序章04 いわゆる六道人
序章第四話 いわゆる六道人
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木の葉を透かした日差しが、公園の芝生に揺れる金色のまだら模様を落としていた。ベンチの上に立っているのは君語だった。彼の記憶の中にいる、あの君語だ。紫のポニーテールが風にまっすぐなびき、マフラーは旗のようにはためき、茶色の瞳は太陽よりもまぶしく輝いている。彼女は凛々しく銃を構えるポーズを決め、その影が背後に長く伸びていた。
「正義の輪廻ヒーロー! 颯爽登場!」
彼女はポケットからピンク色のリボルバーを取り出した。グリップには小さなハートが刻まれている。続いてハートの形をした弾丸を指で弾き、シリンダーに込める。何百回も練習したみたいに手慣れた動きだった。しかもその練習の相手は、毎回決まって彼だった。
「マインドバレット! 装填!」
「ファイア——!」
彼女は空に向かってピースサインを突き上げ、日差しよりもまぶしく笑った。あたりに敵なんて一人もいない。彼女はただ、夢人の顔に浮かんでいる「ガキっぽいものを見てる」と言いたげな表情を吹き飛ばしたかっただけだ。それが、彼女のいちばん嫌いな表情だったから。
「どう! 超かっこいいでしょ!」
夢人は隣のブランコに座っていて、ブランコはゆらゆらと揺れていた。自分が笑う声が聞こえた。まだ事故に断ち切られる前の、あの笑い声だった。
「かっこいいのは認めるけどさ。その『輪廻ヒーロー』とか『マインドバレット』とか、いったいなんなんだよ」
君語はベンチから飛び降りて、彼のおでこをちょんとつついた。狙いが完璧すぎて、言い返す隙がない。
「決まってるでしょ、夢人専用の称号だよ! 六道人として悪を断ち、正義を行うの! 今日からあんたは輪廻ヒーローなんだから、ちゃんと覚えといてね。ヒーローには名前が必要なの。名前のない正義なんて、子供たちは覚えていられないんだから」
「俺は特撮に出るわけじゃないぞ」
「あんた、特撮の役者さんより真剣じゃん」彼女は銃をくるりと回して、ポケットに突っ込んだ。どう見てもポケットに収まる大きさではなかったが、ここは夢の中だ。夢の中では、なんでも通ってしまう。「だから先に決め台詞を覚えときなよ。本番で言い間違えたら恥ずかしいでしょ」
「六道人って結局なんなんだ」と聞き返そうとしたところで、景色が古いフィルムのように色あせはじめた。最後に残ったのは、親指を立てる彼女の姿と、風にさらわれて薄れていくひと言だけだった。
「絶対に方法を見つけて、二人とも目を覚まさせるから——」
「違うだろ。それ、俺の台詞だ」
★ ★ ★
▼2
「ん……」
夢人ははっと目を覚ました。頬が机に押しつけられていて、窓の外はもう夕暮れだった。橙色の光が斜めに君語の部屋へ差し込んでいる。壁のポスターの中ではジャスティスナイトが飛び蹴りを放っていて、そのつま先は一枚の付箋で隠れていた。付箋には、彼女の丸っこい字で「晩ごはんちゃんと食べてね」と書いてある。
彼は彼女の勉強机に突っ伏していた。引き出しが少し開いていて、やりかけの数学の宿題がのぞいている。その横には、マントをはおった小さな人の落書きがあった。そして彼の右手には、精巧な作りの、ほんのりピンクがかった金属の光沢を放つリボルバーが握られていた。シリンダーには色の違う弾丸がいくつか入っている。ピンク、黒、白、それから妖しい紫。グリップの温度は、彼の手の温度とまったく同じだった。夢の中の小道具ではない。彼が眠っているあいだに、能力が勝手に銃を作り出したのだ。
「君語……これが、お前のくれた力なのか」
彼は銃を握りしめた。この体の指はとても細く、ちょうどトリガーガードに収まった。
「お前との約束は守る。『輪廻ヒーロー』の名にかけて、〈マインドバレット〉で、悪党どもをきっちり懲らしめてやる」
