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神華  作者: 紫音
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一章 九話



 中心街に戻ってきた麗華と真司は、昼食を食べる店を探していた。麗華が、ステーキを食べたいと言うのに対して、真司は冷やしうどんがいいと言い張る。真夏の暑い中ステーキなど食べる気がしないというのが、真司の主張だ。人の財布でご飯を食べられる、貴重な機会なので高級料理が食べたい麗華は、真司に暑い中ステーキを食べる事の素晴らしさを切々と語る。

「ナイフを刺すだけで、幸せのリズムを刻むように鉄板で踊る肉汁。口に入れるとかむ前に甘く柔らかく溶けるステーキ。冷えたお茶を飲みながら夏だからこそ、味わえる至福の時が待ってるのよ! ここはやっぱりお昼ごはんは、ステーキにしましょうよ」

「暑いのに熱いモノを食べる意味が分からない。しかもステーキとかこってりとしたようなもの食べたくないね」

「ステーキのどこがこってりしてるのよ。あっさりさっぱり、和風おろしステーキだって在るよ。大体、冷やしうどんとか、どこでも食べれるじゃない。家でだって簡単に作れるもの、観光しに来てまで食べたいと思わないでしょ。そうよ。ここは、旅行者の私に合わせるべきじゃない?」

「合わせるなんて嫌だね。ステーキなら、本家に頼めば夕飯にしてもらえるだろ。僕は、半日この暑い中、あんたに付き合って外にずっと居たんだ。涼むためにも、さっぱりしたものが食べたい。付き合ってやった、僕に合わせる配慮をするべきなのはそっちだろ。気がきかないなぁ」

 真司の言葉に麗華ははっとして、周りを見渡し、日陰になる場所を見つけて腕を引っ張り誘導する。

「ごめん、ごめん、そうだね。真司君、って見るからに室内派のもやしっ子だもんね。熱中症にでもなったら大変」

「あんた、失礼な奴だな!」

 掴まれていた腕を、乱暴に振りほどいて怒る。麗華は、軽く笑う。

「冗談だよ。冗談。でもホント、朝から水分もとって無かったもんね。それじゃあ、熱いステーキなんて食べる気、しないよね……。ここは、うどんでさっぱり行きますか」

「なんだか、その決め方は腹が立つな」

「真司君の希望道理になるんだから、いいじゃない。それで、お店はどっちに行けばあるの?」

 麗華のペースで話が進んでいることに、真司は少し不満に思うが昼食をとるために店に案内する事にした。

 

 昼食を食べ終わり、会計するとき彰華から貰った財布をあけると、中には二十万近く入ってあり麗華は驚いた。二十万入った財布を簡単に人に渡せる彰華の頭の中身を疑いながら、領収書をもらい財布にしまう。

 お腹も満たされた。水分補給の水も買い、写真探しの第二ラウンドを開催するため、旅館付近に戻ろうとする。

 旅館への近道に裏道を歩いている時、突然目の前に人が飛んできた。瞬時に、真司が反応し麗華をかばうようにして前に立つ。何事かと思い後ろから人が飛んできた方を覗いて見ると、奥の方で数人が殴り合いの喧嘩をしていた。飛んできた人は、投げられて気絶している。

 殴り合いの喧嘩の現場に立ち会うなど初めてで、麗華は少し緊張する。よく見ると鉄パイプやナイフを持った人が六人で、一人の少年と殴り合っていた。

「またか……」

 前から、真司のうんざりした声が聞こえる。

「ねえ、面倒だから別の道いくよ」

「あの喧嘩ほっといていいの? なんか、どんどん激しくなってるように見えるけど?」

「いい。別に、あいつが怪我する訳ないし、相手見ないで喧嘩する馬鹿が悪い」

 振り返り違う道を行こうとする真司の服を引っ張り止める。

「あいつってことは、知り合いなんでしょ。まずいでしょ。あんな殴り合いほっといたら。現に怪我人が出てるし、殺傷事件にでもなったら大変だよ」

「腕の一本や二本は折れるかも知んないけど、殺しはしないさ。それに、下手に止めると、火の粉がこっちにまで飛んでくるんだよ。知らない馬鹿のために面倒なことしたくないね」

 とんどん激しさを増す殴り合いの音に、麗華は焦る。奥の方では、殴り合いのしている一人が口の中が切れた様で血混じりの唾を吐く。

「そうだ、警察に……」

「やめなって。警察呼んで困ることになるのは、本家だよ。まぁ。もみ消されるだろうけどさ。いいじゃん。ストレス発散させてやれよ」

 本家と言われて、目を凝らして殴り合いをしている人達を見る。みなそれぞれ派手な髪型をしているガラの悪そうな人たちだが、その中に見覚えのある金髪を見つける。

「殴り合いしてるのって、大輝君なの!?」

 それも、一人でやり合っている方だ。六人対一人だが、一方的にやられている訳ではない。優勢なのは大輝の方に見えた。

「そう、だからほっとけって」

 真司は止めに行く気など全くないようだ。

 大人四人を気絶させる実力があるのは、出会った時から知っている。あの時も、傷一つ無かったようだから、大輝は大丈夫なのだろう。だが、先ほど飛んできた人の顔は、殴られて青黒く腫れて白目をむいている。武器を持ってる人もいるのに、このまま見ているわけには行かなかった。


