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龍の神  作者: カズハ
-とある龍神達の事件簿-

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37/40

極彩の龍神の事件簿

某日、パラチウム学園にて——


月の国の中枢に鎮座するパラチウム学園は、高度な科学技術の無機質な輝きと、古来より紡がれてきた幻想的な魔導が美しく融和した、絶対的な治外法権区である。

その年度末、学園内は異様な熱気に包まれていた。鉱石錬金科や学園法政科を始めとする各学科が、来年度の予算獲得を賭けて自らの研究の有用性を証明し合う、年に一度のプレゼンバトルが最高潮を迎えていたからだ。時には武力行使さえも厭わないその喧騒は、学園の生命線たるパラチウム・エクス・キャンパスの転送門を通じて、月面と地上を一階層に繋ぎ止める程に激しいものだ。

然し其の熱狂は唐突に、嘗てない不気味な静寂によって断ち切られる。前触れはなかった。学園の最深部、歴史の記録と概念保存を司る伝承保護科の大図書館から、其れは始まった。

重厚な本棚に並ぶ無数の古文書、壁に掛けられた歴史的価値を持つ名画の数々、更には行き交う生徒達の足元に転がる影に至る迄、世界のありと汎ゆる輪郭から色彩が文字通り剥ぎ取られていく。鮮やかだった赤も、深みのある青も、全てが内側から急速に脱色され、光すら吸い込む様な白と黒の冷徹な虚無へと変貌していった。

「此れは……空間の調律が狂っている訳じゃない。存在理由其の物が削り落とされている?」

中央広場の天幕で、一人の少女――ユラが手にしたカフェラテのカップを見つめた儘、ぽつりと言葉を漏らした。

「ちょっとユラ、のんびりラテを眺めてる場合じゃないよ!僕達のティラミス迄、モノクロの砂みたいになっちゃいそう!」

弾む様な悪戯っぽい声が響かせ乍ら、ユラの身体から瓜二つの少女が現れる。彼女がユラの魂に同居する一卵性双生児の双子の姉、キラだ。肉体を持たず、ユラの半身として共生する彼女は、妹とは対照的に軽薄で飄々とした笑みを絶やさない。

「……うん……でも、綺麗。不気味だけど」

「呑気だねぇ……ま、その感覚がユラなんだけどさ。ほら、過保護な婚約者様が血相を変えて飛んでくるよ?」

キラの予言通り、人混みを割って一人の高身長な青年、ロトスが駆け寄ってきた。彼はユラを一目見るなり、その繊細な眉を痛ましげに寄せた。

「ユラさん!無事ですか!?何処か身体に違和感は……魔力回路に浸食は起きていませんか?」

「ロト――私は、大丈夫。少し、世界が静かになっただけ」

「君がそうやって、淡々としているのが一番心臓に悪いですよ……生と死、夢と現実の境界が、此の学園の根底から歪み始めています。放ってはおけません」

ロトスは内気で引っ込み思案な青年を装っているが、その本質は万物の境界を操作する極めて苛烈な支配者だ。彼の手には、現実と夢を逆説的に書き換える胡蝶の杖がいつの間にか握られていた。

この未曾有の事態に対し、最高統括機関・龍神会議からの勅命が下るまで時間はかからなかった。

「事象の観測と記録。そして世界の調復を行う」

感情を削ぎ落とされたユラ、その影に潜むキラ、そして彼女らを何よりも最優先にするロトス。三人は学園を包み込む、白黒の罠へと足を踏み出す。

「学園のメインサーバーのログは完全に生きている。なのに、被害に遭った区画の構成データだけが、まるで最初から存在しなかったかの様に空白に書き換わっているわ」

パラチウム学園の一角に設けられた特設捜査本部。ヒオンは持ち前のサバサバとした調子で、空中に展開されたホログラムスクリーンを叩いた。彼女の幻想は、周囲の熱量を数千倍の演算速度へと変換し、既に事件の構造を幾重にも紐解いている。

