第23話 君はカードゲームが
俺達は奈津を中心にデッキを構築し、確実に1勝を取って貰って、男二人でどちらかが1勝を取るという作戦だった。
だが相手は1番をあえて抜かせて2,3番目に名前を書くことで、俺達の主力である奈津との戦いを避け、俺と武束のややパワーの低いデッキにそれぞれ相性のいいデッキをぶつける作戦だ。
イベント中に席の順番は変えられないし、最初に申請したデッキの色を変更することもできない。
したがって、この包囲網を抜け出すことはできない。
「つまらない」
対戦のできない奈津はどことなく不満そうな顔だ。
が、そんな悠長な事は言っていられない。
要は、俺達の主力である奈津とは対戦せず、俺と武束に対してそれぞれ相性のいいデッキをぶつける。もし俺達を潰そうと考えている人物がいるのだとしたら、非常に合理的と言わざるを得ない。
勝てない所は無理して勝とうとせず、確実に勝てるであろうところを取りにくる。
立派な作戦だ。
だが、なぜ俺達が狙い撃ちされているのか。それがわからなかった。
「……《キンググラン》!」
主力カードを早い段階で出す事ができた。こちらの場がこのユニットだけなので除去耐性もある。普通なら戦闘でパワー勝負にならなければ倒されることはないのだが。
「こちらは《[SR]ギルドの密偵》を出す。効果でそちらに《間者》トークンを出すぞ」
妨害ユニットを出されてしまい、こちらの場が1体ではなくなった。これではキンググランの除去耐性が無くなってしまう。
「さらに4コストスペル《[R]追放》で《キンググラン》を除外させる! 《[SR]ギルドの密偵》で攻撃!」
「……ぐっ!!」
今まで一度も倒されることが無かった主力カードがついに除去されてしまった。
しかも、悪い事は続く。
「ぐぬぐぬ! いやはやまいった!」
横で戦っていた武束が負けた。見ると、相手は盤面のユニットも手札も潤沢なのに、武束の盤面は空で手札も無い。
どうしようないほどの負けっぷりだった。
「いやいやすまない、優馬殿! 紙手殿! 負けてしまった!」
「役立たず」
「……気にしなくていいよ。武束」
奈津が辛辣な言葉を投げつけるが、元々相性的に不利な戦いだ。武束を責めることなんてできない。
とは言え、この不利な状況から、俺が勝たなければチームが負けてしまう。
重い。
潰れてしまいそうな重い責任がのしかかる。
「……君たちは、どうして2人チームを? いや、違う……誰がこの作戦を考えたんだ?」
思わず、対戦相手に尋ねる。
相手はちょっと驚いた顔をした。
「それは言えないな」
「……なんで俺達を狙い撃つようなことを? ……俺が『イカサマ王』だから?」
「別に俺はお前に恨みも無いし、今イカサマしてないんだったら過去の事はどうでもいいよ」
「だったら……」
「ただ、俺達のボスはお前らが勝ち進むのが気に入らないんだとよ」
「……どうして!?」
「さあな。目立つからじゃねぇの? 詳しくは知らねぇよ。興味もねぇ」
「そんな……」
せめて理由を知りたかったのだが。
「俺達はゆるく適当に学園生活を送りたいだけだよ。こんな、ちょっと間違えたら退学になりそうな学園生活じゃなくてな。あいつは、そのための場所を、システムを、提供してくれた」
「……システム? それは、一体……?」
「悪いけど、詳しくは言えねぇよ。そういう約束なんでな」
相手は肩をすくめる。
「でも、お前もそう思わないか? このイベントだってそうだ。上手いやつらは上手いやつら同士で集まって、強いチームを作る。だけど俺達みたいな中途半端な連中は、中途半端なチームしか作れない。そもそもチームを作れるかどうかも怪しいだろ?」
「それは……そんなこと……」
無い、なんて言えるだろうか。
自分は武束と奈津の2人がいてくれたからチームを組むことができたが、もしそうじゃなかったら。
「ゴールドを集めるのも、上位に行くのも難しいだろ? だから、こういうやり方をするしかないんだよ。誰かに従って、お前らみたいな目立つ連中の足を引っ張るしかないのさ。それが賢い生き方ってもんさ」
相手はそう言うと、話は終わった、とばかりに顎でプレイを促す。
