第24話 圧迫面談
「イベント戦お疲れ様ッ! 国頭優馬君ッ!」
「……えっと、はい。どうも」
葉月ゆず先生は、相変わらず超ミニスカの女子高生のコスプレをしていて目のやり場に困る。
あと、いい加減フルネームで呼ぶのはやめて欲しい。
「……あの、俺なんでまた呼ばれたんですか?」
「面談だよッ! 面談ッ!!」
「いや、それ前も聞きましたけど……」
「いいじゃんいいじゃんッ! 先生とお話ししようよッ!」
尻込みする俺の腕引っ張って無理やり椅子に座らせる。
単純に先生と話すというのには少し抵抗がある。
場所も前と同じ生徒指導室だし。いつ説教されるのかとびくびくしてしまう。
「イベント戦、どうだったッ? 楽しかったッ? キツかったッ?」
「え、えっと……」
昨日、イベント戦は終わった。
6日目も、5日目と同じような2人チームに当たったが、来るとわかっていれば対策はできる。既に申請しているデッキの色自体は代えられないが、俺の場合は青の対策カードを多めに積むことで対応した。
だが、7日目の最終戦は……。
「ええっと……まぁ、大変ではあったと思いますけど」
「最後の試合、不戦勝だなんて君達もついてるよねッ!」
「ついているって言うか……」
対戦相手の3人の中には、あのちょっと暗そうで小柄なぼっちの男子生徒、皇浦帝の名前もあった。
だが試合開始時刻になっても相手は3人とも現れず、そのまま俺達が不戦勝になった。
単純な武束は喜んでいたし、奈津は3回連続で戦えなくて「つまらない」と愚痴をこぼしていたが、俺に言わせるとただただ不気味だった。
俺達が勝ち進むのを妨害するために何者かによって包囲網を敷かれたかと思えば、最終戦の相手が突然棄権する。
意味が分からないことばかりだ。
「まぁ、いいじゃんッいいじゃんッ! 勝ちは勝ちなんだしさッ! そうだ『レイズチケット』!! ぜーたくに、3枚も貰っただからッ!! 使うんでしょッ? ぜーたくにッ!!」
そう。本来優勝チーム全員に1枚ずつ配られる『レイズチケット』だったが、奈津と武束には無理を言って、俺が3枚とも引き受けることになった。
奈津は『別にいらない』と言って心よく了承してくれた。武束はだいぶ渋っていたが、俺の奥の手である『覇者』のカードをちらつかせることでなんとか押し通した。
ちなみにチケットといっても紙ではなく、あくまで俺のIDカードに紐づけらている電子上のデータである。葉月先生が手持ちの端末をちょちょいと操作して付与してくれたのだ。
「……まさか。これは、『使わせないため』に俺が持っているんです」
そうだ。だから、俺はできれば優勝したいと思っていた。だからこそ俺は全力で2人をサポートして、自身も全力で戦った。
組んでくれた奈津と武束だけじゃない。他の誰にも、こんなもの渡せない。
だって。誰がレイズチケットを持っているとわかっている相手と対戦したいなんて思うだろうか。損な役目は俺一人で十分だ。
ちなみに捨てることができないか確認したが、そんな機能は無かった。
「ふーんッ? 変わってるね?」
驚いたように目をパチパチしていた。
「……まぁいいや。それより、この前はあんまり対戦したくないって言ってたけど、今もそうなのかなッ?」
「それは……その……」
言葉に詰まってしまうが、正直に言うことにした。
「正直……悪くないって思っている自分がいるんです」
「ほほうッ?」
元々、俺がカードゲームをやりたくなくなった原因は、去年の全国大会で起きたイカサマ冤罪事件だ。
誰もわかってくれなくて、カードゲームがしたいのにできなくて。
奏星はそんな俺を見かねてあんな約束をしたのだ。
だが、武束や奈津という仲間もでき、イベント戦で戦った生徒達や寺岡でさえも、俺が対戦することに対して邪魔をする者はいない。
