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神華  作者: 紫音
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一章 二十四話




 麗華が神の字を読める事を秘密にする事は、主従関係にある藤森家に対する反逆行為。秘密にした事が知られれば、真司もただでは済まされない。


 これからの事を考えると頭が痛い。それなのに、目の前に居る麗華は真司の頭痛の種である事に気付きもせずに楽しそうに優斗と談笑していた。

 麗華たちは金子家の勾玉廻りが滞りなく無事に終わり、約束道理午前中には藤森家に帰って来た。昼食を済ませると、さっそく大輝を探しに行くと言う麗華に暇だそうだという理由で優斗と真司が護衛役に選ばれた。蓮と瑛子はまだ藤森家に戻ってきていない。大輝を含め三人の携帯電話にも繋がらない為、麗華たちは大輝と蓮が森に入って行ったという目撃情報をもとに、藤森家の森に入っていた。昨日、妖犬に襲われた麗華は森には居るのを嫌がったが優斗がなだめて森に入る。

 優斗が得意げに「もしも妖魔が出て来ても俺が守るから大丈夫だよ」と格好つけて言っていのを冷ややかな目で見る。元々優斗は攻撃系ではなく防御系の術が得意なのに良く言う。

 それにしても、優斗はなんで麗華に構うのか真司は不思議で為らなかった。元々人あたりのいい性格をしているが、世話好きと言うわけではない。菊華の姪だからという理由で世話を焼く必要も特にない。初めは優斗も麗華が陰の神華じゃないと知り距離を置こうとしていたはずなのに、態度を急変させて親しげにしているのは、何か思惑があるのだろうか。

 




 森の中を歩く事一時間弱。大輝たちが居そうな方を探していると、術を放つ音と大輝のモノと思われる悲鳴が聞こえてきた。恐らく蓮と戦闘中なのだろうと、麗華たちはすぐに察しが付いた。音のする方に向かおうとする麗華を制止し優斗が様子を見てくると告げる。

「一緒に行って何かあると大変だから、真司とここで待ってて。何が起きているか把握して向こうが落ち着いたら、電話して教えるから」

「それなら、優斗が残って僕が行くよ」

 自分と居るよりも楽しく話していた優斗が残った方が麗華もいいと思い少し気を使う。

「でも、大輝君と蓮さんがやり合ってるなら、優斗君が行った方がいいんじゃないの?」

「はぁ? なんで」

「優斗君の方が仲裁役に向いてそうだから」

「真司じゃ煽りそうだよね。じゃあ、ちょっと行ってくるよ」

 真司が文句を言う前に優斗が軽く手を振って走って行ってしまう。残された麗華は音のする方を不安そうに見つめていた。


「ねぇ、やっぱり私達も様子を見に行った方がいいんじゃない?」

 真司は麗華を見下すように見てまた馬鹿な事を言い出したと、大げさにため息を付く。

「二日前の事忘れたの? あんたがもし、戦闘の巻沿い食ったら大輝、今度こそやばいだろ。自己満で治めに行きたいのかもしれないけどさ、今の大輝があんたの言う事聞く訳ないじゃん。余計酷くなるって馬鹿でも分かるだろ」

「でも……」

「でも、自分の所為で起こった事だから自分で何とかしたいって? 一番良い解決方法教えてあげようか。あんたは何もしないで黙ってる事だよ」

 

 その方が巻き込まれる真司たちにはずっといい。このまま、普通に夏休みを何事もなく過ごせば、麗華は地元に戻り真司たちとの関わりも無くなる。両者にとって今まで通りの日常が戻ってくるのだ。

 どうせ居なくなるのだから、深入りする様な真似はしてほしくない。

 麗華は不服そうに眉を歪めて口を開くが、真司の言い分に思うところがあったのか何も言わずに口を閉じた。かわりに携帯を取り出して、優斗からの連絡がすぐにとれるように手に持った。

 

 優斗が大輝たちの所に着いたのか、戦闘音はぴたりと止んだ。麗華は連絡を待ってそわそわとして携帯に付いているストラップをいじる。

 紅水晶の付いたストラップ。見覚えのある物だが、妙な違和感がある。

「それ、優斗が作ったやつ?」

「え、あ。うん。もらったの」

 麗華は少し嬉しそうに紅水晶が三つ繋がったストラップを見せる。優斗が作ったのもなら何かしら御守りの効果があってもいいのだが、特に何も感じない。あの優斗が何の効果もない物を人に上げるとは思えない。