「むむむ、此れは……只の広域破壊術式じゃないね。」

世界の負の側面、悪性情報の集積体である魔性(サヴァト)のコードが、学園の防衛結界の隙間に直接流し込まれた形跡がある。

「ふむふむ……誰か内部の人間が手引きしたか、或いは――」

「或いは、結界の構成を完璧に知る者が犯人か、だな。」

落ち着いた声で会話を引き継いだのは、街の片隅で探偵兼便利屋を営むムシキだ。彼は外套のポケットに手を突っ込んだ儘、ユラ達を見つめる。

「被害に遭った伝承保護科の生徒達から、俺の灼眼で記憶の残滓を覗いてみたんだ。」

曰く、彼らの魂の奥底には、犯人に対するドス黒い程の悪意と恐怖が焼き付いてる。だが奇妙な事に、肝心の犯人の顔を思い出そうとすると、全員の認識が霧の様に拡散してしまうのだ。

「誰も姿を捉えられない?そんな事が可能なの?」

ユラの代わりに、キラが尋ねる。

「あぁ、認識其の物を欺く術か、其れとも――最初から其処にいない誰かだったか、だ。」

その時、本部の重厚な扉が静かに開き、一人の男性が足を踏み入れた。アルバサンクト家の当主であり、ロトスの父親でもあるネオンだ。物静かで、常に世界の星図を引いている彼が此処に現れた事に、ロトスが目を見開く。

「父さん。どうして此処へ?」

ネオンは言葉少なに、ユラとロトスの前に一冊の古い天体図を置いた。そこには、月の表と裏の境界線、即ちノヴァ・ゲート・テラスの座標が、独自の筆跡で強くマークされている。

「ユラ、ロトス……見えている姿が真実とは限らない。」

ネオンが誰かに擬態する時、その立ち居振る舞いや筆跡、指紋迄を完璧に模倣するが……それでも変えられないものがある。其れは、其の者が歩んできた軌跡だ。

「星の光の様に、表面の輝きに惑わされず、その根底にある正しいートを辿りなさい。」

ネオンの言葉は、静かで尚且つ確かなヒントだ。犯人は学園の重要人物の姿を完璧に模倣し、防衛網をすり抜けた。そして其の足跡は、世界の光と影のフリンジ、異邦人達の文化が混在する緩衝地帯へと向かっている。

「ロト、キラ……追おう。」

ユラが短く告げ、白仙の鉛筆(アルバ・ペンシル)を指先で弄ぶ。無表情な彼女の瞳に、微かな芸術家としての義憤が灯るのを、ロトスは見逃さなかった。


捜査の網を広げた矢先、第二の事件はさらに大胆な形で幕を開けた。学園に隣接する彩色美術館。此処には、ユラが愛してやまない名画や、彼女自身が過去に手がけた彫刻が多く収蔵されていた。その美術館が、突如として未知の黒に侵食されたのだ。

「此れは……酷い。」

美術館に急行したユラは、その光景に初めて小さな眉根を寄せた。

展示されていた美しい風景画、色彩豊かな抽象画の全てが、荒々しい筆致で描かれた巨大な黒龍の絵によって塗り潰されている。しかも、其の黒龍達はキャンバスを飛び出し、圧倒的な物理質量を伴う影の怪物となって、美術館の構造其の物を内側から破壊し始めていた。

「アハハ!最高の白(ユラ)を前にして、こんな陰気な落書きを撒き散らすなんて、いい度胸じゃない!」

不敵な高笑いと共に、空間を引き裂いて現れたのはミカゲだ。彼女は戦場其の物をキャンバスに変える幻想画現の使い手であり、ユラの最大の好敵手だ。然し状況は最悪だ。周囲の防衛隊は、此の黒龍を具現化する芸術を見て、一斉にミカゲへと武器を向ける。

「ミカゲ、お前の仕業か!予算審査への腹いせに美術館を――!」

「バカ言わないでよ!」

ミカゲは激昂し、手に持った巨大な筆を地面に叩きつけた。

「私が描くのはね、其処のユラっていう最高の白を、この世で最も美しく引き立てるための至高の黒だけよ!こんな他人の足元をすくい取るような、ドブ川みたいな悪意の黒、私の芸術に対する侮辱だわ!一緒にしないで!」

