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神華  作者: 紫音
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一章 十話




 藤森家に到着すると、すぐに部屋に案内され傷の手当てを受けることになった。傷の手当てをしてくれるのは真琴だ。真司がまいたハンカチを取るとまた血が少し流れてきた。五センチほど切れていたが、皮膚だけが切れたようで切り傷は浅かった。


 藤森家の物が外で血を流すことは守護家にとっては大問題だった。護衛対象が負傷するのは許されないことだが、それ以上に血の匂いに釣られ妖魔が集る恐れがあるからだ。最も狙われる確率が高いのが神華なのだ。麗華の藤森家の血が薄いせいか、妖魔がざわついた気配は今のところ感じ取らないが、陽の神華である彰華に何かあったら大事だ。

 麗華の傷の知らせを受けて、彰華たちも藤森家に至急戻るように連絡を入れてある。藤森家の門に施された強力な結界があれば、妖魔も簡単には神華に手を出せない。

 陰の守護家頭を務めている真琴は、ほかの守護家を教育する立場にある。大輝の不祥事の所為で今夜中は、グチグチと守護家女子陣から責められる事を憂いながら、真琴は麗華の腕の傷を見る。

「そんなに、深くなくてよかったわね。このくらいならすぐ治りそうだわ」

「そうですか、よかったです」

 微妙にぎくしゃくしてしまうのは、真琴と二人という状況とあの風呂の一件があった所為だ。藤森家に着いた時は真司がそばにいたが、真琴が手当てをするとこになり案内されているうちにいつの間にか居なくなっていた。

 風呂場の一件を根に持っているわけではないが、正直対応に困る。真琴はまるであの出来事は無かったように振舞っていた。麗華もあの一件を記憶の底に封印したかった。だが、目の前に居るこのどっからどう見ても綺麗な女性が、男性だという衝撃的事実が頭の中から離れない。何より、真琴を見るたびに風呂場で、見てしまったモノが頭の中を過り麗華を悩ませていた。

 頭の中で、忘れろと何度も何度も呪文のように唱え、気持ちを落ち着かせるのが精いっぱいだ。


「それじゃあ、消毒するわね。少ししみるかもしれなけど、我慢してちょうだい」

「あ、はい」

 麗華の腕を掴んで、傷口に顔を近づけ始めた真琴に嫌な予感が脳裏を駆け巡りその行動を慌てて止めた。

「ちょっと、待ってください。な、何しようとしたんですか?」

「消毒よ。このくらいなら、なめときゃ治るわよ」

「いやいやいや。そんな、子供が転んでできた擦り傷のような言い分ないと思いますよ。普通に、その横に置いてある消毒液をつけて、絆創膏を貼りましょうよ」

「あら、近年の治療法はこのくらいなら、消毒液を使うと細胞も殺してしまうからって使わないのが一般的なのよ。絆創膏もこの治りが早くなるっていうのを使うから安心して」

「で、でもですね。どんな傷でも流水で傷口を洗ってからって聞いたことがありますよ。舐めるってちょっと……」

 ふと、風呂場の出来事が頭を過る。あの時麗華の背中にあった古傷を舐めていた。真琴にはそういう傾向があるのだろうかと、かなり不安になってくる。

「イヤ?」

 真琴がかわいらしく首を傾け、さらりと肩にかかる細く滑らかな長い黒髪が艶やかに見え、麗華はどきりとする。どうして、この人が男性なのだろうと脈打つ心臓を抑えながら、心底不思議に思う。