「なんでもらったの?」

 真司の質問に不思議そうに首をひねる。

「何でって。占いの結果があまり良くなかったから、御守りに貰ったの。水晶のストラップ持ってると運気が上がるんだって」

「ふーん。そんなにひどい結果だったわけ」

「う。そ、そりゃ結構悪かったけど。対処方も教わったし。大丈夫よ。うん」

 占い結果を思い出したくないと顔に書いてある。御守りを上げたくなるほど占いの結果が悪かったのか。優斗にしたら、悪い結果を占ってしまった罪悪感から術を施す前のストラップを渡したのかもしれない。


 森の中に何かの登場音の様な音楽が流れる。聞き覚えのある曲、確か幼稚園ごろにはやった戦隊モノだった気がする。


「はい、優斗君?」

 麗華が電話を取るのを見て、今流れた曲は着信メロディーだったのだと知り脱力する。今時そんな戦隊モノを着信メロディーに設定している奴はきっと麗華だけだ。

「うん、え、うん。そう。分かった。じゃあ行くね」

 携帯電話を切り真司の方を向く。

「話が付いたから、こっちにおいでって」

「じゃあ、行こう。てか、あんたの着メロ古すぎじゃない?」

「真司君これ何の曲かわかるの?」

 なぜか今まで見た事ないほど目を輝かせてすこし興奮気味に麗華が言う。

「なんだっけ、何とかレンジャーのだろ。高野豆腐イエローとかそんなの居なかったっけ?」

「そうそう! それよ! お豆腐レンジャー!! カッコいいよね! 神番組だよね!」

 興奮気味な麗華に真司は少し引く。

「……そこまで思い入れないけどさ、今そんなのどうでもいいじゃん。早く行くよ」

「そ、そうだね……。じゃあ、落ち着いたらさお豆腐レンジャートークしようよ!」

「嫌だ」

 谷底に突き落とされたような悲痛な顔をして、蚊の鳴くような声で「そうだよね」と呟きとぼとぼ歩き始めた。

 今朝の大輝とのやり取りの時よりはるかに沈んでいる。麗華にとって大輝よりお豆腐レンジャートークの方が重要なのか。

 自分がそう思われている訳じゃなく大輝の事だと分かっていても、同じ守護家の者が架空の人物よりも劣ると判断されているのは腹立たしい。


「あんたにとって僕たちってその程度なんだろうね」

「え? なに?」

 麗華が不思議そうに振り返り聞いてくるが無視して先を足早に行く。

「その程度って?」

 腑に落ちない麗華は、小走りで真司に追い付き隣に来てしつこく聞く。

「別に。どうでもいいし」

「どうでもよくないって顔してるじゃん。お豆腐レンジャー嫌いだったの? だったら話題に出して悪かったよ。あの番組好き嫌い激しく分かれるもんね」

「何とかレンジャーなんて、どうでもいいだって。大輝が気になるんじゃなかったの。どうでもいい無駄話なんかしてないで、早く大輝の所へ行くよ」

 早く歩こうとした真司の手を麗華が引っ張り静止させる。

「なにさ」

「ねぇ、真司君。勾玉廻りした後ぐらいからなんか様子が変だったけど、字が読める事を気にしてるなら、私は伯母さまに言ってもいいと思ってるよ。藤森家の事は今もよく分からないけど、それが何か重要な事なら主従関係のある真司君が隠すのは良くないんでしょ?」

 麗華に悩んでいた事を気づかれていた事には驚いたが、悩んでいる原因を軽く見すぎている事に腹が立った。麗華は何も分かっていない。麗華が神の字が読むことが出来ると知ったら、藤森家が彼女を手放すはずかないのだ。この町に居る気はあるかと聞いた時即答で、「遊ぶならいい」と答えるぐらいの軽い気持ちしか持っていない。

 もし分かったら本家に引き取られて、学校も生活も全て制限させる事になる。そして、他の一族から狙われない様にと行動制限がかけられてこの華守市以外自由に動けなくなるのだ。守護家の場合は修行などの理由で他の土地に行く事は許されているが、神華である彰華のようにこの土地から一切出られなくなる。

