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神華  作者: 紫音
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一章 十九話



 麗華は真琴に運ばれる時、森に戻れるように地面に寝かされている時さりげなく目印を置いておいた。石の下に敷いていた目印の黄色い布を森の入口で発見し、黄色い布を取って蓮が走って行った方に向かって走り出す。この先に土屋家の管理する森があるはずだ。

 着物を着ていた時に比べて格段に走りやすく、体調も良好だ。この調子で走っていればすぐに麗華が最初に倒れた場所まですぐにたどり着けるだろう。

 麗華が看病されていた木の下にたどり着く。麗華が寝ていたせいで、草がつぶれた跡と、蓮たちが術をぶつけ合った跡がある。無事に戻ってこられたのは良いが、どちらに行けば、蓮たちに会えるだろう。真新しい土の抉れた場所でも見つければ手がかりになるかもしれない。森を見渡し、痕跡が残っていないか探してみるが見つからない。とにかく、探しまわるしかないと決めて、走り出そうとした時、草が揺れた。

 ざわりと、肌に何か気味の悪い感触が走る。

 草の動く方を見るが、そこには何もない。草のつぶれるかすかな音がゆっくりと麗華に近づいて来た。大型犬位の大きさの何かが居るように、ひざ丈ほどまで伸びていた野草が不自然に倒れる。

 発見した異変は一つではない。複数の見えない何かが近づいてきている気配を感じた。

 何かいるのは確かで、それが麗華に警戒しながら近づいてきているは分かる。初めて体験する、見えない気配に得体のしれない恐怖を覚え、無意識に足が後ろに下がる。蓮や兄二人が使う、見えない術も奇妙に感じ恐怖を覚える事もあるが、これは比べ物にならない。

 音もなくそれが、呼吸をするたびにかすかに生ぬるい風が麗華の肌を通り抜ける。鳥肌が立ち、震え始める腕を抱き締める。

 蓮や兄二人が使う式神か何かだろうか。一瞬そう思うが、どう考えてもこれは違う。麗華の身体が強張り、無意識に逃げるように体制が整っている。

 何が居るのだろう。この森に麗華の知らない生物が生息しているのだろうか。危険なモノが居るなら初めに説明しているはずだが、蓮や土屋家の人からは何も説明を受けていない。

 

 今、麗華がする事は決まっていた。麗華は、気配がしない方に向かい勢いよく走りだした。何が居るのか分からないが、その得体のしれない気味の悪いものから、全身全霊で逃げるように警戒音が出ていたからだ。


 走りだした、麗華を追って土が削れる音を立てながら複数の見えないモノが追ってくる。振り返る余裕は無い。とにかく必死に逃げなければ、なにか良くない事が起こる気がした。

「蓮さん! 蓮さん! 居ますか! 兄さんたちでもいいです! 誰か居ませんか!!」

 走りながら麗華は悲鳴のような声で叫んだ。どう考えても見えない何かと戦うのは無理で、追ってくるモノを追い払えるのは、術を使える彼らだ。鬼ごっこが終わっていなく、まだ彼らがこの森に居る事を祈りながら叫ぶ。

「マジで! なにか追ってきてるんですけど!! なんですかコレ!」

 叫んで走りながら、蓮と一緒に仕掛けた罠を探した。見えない麗華のために目印を付けてある。力の無い麗華では発動出来ないが、罠に異変があると分かると言っていた。

 どんどん距離を狭めてくる土の削れる音から必死で逃げる。追いつかれる恐怖で、頭がおかしくなりそうになるのを必死で耐えた。一つの目印を発見して、走りながら落ちている枝を拾い、目印向けて投げた。成功したかは分からない。でも、やらないよりはましだ。


「誰か!」


 叫びながら、ふと頭の中に最近よく見る夢を思いだした。

 この町に来てベンチで寝てしまったときから、ずっと見るあの夢。祭壇に置いてあるステーキを守りながら、狼や禿鷹から逃げる夢。必死に誰かに助けを求めても、来るのは役に立たない『お豆腐レンジャー』で結局大切なモノは自分だけで、守るしかないと思い知らされるあの夢。でも力及ばず、いつもステーキを盗られ喰われてしまうあの夢。

