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神華  作者: 紫音
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一章 二十話




 朝日が昇りカーテンの閉められていない部屋は眩い光で満ち溢れる。否応なく睡眠を妨げられ、大輝は目を開けた。目覚まし時計に手を伸ばしまだ朝の四時である事を知る。寝ているうちに足元に下がっていたタオルケットを手繰り寄せて頭にかぶりもう一度寝ようと思う。だが、日差しは予想以上に強く眠りに付けない。太陽に苛立ちながら、ベッドから起き上がりカーテンを乱暴に閉めた。

 一日中寝ていたので喉が渇いていた。二度寝する前に水を飲もうと思い食堂へ向かう事にした。


 何でここ最近、朝から嫌なモノを見つけるのだろう。


 縁側に座り昨日と同じように空を見ている麗華が居た。毎朝毎朝、麗華は一体何時に起きているのか鬱陶しく思う。昨日優斗に麗華に絡むなと注意されて、大輝自身も色々考えた結果少し様子を見ようと思った。力のない者が藤森家に居るのは気に入らないが、当主である菊華が許しているのだ。麗華が妙な行動を取らない限り大輝も行動を起こすのを止めた。

 だから、縁側に麗華が居ても素知らぬふりをして通り過ぎることにした。


「あ、大輝君。おはよう。傷はもう大丈夫?」

 無視して通ろうとしたが、麗華の方から話しかけてきた。大輝は視線を軽く麗華にやっただけで無視して歩く。

「昨日はありがとね。服は洗って貰ってるからちょっと待ってね。靴がね、片方なくなっちゃったんだよ。ホント借りておいて無くすとか最低だと思うけど、ホントごめんね」

 麗華が言っている意味が分からず無視するはずが足が止まる。

「はぁ?」

「ホント、ごめん。今日別の靴買ってくるから……」

「靴なんて貸してない」

「え? 昨日大輝君が寝てる時に起こして、無理にお願いして借りたじゃない」

 首を傾ける麗華に言われ昨日の事を思い起こしてみる。昨日は優斗からもらった薬湯を飲んでそのまま寝た。何度か起きた覚えがあるが麗華に会った覚えはない。

「もしかして、あの時寝ぼけてた? 目もあったし、話もしたよね? 部屋の中の好きなのを持ってけって、言ったよね?」

 昨日の事も、もう少し深く思い起こしてみる。そういえば昨日、優斗からもらった薬湯の副作用で麗華の幻覚を見た。かなり着崩れした長襦袢を着てありえない事を言っていた。普通ならありえない、服と靴を借りたいと言っていた。そう、言っていた。

 あれは幻覚じゃないのか。大輝に動揺が走る。じゃあ、髪が乱れ胸が肌蹴た姿をしていたのは自分の妄想ではなかったのだ。


「……大輝君?」

「い、ちょ、ちょっと待てよ。今、靴がどうとかいってたな」

「ごめんね、靴の片方なくなっちゃったんだ」

「お前、俺の靴勝手に持って行ったのか!」

「勝手って、大輝君が好きなの持って行って良いって言ったよね?」

「言ってねぇよ!」

 大輝は気がかりなことが出来たため、急いで自分の部屋に戻る。部屋の中には靴が数足置いてあるが、あれは普段履くものとコレクションしてある靴があるのだ。普段履く靴ならまだ許せるが、もしもコレクションとして飾ってある靴を無くされたとしたら一大事だ。


 走って部屋に戻って、コレクションの靴を確認する。そこで驚愕の事実を知る。一番大事にしていた靴がない。亡くなった有名バスケ選手が開発に携わった世界で限定百足しかない物だ。それも小学生の時に海外に行った際に買ったもので、バスケ選手にサインまでしてもらった思い出のあるものだった。