「……無理です。それなら、自分で手当てした方が……」

 どんなに、心臓が主張していても、真琴の願いは聞けない。人に身体を舐められると考えるだけで、背中がぞわぞわする。絶対嫌だった。

「そう、残念ね。味見してみたかったのだけれど……まぁいいわ」

 味見ってなんだろうと、不思議に思うが、真琴はただ少しからかっただけなのかもしれない。その後すぐに、ちゃんとした手当てをしてくれた。

 町に行ったのに、なんで何も買って来なかったのかと聞かれたので、午前中の出来事を簡単に話す。

「それじゃあ、今日町に行った意味がないじゃないの」

「私にとっては、何より重要なことでしたから。で、今からまた行きたいのですが……」

「駄目よ。血はもう止まっているでしょうけど、今日一日は大人しく藤森家に居てもらうわ」

 予想していた言葉が返ってきて少し肩を落とす。無理に出かけようとしても、不思議な力を持つ彼らにはすぐに見つかってしまって、出かけられないだろう。

 これで、写真も本当に見つからなくなってしまうのだ。


「適当な服や日常品でよければ、私が代わりに買ってくるわ」

「え、いいんですか? あ、でも……、それなら、小百合さんとかに行ってもらった方が嬉しいのですが」

 真琴の申し出は嬉しかったが、男性に服や日常品を買わせるのは気が引ける。

「あなた、恐ろしいこと言うわね。彰華とデート中に切り上げるように言われて帰ってきた、あの子たちの恐さを知らないわね。いつもの十倍はピリピリして、厭味ったらしくなって、なにかあるごとに、「彰華と楽しく過ごしてたのにー、それが取りやめになっちゃったじゃない!」ってヒステリックに言うのよ。そんな子たちに、お使い頼んだらさらに機嫌悪くなって、何買ってくるかわかったもんじゃないわよ」

「そうなんですか……」

 真琴がなりきった声で言うので、その様子が簡単に想像することができた。今でも、守護家女子陣に敬遠されているのに、頼みごとをしたらさらに嫌われてしまいそうだ。

「なら、明日にでもまた買いに行けばいいかなっと」

「でも、今着ているのも、着替えた方がいいじゃない。もみ合ったの? 汚れてるわよ」

 言われて、服をみると泥が付いていた。

「安心して、ちゃんと貴女に似合うもの選んできてあげるわ」

 真琴が救急箱を片づけ立ち上がる。立ち上がると柔らかくやさしい香水の香りがほのかに漂う。

 趣味のよさそうな真琴に頼んだら大丈夫そうだ。それに、どっから見ても女性の真琴なら、婦人服を買いに行っても目立たないだろう。

「それじゃあ、よろしくお願いします。動きやすければ、何でもいいので」

「わかったわ。じゃあ、大人しくしているのよ」

 麗華を残して、真琴は救急箱を持って部屋から出ていく。


 部屋にひとり残った麗華は、手当てされた場所を見て小さくため息をつく。

 妖魔を一度も見たことない麗華にとって、妖魔が寄ってくるから大人しくしていろと言われても、実感は今一つわかない。この町に来る前に血を流す怪我をしたこともあったが、妖魔がやってきて襲われたことなど一度もなかった。

 藤森家の血といわれても、ただ過剰反応しているだけのよう見え、馬鹿みたいだと思うのが正直な気持ちだった。

 この後、藤森家から出れないと思うと少し気が重い。

 だが、ここは前向きに考えて、せっかくの機会だからこの屋敷を探検してみようか、と気を持ち直す。きっと茶室とかもあるだろうし、見て回るのは楽しそうだ。誰かに案内してもらって行く方がいいだろう。いつもの癖で携帯を触るが、藤森家に居る人たちの番号は知らなかった。ほかの人たちが、どこの部屋に居るかもわからない。どうしようかと考えているとき、入室許可の声がかかり戸が開いた。


