舞踊の龍神の事件簿
某日、龍神の国にて――
その日、立体都市星間縁街を満たしていたのは、異界のスパイスと伝統的な香炉が混ざり合う、いつもと変わらない活気と混沌の匂いだった。空中都市の最下層から地上の深い森へと至る多重構造の街路には、夕暮れの陽光が複雑な影を落としている。
その一角に佇むジュエルショップ、ドラコ・ジェマのプライベートサロンで、レイラは、お気に入りの紅茶にそっと口を付けていた。然し今の彼女の表情にあるのは、冷酷非情な王者の風格ではなく、愛する家族に囲まれた慈母の其れだった。
「レイラ、焼き立てのカヌレだよ。君の好きなチョコレートもたっぷり用意してある」
そう言って微笑み乍ら極上の皿を運んできたのは、夫のグレイだった。195㎝の逞しい体躯に柔和な笑みを浮かべた彼は、46億年を共に歩んできた最愛の伴侶であり、理想の父親だ。
「有難う御座います、グレイ。君の淹れてくれる紅茶と甘味は、いつでも私の心を穏やかにしてくれます」
レイラが贅沢に結晶化された桃色の瞳を細めて微笑むと、グレイはそれだけで少年がいじられた時の様に僅かに赤面する。子供達が独立した今でも、二人の間に流れる空気は初々しい熱を孕んでいた。
然し其の幸福な静寂は、空間を直接転送の門で繋いで現れた一人の女性によって破られる事になる。
「……相変わらず、見せつけてくれる。目の毒、珈琲の味が苦くなる」
現れたのは、レイラの姉であり言の葉図書館の最高位の司書を務めるカミラだった。赤と白、そして青を基調とした衣服を気だるげに纏い、手にはトレードマークである真鍮製の万年筆を握っている。ダウナーな口調とは裏腹に、その瞳には明確な「異常」に対する警戒の色が宿っていた。
「カミラお姉様、どうしたのですか? そんなに険しい顔をして」
「レイラ、グレイ……仕事場で、妙な欠落が起きたの。異邦人の、未完の人生記録が盗まれたわ」
カミラの言葉に、グレイが眉を潜める。異邦人――それは多元世界の彼方からこの地に漂着し、システムに記録されない個人の揺らぎや思い出を世界に繋ぎ止める役割を持つ者達。彼らが死の間際に残す一冊の本は、公式記録には載らないものの、龍神族が大切に保管すべき生きた証明そのものだった。
「只の盗難ではないのだね、カミラ?」
グレイの問いに、カミラは無言で一冊の本を机に置いた。それは、装飾も文字も一切存在しない、完全に真っ白な表紙の本だった。
「此れを開いてみて」
言われるが儘にレイラがその本に触れた瞬間、彼女の脳組織が演算結晶化の術式を微かに起動させる。全身が目となり、全方位の魔力流を完璧に捉えるレイラの感覚が、その本から放たれる異様な不自然さを感知した。
「此れは……文字が消えているだけではないね。」
この本の周囲から、インクの概念、記述された事実、それを見た司書達の記憶の記録さえもが、物理的に削ぎ落とされている。まるで、最初からそこに何も無かったかの様に。
「そう――存在した筈の因果が、句読点すら打たれずに強制終了させられている。文字通りの空位の本だわ」
カミラは吐き出す様に言い、万年筆を指先で弄んだ。彼女の千里眼を以てしても、その白紙の奥にある本来あったはずの過去が読み取れないのだという。
「……記憶の欠落、ですか」
グレイが顎に手を当て、紺青の瞳を細めた。彼の喉元で、言霊の力を物理現象へと変換する妖蟲・言の葉蟲が、主人の思考に呼応するように微かに虹色の粒子を散らす。
「実は、私が支配人を務めるヴェルヴァ劇場の周辺でも、奇妙な噂が流れているんだ。」