 苛立って近くにある机に蹴り入れる。

「くそっ!」

 大輝を追ってきた麗華が恐る恐る部屋の様子を覗く。もしかして、大事なモノだったのだろうかと、不安げな顔だ。

「大輝君、……あの、靴大事なものだった?」

 大輝は麗華を睨みつけ、大股で近づき胸倉をつかむ。小さく悲鳴を上げるが余計に腹が立った。

「なんで、あれを持って行ったんだよ! つーか人のモノ勝手に履くとかありえねぇだろ!」

「あの時は、急いでいたから。でも、大輝君にちゃんと確認して、良いって言ったじゃない」

「言ってねぇ! あれ、一番大事にしていたのに! くそっ!」

 麗華を突き放すように手を離し、近くに置いてあったごみ箱に八つ当たりの蹴りを入れる。

「ご、ごめんなさい。そんな大事なモノだって気が付かなくて……」

「ごめんで済んだら警察はいらねぇんだよ!」

「あ、あの、べ、弁償するよ」

「弁償してくれんのかよ。じゃあ、海外行って買ってこいよ、もう死んでるやつにサイン頼んでして貰えよ!」

 麗華もどういう物を無くしてしまったのか、分かったようで顔から血の気が引いていく。

「金にしたら三百万は価値のある物だったんだぞ! それを、無くした! ありえねぇ!」

 部屋中の物に当たり散らし部屋が悲惨になって行く。麗華は顔を青くしながらその光景を見ているしかできない。

「……弁償してくれるって言うなら、三百万、いや慰謝料含めて五百万持ってこいよ。それで、許してやるよ」

「ご、五百万。そんなお金持ってないよ」

「弁償するって言ったくせに嘘かよ!」

 また部屋の物に当たり散らす。


「どうしたの? こんな朝から騒いで」

 そこに現れたのは、寝間着姿の優斗だ。大輝の部屋が騒がしいので起きたようだ。その後ろに同じように起きて不機嫌そうな顔の真司が居る。

「うるさいよ。騒ぐなら、外でやってよ」

「お前らは関係ないだろ、出しゃばってくるなよ!」

 言うと部屋にある物に当たり散らす大輝。優斗が茫然と立っている麗華の肩に手を置いて様子を見るように顔を覗く。

「大丈夫? 大輝が暴れてるから、ちょっと下がろう。何があったの?」

「……ごひゃくまん……」

「え?」

 麗華はふらふらとよろめきながら、優斗に気が付いていない様子で部屋を出て行った。優斗と真司は互いに顔を見合わせて、何だったのか不思議に思う。


「大輝何があったのさ」

 真司が不機嫌そうに言う。

「うるせぇな、お前には関係ないだろ」

「じゃあ、別に何があったかなんてどうでもいいけどね。うるさいんだよ。声変わり前の甲高い声で騒いでさ、安眠妨害もいい加減にしろよ。優斗。こいつの怪我治す必要無かったんじゃないの。こんなうるさい馬鹿が居たら、迷惑なんだよ」

「あぁ?」

 大輝と真司が睨み合う。優斗が二人の間に入り仲裁をする。

「二人とも落ち着きなよ。ここでやったら藤森家に迷惑になる。喧嘩したいなら、道場に行きなよ」

「僕は冷静だ」

 真司は大輝から視線をずらして、大げさにため息をつく。

「大輝、少し落ち着きなよ。どうしたのさ、麗華さんに絡むの止めるよう言ったばっかりじゃないか」

「俺が悪いみたいに言うの止めろよ。悪いのは向こうだ! あいつが、勝手に人の物持ち出して無くしたんだ!」

「勝手に何を持ち出したの?」

「……俺の靴」

「靴ぐらいで騒いでたのかよ、別にいいじゃん。馬鹿馬鹿しい」

 あの靴は、ただの靴じゃないのだ。その価値を何も分かっていない真司の言葉に腹が立つ。

「大輝がコレクションしてた靴?」

 優斗の言葉に軽く頷く。優斗は納得したように、苦笑いする。

「それでこんなに荒れてたのか」

「もう、いいだろ。お前ら出てけよ!」

 大輝は、部屋にいた二人が鬱陶しくなり追い出した。

 部屋にひとり残った大輝はベッドの上に倒れ込み枕を殴る。大切にしていた物を勝手に持ち出し無くした罪は重い。

「あの、クソ女め!」



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