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神華  作者: 紫音
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一章 三十九話




 まだ、喉が痛く少し噎せる。体が重く感じて、呼吸が苦しいけれども、痛みの所為か頭の中は妙にはっきりしていた。

 優斗の言葉か頭の中に響いている。不満そうな顔の優斗を見ながら、冷静に考える。

 真琴に何時も助けるのが早いと言ったと言う事は、真琴も麗華を襲わせた犯人なのだ。

 もう少し様子を見ればいいのに。とも言っていた。つまり、麗華が瀕死の状態になるように仕向けて、何かを知ろうとした。


 何か。そんなの、優斗達が求めているものは一つしかない。

 麗華が神華であるか確かめる為に、わざと危険な目に遭わせて、危機的状況になった時の反応を見ていたのだ。


「……それで、何か分かったの?」

「分かったって?」

「私が、神華かどうか確かめていたんでしょう?」

「麗華さんは神華だよ。そうに決まっている」

「何で、言いきれるの?」

「麗華さんが華守市に来た時に、占いをした。その結果、麗華さんが神華だと示している。それに、試しに麗華さんを占った時に、幾つもある石から真っ先に陰の神華を示す石を取った」

「占い? 初めに取った石? そんなことで言いきれるの?」

 腹の底から言い表せない感情が湧きあがって来る。怒りとも悲しみとも違う。

「俺の占いは今まで外れた事が無い」

「それで? それで、私が神華だって言う証拠でも見つけられた? 真司は印に反応が在るって言っていたけれど、反応があったの?」

「…………ない」

「ない? 変ね。神華が溺れ死にしそうになっていても、救難信号を受け取る事も出来ないんだ。それで、良く『守護』家って言えるね」

「麗華さんの力が未熟なんだ。だから、印に反応が無い。生死関わる事が起きれば、力が覚醒すると思った」

「残念ね。力が覚醒するどころか、本当に死ぬところだったんだけど」

「ちゃんと、死なない様に見ていた」

「見ていた? ちゃんと見ていたって、何? 死ななきゃ、傷ついて苦しい思いして、恐い思いをしてもいいの?」

「どんな思いをしたとしても、それで、神華だと確信が持てれば構わない」

「構わない?」

 優斗の真剣な瞳は、偽りを言っている様子はない。本当に、どんなに酷い目に遭わせたとしても、神華が見つかればそれでいいのだ。

 じゃあ、私ってなんなの? 神華じゃなければ価値が無いって事?

 それも、瀕死な状態になっても力が覚醒しないのだから、本当に神華じゃないのだ。

 

 くすりと、笑みがこぼれると塞き止めていたものがあふれ出す様に笑う。

 真琴と優斗が怪訝に思う中、腹を抱えて笑う。


 今までの時間は何だったのだろう。優斗と親しくなれたと思ったのは勘違いで、神華だと思っていたから近付き様子を見ていただけだった。

 恐い思いをさせても、神華かどうか見極める為の必要な事といい、謝罪の気持ちも何もない。むしろ必要なことだと、力が覚醒しない麗華が悪いと言っている。


 こんな虚しい思いになったのは初めてだ。

 悲しくて、虚しくて、心は裏切られたと泣き叫んでいるのに、笑いが止まらない。

 感情の一部が壊れた様に笑う。


「ねぇ、次は崖から突き落としてみる? それとも、妖魔の巣窟にでも投げいれられるのかな?」

「もうそんなことしない。こんなこと続けても無意味だ」

 眉間に皺を寄せて真琴が言う。

「無意味じゃないかもよ? 今度崖から落としたら、覚醒するかもしれないよ。遣ってみればいいじゃない。どんな痛い思いや、苦しい思いをしたとしても、死なない程度には見ててくれるんでしょ?」

「遣らない。君を傷つけて、悪かった。俺達が間違っていた」

「悪かったなんて言ってほしいとも思わない。本当は悪いとも思っていないでしょ」

 真琴の謝罪を撥ねつけて冷たく言い放つ。

「初めからですか? 土屋家に行った時から、妖犬をけしかけたのは真琴さんと優斗君ですか? それとも、蓮さんや真司や彰華君も関係しているの?」

「あの時は俺達が妖犬に襲わせるようにした訳じゃない。いや、原因を渡したのは優斗だ。森には元々妖犬が居る。その妖犬や妖魔に襲われやすくなる呪詛のかけられたストラップを麗華さんに渡した。俺も賛同したから、襲わせたのと同じだ」

 今も携帯に付いている優斗からもらった、紅水晶のストラップ。可愛くて貰えた事を喜んでいたのに、それにそんな呪詛が掛っていたとは思いもしなかった。

 あのストラップに呪詛がかけられていたのなら、ストラップを見て穴があるからと術を掛けた彰華は気が付いていたはずだ。襲われたと言う事は、彰華が呪詛の効力を弱める呪いをした訳ではない。彰華までもが共犯なのだと思うと更に気が重くなる。

「じゃあ、本当に初めから、皆で私が神華かどうか試していたって事ですか。ここに居ない守護家も共犯なんでしょ?」

「真司と大輝は違う。大輝は元々話にならないし、真司は言うタイミングが合わなく言っていなかった。でも真司達だって、神華だとハッキリさせる為なら少し過激行動をとっても理解してくれる」

 真司と大輝は違うと聞いて、少しだけ気持ちが浮上する。でも、蓮は共犯なのだ。だから、土屋家の時に丁度良く助けに来てくれたのだろうか。最初から何から何まで仕組まれていたと言う事か。