『レイズチケット』のせいでまた敬遠されるかもしれないけど。でも、俺はこんなもの使うつもりはない。もしみんながそれをわかってくれて、受け入れてくれているのなら、いずれ誤解は解けるかもしれない。
そうしたら……。
「もし、また、みんなで仲良く楽しくやれるのならば……またカードゲームをするのも……」
悪く無い。そう言いかけたところで、突然バンッと大きな音をした。
驚いて見上げると、葉月先生が恐い顔をして机を叩いた。
「仲良くッ!? うわッ! 超ゲロ甘いッ!! 甘ちゃんすぎて胸焼けするッッ!!」
「……はい?」
なぜ罵倒されているのかわからずただただ困惑する。先生はオロオロする俺を見てさらに舌打ちをした。
「君、なんでこの学校カードゲームなんてやっていると思う?」
「……え?」
確かに、言われてみれば奇妙ではある。
どうして、カード学園T組なんて制度を作ったのか。
どうして、無理やりカードゲームをさせているのか。
「少なくともねッ……勝ちたいと思っていない人間は、この学校にはいらないんだよッ?」
「……いらない? そんな、だってカードゲームは勝つだけじゃないでしょ!?」
そりゃ、カードゲームで勝つのは大事だけど。
楽しみ方は、それだけじゃないはずだ。
「そりゃそうだよッ? 所詮カードゲームは遊びなんだから。でもねッ?」
先生は俺をじっと見て不敵に笑った。
「君たちがやっているのは、ただのカードゲームじゃないんだよッ?」
「……はい?」
なんら変わった所の無い、いたって普通のカードゲームだと思うのだが。
普通過ぎるぐらいだ。
まさかカードで負けた方が命を失うとか、勝ったら願いが叶うとか、そういうアニメ的な力があるわけないだろうし。
困惑する俺を見て、先生は呆れたように深くため息をついた。
「やれやれだねッ。あの人が招待した生徒だからちょっとはやるかもと思ってたけど、まさかまだなんにもわかってなかったとはねッ」
あの人? あの人とは一体誰だ? 俺がその人に招待されたと?
「イベント戦でもわかったでしょッ? 君よりも、もっと大局を見て動いている人間がいる。その子達に比べたら、君なんて中学生どころか小学生と変わらない」
確かに、イベント戦で何者かの意志が働いているのはわかった。
でも、まさか俺が小学生レベルだなんて。
「断言するよ。『ただカードゲームで楽しめばいい』って子供みたいな考えじゃあ、君は間違いなく脱落する。今のうちに普通の学校に行って、普通に勉強したり普通に運動したり普通に友達を作ったりしている方がよっぽどいいと思うよッ?」
「そんなのっ……!!」
俺だって、最初はそのつもりだったのに。
それでもようやく、この学園でやっていけそうだと思ったのに。
「優しいだけじゃあ、この先やっていけないよッ?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
国頭優馬が意気消沈して部屋を出て行ったあと。
「なんであんな酷いこと言うかなぁ」
例によって、もう一人男が隠れていた。
彼は、葉月ゆずに向かって、ちょっと困ったような表情を浮かべていた。
「葉月君。君の言う事はそんなに間違ってはいないけど……まだ入学したばかりなんだから、そんな厳しくしなくてもさぁ……」
「申し訳ありませんッ。彼があまりにも甘っちょろすぎて、誰かにそっくりすぎたものでッ! ついッ!」
「え? それって俺のせいってこと?」
彼女はわざとかしこまった言い方をして、敬礼の真似事までしている。
「はいッ! 彼がこの学園に来ることになったのも、彼がTCGを辞める事になったのもッ! 全部あなたのせいですッ! 『王様』ッ!」
「こんな時だけその呼び方するのずるくない?」
かつて国頭優馬に王様と呼ばれ、師匠と呼ばれた男は大きくため息をついた。