 夢が現実になる。

 冗談じゃない。夢なら喰われるのはステーキでも、現実では麗華自身。

「私を食べたって、美味しくないわよぉ!」

 泣きそうになって叫ぶ。

 木の根に躓いて転びそうになるのを木に捕まり耐えた。すぐ振り返り、追ってくるモノを見ると、麗華に風が追いかぶさるように吹く。咄嗟に足をあげてそれを蹴ろうとした。靴が口の間に挟まったような感覚があり、靴が牙を貫通させる前に反射的に足を引いた。大きい靴のためすんなり外れ、まるで紙屑が丸まる様に潰れて麗華の目に映らなくなった。

 明らかに獰猛な何かが目の前に居るのだ。そう分かると、余計に心臓をえぐるような恐怖が麗華を襲う。

 上がりきった息に、前は獰猛な何か、左右を取り囲む気配もあり、後ろは木。逃げ場はもうどこにもない。


 私、喰われる。

 また、喰われるんだ。


 恐怖と絶望と諦念が頭を駆け巡り無意識に胸に手を当てた。

――ここに居ても誰も助けに来ない。盗られるぐらいなら、時期が早くてもあの場所に持って行こう


 麗華が無意識に何かをしようとした。その時、足元が地響きとともに割れて、寄りかかっていた木ごと地面が上がって行く。

「大丈夫か?」

 木の後ろから声がして振り返ると蓮が居た。麗華が言葉なく頷くと蓮は上がって行く地面から躊躇なく飛び降りた。

今まで居た地面より二階建ての建物ぐらいの高さで止まった。下を恐る恐る覗くと蓮が見えない何かと戦っているのが見えた。

 蓮が助けに来てくれたのだ。麗華は安心して力が抜けてその場に崩れるように座り込んだ。


 しばらくすると、決着が付いたようで麗華のいた地面が元の場所に下がって行く。少し破れた服を着た蓮が、座り込んだ麗華の前に膝を付き心配そうにのぞきこむ。

「怪我はないか?」

「は、い。大丈夫、です。蓮さんは怪我は?」

「無い。それより、何があった。何故、普段おとなしい妖犬に襲われていた」

「分かりません。何かが追いかけてきたから逃げたんです」

「そうか」

「あれ、何なんですか? 妖犬って?」

「この森に居る妖魔の一種だ。普段は森の奥に潜んでいて、この辺まで来ることは無いはずだが」

「この森に、妖魔っているんですか? ならなんで最初に言ってくれないんです。知ってたら、鬼ごっこの舞台に選びませんでした」

「普段は大人しい、それに此方が仕掛けない限り襲って来ない。見えないなら尚更教える必要もないと思った」

「大人しいって、言いますけどあれ、もの凄く凶暴で恐かったですよ! 見えなくても何があるか教えてくれないと対処出来ないじゃないですか!」

「すまない」

 本当なら助けてくれた事にお礼を言わなければいけなかったのに、恐かった反動で蓮に八つ当たりしてしまった。妖犬に襲われたのは蓮だけが悪いわけではないけれど、本当に怖くていまだに手が震えている。だから素直にお礼を言えるまで回復するのに少し時間が必要だ。

