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神華  作者: 紫音
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一章 六十八話




 真司と男が戦っていた藤森家の廊下に、神界の狭間から戻ってきた麗華がまず初めに目にしたのは、血に濡れた刀を持って歩く登世子だった。

 父の事を考えていた麗華は、登世子が廊下で刀を持っている事に驚き反応が遅れた。登世子は男に刺されて、水谷家の人達に治療を受けていた。瀕死の状態だったのだから、ここにいるはずがない。

 声も出せないまま登世子の姿を凝視する。男に刺された事が生々しく残る赤黒く染まった腹部に、蒼白の顔。それなのに口元は笑っていた。

 状況が理解できないまま、登世子の動きを見る。

「…………立って動いて平気なの?」

 吐血するほど体が傷ついていたのは一時間程前だ。

「……えぇ。治療がきいたみたいよ」

 傷が治って良かったね。と言えるような状況に見えなかった。手に持っている血の滴る刀が気になる。

「何、しているか聞いてもいい?」

「これから、母屋に向かうのよ」

「何をしに?」

「陽の神華を斬ろうと思ってね」

 ふふふ。と刀を手に持ち笑う登世子は正気を失っている様に見えた。

「貴女は一体どこから湧いて来たの?」

「……ちょっと、ね」

 説明する事が難しいので言葉を濁す。それより、彰華を斬りに行こうとしていると言うのは、まだあの男が言っていた藤森家の血を流す事にこだわっているのだろうか。

 と、言う事は自分も危険なんじゃないだろうか。麗華は痛む足が動く方確かめる。走って逃げるのは難しそうだ。

「でも、本当に丁度いいわ。貴女、死んでくれる?」

 登世子は持っていた刀を振り上げ麗華に向かい刀を下ろした。身動きが取れず、登世子の刀で斬られる事を覚悟して目を瞑り、体を縮めた。

 鼓膜が割れそう高い音が響く。刀が麗華に当たる前に、別の何かに当たった音だ。前を見るといつの間にか麗華の前に障壁が出来ていた。だがその障壁も、登世子がもう一度刀を振りかざすと粉々に砕けて消えてしまう。

「貴女はいいわね。いつも誰かに守られて! 唯の血族が頭に乗るんじゃないわよ!」

 登世子が力を爆発させる様にかまいたちの様な真空の刃を振るう。廊下や壁が次々破壊され、崩れて行くが麗華の前にはまた現れた障壁によって守られていた。障壁が崩れると、また新しく現れ登世子の術から麗華を守る。誰がやっているのか、探す余裕は麗華にはなかった。目の前で繰り返される攻防戦に菫から貰った治療薬を握り、この状況をどうにかする方法はないか必死に考える。

「そうよ。貴女が悪いのよ。全部全部、貴女がいるせいよ!」

「……なに、言ってんの?」

「本当なら、今まで私達を殺そうとした事を後悔させて、反省させたら藤森家を私のモノにするはずだったのに。絶対服従のはずの守護家は、私に付かない。おかしいでしょ。私が! 陰の神華なのに! 貴女が私より先に、守護家を手なずけた所為よ! 血族だからと貴方に付く様な出来そこないの守護家なんてもうどうでもいいわ。藤森家も、もうどうでもいい!」

術で障壁が破壊し登世子は、躊躇なく刀の先を麗華の心臓一直線に突きだした。麗華は持っていた治療薬を盾に身構える。横から何かが出てきた。

時間の流れが遅くなったように感じる。

 麗華と刀の間を挟むようにして現れた焦げ茶色の髪の少年。

唯、唖然としていると、目の前にいた少年が人形の様に横に倒れて体を痙攣させた。登世子が引き抜いた刀には新鮮な赤い血が滴っていた。

自分が刺される代わりに、目の前の人が刺された。状況がやっと理解出来た麗華は倒れた人に寄り声をかける。

「ゆ、優斗君! 優斗君!」

 自分の代わりに刺されたのが、優斗だと分かり、麗華は血が溢れてくる場所を押さえて声をかける。先ほどまで障壁を作り守っていてくれたのは優斗だったのだ。

 血が止まらない。口を開こうとして吐血し、青ざめて行く優斗の顔を見て、何かしなければと思い持っていた菫の治療薬を塗る。それでも溢れてくる血が止まらない。

「なんで……どうしよう」

 何で優斗がここにいて麗華を庇い、倒れているのか。刀の前に現れるぐらいなら、刺そうとしている登世子に体当たりでもすれば、こんな事にならなかったのではないだろうか。守って貰ったのは分かっている。そのお陰で麗華はまだ生きているのだ。でも自分を盾にしてまで守ってほしくなかったと言う気持ちが強い。

