神祖の龍神の冒険
某日、とある世界にて――
静寂と――それから微かな、自分自身の呼吸音。そんな世界に、フォルティアはいた。それは極有り触れた部屋。使い古されたベッド、壁に掛けられた絵画、そして部屋の真ん中に置かれた、古びた姿見。フォルティアは、その鏡の前に立っていた。
「おや、これはまた、随分と面白いものがあるのぉ。」
鏡はフォルティアの姿を映している。外見は20代前半の女性。白を基調とした、何処か神々しい雰囲気の衣装を身に纏い、白銀の髪が肩まで流れている。瞳は深く、宇宙の縮図を映し出したかの様に群青色と銀色が輝いている。何時もの姿だ。だがフォルティアが面白がったのは、其の鏡其の物だ。
無数の次元の隙間を映し出し、遥か彼方の世界へと通じる扉。鏡の縁には、古代の文字が刻まれている。真実の影は、光を求める好奇心とは、いつも突拍子もない行動の原動力になる。フォルティアは、この鏡が何処へと繋がっているのか、確かめてみたくなった。
「ふむ……では求めてみようかぇ?」
フォルティアは、鏡に手を触れる。表面は水面の様に柔らかく、指先がすっと中に吸い込まれていく。
「お?」
フォルティアは、其の儘鏡の中に踏み入った。一瞬の浮遊感の後、フォルティアはまた別の部屋に立っていた。
見慣れた空間と、瓜二つ……いや、全く同じだ。何もかもが現実世界と寸分違わない。ただ一つ、決定的に違うのは……光がない事だ。空間を照らすのは、ぼんやりとした灰色の光だけ。
フォルティアは窓の外を見た。其処には、現実世界と同じ街並みが広がっていた。だが、全てが影絵の様だ。何もかもが光を失い、黒く塗り潰された影として存在していた。
「此処が鏡の世界か……。」
フォルティアは自らの内に秘めた力、を発動させた。瞳が深淵の宇宙の様に輝き、周囲の空間が微かに歪む。無限の情報がフォルティアの中に流れ込んでくる。
この世界は現実世界から、スッパリと切り離され光を失った世界。人々は光の記憶を失い、魂が影となってしまった。此の儘では何れ、世界其の物が影に飲み込まれ消滅してしまうだろう。
この世界を救うには、失われた光を取り戻す必要がある。その鍵となるのが、光の石と呼ばれる特別な存在らしい。フォルティアは其の情報に、少しばかり興奮した。
「ハハハハハハ!面白そうではないか!妾の退屈を、少しばかり紛らわせてくれそうじゃのぅ」
そう呟き、フォルティアは面白そうに足を踏み出した。其の空間には影の人々が、ただ静かに意味もなく彷徨っていた。彼らはフォルティアに気づかない。いや、光を持つ存在を認識できないのかもしれない。
フォルティアが彼らに触れようとすると、彼らは霧の様に散り、またすぐに元の影の形に戻った。フォルティアは、この世界の中心部にある、光の石が安置されているという神殿を目指すこえにした。
「む、あれは……。」
その途中、フォルティアは奇妙な存在に遭遇した。それは龍神族の、永遠の宿敵である魔性だ。影が濃縮され、醜悪な形を成した様な怪物だ。
魔性はフォルティアを認識すると、途端に彼女に襲い掛かってきた。フォルティアは、その一撃を容易く躱す。物理的な攻撃は、彼女には通用しない。
「ははは!笑止!」
フォルティアは幻想を発動し、掌から純白の光の奔流を放つ。光は怪物を包み込み、一度白一色に塗り潰された後、何もなかったかの様に消え去った。この世界の住人は、フォルティアに気づかない。だが魔性は、フォルティアという光を認識し排除しようとする。
「成程、面白くなってきたではないか。」
フォルティアはそう笑みを溢し、ひたすら歩みを進める。すると突然、神殿が街の中心に、ひっそりと佇んでいた。
「ほう……此の神殿は、面白そうじゃのう。」
フォルティアは神殿に近付いている。神殿の入り口の扉は、堅く閉ざされている。フォルティアは扉に触れ、其の構造を読み解く。この扉は、世界の均衡其の物を保つ封印が施されている。安易に開ければ、この世界の均衡が崩壊し、現実世界にまで影響が及ぶ可能性がある。
「ふむ、これは厄介じゃのぅ。」
フォルティアは、扉の前に座り込み思案を巡らせる。すると、背後から声がした。
「フォルティア、いきなり姿を消すなってあれほど言ったじゃないか。」
