、刀が廊下に転がる。

 死ねとまで言われた相手に、容赦など一切する気はおきなかった。

 転がった刀を拾い上げようと手をのばすが、長い麗華の髪を登世子は掴み、刀から離そうとした。麗華もそれに応戦し、登世子の髪を引っ張る。

「痛いじゃないのよ!!」

 麗華に殴られた頬が赤く腫れている。

「こっちだって痛いよ!」

「顔を殴るなんて絶対に許せない!」

「許して貰わなくて結構!」

 廊下で髪を引っ張り合いながら転がり合う。

「放しなさいよ!」

 登世子に頬を叩かれて、麗華はお返しに髪を引っ張りながら頭突きを喰らわす。お互いが軽く眩暈を起こしながらも、先に正気になった麗華は床に転がっていた刀を拾い上げて登世子の首元に当てる。激しいもみ合いで息が上がる。

「う、動かないで。……変な気も起さないで。少しでもそれらしい気配を感じたら、首を切る」

 脅しじゃない事を証明するように、首に刃を押しつける。刃を押しつけても血は流れないが、少し刃を引けば確実に血が流れるだろう。



 麗華に見下ろされ、登世子は彼女の胸に咲く花を見上げていた。

 登世子の胸にある赤い花とは違う、鮮やかに咲く赤い花。気高く咲き誇る花が、今までの登世子が信じていた唯一のモノを否定して嘲笑う。


「……大嫌い」

 花を見つめたまま、登世子が涙を流す。神華だと言われて育てられ、辛い修行にも耐えてきた。村を出て華守市に来るのは、本当は嫌だった。でも祖父や母を殺した藤森家に復讐する事を目的にここまで来た。彰華には藤森家が藤森家の血族を殺す事はないと否定された。

 唯一つの自分が特別だと思えた陰華さえ偽物なら、自分は麗華が言う様に騙されて育てられた。あの人が登世子にしか出来ない事が藤森家にあると、教えてくれた。それを信じていたのに、全てが嘘だった。

 知りたくなかった。そんな真実を教える麗華が嫌いだ。あのまま、あの人に殺されていた方がずっと幸せだった。

「……貴女なんて、大嫌い」



 ぼろぼろと泣き出した登世子を見て、麗華は居た堪れない気持ちになる。登世子がした事は許されないし、許せる気も起きない。なのに、何か心に引っかかる。

 その原因は恐らく、菫と同じ顔を持つ男の所為だ。父の兄が作ったとされる式神は神界の狭間に簡単に来られる力を持っていた。あの男の真の目的は父に関係する。父の犯したとされる罪に、登世子が巻き込まれた気がしてならないのだ。

「…………ごめん」

 口からぽろりと零れた言葉に、登世子に泣きながら睨みつけられた。

「貴女に謝られたくないわ!」

「……そうだね。その必要もないよね」

「貴女って本当に失礼だわ!」

「登世子さんには負けるよ」


 今ごろになって廊下の先から、人が走って来る。森の方からも人が来ている。

 勾玉廻りの時に羽織った着物と似たようなモノを羽織った彰華が見える。麗華が居なくなっていた間に彰華だけでも勾玉廻りの舞をするつもりでいた。藤森家の結界を正常にする事が何よりも優先されていたからだ。

 だが、舞いをする前に麗華の気配を読み取った彰華が、急遽舞いを切り上げ手駆け付けた。舞いを踊れば一日は寝込む事になるので、その前に麗華の無事を確保したかったのだ。

 彰華の前を真司が血相を変えて走っている。森からは、蓮、大輝、麻美が駆け付けている。

 傷を負っている者もいるが、皆無事なようで良かった。


 蓮の放つ術で登世子が拘束され、身動きが取れなくなった事を確認して麗華は登世子の上から体をどける。

 

「はぁ……。ホント疲れた……」

 廊下の壁に寄りかかり、全身の疲労と痛みに目を閉じて息を吐く。

 数人が麗華を呼ぶ声が聞こえたが、麗華はゆっくりと意識を手放した。





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