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浅薄とかお粗末とかそんな類


 ウィルソン・バートがマリーノ・ファミリーを脅し、しかも美術品を手に入れている。

 それはまたおかしな話になってきた。彼は確かバート貿易の社長だったはずだ。商売としての仕入れであるならとも考えたが、盗品を商品にするのはリスクが高すぎる。

 考えられる可能性としてはコレクションだけど……。


「収集趣味とか、そういうアレですか?」

「そうだったらまだ良かったんですけどね……。商売に使う予定だったそうですよ。もちろん悪い意味の、ね」


 シグルド様はそう言うと、タブレットをテーブルの上に置いた。操作すると画面に保存してある写真が現れた。

 絵画に骨董品、宝飾品。中には図鑑に載っているような代物まである。


「これらが押収品の一部です。どれもカベルネ国でマリーノ・ファミリーが盗んだ物でした」

「また高そうなものが揃ってますねぇ……」

「って、うわ! これマルセル・マイヤーの絵じゃないですか! 昔、美術館にあったものですよね?」


 芸術作品が好きな兄が、絵画の一つを見てそう言った。花が咲き誇る庭で本を読む女性を描いた美しい絵画だ。

 兄の言葉にシグルド様は「そうです」と頷く。


「美術館から盗まれたものを、さらに盗んだみたいですね」

「で、それをさらにウィルソン氏が、と」

「うわぁ……」


 何という犯罪の上塗り。思わず唖然としていると、シグルド様はウィルソンがこんなことをしでかした理由を教えてくれた。

 ウィルソンはマリーノ・ファミリーに奪われた美術品を、それらを所有していた資産家に『取り返しました』と言って返す予定だったそうだ。

 理由は単純に「恩を売るため」だそう。


 そもそもマリーノ・ファミリーの手口は、盗んだ美術品と一緒に資産家達の悪事をまとめてカベルネの軍に渡すというものだった。

 つまり美術品を軸に悪事を暴くというやり方だ。だからそもそも美術品という証拠がなければ成立しない。

 いくら元々『疑わしい』と思って見ていても、確証と証拠がなければ捕まえることはできない。調査された書類だけ送られてきても、出所の分からない情報で、しかも世間にはそれがマリーノ・ファミリーからのものだと知られている。証拠がなければ、今までいの実績があったとしても信ぴょう性に欠ける。

 空賊からの情報を元に、軍で裏付け捜査をして初めて確証を得る。そして逮捕する、というのが、マリーノ・ファミリーが絡んだ件についての流れとなっていた。


 ならいっそ盗まれたままで、手に元に戻って来なければ良いのではないか?

 そうも思ったが、人は見えない不安こそ大きく感じる。後ろめたいことをやっていればなおの事だ。

 どこで盗まれた美術品が見つかり、どういうタイミングで自分の悪事が暴かれてしまうのか。その不安を感じながら日々生きるというのは、なかなか精神的によろしくない。

 まぁもっとも、せっかく手に入れたものを奪われてしまって「許せん!」となっている部分も、あるのだろうけれど。


「うーん……。でもそれ、恩を売ったところで、そんなにメリットがありますか? 弱みを握る形にはなりますけど」

「彼にとってはメリットがあるようですよ。どうやらそこで出来た繋がりを軸に、アシュとナーサを、カベルネの資産家と縁付かせようとしていたらしいのです」

「は?」


 私と兄は思わずぽかんと口を開けた。

 縁付くというと……結婚? あの双子を結婚させるつもりでいたの?

 これはさすがに反応に困った。私達が困惑しているとシグルド様は、


「もちろん直ぐではなく、結婚可能な歳になってかららしいですけどね。そうして出来た縁を利用して、カベルネ国へさらに商売を広げようと考えていたそうです」


 そう話してくれた。あまりに頭が痛くなる内容だった。

 我が家で横柄な態度を取っていたシンディの言い分も大概だったが、ウィルソンのそれも似たようなものだ。なるほど親子なんだな、としみじみ思ってしまった。

 これにはさすがの兄も頭を抱え、


「浅薄……ッ! あまりに浅薄……ッ! そもそも自分の子供を何だと思ってるんだ!」


 と唸った。私も同意見である。

 自分達の都合でしか家族のことを見ていないのだろう。


「そもそも悪評のある人達と縁付いたところで、将来的にもマイナスなのでは……」

「そこは本人もあくどい事をしている自覚があるからでしょうね。だから似たような連中を選んだんでしょう。金があるということは、ある種の力ですから。それに……都合も良かったんでしょうね」


 最後は呟くように小さく言って、シグルド様は双子の方へ目をやる。

 何となく、言わんとしていることは伝わって来た。たぶんウィルソンは、疎んでいる子供達を体よく追い払える上に、自分の利益にもなるからという意図もあったのだろう。

 とことん彼にとってあの子達は邪魔な存在だったのだろう。

 そこまで自分の子を嫌う理由がわたしにはわからない。血のつながりのないサリーさんの方がよほど親らしい。

 取り返しがつかなくなる前で良かったと思う反面、複雑な気持ちになった。


 ……それにしても。

 ウィルソンの理由は分かったけれど、疑問点はまだ残る。

 シャヘルの貿易商が、カベルネの空賊とどうやって接触を持ったのか、という部分だ。


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