振り返ると其処にいたのは、わたしの友人であるサピエンティアだった。漆黒の髪に漆黒と紫の瞳、黒を基調とした優雅な衣装を身に纏っている。
「ほう、サピエンティアか。どうして此処に?」
「どうして、ですって?私は貴女の気配を追って、此処まで来たんだよ。」
彼女は、呆れた様に溜息をついた。フォルティアの自由奔放っぷりに振り回されているらしい。
「相変わらずじゃないか……この世界は私達の様な概念的な存在でも、勝手に干渉すれば歪みが生じる……それを分かっているの?」
「ハハハハ、分かっておるわ!じゃが、妾は面白い事には首を突っ込みたい質でなぁ」
そう言うと、彼女は肩を竦めた。フォルティアに忠告を何度言っても無駄だと諦めているのだ。
「まあ、貴女の好きにすればいいよ……どうせ私が何を言っても聞かないだろうからね。」
「分かっておるではないか。」
サピエンティアは、扉を見て言った。
「この扉の封印は、物理的な力では解けない……此の世界の歴史、魂、そして光と影の理を完全に理解し再構築する必要があるね。」
「うむ、その通りじゃ……だからこそ、面白いのじゃ。」
フォルティアはの指先から、白銀の光線が放たれ扉に触れる。すると扉は白い文字や記号の羅列となり、フォルティアの意思によって編集されていく。サピエンティアは、その光景を静かに見守っていた。
「貴女は、その力で世界の全てを書き換える事もできる……だけど其れでは面白くならない……貴女もそう思っているだろう?」
「その通りじゃ。故に、妾は最低限の改変しかしない」
編纂が完了し光が消えると、扉は音もなく開いた。内部は外部と同じように薄暗い。だが其の中心には、輝く白い石が浮遊していた。それが光の石である。
フォルティアは幻想を発動させ、光の石に触れた。すると光の石はフォルティアの手の中で、何百何千という光の粒となり空へと舞い上がっていった。
「ふむ……此れを、こうして……。」
光の粒は空に広がり、影の世界全体を覆い街に光が戻っていく。人々は影の姿から、徐々に色を取り戻していく。光の石は此の世界を救う為の触媒だ。この世界に光を齎すには、フォルティアの様な光其の物に近い存在の力が必要だったのだ。
「ふむ、此れでよし……これで、この世界も救われた。さて帰るかぇ」
フォルティアは、満足げに笑った。だが其の時、神殿の内部に、新たな影が現れた。それは、先ほどまでの怪物とは比べ物にならない、巨大で、圧倒的な存在感を放つ影だった。フォルティアとサピエンティアは警戒する。
「お主、何者じゃ?」
影は答えない。ただフォルティアに向かって、黒い波動を放ってきた。フォルティアは難なく、それを掌で受け止める。だが其の波動は、フォルティアの力を吸収しようとしてきた。フォルティアは負けじと、全身から純白の光を放ち闇の波動を押し返す。
「面白い……妾の力を吸収しようとするか……ならば妾の力を、お主の闇で受け止めてみるが良い。」
フォルティアは、龍神の姿へと変身した。全身が純粋な白を基調とし、銀と群青の輝きを帯びた鱗で覆われた壮麗な姿だ。背中には無限の可能性を秘めた、純白の光の翼が生えている。フォルティア絶唱を放った。神をも超越した概念的存在の真髄であり、万能にして全知全能の力が込められた歌声だ。
「♪〜♪」
歌声は全てが無意味な程に、フォルティア自身が全てを包括する存在である事を示唆する。世界全体が純粋な白に塗り潰されていく。魔性はフォルティアの絶唱によって、その存在を根本から消去され、白い無へと帰された。
そしてフォルティアは此の世界世界を、彼女が望む形に再構築した。光と影が調和し人々が笑い、そしてフォルティアが面白がれる様に。そしてフォルティアは鏡の世界を後にした。サピエンティアと一緒に。現実世界に戻ると、フォルティアは鏡の前に立っていた。鏡は只の古びた姿見に戻っていた。
「これで此の世界の物語も、面白くなったであろう。」
フォルティアはそう呟き、満足げに笑っていた。するとフォルティアの相変わらずの反応を見た、サピエンティアが半ば呆れたように言った。
「貴女は、本当に懲りないね……然し、まあ……。」
彼女はにこりと笑って、フォルティアを見る。彼女は意外にも満更でもなさそうな様子である事が分かる。
