それでも、王子は運命を進む
シルフィは、そのままグランドールの部屋に居座った。いつの間にかグランドール付きの奏者となっていた。奏者というわりには、彼女は頼んでもないのに勝手に琵琶を弾いた。そのタイミングは絶妙でグランドールが勉学をするときは気配を消して、いないものとなった。しかし、グランドールが物思いに耽るときや、寝付く前はシルフィは音楽を奏でた。
最初は眉根をひそめていたグランドールもシルフィの察しのよさに根負けした。空気のように側にいることが当たり前になり、彼女が奏でる曲に耳を傾けた。
シルフィは不思議な女で感情が見えなかった。異国を思わせるその風貌に似て物言いも不遜だ。グランドールのことを”坊や”と呼び、畏まった言葉も使わない。それに呆れることはあるが、嫌だとは感じなかった。
心地よい琵琶の音色と共に、姉の死の悲しみが薄れようとしていた。
一方で自身の体調で些細な変化が起きていた。寝不足が続き、常に気が張った状態だったからか、手の震えや目の霞みが時折出ていた。元々、疲れている時に出ていたささやかな変化のため、グランドールは大して気にもしなかった。出ていても、疲れているのだなと思うだけだった。
シルフィの存在で姉の死の悲しみを乗り越えようとしていたグランドールだったが、彼を駆り立てる出会いが一つあった。
それは、後にメロの侍女となるマリアンナだ。
彼女は元々、ロザリーナ付きの侍女で、幼少期からロザリーナを見てきた人物であり、前主の死に納得していなかった。
自室へ戻る途中、声をかけられたグランドールは、マリアンナの昏い紫色の瞳を見て怪訝な顔をした。彼女の存在は知っていた為、話がと言われて、自室にて話を聞くことにした。シルフィはマリアンナの姿を見ると黙って出ていった。二人きりになると、グランドールは単刀直入に話の内容を聞いた。
マリアンナは紫色の瞳の奥に憎悪を宿らせて、グランドールの前にひざまずいた。
「わたくしめを殿下の駒としてお使いください。殿下へ絶対の忠誠を誓います……」
グランドールは小さく息を飲んだ後、静かに問いかけた。
「何を期待しているのか分からないが、俺はいない子供だ。お前への期待には答えられない」
ゆるりとマリアンナが顔だけを上げる。瞳の奥に宿った憎悪は燃え盛り、グランドールを圧倒した。
「いいえ。あなた様ならやり遂げます。死神の鎌で悪を切り裂くと信じております」
マリアンナは瞳の強さはそのままに、双眸から涙を流した。
「っ……ロザリーナ様を抱きしめてくださったあなた様なら……きっと……きっと! きっと!!」
マリアンナが肩を震わせて泣いた。その感情を、グランドールは痛いほど分かってしまった。グランドールの脳裏にロザリーナの笑顔が過り、封じた心が解放された。
拳を握りしめる。手のひらの中には何もないというのに、破壊の鎌が握られたような感触がする。
壊せ。壊せ。壊せ。
自分を死神と呼ぶのならば、全てを思いのままに壊しつくせ。
泣き虫な少年はこの時、消えた。
「分かった……」
思った以上に低い声が出た。グランドールはマリアンナに視線を合わせるように、膝をつく。
「お前を使わせてもらう。付いてこい」
その言葉に、マリアンナは咽び泣いた。
マリアンナとの出会いから、グランドールは準備に取りかかり、行動に出た。家庭教師だったバロックは彼の相談役となり、彼を補佐する地位に就いた。十五歳を過ぎ、成人をした彼は、マグリット辺境伯爵がいる水の領地へ行くことを王に申し出た。
「水の土地に行くか」
「はい……この国の要を守るべく力を捧げてきます」
王は冷たい瞳でグランドールの真意を探ってきた。
「国のためか……情け深いお前の言葉とは思えんな」
「そうでしょうか? 私もこの国の王子です。国のために仕えたいと思うのは、自然なことです」
王は空洞のような焦げ茶色の瞳でグランドールを見据える。
「ロザリーナの復讐でもするつもりか」
短い言葉にグランドールは顔色を変えない。
