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カードゲームは卒業したのにTCG学園に放り込まれたんだが ~イカサマ王と呼ばれた俺はカードゲームなんかしたくない~  作者: ゼ二平


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第37話 王と王

 カイザーという名のプレイヤーは、あの悪夢の全国大会以降、いかなる大会やSNSなどのメディアにも登場していない。

 まるで『イカサマ王(ダーティキング)』を王座から引き摺り下ろすためだけにあの大会に参加したようだとさえ言われている。

 そんな因縁の男が、まるで教室への道を塞ぐように俺の目の前に立っている。


 「思ったよりも、ずっと早くボクの元へ辿り着いたものだね――その洞察力、まさに『覇者』のカードを持つに相応しい存在だ」


 「……もっと早く君に話しかけていればよかったよ。そうしたら、もっと早い段階で君のことに気づけたかもしれない」


 皇浦は俺の言葉を聞くとふっと鼻で笑った。相変わらず不気味なやつだ。


 「まさかキミがこの学園にいるとは思わなかった――」


 「それはこっちのセリフでもあるよ……まさか君とここで会うなんて」


 「『イカサマ王(ダーティキング)』をスカウトするとは、この学園の理事長はどうかしているとしか思えないね――まったく、ふざけた男だよ」


 あいにく俺はその理事長に会った事が無いが、その意見には同意だ。

 だが、会った事もない理事長への不満を言うより、目の前の宿敵を止めるのが先だ。


 「本来、ボクはもうキミとは二度と関わらないつもりだったんだ――ボクにとって、キミと関わるのはリスクしかないからね。目立つ真似はしたくなかった――」


 奈津はかつてどこかで会った気がする、と思っていたが、この男にはそんな気配、微塵も感じなかった。

 大会のときにあんな仮面をつけてロクに顔もわからない格好をしていたせいで、見た目だけなら本当に今でもあの時の男だったのかどうかわからない。

 でも、声だけは違う。あの日、対戦の間もそのあとも、この男の声を聞いている。

 だから、学園に入ってからは俺と一切喋ろうとしなかったんだ。

 イベント戦の7日目、彼のチームとマッチングした時に彼らが姿を現さなかったのもそういう理由だったのだろう。対戦でまったく声を発さないのは無理がある。

 もっと早く気づけていればよかった。皇浦が、カイザーだともっと早く知っていれば、いの一番にこう尋ねたはずだ。


 「君は……一体あの時、何をしたんだ」


 あの時。あの会場で。

 俺は絶対にイカサマなんかしていない。

 だとしたら、この男が、俺に何かをしたに違いない。

 まるであんな風になるのが当然のように振舞っていった。


 「悪いけど、過去に興味ないね――それに、キミはボクと昔話をしにきたんじゃないだろう――?」


 「……ああ、そうだね」


 別に俺も、納得する答えが返ってくるなんて期待してなんかいない。


 「……なんでこんな事をしたんだ。奈津に何をするつもりだ」


 奈津の実力なら無理やり対戦させられたとしても大丈夫だとは思うが、それでもやはり心配だ。


 「ふふふ―――はっはっはっ!!!」


 突然、大声で笑いだした。


 「こんなこと、だって――? まさか君は気づいていないのかい? この学園のルールは、単にカードゲームの強弱を争うわけではない――勢力争いであると――」


 「……勢力争い?」


 『どうして君たちにカードゲームをさせているのか』、『単なるカードゲームじゃない』。

 葉月先生は以前そんな事を言っていた。

 答えはいくら考えてもわからなかったけど、この男はそれを『勢力争い』である、と言いたいらしい。


 「そう――カードとゴールドという資産を集め、競い合い、蹴落とし合い、最後には王となる――それが目的だ」


 「王だなんて、大げさな……」


 皇浦はふっ、とバカにするように笑った。


 「例えば寺岡敬介――。奴は、金で手下とカードを集め、ゴールドを効率良く集める手段を得た。最初の時点では、最も王に近い人材だっただろう――だが奴は目立ちすぎた――キミへの復讐などというくだらないことに捕らわれていたせいで、結局キミに返り討ちにあった――不様としかいいようがない――」


 寺岡は確かに、この学園のルールに対して複数人で戦うということを一番最初にやってのけた人物だ。


 「華戸学園に入れば何でも手に入る――。そう言われている。だが通常クラスは、ただの施設のいい全国トップクラスの進学校に過ぎない。――T組こそ、本当の華戸学園だ。ユーマ。キミは何のために戦う? 何のためにゴールドを集める? ”何でも手に入る”と言われたら何を望む?」