「あ、馬鹿!」

 真司が止める間もなく麗華は、喧嘩している方に向って走る。

 走るうちに近づいてくる殴り合いの音に少し脅えるが、手を強く握り気合いを入れる。


「ちょっと、貴方達。喧嘩するのは止めなさい!」

 怒鳴ると一瞬喧嘩の手が止まり、麗華の方に視線が集中する。喧嘩の止め方を少し間違えたかと、背中に嫌な汗が流れる。彼らから送られてくる殺気立った視線に少しひるむが、今の麗華は喧嘩を止めると言う使命に燃えていた。

「あぁ? なんだてめぇ」

 六人いる内の一人が、麗華の方に金属バットをチラつかせながら近づいてくる。

「何で、喧嘩してるのかは知らないけど、殴り合いで解決する問題は少ないんじゃない。怪我人だって出てるんだから、もう止めたら」

「てめぇには関係ないだろ。引っ込んでろよ」

 威嚇しながら近づいてくる男が、背中から蹴られ麗華の足元まで転がり気絶する。驚いて唖然とする麗華と、殺気立った目をした大輝と視線が合った。倒れた男は大輝に蹴られたようだ。


「大輝君……。怪我人も出てるし、もうやめなよ」

「黙れ。失せろ」

 言うと、また喧嘩を再開させようと残りの男たちの方に行こうとする。大輝の腕を麗華は掴む。

「黙らないし、失せない。私の目の前で知り合いが、犯罪者になるのを黙って見過ごせる訳ないでしょ。殴り合いの喧嘩は決闘罪っていう立派な犯罪なんだよ。それに、それを黙って見過ごしたら私も犯罪者になるの。だから絶対引いたりしない」

「放せよ」

 乱暴に腕を振りほどき、麗華はその反動で転びそうになる。

「大体、お前が居るから悪いんだ。なり損ないのくせに居座りやがって」

 喧嘩の対象が麗華に移った様だ。苛立ちを体中から吐き出すように麗華の肩を乱暴に押す。麗華は軽くよろめくが、負けじと睨み返す。

「私が居るから、苛立ってるって言うの? って、後!」

 大輝の後からナイフを持った男が狙っていた。麗華の声で男の存在に気が付いて、大輝はいとも簡単に男を殴り気絶させる。そしてまた麗華を睨む。

「目障りなんだよ」

「今朝も言ってたけど、私は別に財産目当てで居る訳じゃなくて、ただ親戚の家に泊めてもらってるだけだよ。それを、大輝君に目障り呼ばわりされる言われはない」

「力の無いやつが、本家に居る事態がおかしいんだ」

「力はないけど。だからって、母の実家に居るなって言うのは変じゃない」

「何も分かって無いくせに、言ってんじゃねぇよ」

 また、大輝が麗華の肩を先ほどよりも強い力で押す。よろめいた麗華は運悪く落ちていたバットに足を取られ派手に転び、さらに落ちていたナイフの柄に腕をぶつけて痛める。血は出なかったが、ごつい飾りのついたナイフだったため、赤黒く腫れてきた。

 痛さに顔を歪める麗華を大輝は上から見下ろす。

「さっさと、この町から消えろ。そして二度来るな」

「居ようが来ようが、私の勝手だわ」

 舌打ちして、倒れている麗華の胸倉をつかむ。

「大輝、それ以上はやめなよ。一応それ、菊華さまの姪なんだから」

 今まで黙っていた真司が、大輝の感情の起伏を感じ取って止めに入る。真司を睨み、舌打ちして麗華の胸倉を突き放すように離した。

「――痛っ」

 乱暴に離された所為で今度はナイフの刃が腕に当たり、少し腕が切れた。流れてきた血を見て、大輝は動揺したように下がり、舌打ちし近くに転がっていた物を蹴ってその場から居なくなる。大輝と喧嘩していた男たちはいつの間にか居なくなっていた。


 麗華は殴り合いの喧嘩が結果的には無くなって、ほっとする。切れた腕を押えながら心底疲れた溜息を吐く。


「あんた、馬鹿だろ。かっこつけて止めに入ったりしてさ、自分が正義だとでも思ってるわけ? 藤森家の親族だから大輝が言う事聞くとでも? 大輝に押されたぐらいで倒れるような、非力なのに男の喧嘩を止めに入って平気だとでも思ったの? 自分の力量を見ないで出しゃばるウザい奴は、早く死ねばいいよ」

 真司の怒った顔を見て、麗華は苦笑いする。

「お怒りはごもっともで……。私も、人の喧嘩を止めに入ったのは初めてだから、結構ビビったよ。テレビのドラマとかで見てるのとは迫力が違うね」

 真司が無謀だと怒る理由も分かる。殴り合いをしているところに割り込むのは、予想以上に怖かった。いつも大輝からは殺気立った視線を送られるが、今のはギラついた目だった。真司が止めてくれたから、大事に至らなかったが、止める人がいなかったらどうなっていたか。いつものように、反撃しても、おそらく痛い目を見たのは麗華の方だっただろう。