ここ数日、役者やスタッフの間で、特定の記憶だけが抜け落ちるという重度の精神疲労が多発している。例えば、自分が主役を張った初日の舞台の記憶や、恋人と交わした記念日の約束といった、その個人の根幹を成す様な、最も美しく強い感情の記憶だけが、綺麗に忘却の彼方へ消え去っているらしい。
「劇場の役者たちと、図書館の異邦人の記録……。無関係とは思えませんね」
レイラの声音に、嘗て皇帝として君臨した者の鋭さが戻る。
「消されたのは、どれも人間の主観的な思い出と強い感情の揺らぎなの。」
システムがノイズとして処理しがちな、けれど世界を豊かにするために不可欠な情報。誰かが意図的に、其れらを集めている可能性がある。
カミラは静かに告げ、妹夫婦を見つめた。悠久の時を生きる龍神達の国で、誰の認識からも外れた幻影の様に消えゆく記憶の謎。それは星間縁街の地下深くで蠢く、巨大な陰謀の序曲に過ぎなかった。
中央広場の外れにあるクラシカルなカフェバー、ドラコ・リバル。上質な珈琲と洋酒の香りが漂うこの大人の隠れ家は、レイラの兄であるセオン・フォルティア・アルバエレミアがオーナーを務める情報屋の拠点でもあった。
「――つまり、星間縁街の裏路地で感情の密売が行われている、と」
執事服を完璧に着こなしたセオンは、朗らかな笑顔の裏に底知れぬ思考を隠し、カウンターのグラスを磨いていた。彼の胸元には淡い緑色の光の渦――闇喰が宿り、流れ込む街の悪意や穢れを瞬時に消し去っている。
「ええ、標的になっているのは、異邦人や感受性の強い芸術家達よ。」
彼らの証明不可能な感情の揺らぎを無理やり結晶化させ、高値で取引している不届き者がいる。どうやら秘密結社『黒夢の心臓』の離反者の様だ。
そう語るのは、店を手伝う銀龍神のカティだ。夜の活気を得て少し毒舌混じりに語る彼女の首筋には、微かに銀色の鱗が浮かんでいる。事件の深刻さを察したグレイとレイラは、即座に星間縁街の闇へと潜行した。
街の最下層、世界の理の隙間である煉獄との境界が最も薄れる裏路地。そこは、世界の綻びから漏れ出たエネルギーが黒い靄の様に澱む危険な領域だった。
「私の歌よ、影に潜む真実を暴きなさい」
グレイが低く美しい声で紡ぐと、彼の喉元から溢れた虹色の粒子が、鳥をモチーフにした優雅なドレスを纏う幻影、魅惑の歌姫を形作る。歌姫の妖艶な舞と1/fゆらぎを含んだ言の葉は、裏社会の密売人達の精神を瞬時に魅了し、誰にも口割れしなかった極秘の取引情報を次々と引き出していく。
一方、レイラは漆黒の外套を払い、その真の力を解放していた。
「――神造宝石、全機能同調」
彼女の呟きと共に、桃色の瞳が因果の流れを視覚化する紫の結晶へと変貌し、脳組織は超高速演算を行う青の結晶へと置換される。全身を生きた霊結晶へと変えたレイラは、大気中に残留する魔力の不自然な歪み、そして奪われた感情が放つ固有の振動波を完璧に捕捉した。
「見つけたわ、グレイ。この歪みの先……煉獄の周波数と完全に同調している空間よ」
二人が踏み込んだのは、幾重もの暗号結界に守られた地下の隠蔽実験室だった。
其処にいたのは、狂気的な光を瞳に宿した一人の異邦人の科学者。そして彼の背後でどろりと蠢く、独自の特殊文字を周囲に浮かべた黒い靄――悪性情報の集積体である上級の魔性だった。
「ククク、来たな龍神族め!我々の人生の記録を本という形に縛り付け、管理し、奪い去る傲慢な観測者どもが!」
科学者は、実験器具に囚われた無数の色鮮やかな結晶――人々の思い出を掲げて叫んだ。