夕日に向かって二度ほど構えてみた。三度目で、この体がまた勝手に「颯爽登場」と叫びたがったので、慌てて口をふさいで、ため息をついた。
「けど、この力にはまだ分からないことが多すぎるな」
壁の猫の形をした時計の、しっぽの形をした秒針が、ゆっくりと六時に向かっていた。六時、三〇二号室。あの本を抱えた奴が残していった座標だ。
家を出る前に、彼は彼女のマフラーを巻き直した。見た目のためではない。この体はマフラーがないと寒さを感じて、寒くなると、あの交差点での衝撃を思い出してしまうからだ。
★ ★ ★
▼3
病院の廊下は相変わらず消毒液の匂いがしていて、その奥に、昨夜の黒い炎が残した焦げ臭さがかすかに漂っていた。警備員はシフトが替わっていた。新しい警備員は「黄君語」を見てうなずいた。そのうなずきには、「事故に遭ったかわいそうな子がまた来た」という同情がこもっていた。彼はそれを黙って受け取った。説明するより、そのほうがずっと楽だ。
彼は二〇一号室にそっと入った。ベッドの上の人はまだ眠っていて、医療機器の緑のランプは消えていなかった。君語の魂が、昨夜のあの刀に連れ去られていないという証拠だ。彼は百合の花瓶に水を足し、冷たい手に触れた。手は応えてくれなかった。でも、ひと言かけるにはそれで十分だった。
「答えを聞いてくる。聞いたらすぐ戻るから」
六時ちょうど。三〇二号室のドアは普通の病室のものより分厚く、その向こうも普通の病室ではなかった。大きな窓の外では、街じゅうに明かりが灯りはじめている。室内には生花と、静かな医療機器が並んでいた。ベッドの上に銀髪の少女が座っていて、雪のように白く、澄みきった瞳で窓の外を眺めていた。丁寧に磨き上げられた磁器のようだった。ただ、この磁器は呼吸をしていて、その呼吸はとても浅かった。
ドアが開くと、彼女は振り向き、口元にやさしい笑みを浮かべた。
「ようこそ。どうぞ、お好きなところへお掛けになって」
夢人はぽかんとして、一歩あとずさった。「すみません、部屋を間違えました」
「間違えていませんよ、君語さん」彼女は小さく首をかしげた。ドア越しにでも彼が見えているかのように。「それとも……『輪廻ヒーロー』の夢人さん、とお呼びしたほうがよろしいでしょうか」
背筋がぞくりとした。その寒気が、マフラーからこの体の尾てい骨まで一気に駆け抜けた。
背後から、ふいに聞き覚えのある声がした。カメラが急に引きの画に切り替わったみたいに——
「果たして、この銀髪の少女は何者なのか? そしてなぜ、夢人の正体を知っているのか!?」
いつまでたっても読み終わらない古い本を抱えたジュリエットが、にこにこしながらドアの陰から顔を半分のぞかせていた。右目の単眼鏡が街の明かりをちらりと反射する。次の瞬間には、もう小さなテーブルの横に座っていて、ボストンクリームパイをフォークで口に放り込み、目を輝かせていた。
「これ、近くのケーキ屋さんの特製ボストンクリームパイでしょう? ネットで星五つだったけど、やっぱり嘘じゃなかったわ!」
夢人はぎこちなく腰を下ろした。銃はスカートのポケットに入っている。でも今、彼の頭の中は「どうすりゃいいんだ」でいっぱいだった。
「あんたも六道人なのか?」
「ええ、そうです」銀髪の少女が微笑んだ。
「じゃあ六道人っていったいなんなんだ? 黒炎骸姫ってのは何者だ? あんたたちは何なんだよ、ここで何してるんだ、なんで俺と君語が狙われなきゃならないんだ!?」
質問を次々にぶつけていく。言い終わらないうちに、ジュリエットが跳ね起きた。フォークはパイに刺さったまま、銀髪の少女を指さして叫ぶ。
「アンソニア! 私のキャラを取らないで! 設定の説明は私の仕事なの、私は語り部なんだから!」
アンソニアと呼ばれた少女は、口元を押さえてくすくすと笑った。
