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序章06.5 初めての任務

序章 間章6.5話 初めての任務

▼1

事故から二週間後。

まずは現状をはっきりさせておこう。夢人(ゆめと)の魂は君語の体に、君語の魂は夢人の体に宿っている。そしてもともと夢人のものだったその体は、今この瞬間も馬偕記念病院の二〇一号室のベッドに横たわり、たくさんの機械につながれて呼吸をしている。言い換えれば、この家の息子は「その場にいる」のに、自分自身の中にはいないのだ。この状況をひと言でまとめるなら、たぶんこうなる——世界でいちばん説明に困るお見舞い。

馬偕記念病院、二〇一号室の前。消毒液の匂いは、かき分けられそうなほど濃かった。午後の日差しが斜めに廊下へ差し込んでいるのに、誰の顔も温めてはくれず、宙を舞う埃をくっきり照らし出しているだけだった。ドアの向こうから機械の規則正しい電子音が聞こえてきて、あの人がまだ目を覚ましていないことを思い出させる。ときどき看護師がカートを押して通り過ぎ、車輪がテラゾーの床でごろごろと音を立てたが、この家族に二度目の視線を向ける人はいなかった。ここでは誰もが、自分だけのドアを守っているのだ。

「ママー! 今日もお姉ちゃんが、お兄ちゃんに会いに来てくれたよ!」

小薇(シャオウェイ)がぴょんぴょんと跳ねた。二本のおさげがうさぎの耳みたいに揺れる。彼女はふいに「君語」の冷たい手をつかんで、顔を見上げた。怖いという言葉を、まだ知らない顔だった。

「お姉ちゃんの手、すっごく冷たい。お兄ちゃんみたいに、お姉ちゃんも病気なの?」

夢人の魂が、この体の中でびくりと震えた。「お姉ちゃん」という言葉が重すぎた。お姉ちゃんは君語で、お兄ちゃんは自分だ。二つの呼び名がひとつの手の上で重なって、彼は膝をつきそうになった。さらにたちの悪いことに、それを訂正することもできない。訂正する方法はひとつしかないからだ。こんなに小さな子に、「お兄ちゃんは君のすぐ隣にいるよ。ただ、お姉ちゃんの姿になっちゃったんだ」と告げること。

母親はその隣に立っていた。目の下のくまが、二本の痣みたいに深い。彼女は「君語」に向かってどうにか笑顔を作ろうとした。泣き顔よりもつらそうな笑顔だった。ひび割れた唇が何度も動いて、ようやくひと言だけ絞り出す。

「……本当にごめんなさいね。毎週わざわざ来てもらって……」

彼はうつむいて、爪を手のひらに深く食い込ませた。彼女の手だった。痛いのは、彼だった。声が震えて、言葉になりそうにない。

「いえ、そんなこと……謝らなきゃいけないのは、俺……私のほうです」

母親がふいに手を伸ばして、この体を胸に抱き寄せた。痩せて、震えている腕だった。それなのに、絶望に近いほどのやさしさに満ちていた。肩からは柔軟剤の匂いがした。子供のころからずっと嗅いできた、あの匂いだった。夢人には、母親の心臓がひどく乱れて、疲れきっているのがはっきりと聞こえた。母は彼に気づいていない。それでも、息子の彼女として、見舞いに来てくれるいい子として、まだお願いごとを口にできる相手として、彼を抱きしめていた。

(母さん。俺はここにいるよ。母さんの腕の中に、いるんだよ)

彼は心の中で声を限りに叫んだ。喉が痛くなるほど叫んだ。でも、口からは一文字も出てこなかった。口にしたら、この体はこの家から引きはがされてしまう。そうしたら小薇は、これから誰を「お姉ちゃん」と呼べばいい?