「少し過激? 優斗君。一度、見えないモノに襲われてみなよ。何がなんだかわからないまま、足を喰われてみればいい。それがどれだけの恐怖か、自分で体感してから少し過激って言えばいい」

「じゃあ、麗華さんは陰の神華不在のまま過ごしてきた俺達の苦悩をもっと理解してからいいなよ」

「はぁ? 逆切れ? 陰の神華が居ない所為で、不憫な思いをしているって言うのは何度も言われなくても見てれば分かる。必死なんだろうけれど、私は違うんだよ。占いの結果なんて知らない。外れた事がないって? おめでとう。はじめて外れたわね」

 麗華は優斗に向かいゆったりと拍手した。優斗の表情が険しくなる。

「違っているはずがない。麗華さんは陰の神華だ!」

「神華って、藤森家の血筋だったら力も見えなくて、胸に華も咲いていない人を言うの? だったら、私も神華って言われても納得がいくわ」

「違う。でも、麗華さん以外に神華になりうる人はいない。それに陽の神華である彰華が麗華さんに神華の代役を遣らせてるなら認めているのと同じだ」

「彰華君が私は神華だって言ったの?」

「……言っていない。聞いてもはぐらかされてハッキリした事を言わなかった」

「じゃあ、違うんだよ。彰華君が何を思っているのかなんて知らない。からかってるだけかも知れないじゃない。何時も自分に負担がかかるから、丁度良く現れた無知な従妹を使ってるだけかもしれないじゃない」

「彰華がそんな事をするはずない」

「なんで言いきれるの。彰華君が考えている事、全部分かってる訳じゃないでしょ。実際、はぐらかした意味分かるの? 分からないじゃない」

「……そうだけど。でも、麗華さんは神華のはずなんだ」

「期待に添えなくて悪いと思うけれど、違うモノは違う。何度も、違うと言っているのに、何で分かろうとしないの? 認めたくないのかもしれないけれど、本当に違うじゃない。何度死にかけて瀕死の状態になっても、覚醒なんかしない」

「絶対覚醒するさ。やっと見つけたのに、やっと会えたと思ったのに、違ったなんてありえない!」

 優斗が必死なのは分かる。

 だからと言って今までしてきた事を許せるはずがない。

 いつだかどんなモノからも守ると言っておきながら傷つけていたのは自分じゃないか。


 神華じゃないと言い続けても優斗は認めないだろう。こんな状態で話していても無意味だ。濡れたままの身体が、夜風にあたり肌寒く感じる。

 麗華はポケットに入っていた携帯電話を取り出して、紅水晶のストラップを取って優斗に投げつける。

「私、帰る」

「麗華さん」

「ここに居ても仕方がないじゃない。神華じゃないんだもの、居る必要ないでしょ。明日にでも、伯母さまに話して自分の家に戻る。……伯母さまもグルなの?」

 神華じゃなければ必要ないと言っている様な所に居れるはずがない。この街に来た目的はすでに果たしている。休暇を楽しむ為に来たのに、体も心も傷を付けて帰る事になるとは思いもしなかった。

 これで、菊華も共犯だと言われたら、もう二度と藤森家に来ようと思わない。

「菊華さまも彰華にも何も話していない。これは俺達の独断行動だ」

 菊華も彰華にも話していないと言われて、少しほっとする。今朝、守ると言っていたのに、犯人を知っていて黙っていたとなれば許せなかった。

 でも、彰華に話していなかったとしても、彰華は気が付いていただろう。止めようとしなかった理由は分からない。彰華にも話を聞いてみなくてはいけない。

「そう」

 麗華は車から降りて、濡れた体のまま歩き始める。

「麗華さん、そのままで帰る気?」

「こんな風にしたのはそっちじゃないですか」

 真琴と優斗を睨みつけて、藤森家の方に向かって歩く。来た道は大体覚えている。車が無茶に走って草が倒れている所を歩いて元の道路まで戻る。

 後ろから、真琴と優斗が一定の距離を保ちながら付いてくる。

「藤森家に連絡入れたから、もう少しで迎えが来る。少しここに居よう。夜に歩くのは危ないよ」

「平気です。だって、私を襲った原因は真琴さん達でしょ。二人と居る方が危険じゃないんですか」

「もう何もしないさ」

 この状態でまだ何かするつもりでいるなら、二度と顔も見たくない。いま、何もしないと分かっていても、一緒に居たい気分じゃなかった。二人に対する不信感はそれだけ強い。車が数台通る中、偶然タクシーが通りかかる。麗華は合図を送りタクシーを止めた。

 真琴が止めようとするのを無視してタクシーに乗り込む。

「ちょっと、お客さんずぶ濡れじゃない。シート汚れるじゃないか」

 運転手の不機嫌そうな声。

「藤森家まで行ってください。藤森家の人が車内清掃代も支払います」

「藤森家! 藤森家の縁ある人だったとは失礼しました。すぐ向かいますね」

 運転手の態度変化が癇に障る。華守市の有名な資産家だから、こんなに態度が違うのか。


 走りだした車内で、真琴達の姿が見えなくなると今まで押さえていた涙があふれ出す。

 なんで、こんな事になったのだろう。

 神華。

 それは、人を傷つけ苦しめても探さなきゃいけないモノなのだろうか。

 初めから優斗に、仕組まれていた事が悲しい。優しく笑ってくれたのも、全て嘘だった。

 傷つけても平気だと断言される程度の存在だった。


 笑い合った時間は儚く崩れ去り、残ったのは虚しさと憤りだけ。




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