 今まで普通の人として生活してきた麗華に鳥かごに入れられるような生活は本意では無いはずだ。

「あんたが困る事になるから言ってやってんのに、人の気も知らないでのんきなこと言うなよ」

「心配してくれて有難う。でも、解読のお手伝いとかで役に立てるなら嬉しいよ」

「手伝いとかそういうレベルじゃない。あの時もこの町から出れなくなるって言ったよね。その米粒ほどの脳みそはちゃんと機能してる?」

「失礼な。ちゃんと動いてますよ。地元には帰らなきゃいけない理由があるから必ず戻るけど、頻繁にこの町に遊びに来ればいいんじゃないの?」

「僕が神の字が読めるって藤森家に伝えた時点で、他家からも狙われる事になるんだよ。あんたは掟とか全く知らないだろ。その上術も見えないし使えない。そういうバカはいいかもで、悪逆な他家の奴に捕まって死ぬまで監禁されるって落ち。そうならない様に、藤森家の目が届く範囲にあんたを置かなきゃいけなくなんの。それも、それなりに力のある奴があんたの護衛をしなきゃいけなくなってこっちも大迷惑。もしかしたら今みたいに陰の神華が居なくて暇だからって理由で、僕たち守護家が態々力のない愚鈍なあんたを護衛する事になるかもしれないだよ。考えるだけでぞっとするよ」

「……本当にそれだけで狙われる理由になるの?」

「さっきの金子家で話した説明聞いてた? 神の字が読めるのは限られた人だけなんだよ。利用価値なんていくらでもある」

「じゃあ、少なくとも愚鈍な人じゃないわけだね」

 上げ足を取る様な麗華の言葉に腹が立つ。

「あんたの場合は愚鈍な上に馬鹿で間抜けで愚図だろ」

「また言葉が増えた。……いや、でもね。そんな利用価値のあるのを黙っててもらうのはやっぱり気が引けるっていうか。真司君が秘密にしていたってばれたとき何か、制裁みたいなモノは無いの?」


 麗華の言う通り制裁はある。だが、麗華が黙って夏休みを終えて、この町から出て行けば麗華と真司だけの秘密に出来る。事はそう難しくないはずだ。

 真司の表情を読み取り麗華は渋い顔をする。

「私は、秘密にしてほしいって頼んでないよ」

「僕の平穏をあんたの所為で崩されたくないから、隠したいだけ」

「本当にいいの?」

「あんたがへましなきゃ、誰にもばれない」

「改めて、私からお願いしてもいい? 私は華守市にこれから何度も帰省すると思うけど、ここには住めないの。理由は機会があったら言うよ。この町に閉じ込められるのは困る。真司君や守護家の人たちに迷惑もかけたくない。だから、私が字を読める事やお父さんのちょっとした事情は秘密にしてほしいの」

「あんたの為じゃなく僕の平穏の為に、秘密は守るよ」

「ありがとう。私も、ばれないよう細心の注意をはらって気を付けるから。じゃあ、約束の指きりしよう」

 麗華が小指を立てて真司の方に向ける。

「はぁ? そんなことする必要あるの?」

「いいじゃない。約束事には付きもんでしょ。ほら」

 麗華は嫌がる真司の小指を掴み指きりの歌を歌って指を離した。

「これでもう二人だけの秘密だね」

 無邪気に笑う麗華に少し呆れるが、藤森家に対する反逆行為をしているというのに、気持ちは少し晴れた。

 恐らく麗華は失態して父親の事や字が読める事を他の人にばらしたりしないと確信できるからだろう。

 それが判るだけでも安心できる。


 気を取り直して大輝の居る場所に向かい歩く。生い茂る木々の根に足を取られない様に気を付けながら麗華は、思い出したぼんやりと思いだした掛け軸の言葉を詠む。

「それにしてもさ、『ゆらゆら、き しづしづ、つち ひらひら、みず ふあふあ、ひ きらきら、かね』って何か意味が――なにこれーーーー!?」

「!?」

 足元が淡く白く光っている。それも金子家の家紋が浮きあがっていた。これは金子家にある訓練の洞窟には居る入口にあるものとよく似ている。訓練の洞窟は呪文を唱えて印が浮かび上がりそのままそこに立つと、洞窟の中に移動する仕掛けになっていた。と言う事は、これはこのままここに居たら訓練の洞窟に飛ばされる。

 真司が麗華の腕を掴んで浮き上がる家紋から出ようとしたが、一瞬遅く二人の姿は森から跡形も消えさった。



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