第1片 Stuffs Stone⑧―一転―
俺は千尋が入院している病院へと全力で走っていた。
連絡バラバラ殺人事件の次のターゲットが千尋かもしれない。
そう思うと、いてもたっても居られなかった。
既に身体は極度の運動に悲鳴を上げている。
口の中が血の味で広がっていく。
こんな事になるなら日頃からもっと身体を鍛えておくべきだった。
スマホを取り出し、千尋に電話するが千尋の応答はない。
「頼む……、間に合ってくれ……!!」
病院が見えてきた。
周りの人の感じから騒ぎにはなっていなさそうだ。
病院の入口に1人の女の子が立っている。
「あれは……?」
女の子はこちらに気がつき、両腕をあげる。
千尋だ!!
「千尋ぉ!!」
「ひろくん!ど、どうしたの?そんなに慌てて?」
「はぁ……、はぁ……。連絡……取れなかったから……。」
「え?」
千尋はカバンからスマホを取り出し、俺からの通知の多さにビックリする。
「ごめん!カバンに入れてて気づかなかった……。」
「そっか……、なら良かった……。」
俺は安心と疲れからか、その場で座り込んでしまう。
冷静になって考えてみれば、全国には八木という苗字の人間は沢山いる。
ピンポイントに千尋が狙われるという確証はなかった。
それでも、千尋の無事が確認できて本当に良かった。
「ちょっと……、休憩していい……?」
「全然いいよ。待合室で座らせてもらおう。」
千尋に連れられて俺は待合室の椅子に腰掛け、そこで数十分ほど体力が回復するまで休憩した。
途中千尋が自販機で飲み物を買ってきてくれて、
どっちが迎えに来た人なのか分からない感じになった。
「すっかり暗くなっちゃったね。」
俺は千尋の荷物を持って、一緒に家へと向かっていた。
しっかりと休憩をとったので身体はもうピンピンしている。
それでもちょっとは鍛えないとな。
もし千尋が襲われるようなことがあった時に助けられない。
「ひろくん、ありがとうね。」
「え?何もしてないよ?」
「ううん。いろんなことしてくれてるよ。」
千尋は立ち止まり、俺の視界から消えた。
「あの時もひろくんが抱きしめてくれなかったら……、きっと耐えられなかったもん。」
「べ、べつにあれくらい普通だろ。」
あの時のことがフラッシュバックされ、何だか照れくさくて俺は振り向けないでいた。
「普通じゃないよ。」
千尋はそんな俺に構わず、話を続ける。
「いつもひろくんは私を助けてくれる。」
「そ、そんなことないって。」
「そんなことあるよ!」
「!?」
千尋はムキになって大きな声をだす。
大きな声を出してしまったことに千尋自身も驚き、無言の間が生まれる。
「私……、ひろくんに伝えたいことがあるんだ。」
「え?」
「恥ずかしいからそのまま聞いて欲しいな……。」
背中から千尋の緊張感が伝わってくる。
俺に伝えたいこと?
一体なんだろう?
「あのね……、私ずっと前から、ひろくんのことが――。」
ビュゥゥウ
突然風が吹き千尋の声がさらわれ、大事な部分が聞き取れなかった。
「え?なんて?」
俺は話の続きが気になり振り返る。
そこには、信じられない光景が広がっていた。
ポタポタと滴る赤い液体。
千尋の足は地面に着いておらず、ブラブラと揺れている。
「え……、」
千尋は爪のような物に身体を貫かれていた。