 「…………」


 奈津は借金を返す。武束はレアカードを手に入れる。

 みんなそれぞれ目標がある。俺はどうだろう。


 「T組の生徒達は、ほとんどが平民――いやもっと悪い――奴隷だ。自らの力では生きることすらできない。薄汚い家畜同然の存在だ」


 「……何を言っているんだ。彼らはそんな卑しい存在なんかじゃない」


 クラスメイト達をバカにされてなんとなく腹立たしかった。


 「キミや紙手奈津のような強者はそうだろう。だが、大半の人間は違う。残り少ない資産を浪費するだけだ。だから弱みにつけこまれ、考えることや努力することを放棄する。だが、ボクの”王国”には彼らのような人間も必要だ。ボクの手足となり、蟻のように働いてくれる忠実な下僕がね――ボクはいずれ世界を手に入れたいんだ。そのために、ボクはまずこの学園を手に入れる。そのためにはどうしても、この学園の、T組というクラスに入る必要があった――」


 「……学園を手に入れるだなんて、どうやって……」


 そう言ったところで、1つの可能性に思い至る。


 「ゴールドパック……」


 皇浦はそれを聞いてふっと笑った。


 「ああ、その通りさ――この学園の全てを――莫大な富を、名声を!! 全て手に入れるため、ボクは金パックを手にする!! それが目的だったのさ!!」


 学園の全てを手に入れる。理事長から運営権を受け取り、その金や人脈を手に入れる。一体それがどれくらいの価値のあるものか、なんて庶民である俺には到底わからない。


 「それは……君が理事会のメンバーの息子だってことと、関係あるのか?」


 「フン――親は関係無いが――その力は大いに利用させて貰っているよ。教師共も、親の力で言う事を聞いているところはある――だが親の力でもT組に入るのは無理だ。まずは実績が必要だった」


 「実績……」


 T組に入る条件はただ一つ。カードゲームでなんらかの実績があること。

 ポーカーの日本女王である紙手奈津や、コレクターとして名を馳せる武束集。

 そして『レジェンドヒーローTCG』の全国大会の優勝者である俺。

 だが俺や彼らほどの実績じゃなくても、招待はされている。

 寺岡は俺と同じ大会の8位だし、呉屋君や他の生徒たちもそうだ。


 「ボクは完璧主義者でね――曖昧な事は嫌いだ。”絶対”に声がかかるには、『優勝』するのが一番早い。だから優勝する必要があった――誰を蹴落としてでも」


 皇浦はそう言うと不適に笑った。


 「断言しよう――あの大会の最大の障害は間違いなくキミだった。前年度のチャンピオンであり、中学生でありながらアマチュアでは最強と謳われていた。キミは必ずどこかでボクと対戦することになる。だから、ボクはキミの事を調べ上げた――そして、どうすればキミを確実に倒せるのか考えた――」


 「やっぱり……君がやったのか!? 俺を、失格にさせようとして……!!」


 この男は、まるで俺のカードに傷がついているのをあらかじめ知っているかのような口ぶりだった。

 対戦中に、対戦相手のカードを触る機会はある。

 傷をつけたのはこの男しかいないと思っていた。

 だが、男は不気味に微笑んだ。


 「それは違う――ボクは何もしていない。いつだって――ボクは何もしない。なぜならボクは王だ。王自ら最前線に出て戦うかい? そんな危険な真似はしない――ボクはただ……1人の少女に、どうすればキミが失格になるかを教えてあげた――それだけだ」


 「……1人の……少女?」


 「ああ――ちょっと調べればわかったよ。キミが最も信頼を寄せている人物は誰か。そして、運よくその少女と利害が一致してね――危険な役割だというのに、心よく引き受けてくれたよ」


 俺の最も信頼する人物。そんな人間は……。

 それに、俺のデッキに触った人間なんて他に……。


 …………。


 まさか。

 まさか、まさか、まさか。


 「あの子に、何を吹き込んだんだ……!!」


 「さぁ――本人に聞いたらどうだい? 彼女は実に素晴らしい人材だ。無事にこの学校で再会して、今も、ボクの代わりを務めてくれている――紙手奈津の処刑というね」


 そんなわけない。あの子が、こんな奴の言う事を聞くなんて。

 慌ててスマホを取り出し、震える手で電話をかける。

 すると、軽快な音楽が隣の部屋から聞こえてきた。


 ……教室の中かっ!!


 皇浦を押しのけ、教室のドアを蹴破らんばかりの勢いで思い切り開け放つ。


 「……あっ……!!」


 「んー? ……あーあ。見つかっちゃったかぁー」


 この声だけは、聞き間違えようがなかった。

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