「ごめんなさい。では、夢人さんへの説明はお願いしますね」
ジュリエットはフンと鼻を鳴らすと、優雅にスカートの裾をつまみ、古風な淑女のお辞儀をした。お辞儀が終わるやいなや、あの本がひとりでにページをめくりはじめた。風もないのに、ページのあいだから淡い映像が浮かび上がる。魂が体を抜け出し、巨大な彼岸の門をくぐり、観音様と仏様にそっと頭を撫でられて、また体の中へ戻っていく。宇宙をまるごと一枚の挿絵に折りたたんだような、シンプルな映像だった。
「私はすべてを見通し、世のあらゆるものを記録する語り部——記録音、ジュリエット」
カメラがアンソニアへ向く。彼女は背筋を伸ばした。雪のように白い瞳は何も映していないはずなのに、人の魂をまっすぐに見つめているようだった。
「私はただの、病弱で、取るに足らない、目の見えない、か弱い女の子——預世音、アンソニア」
夢人の口元がぴくりと引きつった。完全に、この体が笑いたがっている反応だった。彼はそれを力ずくで押し殺した。
ジュリエットが咳払いをした。
「人は死ぬと、本来なら魂が彼岸の門をくぐって六道輪廻に入り、新しい命に生まれ変わるの。でも中には、その途中で神や仏や、それ以外の何かに出会ってしまう人がいる。そういう人は死から蘇り、魂も肉体も変質して、現実や自分自身に干渉する超常の力を得る。そういう人たちのことを、私たちは——六道人と呼んでいるの」
彼女は本を閉じた。口調が急に真剣になる。彼女にしては珍しいことで、そして彼女が真剣になるときは、たいてい次の話が冗談ではないということだった。
「でもね、蘇ることにも力を得ることにも、必ず代償があるわ。あなたはあのとき、地蔵王にどんな願いをかけたの?」
「俺と彼女を生き返らせてくれって頼んだ」夢人は低い声で言った。「地蔵王は引き受けた。条件は、手に入れた力で世の中の悪を払うことだ」
「ごく標準的な、正神の代償ね」ジュリエットはうなずいた。「正神があなたに見せたのは『悔い』。悔いは弾丸に変えられる。そして弾丸は、必ずしも人を殺さなくていい。それは昨夜、もう使ってみせたわよね」
「じゃあ、正神じゃなくて悪魔の力で蘇って、ろくでもないことをする奴もいるってことか」彼の目つきが険しくなった。「黒炎骸姫は、そういう奴なのか」
アンソニアはやさしく微笑んでいた。でもその笑顔に、答えは含まれていなかった。
「そうかもしれませんし、違うかもしれません。それはご本人に聞いてみないと」
彼女の雪のように白い瞳が、病室のドアのほうへ向けられた。声はささやきのように小さかったのに、その名前は一字一句、正確に告げられた。
「当たりでしょう?——黒炎骸姫、安倍桜姫さん」
ドアの鉄板が、高熱で溶けた金属のようにぐにゃりと歪みはじめた。塗料から甘い匂いの煙が立ちのぼる。その甘さの底は、焦げ臭さでいっぱいだった。
★ ★ ★
▼4
焦げた甲冑が先に踏み込んできて、刀がそのあとに続いた。赤い瞳が三人を見回し、最後にアンソニアの上で止まった。噂で聞いていた顔と本人を、ようやく照らし合わせたかのように。
夢人とジュリエットが同時に立ち上がった。アンソニアはベッドに座ったまま、笑顔ひとつ崩さない。手にした湯飲みからは、まだ湯気が立っていた。
「安倍さんの分のお菓子もご用意してありますよ」彼女は言った。「お掛けになって、お茶でもいかがですか。ついでに、少しお話でも」
骸姫は冷笑した。羽織に積もった灰が、はらりと落ちる。
「なるほど、お主が噂に聞く、運命を見通す六道人か。思っていたより隠れるのがうまい」
「すべては運命の巡り合わせです。運命が私たちを出会わせないかぎり、たとえ隣に立っていても、あなたは人違いをなさるでしょう」
骸姫の視線が夢人をなぞった。殺気の中に、昨夜の怒りがまだくすぶっている。感情の弾丸を食らって屋上から落ちた、その借りはまだ返していないのだ。