「ところで、何故ここにいる」

「体調が良くなったので、鬼ごっこの結果が気になってきちゃいました。あの二人捕まえられました?」

「……いや、まだだ」

「そうですか。今何時ですか?」

 蓮は携帯を取り出して時間を見る。時間は四時半。残り三十分を切っていた。

「もう時間がないですね。手っ取り早くあの作戦を実行しましょう」

「休んでいなくていいのか」

「大丈夫です」

「お前の大丈夫は信用できないな」

 いまだに震えの止まらない手を蓮が掴む。驚いて肩が跳ね上がる。

「さっきも、お前が倒れるまで具合が悪いのに気が付いてやれなかった」

「あ、あれ以上足手まといになるのが情けなくて、具合悪い事必死で隠してましたから」

「今もか?」

「い、今は違いますよ。ホントに」

「手の震えが止まらないようだが」

「これは、武者震いです。早くあの兄二人を捕まえたくて奮えたっているんです」

 眼鏡越しに蓮の目が呆れているのが見える。蓮は無言で立ち上がり、麗華にも立つように手を差し伸べる。手を取って立ち上がるが情けない事に足が少し震えていた。

「無理はするな。と言いたいが、あの作戦はお前が居ないと意味がないからな。後少しだけ、俺に協力してくれ。さっきのような危険な目には遭わせないと約束する」

「もちろんです。当初の目的どおり、華麗に勝負をつけちゃいましょう」

 真剣な眼差しの蓮ににっこりと微笑み返した。





 蓮から幾度も逃げとおした兄二人は、残り十分を切り余裕の笑みを見せる。あれだけ啖呵を切っていた麗華は日射病になり藤森家に帰ったらしい。案外手ごたえ無かったなと、二人で笑いあっていた。

 そこに、最後の悪あがきに蓮が姿を現した。先ほど会った時より服が少し破れ、汚れている。その事を馬鹿にしながら、泣いて許しを請うなら勾玉を返してあげてもいいと笑う。もちろん、あの矜持の高い蓮がそんなこと言わないと分かっているから言っているのだ。

 蓮は兄二人の会話を無視して、結界と煙幕を発動させた。土屋家の得意とする、土を使う結界。地面が盛り上がり、逃げ場を遮断する。前もって仕掛けてあったようで次々と発動していく。それと同時に視界を封じる煙幕の術。土埃の様なモノがあたりを埋め尽くし、兄二人と蓮の視界が完全に見えなくなる。

 兄二人は別々に逃げる事になり、視界の悪い中蓮の結界に捕まることの無いよう逃げるのは至難の業だが、蓮もそれは同じはず。お互いの姿が見えなければ捕まえる事は出来ない。

 そんな時。急に後ろから柔らかい何かが体当たりのように抱きついてきた。

「つかまえた!!」

 勢い余って地面に二人で倒れる。抱きついてきた者が上にまたがり、うつ伏せ状態で押さえつけられる。蓮ではない。柔らかい感じはどう考えても女。そして鬼ごっこを提案した麗華の声だ。日射病になって倒れなのでは無かったのか。

 なぜ、この視界の悪い中、勾玉を持っている方を正確に捕まえる事が出来たのか。

「捕まえた、勝負は決まりね! 私達の勝利!」

 蓮が術を解き視界が徐々に晴れていく。うつ伏せに倒れた兄の上を足で踏みつけて、嬉しそうにとび跳ねながら蓮の方に駆け寄る麗華の後ろ姿を驚いてみる。着物を着ていたはずが、男物の服を着ている。それに片足は靴を履いていない。手にはいつの間に取られたのか、勾玉の入った箱がある。

「蓮さん、蓮さん! やりましたよ!」

「よくやった」

 喜びながらハイタッチする二人を起き上がり憎々しげに見る。

「くそ、なんでだ」

 麗華は勾玉の入った箱を振ってにっこり笑う。

「だって、私には術は見えませんもん。だから術の煙幕なら私だけ関係なく貴方方を捕まえられるって思ったんです。結界は逃げ場をなくすため、始めから蓮さんと綿密に計画していたので、結界の場所には目印が付いていました。で、ぶつかることなく、捕まえられた。どっちが勾玉持っているかは、箱を落とした時にこの黄色い布を抜いておいたので、分かったんです。本当はあのまま、勾玉を盗ってもよかったんですが、それじゃ後で問題かなっと思ったので布だけにしといたんですよ」

「なんで布をとっただけでそれで分かるんだ」

「あれ、気が付きません? この箱、淡く光っているの。祠で見たときも、戸が閉まっていても光っていたのに、箱に入ってる布をかぶせると光が遮断されたんです。この布が凄い布なんですね」