「あれ? 真琴さんは?」

 入ってきたのは、麦茶を三つとおやつの乗ったお盆を持った優斗だった。テーブルの上にお盆を置いて、麗華に麦茶を差し出す。

 今朝会ったときは目もあまり合わせてくれなかったのに、今は普通に話しかけてくる。その変化を少し疑問に持ちながらもらった麦茶を受け取る。

「ありがとう。真琴さんは、私の日常品を買いに行ってもらったの」

「真琴さんに頼んだの?」

 優斗が少し不安そうな顔をする。

「うん、そうだけど、いけなかったのかな?」

「真琴さんが普通のモノ買ってくるといいけど、あの人、人をからかうのに命かけてるところあるから、ちょっと心配」

「え、そうなの」

 麗華も少し心配になってくる。

「まぁ、多分大丈夫だよ。それにしても、大輝に突っかかったんだって?」

「あー……。うん。突っかかった訳じゃないけど、大輝君が喧嘩してたから止めに入ったの」

「大輝が暴走してる時は、なるべく近寄らない方がいいよ。ここのところ余計に、キレやすいから何が起きるか分からない」

「でも、喧嘩していたのよ。誰かが止めなきゃ、怪我人も出ていたし危ないよ」

「怪我していたとしても、殴り合いをしてる自分たちの所為だよ。あと、止めるなら自分が傷つかないように、もう少し上手くやらないとだめだよ」

「上手く止められなかったのは、悪かったけど……」

「大輝はまだ、精神的にも幼いから感情をコントロールできないんだよ。君を傷つける気はなかったと思う」

「うん。それは分かってる」

 麗華がナイフで切ってしまったとき、一番驚いた顔をしていたのは大輝だった。

「きっと、真琴さんとか麻美さんにきつく怒られて反省すると思うから、許してあげてほしいんだ」

「うん。わかった」

 大輝のことを心配して世話役に回っているのだと気がついて、軽くほほ笑む。二人は仲が好いのだろう。

「それと、あまり刺激するようなことも避けてほしい。今朝、大輝と何か話してたでしょ? あれがあったから、機嫌がさらに悪化したように思うし」

「刺激してるつもりは全くないんだけど。朝のことよくわかったね」

「大輝が大声で叫んでたから、屋敷に居る人はみんな知ってるよ」

 あの出来事を知られていると思うと少し恥ずかしくなってくる。でも、あれも大輝から仕掛けてきたことで麗華は何も悪いことはしていないと思う。

「大輝を見たら逃げろとは言わないけど、距離を取ってほしい。君に何かあって怒られるのは大輝だから」

「なら、怒られるようなことをしないように大輝君に言ってよ」

「言っても聞かないんだよ。だから、君にお願いしてる」

「……うん、わかった」

 少し、腑に落ちないこともあるが、なにか変な勘違いをしているらしい大輝に突っかかられるのは、麗華も嫌だった。自己防衛のためにも距離を取った方がいいのだろう。


「ごめんね。偉そうなこと言って。でも、それがお互いのためだと思うから……」

 優斗がすまなそうに言うので、麗華は首を振る。

「ううん。こっちこそ、気を使ってくれてありがとう。気をつけるようにするから」

「ありがとう。そうだ。お詫びに何か占いをしてあげるよ」

「占い?」

「俺の家、荒木家ではね、昔から占いを生業にしているんだ。雑誌とかの占いを引き受けたりしているし、政治家や企業家たちに占いをしたりするときもあるんだ。俺はまだそんなに表舞台には出てないけど、昔から結構当たるって評判なんだよ」

「へぇーそうなんだ」

「あ、ジンクス嫌いなんだっけ? 占いも信じない方?」

「ううん、占いは好きだよ。テレビの占いで星座ランキングが上にあると嬉しいし、良いことありそうな気がするしね」

「よかった。じゃあ、俺の部屋に来てもらっていいかな。そっちの方が道具そろっているし」

「道具とかあるんだ。タロットとか? 水晶とか?」

「水晶もあるけど、占いにはあまり使わないよ。タロットもあるけど、俺は石占いが得意かな。どっちでもいいけど、好きな方を選んでよ」

「石占いがいいな。見たことないもの」

「じゃあ決まりだね」

 優斗が立ち上がり、麗華もそれに続き彼の部屋で占いをすることになった。




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