「いいえ。無用な血は流しません。姉上もそれは望まないでしょう」
王は黙ったため、返事を待たずに考えを述べる。
「陛下とて、このまま奴らが何もしないとは思ってないでしょう。だから、行くのです」
あの悲劇を起こさせない。
歯噛みするだけの日々と決別を。
「私は私のやり方でこの国の民を守ります」
王は口の端を上げた。
「よかろう。ならば、やってみせろ」
王はグランドールに命じた。
「お前に国防の任を命ずる。マグリットと共に国の防衛に勤めよ」
「御意」
「お前の甘い考えで、どれだけの命が救えるか見せてもらおうか」
その挑発にもグランドールは、眉ひとつ動かさなかった。
―――― side 王
グランドールの水の領地への着任が決まり、上の兄や母のベリートに動揺が広がった。
血の気の多い第二王子アッカースは特に憤慨していた。怒りのままに、執務室にいる王に詰め寄った。
「あの地を任せるなど! アイツを政に介入させる気ですか!」
アッカースは、グランドールは日陰の存在で、王子とはいえ王位継承権などはないものと思い込んでいた。王もグランドールに対しては、「王座からは最も遠い」と自分の前で発言をしていたし、その言葉通りだと思い込んでいた。
それを突然、水の領地を任せるなど、三人にとって青天の霹靂もよいところだった。
二つに分断されたとはいえ、グリッド国の情勢はまだ安定はしていない。必然的に近接する水の領地も緊張感が走っている。自然と国民の注目も高くなっていた。
小競り合いが起きなくてもその土地を守りきれば、強き王として民に印象づけられる。実際に王となったときの箔がつき、民を心酔させやすいだろう。
今は不安定な情勢のため、二人の王子のどちらも着任してはいないが、いずれ第一王子のトリンドが水の領地を治めて、王都へ戻るというのが三人の筋書きだった。
尤も、王から明言されていない絵空事に過ぎない筋書きではあったが。
シナリオが大きく狂わされて三人は、王へどういうことかと言及していた。
王は普段通りの冷たい表情のまま、短い言葉をはく。
「その通りだ」
「っ……!」
アッカースは理解ができないと視線をさ迷わせたが、王もまた、彼の困惑が理解できないという顔をした。
「我がいつグランドールを政から外すと言った。息子は二人ではない。三人だったはずだ」
アッカースは体を硬直させ絶句する。王は話が終わったとみて、退室するように三人に目配せした。
アッカースは怒りをあらわにして退室していく、他の二人も何か言いたげな顔をしたが、王の覇気に気圧されて出ていった。
三人が出ていくと、王は控えていた侍従を呼び寄せ、言付けをする。
「バロックに伝えておけ。毒に気をつけろと。これ以上、子を死なせることのないよう警戒をしておけ」
王とマグリット辺境伯爵とは旧知の仲だ。その息子であるバロックをグランドールにあてたのも彼の意向だった。バロックは四男という微妙な生まれだったが、戦上手なマグリット家の中では剣の才能に、最も恵まれていた。
グランドールの周りには王妃や他の王子に気づかれない程度に最善の人事を尽くした。ベリートの手前、グランドールを表立っては庇えない為、裏から手を回した。そんなこと、グランドール自身は知るよしもないが、それでいいと思っていた。
父親の顔は赤子の時に捨てたのだから。
グランドールを気にかけるのはカーラ似の黒髪だったからという訳ではない。他の王子たちにも目をかけ、教育を施したが彼らは期待はずれだった。
彼らは表面上だけ大人だが、中身はまるで赤子だ。彼らは王には向いていない気質だったのだろう。
彼らは自らの意思で良き運命のカードを逆位置にしたと、王は思っていた。タロットカードには絵柄を反対から見ると別の意味合いになる。
第一王子のカードである「皇帝」は支配者の意味を持つが、逆位置は ”指導力の欠如” という意味に変わる。
第二王子のカードである「法王」は、よき相談役の意味を持つが、逆位置は”悪意や歪み”という負の意味に変わる。