 蓮や兄二人が不思議そうに箱を見ている。

「確かに祠では光っていたが、この箱からは光は漏れていないが」

「え、そうですか。こんなに綺麗に淡く光っているのに……。あ。じゃあ、これはきっと藤森家の血ってやつですよ。彰華君も私見ただけですぐに勾玉持っていないって気が付きました。それに似た感じで、私もきっと勾玉に反応しているんですね! わぁ、凄い本当にそんな事ってあるんだ!」

 自分で言って自分で興奮する麗華を、蓮と兄二人は麗華の考えとは別の思い当たる事を考えていたが口には出さなかった。そんなはず無いと、分かりきっている事だから。


「でも、箱を落とした時に布を取るような仕草してなかったじゃんか」

「もちろん、分かるようになんてしませんよ。私の憧れるお豆腐ブルーはスリ師ですからね。幼いころから真似して、スリの腕は完璧ですよ」

 麗華以外の三人は信じられないモノを見るように見る。

「お、お豆腐ブルー?」

「あれ、知りませんか? あの数々の伝説を残したお豆腐レンジャーっていう戦隊モノの番組。子供に見せたい番組一位と、子供に見せなくない番組一位を取った伝説的戦隊モノですよ」

「昔やっていたのは知っているが……」

「ですよね、知ってますよね! あの番組は神番組ですよね! 誰好きでした? 私は――」

 麗華が興奮しながら止めどなく、お豆腐レンジャーの話を始めようとしていたので呆れた蓮がそれを止めた。

「今はその話はいい」

「そ、そうでした。えっと、とにかく。これで私達が貴方方を捕またと言う事で、勾玉は返してもらいました。それと、約束は守ってくださいね」

 兄二人は悔しそうにしていたが頷いた。


 蓮と麗華は土屋家に戻り、時間がかかったが勾玉廻りをちゃんとしてきたと報告した。



 もちろん、麗華の格好や日射病になった事を、連絡を受けて知っていた彰華が、何も言わないはずがなく麗華と蓮は彰華にみっちり怒られた。

 藤森家に帰り、着替えてから勾玉を彰華と麗華二人で渡した際、菊華は終始ご機嫌だった。これで土屋家も少し落ち着くでしょうと上品に笑う。

 彰華は何も報告していないのにも拘らず、菊華には全部何があったか知られている気がして少し恐い思いをした。

 治療中抜け出した事を真琴からも厳しく叱られた。いつもの、女口調が抜けて真面目に怒られたのでかなりこたえた。

 


「あ、蓮さん!」

 夕食を食べ終わり少し経った頃、麗華は裁縫道具を持って蓮を探していた。ちょうど廊下を歩いていた蓮を発見して声をかける。

「蓮さんのシャツあの時、破れちゃいましたよね。縫って直そうかと思いまして、裁縫道具借りたんです」

「直さなくていい。もう着れないから捨てようと思っていた」

 麗華は派手に驚く。物を大事に長く使うようしつけられた麗華にとって信じがたい言葉だ。

「何言ってんですか! 捨てるなんてもったいない。あの程度なら、すぐに直せて元通り着れますよ! 今すぐ持ってきてください。ここで待ってますから」

 麗華は縁側に座り、月明かりのしたで裁縫道具開いて準備を始める。なおも断ろうとする、蓮に持ってくるよう追い立て、破れたシャツを持って来させた。持ってきたシャツを受け取り、縫い始める。小さいころから、いろんなものを縫って直したり作ったりしていた麗華は、月明かりの薄暗い中器用に縫い上げていく。その腕に感心しながら蓮は麗華を見た。

「今日、一日大変でしたね」

 蓮の視線に気が付いて、麗華が苦笑いする。

「……そうだな、そういえばこれ返していなかった」

「あ、蓮さんが持っていたんですね」

 蓮は麗華の通行手形の御守りを使っていた。麗華は受け取ってしまう。蓮は御守りなしでどうやって結界を抜けてきたのか不思議に思う。

「あの二人は結局、私達を試していたみたいでしたね」

「あぁ」

「あ、蓮さんも気が付いていました?」

 なんで、土屋家の評価を落とすような行動をしたのか不思議だったが、答えは簡単だ。突然降ってわいたように現れた、桃華の娘がどんな人物か知りたかったのだ。藤森家の血族として、認めるに値する人物なのかどうかを試した。五つある守護家のうち初めに訪問する事になった土屋家が、その見極めを任されたのだろう。