「私も、少し楽しかったよ……たまには、貴女の気紛れに付き合ってやるのも悪くないね。」
「ハハハハ、そうであろうそうであろう!やはり妾の友じゃ!」
フォルティアそう言って、彼女の肩を叩いた。鏡の世界の冒険は、これで終わり。だがフォルティアの気紛れな旅は、まだまだ始まったばかりだ。次はどこへ行くのか、次の物語はどんな面白い事が起こるか。フォルティアは胸を高鳴らせ、次の冒険へと想いを馳せる。
「さてと……そろそろ妾は行くかのぅ!」
フォルティアは、次の冒険へと想いを馳せていた。鏡の世界での一件は、彼女にとって最高の暇つぶしだ。光と影が調和し、人々の笑顔が戻った光景は、彼女の心を満たすには十分なものである。
「はぁ全く、落ち着きがないんだから……。」
サピエンティアが嘆息する。だが其の瞳の奥には、友人の次に何が起こるのかという、微かな期待が宿っているのを、フォルティアは見逃さなかった。
「ハハハハ!そう言うお主も、次に何が起こるか楽しみにしておるだろう?」
フォルティアの言葉に、サピエンティアは一瞬驚いた顔をしたが、すぐにいつもの涼しい表情に戻る。
「どうだか……でも、もし次に面白いことが起こるなら、私も誘ってくれてもいいんじゃないかい?」
サピエンティアは、口元に微かな笑みを浮かべた。フォルティアは満面の笑みで頷く。
「善き哉善き哉!約束じゃ!さぁ、行くぞ!」
フォルティアは、世界渡航の力を発動させる。彼女の周囲に純白の円形のゲートが開き、その内部には無数の異なる世界の風景が万華鏡のように映し出される。サピエンティアも、その光景を静かに見守るのだった。
某日、とある世界にて――
光は希望、闇は絶望。人々が光の魔法を信仰するこの世界で、その思想は絶対の真理だ。白昼、汎ゆる場所に聖なる光が満ち、夜には街灯代わりの光の結晶が道を照らす。光は人々の生活に溶け込み、欠かせないものとなっていた。然し、そんな常識はフォルティアにとっては何の意味もなさない。
「お?此処は新しい処かぇ?」
無数の世界を気儘に旅する彼女にとって、この世界も只の通過点に過ぎない。白銀に煌めく長い髪を風に靡かせ、見慣れぬ街の賑わいに目を細める。人々は皆、光の魔法を使い熟す魔術師であり、その光は彼女が持つ白の力と似て非なるものだ。
「なるほど、光を信仰する世界か。面白いではないか。妾も少しばかり、遊んでいこうかのぅ」
興味を惹かれたフォルティアは、街の中心部へと足を進める。祭りの日なのか、人々は皆、光の魔法で飾り付けられた華やかな衣装を纏い笑顔で溢れていた。そんな光景の中に、異質な“影”を見つけたのは偶然だった。
路地の奥、光が届かない場所で、少年が一人佇んでいた。彼の周りには、闇夜のような深い影が渦を巻き、人々の放つ光を吸い込む様に揺らめいている。少年は影を操り、地面に不思議な模様を描いていた。
「なんじゃ、あれは?」
フォルティアは興味津々に少年へと近づく。彼の姿に、人々は忌み嫌う様な視線を向けていた。中には石を投げつける者すらいる。
「化け物め!」
「光の祝福を受けぬ異端者!」
心無い言葉が少年に投げつけられるが、彼は何も言わずにただ耐える。その姿は、痛々しいほど孤独だ。
「ハハハハ、面白いではないか……どれ、妾がちょっかいを掛けてみようぞ。」
フォルティアは笑いながら少年の前に立つ。投げつけられる石を、彼女の持つ【白】の幻想が包み込み、光の粒子へと変えていく。
「お主、面白い力を持っておるのぅ……妾と同じじゃ……光を打ち消す、その力……。」
少年は驚いた表情でフォルティアを見上げる。彼女の白く輝く髪、群青色と銀色の瞳、そして何よりも彼の影を恐れぬその姿に。
「……貴女は、誰?」
「妾はフォルティアという……お主の名は?」
「……アンブラ。」
「アンブラ……善き名だ……お主は妾に似ておる、其の力を恐れるでない……お主の力は闇を操る力……光の対極にある、もう一つの真理じゃ」
フォルティアはアンブラの頭に優しく手を置く。彼女の掌から放たれる純粋な「白」の光が、アンブラの影と共鳴し複雑な輝きを放つ。その光は、彼の心に温かさを灯していく。初めて誰かに、自分の存在を肯定された。其の事実に、アンブラの瞳から一筋の涙が溢れ落ちた。