母親の涙が、とうとうあふれた。熱いしずくが、彼の肩に落ちる。

「夢人は……ちゃんと目を覚ますわよね? お母さん、本当に……本当にもう、あの子しかいないの……」

小薇もつられて泣き出した。それでも健気に手を伸ばして、母親の涙を拭こうとしている。その幼くて、どうしようもなく無力な仕草は、なまくら刀のように彼の胸に突き刺さった。すぐに命を奪いはしない。ただ、いつまでも痛み続けるだけだった。

彼は初めて、本当の意味で思い知った。自分が「死んだ」ということが、この家族にどれほど深い傷を残したのかを。二〇一号室の緑のランプは、まだ点滅している。廊下に残ったのは、消毒液の匂いと、二本のおさげと、口にすることのできない「母さん」というひと言だけだった。

★ ★ ★

▼2

お見舞いを終えて、彼はいつものようにひとりで家に向かった。

このあたりの地理を少し補足しておこう。病院から君語の家までは、大通りを二本と、アーケードが軒を連ねる古い街並みをひとつ抜けなければならない。途中にはコンビニが三軒、朝ごはんの店が二軒、それからいつまでたっても工事の終わらない歩道橋がひとつある。つまり、後ろから誰かにつけられても、にぎやかな明かりや看板に完璧にまぎれてしまう道だ。尾行する側には都合がよく、される側にはまったくもって厄介な道だった。

アーケードの下の路地に入ったところで、彼の声は重く沈んでいた。

「結局……最後まで言えなかった。俺が、夢人なんだって」

そのとき、銀行の清掃員の制服を着た中年の男とすれ違った。男のゴミ袋が、スカートの裾をかすめる。背筋にいきなり鋭い痛みが走り、手に刻まれた六道の印が淡い金色に光った。光が皮膚の下を這い回る。誰かが、指の関節でドアをノックしているみたいだった。

「これって……任務ってことか? いきなりすぎるだろ!」

地蔵王(じぞうおう)の低く厳かな声が、頭の中に直接響いた。電話のように聞こえてくるのではない。脳天に直接叩きつけられるのだ。

「然り、夢人。汝の出番だ。人間道の力を宿す者よ」

初めての任務は、何の前触れもなくやってきた。手のひらに冷や汗がにじみ、この体の心臓が胸を突き破りそうなほど激しく打つ。地蔵王には「世の中の悪を裁く」と約束した。なのに、目の前の悪は、ゴミ袋を引きずっているただのおじさんなのか?

(口で言うぶんにはかっこいいヒーローなんだけどさ。実際に見えてる光景は、五十歳くらいの、ちょっと猫背のおっさんだけなんだよな。手に持った黒いゴミ袋から、水がぽたぽた垂れてるし)

「お、俺……どうすりゃいいんだ? と、とりあえず、あとをつけてみるか!」

歯を食いしばってあとを追う。でも歩幅はスカートに縛られて、どうにも思うように進めない。思わずこの体に文句を言いかけて、すぐにその言葉を飲み込んだ。こんな文句を、彼女のせいにするべきじゃない。

清掃員の蔡阿明(ツァイ・アーミン)は、イヤホンでMP3を聴きながら歩いていた。そのせいで、背後の小さな足音には気づいていない。

「ん? 気のせいか? 誰かにつけられてる気がする」彼は心の中でぼやいた。「しっかし、さっきすれ違った小娘、ずいぶん短いスカートはいてたな……」

男は銀行の脇の路地から隣のオフィスビルに入り、いつもどおり一階のゴミを片づけ、交代を済ませてから二階と三階のトイレを掃除した。最後に、ゴミ袋を非常階段の横の大きなゴミ箱まで引きずっていく。このあたりには、防犯カメラが一台もない。カメラのない場所までたどり着いたところで、おじさんは仮面を脱ぎ捨てた。

夢人は曲がり角に身をひそめて、心の中で頭を抱えていた。

(待てよ。これ、むしろ俺のほうが不審者っぽくないか!? このまま尾行して見つかったら、どう言い訳したって無理だろ~)

蔡阿明がいきなりゴミ袋を放り出し、四階の分電盤に向かって駆け出した。

「どういうことだ? このへんには何も——」

すべては遅すぎた。電源が落とされ、ビル全体が一瞬で闇に沈み、警報がけたたましく鳴りはじめた。暗闇の中から、工具で銀行の金庫をこじ開ける音が聞こえてくる。骨が折れるような音だった。

