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神華  作者: 紫音
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一章 二十五話





 足元が白く光ったのは覚えているが、森にいたはずなのに目の前は何処かの屋敷に通じる様な木張りの廊下。左右の風景を見るが、濃い霧がかかっているせいでまわりは見えない。足元には先ほど浮かび上がっていたモノと同じ金子家の家紋が書かれてある。

 状況を理解するのが難しく、暑さで頭がおかしくでもなったのかと額に手を当てて目をつぶって軽く深呼吸をした。

「……うそだろ」

 隣から真司の悲嘆する声が聞こえ、一人じゃない事に少しホッとする。少なくとも暑さで頭がおかしくなった訳ではないようだ。

「一体何が起きたの? ここはどこ?」

「……僕も来た事が無い。恐らく、掛け軸の言葉に反応してこの場所に移動したんだと思う。あれはここに入る為の呪文だったってわけだ。訓練の洞窟はそういう作りになってる事が多いから」

「訓練の洞窟? どう見てもここ洞窟っぽくはないけど」

「作りは色々あるんだよ。岩肌の洞窟もあれば、鍾乳洞の様な所もあるし、広場の様な場所もある。呪文唱えて出入りが出来るけど、掛け軸の言葉が入る呪文なら出る呪文もあるはずだけど、そんなの知る訳ないよね。あぁ、もう最悪だ!」

「マジでそんな作りになってるの? 他に出る方法は?」

「あるけど、不可能に近いよ。この道を歩いて行って、出てくる訓練用の式神や妖魔を倒すのさ。最後まで行けば出口がある」

「……それって強いの?」

「たぶんものすごく強い。神技を継承する為の訓練の洞窟だから、普通の訓練の洞窟に居る様なモノとはケタが違うよ。それに、陰の神華が居ないから使えない技も色々あるし力も制限されてる。今まで誰も継承していない神技が、何の準備もなしに会得出来るほど容易い物の訳がない。あんたに分かるようゲームで例えると、初期レベルでいきなり最終ダンジョンに挑む様なものさ」

 真司は深くため息を吐く。

 真司の悲嘆した様子を見て、気軽に掛け軸の歌を詠んでしまった事を悔やんだ。まさかあれでこんな場所に飛んでくる事になるとは思いもしなかった。



真司は隣でこれからどうしようと悩んでいる、麗華を横目で見る。しかし何故、何も力の無いはずの麗華の言葉に反応してこんな場所に飛んでしまったのか。一般人が呪文を唱えても普通は反応しないはずだろう。藤森家の血筋だから反応したのだろうか。そういえばさっき、麗華にも印が光ったのが見えていた。全く力が無いなら見えないはずだ。

 一つの疑惑が浮上する。

 もしかして、麗華は


「ねぇ。あんたの胸見せてよ」

 真司が唐突に言う。普段の真司からは想像できない言葉だったので、麗華は幻聴だと思った。耳を軽く触り聞こえを確かめる。

「耳おかしくなったかなぁ」

「胸見せてって言ってんの。早く」

 仁王立ちで腕を組み顎でしゃくってせかす真司に、麗華は幻聴じゃなかった事を知りすっとんきょな声を上げた。

「はひぃいい? な、何言ってんの? 頭可笑しくなっちゃった?」

「僕の頭は正常だ。別に減るもんじゃないんだしいいだろ」

「減るよ、乙女としての何かは確実に減るよ! どうしたの急に」

「ちょっと確認したい事があるから。そんな大層なモノ持ってるわけじゃないんだから、もったいぶるなよ」

「もったいぶるとか、そういう次元の問題じゃないでしょ。本気で言ってんの?」

「さっさと見せればすぐ終わるだろ」

 手を伸ばしてきた真司から、麗華は身を守りながら後ろに逃げる。

「じょ、冗談じゃないよ。何で急に、胸見せろって言われて、見せなきゃいけないのよ! いま、そんな事やってる場合じゃないんじゃないの?」

「今だから、言ってんだよ。あんたさ、どうも、力がない訳じゃないっぽい。さっきの光も見えてたし、訓練所の扉を開けた事も普通の人には出来ないはずだ」

「それは、藤森家の血筋だからじゃないの? それと胸を見せるって関係ないでしょ」

 真司は指で麗華の胸元を指す。

「神華の胸には鮮やかな花が咲いている。刺青の様な作りものじゃなく、本物よりも鮮やかな花があるんだよ」

「……それは神華の話でしょ。私にはそんなモノ無いよ」

「あんたが神華じゃない事は分かってる。でも、僕が確認しておきたい」

 真司の真剣な眼差しに、麗華は動揺する。麗華は神華じゃないと分かっていながらも、少しの可能性にもすがりたい。そんな眼差した。

 出会って数日だから全てを知っている訳ではないけれど、少しは陰の神華が現れない、陰の守護家たちの苦悩がわかる。ハッキリと違うと分かってもらえれば、真司の気も済むだろう。

「わ。分かった。でも、私が自分で確認するよ。で、何か変化がったら教える。それでいいでしょ?」

「それじゃ、僕が確認できないじゃんか。もしかしたら、幻影の術でもかかっていて印が見えないのかもしれないだろ。印を合わせて確認しなきゃ」

「印を合わせるって?」

 真司は右手の手のひらを麗華に見せる。

「見える? ここに葉の様な印があるの」

 麗華は目を凝らして見るが、特に変わりのない手のひらにしか見えない。

「何もみえないよ」

「……ふーん」

「あ。そういえば、一番最初に会った森で優斗君も真司君も手のひら見てたよね。その印を見ていたの?」

「そう、この印と、こっちの腹にある印が神華なら反応するはずなんだ。右の手のひらに葉の印が陰の守護家の印で、左手が陽の守護家。こっちの腹にある印は家ごとに現れる場所が違うけどその家の術者の証し」