「私は死ぬ前に君達に全てを明け渡すつもりはない!この煉獄のエネルギーと魔性の悪性情報を融合させた新術式があれば、世界そのものの記憶を私の主観で上書きできる!龍神の記録等、全て白紙に還してやるのだ!」
彼の狙いは恐るべきものだ。術式が発動すれば、星間縁街に住む人々の絆や歴史、愛する人との記憶は全て忘却の彼方へ消え去る。それだけではない。人々の認識と記憶によって存在を固定されているこの都市其の物が、誰からも認知されない幻影となって、世界から完全に消滅してしまうのだ。
「世界を、人々の想いを何だと思っているの……!」
レイラの結晶化した瞳に、冷徹な元皇帝の怒りと、大切な街を守ろうとする慈母の激情が同時に灯った。悠久の記憶を揺るがす未曾有の危機を前に、龍神夫婦の静かなる反撃が始まろうとしていた。
狂気の科学者と魔性は、一瞬にして目の前から掻き消えた。彼らは星辰砂都の古代遺跡から発掘された隠蔽技術を悪用し、自らの存在そのものを因果の糸から引き抜いて潜伏したのだ。だが、彼らが残した偽りの手がかりという名の謎は、4人の前で脆くも崩れ去ることになる。
「……不可解な点があるわ」
カミラが真鍮製の万年筆で空間に文字を刻み、被害者たちの行動記録を校閲する。
「記憶を奪われた者たちは全員、事件の直前に『伝統的な香炉の煙の匂い』を嗅いでいる。そして、この現場に残留しているのは『反転した熱量の結晶』……つまり、分子運動の振動が不自然に歪められた痕跡よ」
「成程ね……香炉の煙に偽装したエーテルの歪みで、人々の認識を狂わせ、熱量を偽装して潜伏場所の座標を隠していた訳か。食えない真似をしてくれる」
セオンが飄々と笑いながら、彼の友人であるコカゲや、タイヨ達に目配せを送る。エイカが影の中から邪悪を炙り出し、シグレが重力を操作して因果の歪みを固定する。ミツキが広域の異能力を無効化して大地のノイズを切り分けたその瞬間、隠蔽されていた煉獄の特異点の座標が、レイラの神造宝石の演算によって完全に暴かれた。
「見つけたわ――煉獄の最深層!」
4人は一歩も引かぬ陣容で、世界の隙間の最奥へと犯人を追い詰めた。然し、退路を断たれた科学者は、歪んだ顔で魔性の上級言語を全解放した。
「ウ、ヴァ、ア……ッ!!」
人間の脳を根源から破壊する悪性情報の絶叫が、煉獄の空間をどろどろとした黒い瘴気で汚染していく。その禍々しい呪詛は、嘗て祖母シュラの襲撃によって姉カミラが身代わりとなり、自身が失声症を患ったという、レイラの心の奥底に眠る最悪のトラウマを容赦なく突き刺した。
「あ……、く、っ……!」
レイラの全身の結晶体が拒絶反応を起こし、微かにその輝きを曇らせる。冷酷非情な王の精神構造の隙間に、かつて内気だった少女の恐怖が蘇りかけた。その時、世界の全てを凍りつかせる程の絶対的な憤怒が、煉獄の闇を両断した。
「――私のレイラに、二度とその穢れた悪意を向けさせると思う
な。」
その声は、優しく誠実な夫のものではなかった。家族を侮る者、傷つける者を絶対に許さない、龍神グレイの理性が完全に振り切れた咆哮だ。直後、周囲の温度が劇的に急落し、空間そのものが凍結し始める。グレイが発現させたのは、感情の極致においてのみ発動する自己変質能力。彼の纏うオーラは禍々しい黒炎と赤雷へと変わり、その手に握られた漆黒の刀剣が狂った様に鳴動した。
「おおおおおっ!」
グレイが漆黒の刃を一閃させる。常識を超えた身体能力から放たれた一撃は、空間ごと魔性の悪性言語の術式を物質的に粉砕し、その傲慢な響きを完全に消し去った。同時に、レイラの耳元で半透明の結晶が眩く輝く。