彼らは運命を変えて歩き出してしまった。だから、自ずと期待はグランドールに向かった。
グランドールも成人を迎えた。
そろそろ王の道へ引き上げてもよい頃だ。ベリートたちの反感はあるだろうが、抱き込む腹積もりだ。その用意も着々と進んでいる。今回の人事はその一手にすぎない。
グランドールが王位を望み、その道を行く気ならば、最大限に尽力しようと思っていた。だが、懸念はある。
「……あれは優しすぎる性格だからな。さて、どうなるか……水の地でお前は何を見る。グランドールよ」
自分の望みが叶うかもしれない。
予言された運命のままに。
未来を想像し、王は静かに目を伏せた。
―――― side グランドール
王の予見通り、王妃ベリートの入れ知恵かその日の晩餐でグランドールの食事に毒が盛られた。
グランドールはいつものように自室の次の間に用意された食事を見て眉根をひそめた。そして、鼻で笑う。
「分かりやすい小細工だ。よほど時間がなかったと見える」
異国風の料理だからという理由でいつもの銀食器は使われず、木の皿や色鮮やかな陶器の皿で料理が盛られていた。
兄たちの嫌がらせに慣れていたグランドールは、今回の赴任が兄たちの反感を買うことは予期できていた。母がかつて父王の寵愛を受けた女に毒を盛ったこともバロックを通じて聞いていた。同じ策を使われて、人の本質は変わることはないのだな、と妙に感慨深くなる。
ただ、わからないのは父王の考えだ。随分、あっさりと自分の意向を汲んだ。何を考えていると、思案するが考えを巡らせることを放棄した。父王はただの傍観者でいてくれた方が、都合がよいからだ。
それにしても……と、目の前に差し出された彩り豊かな料理に銀のフォークを突き立てて、グランドールは口の端を上げる。
「邪魔だな……何もかも……」
兄も母も王も。全てが煩わしい。
グランドールは黒い眼を細めて、串刺しにした料理を見つめる。先が変色した銀のフォークを見つめる。微量の毒だ。命を奪う気などないだろう。振り返れば兄たちのお遊びはグランドールの命を消すものではなかったな……妙な気持ちになる。控えていたバロックを視界の端に捉えながら、独り言のように呟いた。
「いっそのこと、悪意は食らってしまおうか」
くつくつと喉を鳴らして笑うと、バロックの咎める声がした。
「同じ土俵に上がることはありません。悪意は無視すればよいかと」
「だが、兄たちのお遊びに付き合うのも一興かもしれないぞ? ここで倒れるならば、俺の命運もここまでというまでだ」
バロックは険しい表情をして、殿下……と、咎める。冗談だと、グランドールは言い、もう一度料理にフォークを突き立てた。鴨肉のローストを抉るように動かし、歯を見せて笑う。
「まぁ……いずれご退場して頂くさ。晩餐はこれにしてな」
グランドールはフォークから手を離すとバロックに目配せした。
「兄の息がかかったネズミが噛みつく前に出立する。窮鼠は何をしでかすか分からんからな」
姉の死から、我を忘れ暴徒化した人間の凶行をグランドールは痛いほどわかっていた。兄の圧力に耐えきれず、息のかかったものが手段を選ばずに襲いかかってくるかもしれない。その前にこの地を去った方が懸命だろう。
グランドールの言葉を受けてバロックは頭を下げた。
彼は兄たちを牽制しつつ、数日後には数人の侍従と共に水の領地に向かって出立することになった。
出立する前の晩、シルフィはいつものように琵琶を弾き、グランドールはそれを聞いていた。耳に慣れた音楽を聞くのも今日が最後だ。そう思うと哀愁が込み上げてくる。それにグランドールは自嘲気味に笑った。
まだどこかで姉の面影を捨てきれない自分がいる。甘いの……と、一瞬だけ笑みを深め、それを振り払うように、シルフィに向かって声を出す。
自身の甘さと決別するために。
「俺はいずれ王となり、全てを壊す。俺は俺の理想の為に、戦いは終わらせる」
今は力がなくとも、流れる血を止めたい。その為ならこの身に流れる血が絶えることも厭わなかった。むしろ古いものを一掃した方が、次の世代では安寧がくるかもしれない。