「……僕の影は、汚いって、皆……。」
「馬鹿な事を言うでない……闇がなければ、光は輝かぬ……お主の影は、光をより輝かせる為にある……それに光が届かぬ場所にこそ、お主の力は輝くのじゃ。」
フォルティアの言葉は、アンブラの心に深く響いた。彼は、自分の力を肯定してくれる存在と初めて出会った。その出会いが、彼の運命を大きく変える事になる。数日後、世界に異変が起きた。空に巨大な闇の塊が現れ、あらゆる光を吸収し始めたのだ。
「あれは……魔性か?」
フォルティアの脳裏に、彼女の闇喰についての情報が過る。無数の世界の隙間に、確かに存在する概念。無秩序や虚無を象徴し司る存在。世界の理を歪める、純粋な虚無の力。
「拙い……光の魔法が効かん!」
「太陽の光も届かない……。」
人々が放つ光の魔法は、闇に触れた途端、虚無へと帰す。太陽の光も闇に吸い込まれ、街は深い夜の闇に包まれていった。世界が絶望に飲み込まれていく中、フォルティアはアンブラの元へと向かう。
「アンブラ、お主の力の出番じゃぞ」
「でも……僕の力は、光を信仰する人達を傷つける……。」
「阿呆を言うでない!お主の力は光の対極にあるが故に、あの闇に唯一対抗できるのじゃ!お主の力は、この世界を救う唯一の希望なのじゃ!」
「……!!」
フォルティアの叱咤の言葉に、アンブラは決意を込めて迷いを振り切る。彼は自らの影を広げ、闇の塊へと向かっていく。影は闇と衝突し、互いの存在を削り合う。然しアンブラの影は、闇の虚無を食い潰し、少しずつ光を取り戻していく。
「見よ!異端者の力が、世界を救っておるぞ!」
「あの子は……光の祝福を受けていぬのに……。」
人々の間に、戸惑いと同時に希望の光が灯り始める。だが其の光は、一部の者達にとっては異端への憎悪を掻き立てるものだった。
「あの異端者を野放しにはできん!光の秩序を乱す存在は、抹殺しなければならん!」
光の魔法使いを束ねる聖騎士団が、アンブラの抹殺を画策する。彼らは、アンブラが世界を救おうとしている事よりも、彼の「異端」な能力を危険視したのだ。聖騎士団がアンブラを囲み、光の魔法を放つ。
「滅びよ、異端者!」
アンブラは影で身を守ろうとするが、無数の光の魔法に、徐々にその力が削られていく。
「……っ、なんで…僕は、世界を……!」
絶望の表情を浮かべるアンブラの前に、フォルティアが立ち塞がる。
「妾が、お主に死なせはせん。」
彼女の全身から、純粋な白の光が溢れ出す。その光は聖騎士団の放つ光の魔法を全て包み込み、自らの力へと変えていく。
「な、なんだ、あの力は…」
「光の魔法が、効かない!?」
聖騎士団の驚愕を他所に、フォルティアは彼らに向かって言い放つ。
「……お主ら、何が光を信仰する、じゃ……真に光を信仰するならば、闇の中に灯った一筋の光を、見つけ出す事が出来ねばならん……お主らは、闇を打ち消す事しかできん……其れは光の真の力ではないぞ。」
彼女の言葉に、聖騎士団は動揺する。フォルティアはアンブラに優しく微笑みかける。
「アンブラ、もう良い……妾が、お主の力と此の世界を救ってやろう」
フォルティアは自らの持つ白の力を発動させる。彼女の手から純白の光の奔流が放たれ、闇の塊に触れた途端、闇は白一色に塗り潰され、彼女の望む形へと再構成される……闇が消え再び光が戻った世界が其処にはあった。人々はアンブラとフォルティアの姿に只々呆然としていた。
「……妾も、たまには真面目にやるものじゃのぅ。」
フォルティアは満足そうに微笑み、アンブラの頭を撫でる。彼は初めて誰かの手によって、自分の存在が肯定され、世界を救えた事に安堵の表情を浮かべる。
「フォルティア……本当に……有難う……。」
「ふふふ、礼は要らぬ……アンブラ、どうか健やかであれよ。」
アンブラの瞳には、もう涙はなかった。彼の影は光の中で、誇らしげに揺らめいていた。世界は救われた。然しフォルティアが去った後も、アンブラの異端の能力を危険視する声は消えなかった。彼を抹殺しようと、画策する者達が潜んでいる。
光を信仰する者達にとって、光を打ち消す影の力は許容しがたい存在だ。だが世界を救ったという事実が、彼らをすぐに行動に移させる事を躊躇わせる。其の水面下で、アンブラに対する憎悪と警戒の炎が燻ぶり続けていた。