闇喰が彼女の精神に侵入しかけた、負の感情やトラウマの瘴気を、凄まじい速度で純粋な魔力へと変換・還元したのだ。
「……有難う御座います、グレイ。私は、もう大丈夫ですよ」
完全に冷静さを取り戻し、王者の风格を取り戻したレイラが指を鳴らす。
「これ以上、私達の世界を、思い出を汚す事は許さない――青玉の大地!」
煉獄の闇が弾け飛び、無限に広がるサファイアの大地と、星々が瞬く美しい宇宙空間が眼前に展開される。結界の絶対支配下に囚われた科学者と魔性は、液体密度の上昇した重油の様な大気に捕らわれ、指一本動かす事すらできずに其の場に縫い付けられた。
青玉の大地に縫い付けられ、なおも足掻こうとする科学者と魔性の前に、カミラとセオンが静かに歩み出た。
「……これ以上、この世界に無駄な頁を増やす必要はない。ここで、あなたの物語を幕引きにする」
カミラが冷徹な制裁者としての瞳を光らせ、自己制約を解除する。彼女の唇から溢れ出たのは、破滅の旋律――絶唱。エーテルを介して次元の壁すら透過するその特殊な振動波は、犯人が構築した悪性術式の構造そのものを論理的に破綻させ、存在の核を容赦なく粉砕していく。
「さあ、全ての澱みを洗い流そう。元の、あるべき無垢な姿へ還るんだ」
間髪入れず、セオンが絶唱の浄化歌を響かせる。彼の胸元の闇喰が眩い緑の光を放ち、天災規模の浄化の波動が炸裂した。空間を満たしていた黒い瘴気や因果の捩れは、春の霧が晴れるように一瞬で消滅し、世界を脅かした悪性術式は完全に解体された。特異点が消滅し、再び星間縁街の夜空が戻ってくる。仕上げとばかりに、グレイがその柔和な声を世界へと紡ぎ出した。
「祝福の聖歌――生命を繋ぎ、優しき記憶をここに」
虹色の粒子を伴った柔らかな光と音色が、星間縁街の隅々まで、波紋のように優しく広がっていく。それは傷ついた人々の心を胎内にいるかのような安らぎで包み込み、奪われていた異邦人の人生記録や、劇場の役者達の大切な思い出を、欠落のない元の形へと鮮やかに再構築していった。
人々が忘れていた温もりを取り戻していく中、事件は鮮やかに解決を迎えた。数日後、中央広場の外れにあるカフェバー、ドラコ・リバルは、何時にも増して賑やかな笑い声に包まれていた。
「はい、レイ。事件も無事に解決した事だし、今日のご褒美だよ」
カウンターの特等席で、グレイが嬉しそうに特製のカヌレと高級チョコレートをレイラの口元へと運ぶ。レイラは「もう、子供達の前ですよ……?」と頬を桃色に染め、少し照れくさそうにし乍らも、愛する夫からの甘味を幸せそうに口に含んだ。
「お父様とお母様は、本当に熱いですね。」
長男のリオンがチェスボードを眺め乍ら、思慮深い笑みを浮かべる。
「本当、見てるこっちがごちそうさまって感じ。でも、お母様のそういう可愛い所、私大好き」
長女のエイラが嬉しそうに微笑み、次男のアルトは「俺もそのカヌレ食べたい!」と身を乗り出して、次女のリアラが淹れたばかりの特製ハーブティーを危うく溢しそうになって怒られている。
「はいはい、お騒がせなファミリーは其処迄。僕の淹れた極上の珈琲が冷めちゃうよ」
セオンが呆れたように、けれど心底愛おしそうに家族全員のカップを満たしていく。その様子を、カミラがレモンケーキを片手に、静かな満足感を湛えた瞳で見守っていた。
事件の解決から数週間。星間縁街を騒がせた空位の本の騒動はすっかり落ち着き、多重都市には再び、異界のスパイスと伝統的な香炉の煙が混ざり合う、活気ある日常が戻っていた。其の日の午後――ジュエルショップ、ドラコ・ジェマの裏手にあるプライベートサロンでは、甘く芳しい香りが満ち満ちていた。