 自分でも、喧嘩を止めに入ると言う似合わない行動に出たのは意外だった。いつもなら、見て見ぬふり、もしくは周りの人になんとかして貰おうと頼むだろう。

 それでも、体は勝手に動いた。理由は単純。

「藤森家の親族だからとか、私が正義だからとか、腕っ節に自信があるとか、そう言うので止めに入ったんじゃないよ。本当に、単純に、知り合いが人を傷つけてる所、傷つけられてる所を見たくなかったから、止めたの」

「馬鹿じゃない。それに、本当に喧嘩を止めたのは僕だ。あんたは、大輝にやられっぱなしだったじゃんか」

「そうだね。真司君がいてくれてよかったよ。助けてくれて、ありがとう」

 麗華は素直に頷いてお礼を言うが、真司は思いっきり眉を顰めて嫌味っぽくため息をつく。

「馬鹿は一回死んだ方がいいよ。そしたら、少しはましになるかもね」

「酷いなー」

 麗華の不満を無視し、今だに地面に座ったままであることを指摘する。

「いい加減立ち上がりなよ。みっともない」

 立ちあがろうとする麗華だが、足に力が入らない。手だけで立とうとして失敗し地面に座ってしまう。

 麗華は、困ったように笑う。


「……恥ずかしながら、腰が抜けて力が入らない」

「はぁ、本気で言ってんの? どこまで馬鹿で間抜けで、愚図なんだよ」

 吐き捨てるように言う、真司に麗華は少しムッとする。

「なんか、言葉増えてない?」

「あんたにお似合いの言葉だろ。自分で招いた結果なんだから自分でなんとかしなよ」

 真司は冷たく言うと、麗華から視線を外す。何度か立つように挑戦してみるが、うまく立てなく地面に座り込んでしまう。少し、時間が経てば力が入るようになるだろうと、しばらく待つことにした。

 真司は、苛立ったように地面を足で鳴らし続ける。


「大体なんで、僕がこんな道のど真ん中で、時間を無駄にしなきゃいけないんだ。馬鹿らしい……」

 真司が麗華に聞こえるように独り言を言う。確かに喧嘩を止めに入った所為で、腰を抜かして立てなくなったのは麗華だ。だが、だからと言って、嫌味をぶつぶつと言われるのは気持ちのいいものではない。

「なら、もういいよ。この町の道は大体わかったから一人でも、藤森家に帰れる。あとは私一人で行動するよ。写真探しもなんとかできると思う。今まで付き合ってくれてありがとう」

 麗華の言葉に眉を寄せる。

「……今日一日あんたに付き合うって約束したから、それは果たすさ。あーもう! ほら」

 苛立ちながら真司が手を差し出してきた。麗華はきょとんとして見る。

「手かしなよ。そこにいつまでも座ったままじゃ、通行人の迷惑だろ!」

「わぁ、ちょっとまって」

 麗華の手をひっぱり無理矢理立たせるが、足に力が入らない為、倒れそうになり支えようとした真司に抱きつく形になった。麗華の手が首にまわり、体が密着していることに真司は動揺する。

「ぼ、僕に、頼らないで自分で立ちなよ!」

「だ、だから、腰が抜けてて力が入らないんだって! ちょっとすれば治ると思うから、少し我慢してよ」

 麗華も男子に抱きつくのは初めてで、心臓がうるさくなっている。二人の顔は徐々に赤みを増していく。


 ふと首に巻かれている腕から、血が垂れているのに気が付いて、真司は驚いて突き放す。力の入らない麗華はそのまま地面に倒れた。いきなりの行動に、麗華は不服そうに顔を上げて非難のまなざしを真司に送る。

「ちょっと、いきなり突き放すのは、酷いんじゃない?」

「それよりも、その傷なんとかしなきゃ。不味いよ、血は」

 真司が慌てて自分のハンカチを取り出し、麗華の腕に巻く。そして、巻いたハンカチの上で指を軽く振って小さく何か呟いた。

「ありがと。さっきナイフで切ったから。でも、何でそんな慌てて……」

「自分が藤森家の血族っていう自覚ないだろ。藤森家の血は妖魔を引き付けるんだ。少しなら、平気だけど刀傷程になると不味い。早めに清めた方がいいね」

 そう言うと、真司は携帯電話を取り出して、本家に連絡を入れ車で迎えに来るように頼む。


 その行動を不思議に思いながら、昨日の蓮の行動を思い出した。手に出来た擦り傷から血が出ていたので舐めていたら、急に態度が変わったのだ。妖魔を呼び寄せる血を持っていると言うのなら、なぜ蓮は麗華を置いて慌てて帰ってしまったのだろう。

 考えているうちに、迎えの車は五分も経たないうちにやってきた。救急車よりも早い到着に驚く。

 真司が早く乗るように言い、麗華はそれに従う。午後から行われるはずだった写真探しは取りやめになり、本家に戻ることになった。


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