第4話 今度は俺が意識してしまう
翌朝。
俺――神崎悠斗は、人生で初めて登校するのが憂鬱だった。
理由は一つ。
朝倉紗雪だ。
正確には、
朝倉紗雪が俺のことを好きだと知ってしまったこと。
昨日までは違った。
嫌われていると思っていた。
だから気楽だった。
避けられても、
「まあ嫌われてるしな」
で済んでいた。
だが今は違う。
全部意味が変わってしまった。
目を逸らす。
↓
照れている。
逃げる。
↓
緊張している。
顔が赤い。
↓
俺のせい。
「無理だろ……」
通学路を歩きながら頭を抱えた。
---
教室へ入る。
その瞬間だった。
窓際の席。
朝倉紗雪の姿が目に入る。
すると。
昨日まで何とも思わなかったはずなのに。
心臓が跳ねた。
「っ……」
長い黒髪。
朝日に照らされた横顔。
整った顔立ち。
可愛い。
いや。
前から可愛かった。
ただ。
今までは遠い存在だった。
でも今は違う。
俺を好きな女の子として見えてしまう。
その破壊力は凄まじかった。
「お、おはよう……」
なんとか声をかける。
すると。
紗雪がこちらを見る。
目が合う。
一秒。
二秒。
三秒。
そして。
ボンッ。
という音が聞こえそうなほど顔が赤くなった。
「お、おはよう!」
勢いよく返事。
そのまま机へ突っ伏した。
「……」
「……」
俺も固まる。
何だこれ。
可愛すぎないか。
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「神崎」
隣から声。
健太だった。
「お前今日変じゃね?」
「そうか?」
「朝倉さん見た瞬間固まってたぞ」
ギクッ。
俺は視線を逸らした。
健太が怪しそうに見る。
「何かあった?」
「何もない」
「絶対ある」
鋭い。
だが話せない。
話したら大変なことになる。
『実は朝倉さんがお前のこと好きらしい』
なんて。
本人の秘密を勝手にばらすわけにはいかない。
「気のせいだ」
「ふーん」
絶対納得していない顔だった。
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一時間目。
数学。
先生の話が全然頭に入らない。
理由は単純。
斜め前に紗雪がいるから。
そして。
気付いてしまった。
紗雪。
めちゃくちゃこっち見てる。
俺が黒板を見る。
↓
紗雪が見る。
俺が振り向く。
↓
慌てて逸らす。
その繰り返し。
分かりやすすぎる。
今までなら気付かなかった。
でも理由を知った今なら分かる。
「……」
俺は思わず口元を押さえた。
危ない。
ニヤけそうだった。
---
昼休み。
俺は購買から戻っていた。
すると。
廊下の向こうから女子たちの集団が来る。
その中心に紗雪がいた。
当然。
すれ違うことになる。
以前なら普通だった。
だが今は違う。
変に意識してしまう。
距離が近付く。
五メートル。
三メートル。
二メートル。
紗雪も俺に気付いた。
瞬間。
顔が赤くなる。
そして。
「ひゃっ」
小さく声を漏らした。
さらに。
友達の後ろへ隠れた。
「……」
俺は立ち止まった。
友達たちも困惑している。
そりゃそうだ。
傍から見たら意味不明である。
だが。
理由を知っている俺は違った。
可愛い。
ひたすら可愛い。
好きな相手を見ただけで隠れるとか何なんだ。
反則だろ。
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放課後。
帰り支度をしていると。
突然。
コンコン。
机を叩かれた。
顔を上げる。
そこにいたのは紗雪だった。
「っ!?」
今度は俺が驚く。
紗雪もかなり緊張していた。
手が微かに震えている。
「あ、あの……」
「う、うん」
「この前の数学のノート……」
「え?」
「貸してくれてありがとうございました……」
そういえば先週貸した気がする。
そんなことを言うためだけに?
紗雪は真っ赤になりながら頭を下げた。
「じゃ、じゃあ!」
そして。
逃げるように去っていく。
数秒後。
教室から消えた。
「……」
俺は呆然とする。
たったそれだけ。
たったそれだけの会話だった。
なのに。
心臓がうるさい。
「神崎」
いつの間にか健太が横にいた。
「何だよ」
「お前らさ」
「?」
「絶対両想いみたいな空気出してるよな」
俺の心臓が止まりかけた。
「なっ!?」
「図星?」
「違う!」
全力で否定する。
しかし。
健太はニヤニヤしていた。
「まあ頑張れ」
「だから違うって」
そう言いながらも。
俺自身、もう分かり始めていた。
朝倉紗雪の気持ちを知ったあの日から。
俺の中でも何かが変わり始めていることを。
そしてその変化は、
もう止まりそうになかった。
――続く。




