勇者の剣
「今日はもう遅いし、ここを右に行ったら街につくからそこに泊まろうか」
影が景色と同化し始めた。ここは街から近いようでやたらと看板が刺さってある。文字が読めないので内容がわからないが形が整っているので綺麗な字だとは思う。
「この看板はなんて書いてあるんだ?」
「文字読めないんだっけ?これは…『貴方も勇者に?!世界を救う大義を持つ君はこの道を右へ!!!』って書いてある」
「誤訳ではなく?」
「本当にこう書いてある。街についたら意味がわかると思うよ」
あまりにトンチキすぎて訳もわからないまま街へと向かった。
高い壁に厳重な門。見るからに強そうな門兵に見送られ街へと足を踏み入れた。明るく、街というだけあって今まできたどの村よりも栄えていた。もう夜だというのに人の動きが盛んだ。街ゆく人の大勢は剣やら槍やらの武器を携えている。
「冒険者が多いな。治安が悪いようには見えないけど」
「ここは国直属の騎士団が常駐しているからね。なんか悪いことしたらあっという間に捕まって牢屋行き。だーかーら、余計なことしないでね」
「…分かった」
村の中心へ行くたび、甲冑を着た人が増えた。騎士団の人だろう。大剣を携え、隙間からちらりと見えた目は背筋を凍らせた。そして街の中心が見えた時、看板に書かれていた文言を意味を知った。
「アレって、まさか」
「そのまさかさ。この街は勇者の剣を管理している街なんだ」
村の真ん中には台座に突き刺さっている勇者の剣があった。半径10メートル囲むように柵が設置されている。見せ物になっている勇者の剣に涙を禁じ得ないがどうやら見せ物なだけではないようだ。
「ナツも挑戦する?勇者の剣引き抜けるか」
どうやらテントの中にいる管理人のようなおじさんに金を払えば勇者の剣を引っこ抜けるか挑戦できるようだ。肉付きのいい大男が並んでいるかと思えば女性も並んでいた。どうやら条件などはないようで金さえ払えば誰だって抜く権利を得られるようだ。
「いや、いいよ。高いんだろ」
「御名答。こういうのって相場高いよね〜。あそこの店に勇者の剣を模した贋作売ってるよ。後は勇者の剣の鍔を模した偽物の鍔」
「商売上手だな〜。ていうか勇者の剣を私物化して商売していいのか?」
「あそこにいるのは役人だよ。勇者の剣は引き抜かれるまではこの街のものだから。一種の観光資源だね。ちなみに売上の1割は勇者の剣を抜いた勇者に渡されるよ」
「はえ〜」
感心しつつも勇者の剣を抜く気もないし見るのも飽きてきたので僕らは夕食を買い宿へ向かった。至って普通の宿だったが値段は高かった。ただ、扉まで勇者の剣の模様が彫ってあるのを見て徹底しているなと思った。エリアはロビーで買ったワインをグラスに注ぎながら勇者の剣について話し始めた。
「勇者の剣は魔王を殺すためだけに作られてんの。遥か昔、人類が魔王に劣勢だった時代。ある一族が何代にもわたって聖鉄を打ち続けた結果できた一種の呪いのような剣。あれができて以降、魔王を殺すのは容易になった」
「魔王って何人もいるのか?」
「いや、魔王は一人だ。その魔王は定期的に復活する。500年に一度くらいかな。封印したら復活できないんだと思うんだけど毎回失敗してる。魔王だけあるよね。でも失敗しても毎回勇者に殺されてる。勇者が強いのはもちろんなんだけどやっぱり剣が強い。かすり傷さえ負わせたら殺せるからね」
「つっよ」
「素材、時間、命、魔法、全てが魔王を殺すためなんだからやっぱり圧倒的だよ。魔王を殺したら剣はチリになって元の台座に戻る。そして新たな勇者が来るのを待つんだ。ちなみに同じ人間が持つことはできないよ」
「それって勇者が現れる前に魔王が復活したらどうなるんだ?」
「どうなるんだろうねぇ。その時はその時で勇者じゃない誰かが殺すんじゃない?一応普通の剣でも殺せない訳じゃないし」
先入観で魔王は勇者の剣でしか殺せないと思っていたけどそういうわけではないようだ。そして、この辺は魔物が少なかった。やはり剣から何か出てるのだろうか。
「前回の魔王を殺した勇者と少し話したことがあるんだ。200年くらい前かな。きっかけは覚えてないけど彼は言ってたよ。「僕は名声が欲しくて魔王を殺したわけじゃない。きっと今までの勇者もそうだった。理不尽に抗うために勇者の剣を手に取ったんだ。でも、名声が欲しくて勇者の剣を奪おうとする人に何度も襲われた。どっちが悪かわからなくなった」って。勇者になるのも考えものだね」
「騎士団がいるって言ってたけど騎士団長は勇者の剣を抜けないのか?」
「勇者の剣は実力だけで抜けるものではないからねぇ。騎士団長も同様で実力だけじゃなくて人望や冷徹さも求められるから。でも騎士団には実力だけで選ばれる役職はある。『剣聖』だ」
「剣聖…」
心くすぐる響きで全身が逆立った。ただ、騎士団の中で実力トップが選ばれる役職。敵に回ったら間違いなく殺されるだろう。でも、これから大犯罪をするわけでもないし会うことはないだろう。
「男子はみんな好きだよねぇ。剣聖。ナツも好きなんだ」
見透かしたようにニヤつくエリアに少し殺意を覚える。
「別にいいだろ。かっこいいものはかっこいいんだよ」
「夢を壊すようで悪いけど私の知ってる剣聖はどいつもこいつもろくなやつじゃないよ。正義だけを煮詰めたような化け物ばっかり。悪いやつじゃないんだけど、容赦がない。心に穴が空いたようなのばっかりさ」
「まぁ、そりゃそうか。別に幻想を抱いてたわけじゃないけど面と向かって突きつけられるとがっかりするな」
エリアは3杯目のワインに口をつける。顔が少し赤い気がする。
「ナツって今何歳?」
「17だけど、それがどうかした?」
「ふ〜ん。17か〜。今から努力しても間に合わないかな〜剣聖は。超超超才能があれば別だけどね〜」
「別になりたいわけじゃないよ。かっこいいよねってだけ」
「ナツは私が死んだら一人なんだから生き抜く力を身につけるべきだよ〜。でも私は魔法使いだからな〜剣は教えられないよ〜」
「話聞いてないな…酔ってるの?」
「せ〜か〜い。よし決めた!明日から魔法を教えてあげよう!」
異世界から来た僕に魔力とかあるんだろうか。確かにエリアが死んだら僕は一人になるから教えてもらって損はないわけだけど。
その後、エリアは泥酔し気持ち悪くなり机に突っ伏せた。普段あまり酔わないのでかなり珍しい光景だ。だる絡みされてはたまらないので僕はベットの上で布にくるまる。
「あ〜死にたい」
エリアがポツリと呟く。顔を起こし顔を見ると一筋の涙が頬を伝っていた。エリアは昔のことを全然話さないしなんで不老不死になったのかも知らない。でも、本人にとって辛い出来事だったのはわかる。死にたいなんて不老不死の人間が気軽に吐ける言葉ではない。
僕はそっとベットから這い出てエリアの背中をさすった。熱くて少し震えていた。僕はなんて言えばいいかわからなかった。
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