その叫びに、ユラは小さく頷いた。

「……うん。ミカゲの黒は、もっと、綺麗……誇りがある」

「そうそう!私達のミカゲちゃんは、こんな陰湿な真似するくらいなら、正面からユラに決闘を申し込む脳筋だもんね!」

「一寸キラ、褒めてるのそれ!?」

だが暴走する黒龍の質量は、美術館を完全に押し潰そうとしていた。

「防衛陣を構築する!キリウ、アキヒ、手を貸して!」

ロトスの呼びかけに、幼馴染達が即座に応じる。キリウが流した一滴の魔力の血が、地面から巨大な栄芽の藤の木々を急速成長させ、崩壊する天井を力強く支える。同時にアキヒが叫んだ。

「いけっ、ニコ!フーラ!構造補強モードだ!」

アキヒが空間に展開した魔導回路から、全高数十mに及ぶ精巧な岩石ゴーレムが躍り出て、黒龍の突進をその巨大な身体で受け止める。

「ロト、座標を、固定する。」

ユラが前に出る。其の左眼に宿る蒼天の魔眼が怪しく輝き、美術館内のすべての空間座標が強制的に三次元上に固定された。動きを止められた黒龍の影に向かって、ユラは白仙の絵筆(アルバ・ブラッシュ)を奔らせる。

「極彩――黄。」

不可視の光の刃が、空間ごと黒龍の物理質量を両断していく。更にキラが無彩の幻想を発動。右眼の魔眼で対象を世界の理から切り離し、色彩情報を完全に剥奪する事で、暴走する魔術其の物を静止画として固定し消滅させた。

静寂が戻った美術館の中で、ユラは床に落ちていた一片の異物を拾い上げる。それは、学園のインフラを担う汎次元力学科で厳重に封印されている筈の、異界の法則汚染を誘発する触媒パーツだ。

「真犯人の目的が、分かった……ミカゲに罪を擦り付けて、私達の目を逸らす事、だ。」

そして……龍神達の連携をバラバラにして、学園のシステムを根本から汚染する事。ユラの言葉に、一同の緊張が走る。犯人は、龍神達の身内の中にさえ擬態の影を忍び込ませ、世界の破滅を画策していたのだ。

「心理戦なら僕の領域だね。さて、盤上の駒(容疑者)を絞り込もうか」

ライカは悪戯っぽく目を爛々と輝かせ乍ら、独自の規則が支配する結界制域を展開した。ノヴァ・ゲート・テラスの巨大な中継ステーション全体が、強制的に一本の直線のチェス盤へと変貌していく。

ライカの確率論と心理的な揺さぶり、そしてヒオンの解析データが組み合わさった時、ついに犯人の輪郭が、世界の偽りの足跡から浮き彫りになった。

其処に立っていたのは、特定の誰かではない。陽炎のように揺らめく、顔を持たない影――いや、人々の記憶から忘れ去られ、消滅の運命を待つばかりだった古い幻影の残滓だ。

「何故、こんな事を……。」

キリウが悲痛な声をあげる。幻影は、複数の声が混ざり合ったような不気味な多重音響で、呪詛のように吐き捨てた。

「龍神族よ、お前達は記録するだけで、私達を救わない!誰からも認識されなくなった私達は、只消えるのを待つだけだ!」

だから、彼らは異邦人達が遺した、人生の記録たる本を盗んだのだ。

彼らの生々しい主観、思い出の揺らぎ、そして世界のバグを、この学園のシステムに流し込み、世界其の物を私達の色で上書きしてやるのだ!幻影が叫ぶと同時に、彼らが抱えていた魔性(サヴァト)の悪性情報が限界突破を起こした。

ノヴァ・ゲート・テラスの中心にある、地上と月を繋ぐ巨大な転送門が真っ黒な暴流を吹き出し、暴走を始める。高次元の悪意が現実世界へと雪崩れ込み、周囲の物質、空気、そして光其の物が、悲鳴をあげる様に白黒の虚無へと還っていく。