 手で押さえても溢れてくる血に、出血死するんじゃないだろうかと言う恐怖が頭を過る。

「……邪魔ね」

 登世子がまるでごみを蹴るように優斗の足を蹴る。

「何すんのよ!」

 全身の血が沸騰した様に体が震えるほど激しい怒りを覚える。人を人とも思っていないその態度は許せない。

「私の遣る事を邪魔するからよ」

「ふざけたこと言わないで!」

 麗華が怒りにまかせて立ち上がろうとすると、優斗に手を掴まれた。

「優斗君?」

青ざめた優斗を見ると何か呟き術を完成させた。生ぬるい風が優斗と麗華の周りに吹き薄い膜の様な結界を作りだす。

「……じかん、かせぎにしか、ならない、けど」

 この結界の中で動かないようにと、優斗が麗華の手を掴んだまま放さない。

「そんな瀕死の状態で使った術がいつまで持つかしら」

 登世子が結界を破壊しようと刀を振り回す。薄い膜が攻撃を受ける度、結界を張った優斗にも衝撃が走り苦しそうに唸る。

「許せない」

 このままでは、優斗がいつまで持つか分からない。いつまでも優斗が作った結界に頼ってはいられない。この状況を打破する為には、どうするべきか。自分に出来る事を考えなければいけない。自分の使えない術を使う登世子に怯えている暇などない。

 刻一刻と死が迫っている優斗を助けたい。蒼白になり唸る優斗の手を握る。絶対死なせない。まだ、優斗には言いたい事もやりたい事もある。こんなところで、死なせたりしない。

確かこの先に母屋があるはず。水谷家が居るのだから治療をしてくれる。いや、でもあの刀に付いていた血は誰のモノなのだろう。陰の神華である登世子の治療に、水谷家の人間は総出で当たっていた。もしかして、登世子が持っている刀に付いている血は……彼女を治療した水谷家のモノじゃないだろうか。

 登世子が水谷家の人達を傷付けている想像をして、背筋が凍る。もしそれが現実なら、優斗を治療出来る人はいない。

 そんな考えを頭から振り払うように頭を振る。違う、病院がある。そう、現代医学がある。術になれて術以外ないと思うのは変だ。優斗は大丈夫。必ず助かる。混乱している頭を落ち着かせる様に、深呼吸をする。まず怒りにまかせて、無謀な事をしない様に落ち着け。

力は登世子に敵わない。なら、何が出来るだろう。胸の疼きが強くなるのを感じ、また軽く深呼吸する。菫が教えてくれた父の術を解く方法が今なら、多分出来る。真司に横抱きにされている時に、一度やってみた。すると予想道理、四つ目の宝箱があり中にはお豆腐ブルーの人形が入っていた。

 人形を手に入れる度に、父の術が確実に解けている。今まで感じる事の無かった男の気配が読み取れるようになっていた。攻撃の術が使えるようになれば、麗華も登世子に反撃出来るようになるはずだ。登世子が繰り出し続ける攻撃を一睨みする。大きく深呼吸して目をつぶる。結界に刀がぶつかる鈍い音を意識から排除する。

自分の奥深くにもぐる感覚は五回目だけあり上手くいく。五つ目の宝箱を発見して蓋を開けて、中に入っていたお豆腐レッドの人形を掴む。

 お豆腐レンジャーの五人目の人形だ。毎度見る夢に出てきたレンジャーの人形が揃った。


 母が作ったお豆腐レンジャーの人形。良くこの人形と一緒に寝ていた事を思い出して懐かしくなる。

 これで父がかけた封印がまた外れたはずだ。


 瞳を開けて今までと何が違うか、自分でもハッキリわかった。胸の疼きが無くなっていた。その代わり、胸に何か異物が埋まっている様な重い嫌な感じがある。触れると脈打つそれは、今までなかったモノだ。