「うん、この温度だ。結晶の輝きを保つには、火加減が一番繊細だよ」
エプロン姿のグレイが、ボウルの中で見事にテンパリングされたチョコレートを艶やかに混ぜ合わせている。その手捌きは、ヴェルヴァ劇場の支配人というよりは、一流のショコラティエのそれだった。
「グレイ、そちらの進捗はどうですが?此方の飴細工は完璧に仕上がりました。」
隣で同じくエプロンを纏い、真剣な眼差しでピンセットを動かしていたのはレイラだ。彼女の手元には、光を浴びて七色に乱反射する、まるで本物の宝石の様なボンボン・ショコラが並んでいる。趣味のお菓子作り。それは嘗て数々の激動を乗り越えてきた元皇帝夫婦にとって、何にも代えがたい平穏の証明だ。
「素晴らしいよ、レイ。君の作るお菓子は、いつだって世界最高峰の美術品だ」
「ふふ、君の焼き上げるカヌレの香ばしさには敵いませんよ。」
見つめ合い、自然と微笑みを交わす二人。グレイが愛おしそうにレイラの頬に指を伸ばし、微かに付いていた粉糖を拭うと、レイラは外見通りの瑞々しい乙女の様に、ふわりと頬を桃色に染めた。
「――お熱いところ邪魔するわよ。アルバイトの面接希望者が来てるんだけど、オーナー達がこれじゃあ店に入れないってさ」
プライベートサロンの扉が開き、気だるげな声をかけたのはカミラだ。手には本を開いた儘、ダウナーな視線を妹夫婦に向けている。その後ろからは、セオンが、朗らかな笑顔でカフェモカのカップを手に現れた。
「まぁまぁカミラ、二人の仲が良いのは僕たちの心の栄養だからね」
「兄さん、姉さん……ごめんなさい、つい集中してしまって。」
レイラがコホンと一つ咳払いをして、皇帝の風格を取り戻す。
「いやぁ、其れにしても街が元に戻って良かった。僕の店も、一時はどうなるかと思ったけれど、今じゃカティの毒舌カクテルを目当てにする常連で夜は大繁盛さ」
セオンが笑うと、カミラも静かに頷いた。
「図書館の異邦人の本も、無事に全ての頁が復元された。彼らが残した証明不可能な思い出は、二度と誰にも奪わせない……それに」
カミラは机の上に並んだ七色のショコラを見つめ、ふっと口元を緩める。
「今日の読書会に、ハギネやリンウ達が其のお菓子を楽しみにして待っている。甘やかされる準備はできている」
「ええ、姉さん。たっぷり持っていって」
レイラが微笑み乍ら、特製の美しい化粧箱にショコラを詰め詰めていく。その時、サロンの窓の外から、賑やかな声が響いてきた。独立した4人の子供達――リオン、エイラ、アルト、リアラが、街での買い出しを終えて戻ってきたのだ。
「お父様、お母様!今日のヴェルヴァ劇場の新作舞台、ものすごい大盛況ですよ!」
「リアラが淹れたハーブティーも、劇場のお客さん達に大好評だったんだから!」
窓を開けると、星間縁街の心地よい風と共に、子供たちの弾けた笑顔が飛び込んでくる。グレイはレイラの肩をそっと抱き寄せ、紺青の瞳を細めた。レイラ達の観測と記録は、これからも続いていく。
「一番大切なのは、こうして君と、家族と共に紡ぐ『今』という物語だね、レイラ」
「ええ、グレイ。この幸福な記録だけは、世界のどんな法則を書き換えても、絶対に渡さないもの」
白銀の龍神達が守り抜いた街に、今日も穏やかな夕暮れが訪れる。二人が紡ぐ永遠の絆は、お気に入りの紅茶の湯気のように、どこまでも温かく、優しく、この多元世界を包み込んでいた。