防犯システムがフル稼働し、ベルが鳴りやまない。夢人の目の前は真っ暗で、よりによってこの体のスマホは電池切れ。明かりすらつけられない。(こんなツイてないヒーローがいるかよ!)初めての任務が、こんな形でコントになりかけていた。

下の階から足音が急速に迫ってきた。後ろにいた女子高生に見られたと気づいた蔡阿明の目に、凶暴な光が走った。男は背後から彼女を抱きすくめ、太い腕で首を力いっぱい締め上げた。

「この小娘が! よくも俺をつけてきやがったな! 俺がどれだけこの金を必要としてるか分かってんのか!」

「い、いや……違う。お前は知らなくていい。ここで死んでもらう!」

冷たい殺気が目の前に広がった。君語の筋肉の記憶がまたポーズを取ろうとしたが、首を締められていて身動きが取れない。必死に振りほどこうとした。慌てすぎて、自分に人間道の力があることすら忘れていた。あのリボルバーを手のひらから呼び出す方法も分からなかった。

(まさか初出動で、いきなりゲームオーバーなのか……)

意識が闇に落ちる寸前、左手からまぶしい白い光がほとばしった。銃ではなかった。〈心霊同調(マインドシンクロ)〉は、彼が技名を叫ぶのも待たずに、彼を他人の人生の中へ引きずり込んでいた。

★ ★ ★

▼3

ここで、〈マインドシンクロ〉という力がどういう仕組みなのか、先に説明しておく必要があるだろう。

ざっくり言えば、「人に触れたとき、その人の人生ごとまとめて受け取ってしまう」力だ。しかも、どの部分をどれだけ受け取るかは選べない。力を手に入れたばかりで、武器の出し方すらまだよく分かっていない新人にとって、この仕様はあまり親切とは言えなかった。とはいえ、もう引きずり込まれてしまった以上は、「身をもって体験する」といういちばんしんどいやり方で、一部始終を見届けるしかない。

相手の記憶のかけらが、走馬灯のように大量に流れ込んできた。

幼い蔡阿明が、おばあちゃんにおんぶされて、病院の廊下で声が枯れるまで泣いている。おばあちゃんは亡くなる前、手元に残ったわずかなお金を彼の手に握らせて、必ずお父さんの面倒を見るように、と言い残した。そのあと父親は肝硬変の末期になり、借りている部屋で倒れて、床一面に血を吐いた。蔡阿明は極道の前にひざまずき、棒で骨が折れるまで殴られながら、あと数日だけ待ってくれと頼むしかなかった。けれど東海幫(とうかいほう)は、一日たりとも待ってはくれなかった。

同調の代償として、この体も膝から力が抜けて、崩れ落ちた。首の締め跡がまだ焼けるように痛い。そのとき、自分が彼女の声で叫ぶのが聞こえた。

「阿明のおっさん……こんなことして、本当にいいと思ってんのかよ!」

彼はあの両腕を力いっぱい振りほどいた。声はまだ震えていたが、そこには力がこもっていた。さっき病室の前で、母親に抱きしめられたときに体に残った力だった。

「ばあちゃんも親父さんも、あんなに苦労してあんたを育ててくれたんだろ! こんなことして、二人に顔向けできんのかよ!」

蔡阿明はよろめいて床にへたり込んだ。顔じゅうが恐怖に引きつっている。

「お前……お前、いったい何者だ!? なんでそんなこと知ってる!? 俺の名前まで……!?」

彼の目元が赤くなり、思わず声が詰まった。それなのに、君語の中二のノリが勝手にこみ上げてくる。今回は、それを押さえ込もうとはしなかった。

「俺か? 俺はヒーローになりたい男だ。いや——俺がヒーローだ! 苦しんでる人を、みんな助けたいんだよ!」

蔡阿明は声が裂けるほど叫び、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにした。

「小娘のお前に何ができるってんだ! 俺の立場が分かんのか!? この金がなきゃ、親父は生きていけねえんだぞ!」

彼も泣いていた。それでも手を差し伸べて、崩れ落ちた中年の男をそっと助け起こした。その手はまだ白い光を放っていた。光はゆっくりと収まっていき、最後にはただの女子高生の手に戻った。