 胸の異物の正体が、登世子に斬られた服の間から、ここに当然に在ったかのように覗いている。


あぁ。嫌だな……。


 でも、これは登世子と対抗できる唯一つの切り札になった。父の術を解けば、攻撃の術が使えるようになると思っていたけど、そんな気配は一切しない。だから、これを使う事にする。

 未だに、優斗の張った結界を壊そうと狂ったように攻撃を繰り返す登世子を見据えた。

 ギリギリと肉に響く足の痛みも消える事なく続いている。呪力や刀を使えない麗華は登世子とまともに戦えない。だから、今出来る最大で最低な暴力を使おうと思う。

 蒼白の顔の優斗が、目線で麗華を気にしている。優斗を安心させるためと言うより、自分が正気を保てるように彼の手を握る。


「ねぇ、登世子さん。貴女、自分が生まれてきた意味って考えた事ある?」

 唐突にそう聞くと、登世子は失笑する。

「そんな事は決まっているでしょう。私は神華なのよ。貴女程度とは、生まれてきたその瞬間から価値が違うの!」

「へー。すごいね」

 登世子が靴の底に付いたガムを見つけたような嫌そうな顔をする。

「貴女。馬鹿にするのもいい加減にしなさいよ」

「いや。本当にすごいなっと思って。私、自分が生まれてきた意味なんて今まで、これっぽっちも考えた事なかったしさ」

「そうでしょうね。貴女のその間抜けな顔がそんな事を考えるようには見えないもの」

「登世子さんは神華である事が生まれてきた意味なんだね」

「そうよ。そしてこれから、もう一人の神華を殺して私が藤森家を破壊してあげるの!」

 止めていた刀を、邪魔ものを排除しようと振りかざし始める。

「じゃあ、もし、登世子さんが神華じゃなくて唯の偽者だったらどうする?」

「そんなあり得ない話、考えるだけ時間の無駄よ!」

「そうかもね」

「さっきからぐだぐだと、こんな状況だと言うのに随分と余裕をきどってくれるわね」

「でも、そうじゃないかも知れないよ」

「くだらない! 貴女なんのつもり? 時間稼ぎでもしているつもりなの?」

「違うよ。これから、藤森家に奇襲をかけて、私の大切な人達を傷付けた事を、嫌って言うほど後悔させてあげようと思って」

登世子はあの男にいい様に扱われているだけだろうと言う事は分かっている。でもだからと言って、血の付いた刀を振り回し優斗を傷付けた事は絶対に許せない。優斗を掴む手に力が入る。

 麗華の焦げ茶色の瞳に睨まれて登世子は、おかしそうに笑い始めた。

「身動き一つ出来ない貴女がどうやるのかしら?」

「自分だけが特別だと勘違いしないで。登世子さんぐらいなら、指一本触れずに壊す事ぐらい私にも出来るよ」

「あら。今まで、結界の中で怯えていた癖に、面白いじゃない。なら、やってみなさいよ! ほら、早く!」

 麗華の挑発に登世子は完全に馬鹿にして簡単にのる。

「生まれてきた意味が神華だからって言ったよね。登世子さんは自分が本当に神華だと信じているんだもんね。笑っちゃうよね。本当は偽者なのに」

 登世子は麗華を見て笑う。

「馬鹿馬鹿しい。貴女は嘘をつく事で私を惑わそうとしているようだけど、そんな小賢しい真似私に通用すると思っているのね」

「嘘? 違うよ。本当の事を言っているの」

 麗華は斬られた服の胸元を広げるように裂く。

 胸の谷間には今まで存在していなかった、手のひら程の大きな紅い花が咲いていた。

「ねぇ。生まれてきた意味が否定されたら、登世子さんが生きている意味あるのかな?」

 胸に咲く花を撫でて、麗華は残酷に微笑んだ。


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