自分は破壊の子。運命がそう強いるなら、自らその道を行こう。
グランドールの腹は決まっていた。
シルフィは彼の覚悟を受け止めるように妖艶に笑う。琵琶で旋律を奏でながら、グランドールに向けて軽口を叩いた。
「坊やがそうしたいなら行くがいいさ。坊やの道を止めはしないよ。ただ、まぁ……ひとつだけ教えとく」
シルフィの指が琵琶の弦を弾き、曲が余韻を持って静まる。
「物事を一つの側面だけで見ちゃいけないよ。お前さんの運命だって、反転させれば違う意味になる」
「どういうことだ?」
「そのまんまの意味さ。破壊された大地の後にも新芽は芽吹く。生きようとする命がある限りね」
シルフィは褐色の指をゆったりと上げて、グランドールを捉える。
「お前さんのカードは逆位置にすれば、”再生”を意味する。坊やの道がそうなることを祈っているよ」
――再生。
更地の大地に芽吹く新芽のように、新しい時代を作る礎となれと言われているような気がした。
グランドールは口の端を上げる。シルフィの言葉は彼にとってこの上ない、はなむけの言葉だった。
「最高の選別だな」
シルフィは銀色の瞳を細め、また琵琶を弾き出した。
―――― side シルフィ
シルフィはグランドールが寝付くと、まだあどけなさの残る寝顔に目を細める。
「こうして見ていると、まだまだ坊やだねぇ……」
この国では成人を迎えたとはいえ、彼は十五歳である。彼は背負う者から大人にならざるをえなかったが、ふとした瞬間に見せる顔は子供らしさが残っていた。
くすりと笑い自分に与えられた控えの間へと足を運ぶ。そこには先客がおり、柔和な面立ちでシルフィを待っていた。
「バロック。このような夜更けに何のよう?」
調べのような声色で尋ねると、バロックは小さく肩を竦めた。
「挨拶をしておこうと思ってね。……殿下はもう寝付かれたのか?」
「あぁ……よく寝られているよ」
シルフィはバロックが座っていた長椅子には座らず、窓際にある台座に腰掛け窓の外を見る。空には命を燃やすように星が瞬いていた。それを彼と亡くなった主に重ねてシルフィは目を細める。
「バロック。挨拶の代わりに一つ、頼みごとを聞いておくれ」
「なんだ?」
「殿下の体に注意を払ってくれ」
そう言うとバロックは片眉を上げて、意味がわからないという顔をする。シルフィは口元から笑みを消した。
「殿下の体に異変が起きているよ。無意識に手を震わせていたりしているからね」
「まさか……」
バロックは全く気づいていないという顔をした。この男はシルフィほど察しはよくない。忠誠心の強さはあるが、それが仇となってグランドールの意向に添いすぎるところがある。シルフィは釘を刺すつもりだった。自分は側にいられないのだから。
「些細な変化だ。殿下すら気に留めてないだろうね。だが、万が一に備えた方がいいよ。坊やは姫様とそっくりで、生き急いでいるからね」
そう言うとバロックは神妙な顔をして頷いた。
彼が部屋から出ていくとシルフィは星を仰ぎながら琵琶を弾く。亡くなった者を弔うための鎮魂歌が弦から響きだした。
思うのは亡きロザリーナのこと。シルフィはロザリーナに頼まれてグランドールに近づいた。彼女は散る直前まで弟のこれからを案じていた。
『――お願い、シルフィ。わたしの代わりにあの子を見守って』
黄泉地へ旅立つロザリーナの願いを自分は託された。だが……
「姫様……すまないねぇ……アタシにはあの子を止めることはできないよ」
「あの子は姫様とそっくりだ。願いの為に命を燃やす子だよ。アタシには止められないよ……」
シルフィは哀愁の瞳で星を仰ぐ。
その時、一つの星が涙のように流れ落ちた。
――――side グランドール
グランドールが着任した水の領地はマグリット辺境伯爵が出迎えた。彼は将軍と呼ぶに相応しい屈強な体つきで、バロックとは違い、明け透けなく物を言う男だった。
グランドールは着任早々に、彼に命を出した。
「なんと……戦が始まっても防衛に徹するというのですか?」