「分かってる。全部見えたんだ。だから——もう、こんなことはやめろ。俺が一緒に、なんとかする方法を考えてやるから。な?」

二人は鳴り響く警報の中、電気が戻る前に金塊も札束も全部元の場所に戻して、ほうほうの体でビルから逃げ出した。戻すときの蔡阿明は手が震えすぎて金の延べ棒すらまともに持てず、夢人が横で「早く」と小声でせかす羽目になった。これが、夢人が初めて「裁き」を「元に戻す」に置き換えた瞬間だった。

この結果を地蔵王が知ったら、たぶん沈黙で意見を表明するだろう。でも、元に戻しただけじゃ足りない。この男の父親は、まだ肝臓の移植を待っているのだ。

★ ★ ★

▼4

銀行の外で、最初からずっとあとをつけていた謎の人物が、壁にもたれてコーヒーをひと口すすり、低く笑った。

「ははっ、僕のことまで忘れちゃったか。あの子……この前は、あんなに一生懸命手伝ってくれたのにね」

彼は「忘却者」だった。テレビのニュースでは「某銀行の金庫に侵入の形跡 指紋なし、被害もなし」という奇妙な事件が報じられていて、彼はそれを楽しそうに見ていた。アナウンサーが読み間違えたひと文字まで、しっかり覚えてしまった。彼は何ひとつ忘れられない。だから上着のポケットには、いつも自分で調合した小さなスプレーの瓶が入っている。今日のこの面白いニュースも、明日の朝にはきっと、自分でひと吹きして消してしまうのだろう。ついでに言っておくと、この男の力は、ひとつの疑問をちょうどよく説明してくれる。どうして彼は、こんなに長くこの街にいるのに、誰ひとり彼の顔を覚えていないのか。

日曜日の午後。大稲埕(ダーダオチェン)の埠頭。

サイズの合わないスーツを着た清掃員のおじさんと、チャイナドレス姿の女子高生が並んで立っていた。手にはばかでかいスーツケースを提げている。まるでシュールな喜劇みたいな光景だった。そのチャイナドレスは君語のクローゼットでいちばんフォーマルな一着だったが、スリットが深すぎて、この体はいつも以上に歩きにくかった。それでも彼は、そのスーツケースをベンツの前まで運ばなければならなかった。

この数日で、彼はやっと手のひらからリボルバーを呼び出せるようになった。そして、ひとつ発見した。弾丸を一発ばらすと、銀白色の粉がひとつまみこぼれ出るのだ。彼に作れるのは武器だけで、お札は作れない。けれど〈マインドバレット〉を食らった人間は、弾丸が信じさせたいことを、信じてしまう。スーツケースに詰まっているのは、蔡阿明の家に積まれていた古新聞やコピー用紙だった。お札の大きさに切りそろえて、一束ずつ粉をまぶしてある。

(いちばん簡単に言えば、これは「魔法でヤクザをだます」詐欺だ。正直、ヒーローのイメージとはほど遠い。でも今は、この方法しかない)

黒いベンツが止まった。ヤクザの下っ端がスーツケースを開けた瞬間、夢人は袖の陰で指先を小さく弾いた。粉がひとつまみ、ケースの中へ、そして下っ端の鼻先へと漂っていく。

下っ端の目が点になった。

「うわ、金持ちじゃん。返済の話、ハッタリじゃなかったんだな」

横に立っていた蔡阿明も、粉を少し吸い込んでいた。ケースいっぱいのドル札を見て完全にぽかんとし、目で「この金、いったいどこから出したんだ!?」と聞いてくる。チャイナドレスの少女はフンと鼻を鳴らし、目で「黙ってろ、ヤクザがいなくなってからだ」と返した。

下っ端が去ると、蔡阿明はとうとう我慢できずに、彼女の肩をつかんだ。

「おい、小娘……五十万ドルなんて、いったいどっから持ってきたんだ!?」

彼女は右手を開いてみせた。手のひらにはまだ銀色の粉が少し残っている。もう片方の手でポケットから折りたたんだコピー用紙を一枚取り出し、粉の上に押し当てた。紙が彼の目の前でぱっと光り、真新しいドル札に変わった。数秒後には、また、しわくちゃの紙に戻っていた。