「くっ、物理法則の定義が書き換わっている!重力の上下が狂って、魔力の射出ベクトルが消失していくわ!」

ヒオンが叫ぶが、彼女の演算すらも、世界の崩壊速度には追いつかない。触れるものすべてを消滅させる黒い靄が、ユラたちの元へ押し寄せる。

「――僕の許可なく、僕の大切な人達を、只の虚無に帰させはしません。」

その時、前に出たのはロトスだ。内気だった彼の佇まいは消え去り、その背には神秘的な菫色の輝きを放つ、巨大な胡蝶の翅の紋様――闇喰・トコヨノカミが顕現していた。

ロトスは自らの個体としての個性が世界に霧散し、無数の蝶へと分解してしまうリスクを完全に無視し、幻想の全能力を解放した。

「蛹の眠り、そして羽化の時。世界よ、事実から可能性へと巻き戻れ」

彼が胡蝶の杖を振るうと、空間に美しい鈴の音が響き渡り、周囲一帯に月夜の日本庭園、胡蝶庵が展開された。外部からの干渉を完全に遮断する究極のシェルター。

さらに、ロトスは胡蝶の王冠《パプリオ・クラウン》を頭上に戴き、崩壊しかける仲間達の魂の設計図(エーテル・レコード)を力ずくで読み解き、純白の糸でこの現世へと縫い止めていく。

「氷蝶(グラシアス)、紅き蝶(アルデンス)! 熱量の法則を無視しろ。全ての崩壊エネルギーを、僕の領域の蜜として蓄積するんだ!」

青と赤の半透明な蝶の少女達が舞い踊り、押し寄せる世界のバグを相殺していく。

「ユラさん、キラさん……!僕は此処で、世界の境界を支えます。だから君達は――君達の芸術で、あの悪意を塗り潰してください!」

ロトスの命を賭した献身が、絶望の空間に、一筋の極彩色の道を切り拓いた。

「……うん。ロト、有難う。待たせて、ごめんね?」

ユラが静かに一歩を踏み出す。その隣には、実体を持たない筈のキラが、無彩色の影絵の様な輪郭を持って、確かに並び立っていた。二人の瞳が交わされる。言葉は必要なかった。魂の共有は既に、最高深度の共鳴へと達している。

「さあ、行こうユラ。僕達の、本当のステージを始めようか!」

「うん、キラ。世界に、私達の色を」

二人の身体が、眩い光の中で一つへと融合していく。其の瞬間、ノヴァ・ゲート・テラスの虚空に、息を呑む程に優雅で、そして圧倒的な威厳を持つ巨大な存在が姿を現した。

白銀の鱗に、筆致の様な濃紅と紺色が踊る優雅なる龍神の姿。頭上には蝶の意匠が施された王冠型の角が輝き、背中には巨大なキャンバスを広げた様な、極彩色の光の翼が羽ばたいている。尾の先端に備わった白仙の硝子筆からは、無限の色彩の粒子が滝の様に溢れ出していた。

「「――「極彩式の城《マキシマラエトス・カストゥルム》」、並びに「無彩式の城《アクロマティクス・カストゥルム》」、同時展開」」

融合した二柱の声が、世界の汎ゆる生物の声を完全コピーした多重音響となり、衝撃波となって悪性情報を震わせる。展開された絶対領域内では、全ての物質と現象の優先権がユラ達の解釈に依存する。炎は冷たい液体となり、重力は反転し、迫り来る魔性の悪意そのものがただの古いキャンバスの汚れへと再定義されていく。

「其処へ直進させないわよぉ。」

上空から、おっとりとしつつも、背筋が凍るほどに美しい微笑みを浮かべた貴婦人が現れた。ロトスの母、ミセラだ。彼女の幻想爆泡が、標的の悪意の心音を感知して数千、数万の起爆性の泡となって浮遊する。