「フン、確かに拙者の落ち度よ。他の六道人まで巻き込んでしまうとはな」
「落ち度だと!?」夢人は思わず怒鳴った。君語の声だったが、その中で燃えているのは彼自身の怒りだった。「人違いで襲ってきたうえに、俺の体まで奪おうとしたくせに!」
「仕返しなら、いつでも受けて立とう」骸姫は言った。「仕返し」という言葉が彼女の口から出ると、まるで招待状のように聞こえた。
アンソニアがふいに口を開き、今にも燃え上がりそうだった空気を押しとどめた。
「彼に仕返しをさせる前に、私がひとつお見せしましょう。運命を見通すと噂される私が、本当にあなたのおっしゃるとおり口先だけなのかどうかを」
彼女が持ちかけたのは、とんでもない賭けだった。今夜の宝くじの当選番号を当てる。賭け金は、彼女自身の命。その命はテーブルの上に置かれ、あのパイよりも軽く扱われていた。夢人は本気でテーブルをひっくり返したくなった。
「正気かよ!?」
ところが骸姫は笑い出した。笑い声はどんどん大きくなっていく。そこには「ようやくこの場で本物か確かめられる」という興奮があった。
「面白い。乗った」
十分後、テレビがつけられ、アナウンサーが淡々と番号を読み上げた。〇九、十一、十五、二十五、二十八、三十八。アンソニアがあらかじめ骸姫の足元に置いておいたくじの最後の数字は、三十七だった。数字ひとつの違い。そのたったひとつで、骸姫が「インチキ占い師」という言葉を投げ返すには十分だった。
骸姫は高らかに笑い、黒い炎でくじを灰に変えた。灰が絨毯に落ちて、高級品にしか出せない焦げた匂いを立てた。
「やはりただのインチキ占い師か! 約束どおり——」
刀がアンソニアの首めがけて振るわれた。ジュリエットが飛び出してかばい、夢人の手の銃もひとりでに跳ね上がった。人を撃ち殺すつもりなんてなかった。この体の本能が、誰かを守ろうとしたのだ。〈マインドバレット〉が刀の軌道をかすめて部屋の中を跳ね回り、シャンデリアが揺れた。ジュリエットが悲鳴を上げて尻もちをつき、本がパイの上に落ちた。
「くそっ……体が勝手に動く!」
(これ、まさか君語の意識が手を貸してるのか……?)
混乱の中で、アンソニアだけが落ち着いていた。あらかじめ書いておいた手順書でも読むような口調だった。
「普通の物理攻撃は彼女には効きません。彼女の心を傷つけるんです」
「とにかく彼女に向かって撃ち続けてください——ええ、そのまま、めちゃくちゃに!」
彼は目をつぶって立て続けに引き金を引いた。反動でこの体ごとベッドに投げ出され、ちょうどその一太刀をかわす形になった。跳ね回った弾がシャンデリアを撃ち落とし、骸姫の気がほんの一瞬それた。その隙間を縫って、本物の〈マインドバレット〉が一発撃ち込まれた。彼女の体がぐらりと揺れ、その目に初めて動揺の色が走った。だが、それも一秒だけだった。次の瞬間、彼女は完全に怒り狂った。
「貴様ら、ひとり残らず斬り捨ててくれる!」
黒い炎が怒涛のように刀身へ絡みついた。夢人の頭の中に、意に反して恥ずかしい言葉が浮かぶ——邪王呪殺黒炎刃。白い光が病室全体を飲み込んだ。光が引いたあと、壁には巨大な穴が開いていた。穴の向こうは夜空で、その夜空にはもう人影はなかった。
骸姫の目の前には、ゆっくりと閉じていく本の形をした黒い穴だけが残っていた。古い紙の匂いが、だんだんと薄れていく。
「逃げおったか……」彼女は歯ぎしりした。赤い瞳の奥で、執念がいっそう深まる。「次に会うときは、必ず斬る」
下駄が、床に散ったケーキのくずを踏みにじった。くずになったボストンクリームパイは、もう星五つではなかった。
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▼5