「そうだ。深追いはするな。捕虜もその場で殺すな。生かしておけ」
その命令にマグリットは深い息を吐いた。休戦中とは言え、国境線では変わらずのにらみ合いが続いている。明日、何が起きてもおかしくはない状況ではあった。その日に備えてマグリットは武力が低下しないように、兵士の訓練を怠っていない。いつでも戦ができるように万全の準備をしていた。
代々、この水の領地を任せられてきたマグリット家は異国の過激派の行動原理を知っていた。彼らは神の聖戦と称して戦に臨み、自爆も辞さない覚悟だ。まさに自我を忘れた凶器。そんな相手に防戦とは、相手の士気を高めるだけではないか。
後半の命令は分かる。王都で公開処刑をするために生かすこともあるからだ。しかし、グランドールの物言いはどうも違うようにマグリットは思えた。
「防戦一方では士気に関わりますぞ。先の戦では、多数の死者がでました。同じ釜の飯を食った相手を殺された。そんな彼らに前に出るなとは、殿下は兵をただの駒として見ておられるのか」
マグリットの言葉にグランドールは同じような厳しい眼差しで言う。
「ただの駒に血潮が流れるか」
グランドールは一喝した。
「敵の懐に入って無駄な血を流させるな。兵は無数にあるものではない。攻戦にでるのは打ち崩す土台ができた時だ」
マグリットはその言葉に低い声を出す。
「土台なんぞ。作られますかな……」
今の国王が静観していることをマグリットは骨身に沁みるほど分かっていた。その状況にならざるを得ないことも。今回、グランドールという切り札を使ったことで、自分の代で終わらせられるかもしれないという淡い期待があった。しかし、目の前の坊っちゃんは甘い夢でも見ているようだと、マグリットは辟易していた。
そんな彼の心を見透かしたように、グランドールは口の端を上げる。
「土台はこれから作る。今は圧倒的に情報が足りない。敵の情報を得る系統が作られていないからな。捕虜からもそれを聞き出す」
マグリットは鼻で笑う。
「奴らが話すとは思えませんな。話す前に舌を咬みきって自害するでしょう」
「……全ての人間がけいけんな異教徒というわけでもなかろう」
グランドールは状況の打開策を模索していた。だが、策を練ろうにも敵の情報がこの地には入っていない。向こうがなりふり構わず攻めて来ていたため、同じ土俵に上がってしまい、感情が先立ってしまっていた。そうなるのも仕方ない。動かずの王家。一度、ロザリーナの輿入れはあったが、結局、過激派に敗北した。それにより、自分たちが守らなければという意識が以前に増して、領地内で高まっていた。それを抑え込むのもマグリットの役目であり、頭の痛い問題だった。
そんな反感をグランドールは全て捨てることなく聞き入れた。相手を軽んじることはなく、着実に兵の構造を変えていったのだ。
グランドールへの反感が沈静化したのは、やはり戦いだった。グランドールの読み通り、敵の一部が暴徒化した。
彼はそれを最小限の流血で押し返した。
「生きて勝機を待て。命を散らすことを美徳だと思うな!」
陣形を変えたことが功を奏した。相手の動きが無鉄砲で単調ということもあったから余計にだ。
グランドールは潔癖なまでに無駄な流血を好まなかった。
また情報を得るために、弱腰なグリッド国の穏健派へも密通する為に間者を送り込んだ。
「……我々と通じるものが出てきますかな」
マグリットは怪訝そうな顔で言葉を吐いた。今のグリッド王は、先王の弟にあたる者が擁立されている。その王弟も、先王と同じく争いを好まない弱腰な人物だ。
グランドールは目を細めて笑う。
「王家が一枚岩だとは限らん。我が国がそうであるようにな」
これは後に、グリッド国王の息子、ザックとの出会いをもたらす。
二年駆け抜け、グランドールは戦いの終止符を模索し続けた。
そして、何も持たない少年と、何も持たない少女と出会う。
その二人との出会いが戦いを止め、グランドールの戦いを加速させることを彼はまだ知らなかった。