「五十万ドルなんてない。あるのは紙くずの山と、弾丸の粉だけだ。粉に触れた人間は、自分の見てるものが本物だと信じ込む。あんたもさっき吸い込んだだろ?」

蔡阿明は手に持った空のケースを見て、それからその紙を見て、口を開けたり閉じたりした。

「じゃ、じゃあ……効き目が切れたら——」

「長くはもたない。せいぜい半日だ」彼女は紙をポケットに戻した。「借金が消えたわけじゃない。俺は、あんたのために時間を買っただけだ。この半日があれば、親父さんを病院に運べるだろ。手術費用は、俺が別でなんとかする」

彼はチャイナドレスの裾をつまみ上げて、くるりと背を向けて歩き出した。その歩き方にはどこか君語らしいかっこよさがあった。実際には、夢人の両脚はがくがく震えていたのだが。

「わ、分かった分かった、小娘、怒るなって。おい! ほんとに置いてく気かよ! おーい!」

我に返った蔡阿明は、空のケースを抱えて慌ててあとを追った。靴のかかとが、埠頭の板の上でカツカツと鳴っていた。

★ ★ ★

▼5

その後、蔡阿明は無事に父親の肝臓移植の手配を済ませ、手術は大成功に終わった。

ちなみに、「手術費用は俺が別でなんとかする」がどう実現したのかというと、ここ数日の夢人がまともに眠れていなかったこと、学校の宿題を全部白紙で出したこと、そして君語名義のおこづかい口座から謎の大金が消えていたことを知れば、八割方は察しがつくだろう。残りの二割は、彼が自分の預金を全部はたき、さらに蔡阿明のために、これでもかというほど誠実な分割返済計画書を作ったことによる。こんなヒーローは、ちっともかっこよくない。でも、少なくとも役には立った。

手術室の赤いランプが消えたとき、夢人は腰が抜けて、床に座り込みそうになった。その日の夜、父親は手術室から運び出され、病室で静養に入った。

病室で、蔡阿明は父親の骨ばった手を握って、子供みたいに泣きじゃくっていた。

「親父……」

父親は弱々しく、ぶつぶつと小言を言った。小言が言えるのは、生きている証拠だった。

「ふん。なんで仕事に行かないんだ。俺が目を覚まさなかったら放っておけって、言っただろうが」

「親父! そんなことできるかよ! ちっちゃいころから、親父とばあちゃんがどんだけ苦労して俺を育ててくれたか……なのに俺、まだ何ひとつ恩返しできてねえんだぞ……!」

彼は父親の胸に顔をうずめて、声を上げて泣いた。その泣き声は、銀行の警報よりも大きかった。

入り口に立っていた夢人は黙って涙を流し、君語の袖でこっそりと拭った。これが、彼の初めての任務だった。危ないところを切り抜けたこの父子を見ているうちに、彼はふと、地蔵王がなぜ自分に人間道を託したのか、分かった気がした。

たぶん、ヒーローになれと言っているわけじゃない。背負うことを覚えろ、と言っているのだ。

他人の痛みを引き受けて、他人の絶望を理解して、自分の手の届く範囲で、深い穴の底から引っぱり上げる。それは、銃を振り回すよりずっと難しい。方法は銃でもいいし、紙くずにまぶしたひとつまみの粉でもいい。ただし、その方法には期限がある。

右手の六道の印が、またかすかに熱を帯びた。今度は、金色の光の中に、ほとんど気づけないほど淡い血の色が混じっているように見えた。

胸の奥が、ずしりと重くなった。

(東海幫——)

もっと大きな嵐が来る。彼はそんな気がしていた。でも少なくとも今夜、あの父親は、自分の息子の手をちゃんと握っていられる。

彼は、もうひとつの病室のことを思った。あそこの明かりも、きっとついている。まだ目を覚まさないもうひとりのために。その人は今、彼自身の体の中で眠っているのだ。

——間章6.5話 完


本作は、中国語の原案をAI翻訳によって日本語化したものです。

翻訳に不自然な点や、内容について気になることがありましたら、お気軽に教えてくださいね〜!

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