……俺は……。
「……君は、カードゲームが好き?」
「は? 突然何を言い出すんだ?」
自分でも突拍子も無いとは思うが、気が付いた時には口から出ていた。
「……どうなの?」
「そりゃまぁ、こんな学園に来るぐらいだから好きだけどよ。それがどうしたってんだよ」
「カードゲームって、人によって好きなところが全然違うじゃない? プレイするのが好きな人もいる、勝つのが好きな人もいるし、集めるのが好きな人もいるし、デッキを作るのが好きな人もいる。同じことをやってるのに、色んな好きがある。でも俺は、そういう所がいいと思うんだ」
気づくと武束も、奈津も、黙ってこちらを見ていた。
そして対戦相手は呆れたような顔をしていた。
「『イカサマ王』……いや、国頭優馬。そういうお前も、実は滅茶苦茶カードゲーム好きだろ? どんだけ語るんだよ」
「……あー……」
どうなんだろう。
俺はもう、カードゲームなんてこりごりだ。
何も悪い事をしていないのに『イカサマ王』だと揶揄されて、仲間外れにされて。
カードゲームなんかしていても、辛いことしかない。
もう、やりたくない。
ずっとそう言い聞かされて、言い聞かせてきたけれど。
「……正直、わからない。でも、ただ一つ言えるのは……」
圧倒的に不利な状況。絶体絶命の危機。
それでも俺は。
「……俺は、負けたくないっ!!」
楽しい。楽しい楽しい楽しい!!
湧き上がる興奮を抑えられない。
「メタデッキだからずるい、負けて当然だ。なんて言わないよな?」
「……言うわけ、ないっ!」
そして、負けもしないっ!
確かに相手のデッキは相性が悪いが、そんな事これまで何度も経験したことだ。
俺を信じてくれている仲間たちのためにも、負けるわけにはいかなかった。
この程度の不利ぐらい、どうにかしてみせるっ!
「……8コストスペル《[SR]騎士の絆》!」
これは、今日引いたばかりのカードだ。
山札から騎士カードを3枚直接場に出す事ができる。
コストが重たい上に、単独で真価を発揮する《キンググラン》とは真逆のコンセプトのカードだが、それでもカードパワーの高さを見込んでデッキに投入した。
「5コスト《[SR]見習い勇者―ディル》、3コスト《[R]魔法騎士》、4コスト《[R]パラディンナイト》の3枚を場に出す……!」
孤高の王者は、進化する。
「舐めんな! ちょっと並べたぐらいじゃ状況は覆らないぜ 3コストスペル《[UC]ギルドの流通網遮断作戦》でそっちの騎士を2体除外するぜ!」
緑の騎士カードへのメタカード。他の色へはまったく効果が無い分、俺のデッキには痛いほど突き刺さる。
「だろうね……だからここはギャンブルさせてもらう! 5コストスペル《[R]緊急招集》!」
デッキの一番上のカードをめくり、それが騎士カードなら場に出して相手のユニットと強制的に戦闘するカードだ。
本来、このカードは他のカードでデッキトップを確定させてから使うのだが、今の俺の手札にその手段は無い。
単体で使うにはかなり運に頼ることになるカードだ。普段の俺ならまずやらない。
だが、これだけ不利な状況を打破するためには、こちらも腹をくくらないといけない。
「いいぜ、こいよ! お前の勝負強さ見せてみろよ!」
ここで外すと、ユニットの数で押し切られ、そのままライフを削らて負けるだろう。
だが、当たりを引くことができれば。まだ、戦える。
「ぐっ!」
捲れたカードは、6コストの騎士ユニット《[SR]騎士団長-エレーナ》。
パワーだけならキンググランをも凌ぐ俺のもう1枚の切り札だ。
「よし、これなら……!」
そのまま時間いっぱいまで戦い、最後にはどうにか相手のライフを0にすることができた。
よかった。勝てた。
脱力して、椅子から転げ落ちそうになる。
相手は、そんな俺に手を差し伸べてくれた。
「対戦ありがとよ。……お前、やっぱカードゲーム好きなんじゃねーか」
「こちらこそ、ありがとう……」
手をつかんで感謝しつつも、起き上がりつつも首をひねる。
「……俺、まだカードゲーム、好きなのかな?」
仲間達は、さもありなんとうなずいていた。
「どうみても。そう」
「うんうん、違いない!」