 真司がシャツをめくって腹を見せ、印を見せてくれる。これは麗華にも見えた。五百円玉程の痣で見ていると『金』と見えてくる。温泉で真琴の腕にもこんな痣があったのを見た。

「お腹のは私にも見えるよ」

「こっちは誰にでも見える」

「今は反応しているの?」

「していない」

「じゃあ、確認するまでもないんじゃないの?」

「確認して見なきゃ分からないだろ。ぐだぐだ、言ってないでさっさと胸見せればいいんだよ。とろいなぁ。何も上半身裸になれっていってるんじゃないだからさ。下着着てんだから、水着だとでも思えばいいじゃんか」

 軽く逆切れしている真司を叩きたくなる。人に肌を見せるのに抵抗ない女の子なんて普通いない。それなのに、事情があるからって酷い言い草だ。

「でも、見せるだけじゃないんでしょ? 合わせるって事は、胸に触れるんじゃん。変態」

 真琴とあった温泉の出来事を思い出し、少し顔が赤くなる。あの時も真琴は胸に触れて何か言っていた気がする。それを真司もやるのだと思うと、抵抗感が増してくる。


「こっちだって、好きでやる訳じゃないんだ!」

 うんざりした様子で真司が横に手を滑らせると、足が何かに掴まれている様な圧迫感を感じる。真司が痺れを切らして術を使ったのだ。麗華が驚いて、逃げようとするが束縛からは逃げられない。

「ぎゃー。変態。ばか。あほ。すけべ! 術を使うなんて反則だよ! 胸に触ったら、彰華君や伯母さまに真司君に乱暴されたって言いつけてやる!」

 やけになって麗華は叫ぶ。

「菊華さまは逆に喜ぶと思うけど?」

「なんで?」

「藤森家は短命が多いから血筋を絶やさない為に、若いうちに子孫を増やす事が望まれるから」

「え、ええええ! ちょっと、何で子孫って話まで飛ぶの!? 胸ちょっと触ったからって子供は出来ないでしょ!?」

「あんたが言いつけるって言うからだろ。僕だって、あんたとする気なんてこれっぽっちもないね」

 真司が吐き捨てるように言うので、麗華は心の底からホッとした。

「よ、よかった……。わかった。ちょっと我慢すればすぐ終わるんでしょ。なら、大人しくするから、術で拘束するのは止めてよ」

 麗華は腹をくくる。胸を少し触られるぐらい、ちょっと嫌だけど、かなり恥ずかしいけど、それで真司が考えている、ありえない可能性が否定されるなら耐えよう。真司が軽く手を振ると、足にあった圧迫感が無くなった。

「最初からそういえばいいんだよ。無駄な手間かけさせて」

「それ以上文句を言うなら、ダッシュで逃げるよ。私だって恥ずかしいんだからね!」

「……わかったよ」

 ため息交じりで真司が言う。麗華は今着ている服に手を当てる。Tシャツだから下から服を持ち上げないと胸が見えない。こんな事になるなら、タンクトップとか、ブラウス系の服を着てくるんだったと後悔する。

 真司の視線が胸に注がれていて恥ずかしくて手が震える。今真司と目が合えば恥ずかしさで、失神出来ると本気で思う。Tシャツを上げるたびに顔から火が出そうになるほど恥ずかしい。真司の顔が見えない様に必死で床を見た。

 真司はきっと神華かどうか確かめることしか、頭にないのだ。そう分かっていても、自分から人に肌を見せるという行為は泣きたくなるほど恥辱的だ。

 ゆっくり脱げばそれだけ、それだけ恥ずかしい。麗華はやけになってTシャツを一気に脱いだ。

 真司が軽く驚いてる音が聞こえるが、麗華は床を見ているので彼の表情は見えない。


 真司は麗華のしなやかな体を見て赤面した。真司もこんな近くで女性の胸を見たのは初めてだ。吸い寄せられるように麗華の滑らかな肌に触れたくなる。

 引き締まったウエストに触れて抱きしめたくなる衝動に駆られるが、もしそんな事をすれば麗華は一目散に逃げて行く。変態だと叫ばれるのは、真司も本意ではない。よこしまな気持ちを追いやる為に首を左右に大きく振る。ただ、確かめるだけだ。変なことではない。

 真司は右手を伸ばして麗華の胸元を触れる。

「……ぁっ」

 麗華が小さく息をもらす様な声を出す。その声に驚いて真司は手をひっこめた。

「変な声出すなよ!」

「だ、だって。真司君の手冷たいんだもの!」

 二人は赤面しながら怒鳴り合う。

「そのくらい我慢しろよ!」

「わかったわよ! さぁ、さっさと済ませて」

「黙ってじっとしてろよ!」

 気を取り直して、真司は麗華の胸元に手を当てた。柔らかくなじむ肌の感触の所為で鼓動が高鳴る。


「五星護契約の下、我願う。尊き華の加護があらんことを」


 麗華は目を固く瞑り、時間が過ぎるのを待つ。もう一度真司が同じ言葉を繰り返した。

 それでも変化はなく。真司がゆっくり手を胸元から離した。


「……違った」

 真司は期待が外れて悔しそうにつぶやき、麗華が脱ぎ捨てたTシャツを彼女に渡して後ろを向いた。



「……ごめん嫌な思いさせて……」

 受け取ったTシャツを着ている時、真司がかすかに聞こえるほどの声で小さく謝った。



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