「我が子達の道を阻む不浄へ、此の世で最も苛烈な爆発を――おーほほほほ!」

連鎖する大爆破が、高次元の悪意の触手を次々と塵へと変えていく。そして、龍神の姿となったユラとキラ、そして境界の庭園を維持するロトスの魂が、完全に一つに溶け合った。彼らが放つのは、内なる破壊衝動と、家族や仲間を守る決意が融合した、抗い難い色彩の奔流。

「「「――聖歌・絶唱――」」」

感情というノイズを排した、何処迄も純粋で研ぎ澄まされた静謐な歌声。同時に、何処か楽しげで魅惑的な響きが、白黒に枯れ果てていた世界へと染み渡っていく。歌声に呼応し、空間全体に夜空の投影(プラネタリウム)が展開された。

星々の瞬きを凝縮した大杖、白仙の硝子筆の封印が解かれ、周囲の重力が消失する。術者が描いた星座が、巨大な光の城郭や天を衝く塔となって瞬時に構築され、溢れ出していた悪性情報の全てを包囲していく。ユラは、最高位のインク、虹を筆先に宿した。

「零式・胡蝶之夢――全ての因果を、此処に上書きする。」

全ての鱗粉が一点に集束し、虹の力が全開放される。描かれた絵が現実の事象として完全に固定される事象改変。ユラが空間に引いた一筋の虹色の光跡は、物理的な質量を持って悪意の根源を優しく包み込んだ。それは、彼らを消滅させる為の破壊の刃ではない。

傷口を塞ぎ、呪いを上書きして消し去る緑の聖域。戦意を喪失させ、幸福な記憶を想起させる桃の飛沫。そして全てを包容し、新たな存在理由を与える虹の光。暴走していた転送門は元の銀色の輝きを取り戻し、世界から剥ぎ取られていた色彩が、波紋の様に学園の隅々へと、以前よりも鮮やかに、瑞々しく呼び戻されていった。

溢れ出ていた幻影達の残滓も、其の悪意を闇喰達に優しく喰らわれ、浄化され消滅の運命から救い上げられる。彼らの存在は、伝承保護科の公式な記録、そして学園の新しい仲間として、世界の理の中に正しく、優しく刻み込まれた光が、月の国を美しく照らし出していた。


事件から数日後。パラチウム学園には、何時もの賑やかな、そして各学科が予算を巡って小競り合いを起こす少しカオスな日常が戻ってきていた。然しその雰囲気は何処か、以前よりも他者への寛容さに満ちている。新設された幻影・異邦人共生支援課の看板が、その証明だ。

華香植物園にて――四季折々の美しい花々が咲き乱れ、甘い香りが漂う木漏れ日の下、お気に入りのガゼボで、ユラ、キラ、ロトスの三人は並んで座っていた。

「ユラさん、はいどうぞ、口を開けてください。ティラミス、うまく出来たんです」

ロトスが少し照れくさそうに、手作りのティラミスをスプーンですくってユラの口元へと運ぶ。ユラは無表情の儘、小さくあーんと口を開けて其れを食した。

「……ん、美味しい。ロトのお菓子、世界で一番、好き」

「ちょっと、私の分のカフェラテは!? 二人だけで甘い空間作らないでよ、御馳走様!」

ユラの脳内でキラが爆笑しながら突っ込みを入れるが、ユラは気にすることなく、手元に広げたスケッチブックに、今この瞬間の光景を鉛筆で描き留めていく。

「ロト。」

「なんでしょう、ユラさん?」

「ロト、大好き、世界で一番……君の事が、大好き。」

ユラの告白にロトスは顔を真っ赤にし乍らも、至極誠実な、愛おしさに満ちた瞳で彼女を見つめ返し、その小さな手をそっと握りしめた。

「勿論ですよ!僕だって、ユラさんの事が大好きです。僕は一生、君の観測する世界を守り続けると誓います」

ユラの常に無表情だった頬が、ほんの少しだけ、春の陽だまりに溶ける雪の様に、年相応の少女らしい愛らしい微笑みへと緩んだ。其の瞬間、彼女の背後から、祝福する様に無数の極彩色の光の蝶たちが舞い上がり、植物園の空を美しく彩るのだった。

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