暗闇の奥で、三人はかなり無様な格好で——しかも上下さかさまに——大きなクローゼットに詰め込まれていた。体の上には枕やガーゼがかぶさっていて、そのガーゼには二〇一号室の匂いが残っていた。黒い穴が三人を振り出しに、つまり君語がまだ眠っているあの部屋に送り返した証拠だった。
いちばん下から、夢人のこもった声が聞こえた。
「……俺、また死んだのか?」
ジュリエットが力なく答えた。単眼鏡が横にずれている。
「安心して、私の力でここまで運んだのよ。私にとって空間は液体みたいなものだから。でも今夜は、パイの中で溺れ死ぬかと思ったわ」
「もうっ! アンソニア、なんでわざと外したのよ! 前は百発百中だったじゃない!」
クローゼットの外から、アンソニアのやさしい笑い声が聞こえた。いちばん上に押し込まれているらしく、銀髪がクローゼットの扉に触れていた。
「私が百パーセント当ててしまったら、あの方は私への興味をなくしてしまいます。それより、『定められた事実』に幻滅していただいたほうが、あの方にとっては救いになるんです」
外が一秒、静まり返った。ジュリエットがしみじみと呟いた。
「アンソニアって……ほんとに、やさしすぎるわ」
三人はどうにか二〇一号室のクローゼットから這い出した。夢人とジュリエットは二人がかりで、体の自由がきかないアンソニアを椅子に座らせた。椅子はベッドのほうを向いている。ベッドの上の人は、今夜は傷ひとつ負わずにすんだ。それが、今夜の混乱の中で唯一の勝ちだった。
アンソニアは目が見えないはずなのに、まるで未来が見えているかのようだった。
「あの方は、いったん引いただけです。これから先、私の力を求める六道人が、もっとたくさんやってくるでしょう」
彼女が顔を上げた。雪のように白い瞳が壁を突き抜けて、どこかにある巨大な黒い影を見つめているようだった。闇にひそみ、運命を書き換えようとしている組織。その名前はまだ誰の口にものぼっていない。けれどいずれ、病院で、遊園地で、そしてもっと遠くの山々で、ひとつずつ姿を現すことになる。今夜覚えておくべきことは、ひとつだけだ。預世音の瞳は、誰もが奪いたがるものだということ。
夢人はリボルバーを握りしめて、苦笑いした。
「こういうのは終わらないってことか。このままじゃ、俺と君語の命がいくつあっても足りないな」
アンソニアが手を差し出した。華奢に見える手だった。それなのに、その手のひらには拒みきれない重みがあった。彼女は彼を脅しているのではない。一本の道を、彼の前に差し出しているのだ。
「ですから、夢人さん。ひとつご提案があります」
「力を求める六道人たちに立ち向かうために、私に力を貸していただけませんか」
「報酬は……」彼女はふわりと微笑んだ。「あの宝くじと——あなたと彼女さんの体が元に戻る、未来です」
宝くじはとっくに灰になっている。それでも彼女は、灰になったものを報酬として差し出した。夢人は黙って窓の外を見た。公園のベンチで親指を立てていた君語の姿が、そして地蔵王の光の輪が、見えた気がした。最後に彼は、華奢に見えて運命を握っているその手を、握り返した。
「よろしく頼む、アンソニア」
窓辺では、ジュリエットが本を抱えて、宙に向かっておなじみの語り部の微笑みを浮かべていた。その笑顔は、この場の誰に向けたものでもない。目に見えない聞き手たちに向けたものだった。
「こうして、輪廻ヒーローと預世音は、正式にパートナーとなった」
「二人が世界を救い、星の海を越えていく旅が——今、ここに始まる!」
夢人の眉間には、もうしわが寄っていた。ツッコミを入れる直前の、いつもの準備動作だ。このヒーロー伝説めいたひと言に、ツッコまないわけにはいかない。ただ、口を開くより先に、幕が下りてしまった。
——第四話 完
本作は、中国語の原案をAI翻訳によって日本語化したものです。
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