 結果どう判断されたかは分からない。でも、菊華のご機嫌だった様子から、悪いように取られはしなかったのだろう。

 試されるような事をされて腹が立つが、試したくなるその気持ちもわかるので何も言えない。麗華の想像を超える旧家には、少しだけ垣間見たモノよりも、もっともっと格式高く厳格なモノがあるのだろう。

 その一員に急に入りこむのは、無理が生じ反発も呼ぶ。それを、防ぐには藤森家の力だけではなく、麗華自身がしっかりして基盤を作って行く事が大事なのだ。


「でも、よかったですね。これできっと、前より過ごしやすくなった筈ですよ」

 麗華は何より、蓮の兄がこれで蓮に絡まなくなる事が嬉しかった。藤森家に来てからの一番の手柄だと自分の中では満足している。

「俺は養子なんだ」

「へ?」

 突然告げられた、予想外の事に間抜けな声が出た。私生児の間違えじゃと、失礼な事を言いそうになる。

「土屋家本家の遠縁の遠縁で、戸籍で言ったらただの他人と言えるぐらい離れている。本来ならこんなことは無いそうだ。よほど、土屋家本家の男は使えないから陰の神華に守護家として選ばれなかったのだろうと、他の家が陰口を言ったらしい。守護家に選ばれれば必ず各家の本家籍に置かれることになる。俺を引き取らざるを得なかったが、自分たちの汚点を見せつけられるようで苦痛だったのだろう」

「だから、あの二人あんな感じだったんですね」

「俺自身、何故、あの二人や他の本家の者じゃなく、俺が守護家に選ばれたのか分からない。ただの偶然で選ばれたのなら、本家の者に悪い気がした」

 他の四家が土屋家本家の男を不甲斐無いと、陰湿な事を言ったりやったりしていた。そういうのを見ると、自分が選ばれなければよかったのにと思う事がある。だから、たとえ嫌味を言われたり、物が燃やされたりしても、気にしないようにした。それぐらいの事、彼らの気が晴らせるなら安いものだ。

 土屋家本家も、言われた分やり返す性格らしく得意の工業で力を付け金銭的に他の家に逆襲をしているようだが、それはまた別の話だ。


「偶然じゃなくて、蓮さんだから選ばれたんですよ。きっと。神華が守護家を選ぶとか良く分かりませんが、土屋家の遠縁から蓮さんを見つけ出した意味があるんだと思います。私も、あの二人より、蓮さんの方がいいですもん。具合が悪かった私の事気にかけてくれる、やさしいところあるし。まだ、少ししか分からないけど、私の知らない蓮さんのいいところ、いっぱいあって、だから選らばれたんですよ。他の誰より、蓮さんがよかったんですね。私も、そういうところ、いっぱい見つけられたらいいなぁ。なので、気に負う事なんて全くないです。自信持って良いと思います」

 にっこり笑う麗華に、蓮は眼鏡のずれを正して静かに言う。

「……お前変な奴だな」

「なんですかそれ!」

「いや、褒め言葉だ」

 何か吹っ切れたように笑う蓮の肩を麗華は軽く叩く。

「それ、女の子に言う、褒め言葉じゃないですからね」

「そうか」

「そうですよ」

 麗華は縫い終わった、シャツを畳み蓮に渡す。改まって蓮を見る。

「今日は色々助けてくれてありがとうございました。本当は何かもっと良いお礼の品とかあげた方がいいんだけど、手持ちが無くて、シャツを直したのは、本当は私の自己満なんです。でも、ちゃんと綺麗に直したのでまた着れますよ」

「礼など良かったのに……。俺こそ、今日は助かった有難う」

「えへへへ。どういたしまして」

 今朝はあんなに、話しかけるなオーラを発し、麗華の事を避けていた蓮の口から、お礼を言われると思っていなかったので、嬉しくてにやけてしまう。


「やはり変な奴だ」

 麗華のにやけ顔をみて、蓮は眼鏡を正して静かにそう表した。


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