「チッ……あの童、また厄介な種を撒いていきおったわい。」
遠い宇宙の片隅で、フォルティアは自分の領域を漂い乍ら、小さく舌打ちをした。彼女の視界には、アンブラの周囲を監視する光の魔術師達の姿が映る。彼女の白の力が、この世界の過去、現在、そして未来の情報を瞬時に解析する。そして其の先の結末が彼女の気分を害した。
「折角見つけた面白そうな童じゃというのに……此の儘では、あの愚か者共が、あの童を摘み取ってしまうではないか……。」
こうしてはいられないと、彼女の指先から白銀の光線が放たれる。其の光線は遠く離れたアンブラの元へと飛び、アンブラの頭上で煌めく。
「此れは……?」
突然の出来事に、アンブラは困惑する。然し次の瞬間、彼の影の力が格段に増幅された事を感じ取る。彼の影は周囲の光を吸い上げ深い闇を帯びる。其れは光の魔術師達が放つ、微弱な光の欠片すらも見逃さず瞬く間に吸収する。
アンブラの力の増幅は、聖騎士団の間でもすぐに知れ渡る。彼らは彼を危険視する声をより一層高め、彼を抹殺する為の作戦を練り始めた。
「最早、あの異端者は放っておけん!今すぐ討伐隊を編成し、奴を討ち取れ!」
聖騎士団の団長が号令を下す。彼らの行動は素早く、アンブラは瞬く間に百人を超える光の魔術師達に囲まれた。
「アンブラ、観念しろ!お前の様な異端者が、光の世界に存在する事は許されん!」
「僕は……異端じゃない!」
アンブラは叫び影を広げるが、百人を超える魔術師たちの放つ光の奔流は、彼の影を容易に押し潰そうとする。その時、彼の頭の中でフォルティアの声が響く。
『落ち着くのじゃ、アンブラ……お主の力は、光を打ち消すだけではない……お主は光を喰らう力を有しておる。』
彼の影は光其の物を喰らい始める。まるで飢えた獣の様に、光を貪り自身の力を増幅させる。光の魔術師たちの放つ魔法は、アンブラの影に触れた途端、まるで存在しなかったかの様に消え去る。
「ば、馬鹿な!?我々の光の魔法が効かないだと!?」
困惑する聖騎士団の面々を他所に、アンブラの影は闇の筆先となって、光の魔術師達の魔力を吸収する。彼らの周囲に純粋な闇の鎖を形成し始めた。それは光の魔術師達の魔力を封じ、彼らの力を奪っていく。
「此れが……僕の力……。」
アンブラは、自身の能力を完全に掌握した事を実感した。彼の影は光を喰らい、己の力とする光の天敵となっていた。それは、フォルティアが彼に与えた新たな力だ。
「……あの童も、随分と成長した事だ」
世界の果てで、フォルティアは満足げに笑う。彼女はアンブラに力を与える事で、彼が自らの力で此の世界を生き抜く術を教えたのだ。然し彼女の行動は、この世界の「運命」を大きく書き換えるものでもある。彼女の力が此の世界の未来を、アンブラが生き残る様に再構築し始めていた。
アンブラは聖騎士団の魔力を全て吸収し、彼らを無力化する事に成功した。彼は彼らにとどめを刺す事はせず、只静かにその場を去ろうとする。その背中を、聖騎士団の団長が呼び止めた。
「待て!貴様、一体……。」
ロインの言葉は最後まで続かなかった。彼の周囲の空間が、突如として白一色に塗り潰された。そして其の白い空間から、純粋な白の光を放つフォルティアが現れる。
「愚かなる者達よ……お主らの傲慢さが、この世界の未来を危うくしたのだ。」
フォルティアの言葉は、まるで宇宙の真理を語るかの様に、人々の心に深く響く。彼女の白が発動し、彼女の指先から純白の光が、聖騎士団の心に放つ。その光は彼らの心に巣食っていた【異端】への憎悪を洗い流し、彼らがアンブラに対する恐怖や嫌悪を、真実の認識へと書き換える。
「我々が、間違っていた……。」
団長は、己の愚かさを悟り膝を突く。彼らの目に映るアンブラの姿は、もはや忌み嫌うべき異端者ではなく、世界を救った英雄だ。
「妾が……お主らに与えたのは真実の認識じゃ……これからは、光と闇が互いに認め合い、共存する世界を築くがよい。」
フォルティアは、そう言い残すと再び白い空間へと溶けて消えていった。アンブラは遠ざかるフォルティアの姿を、只見つめていた。彼の心の中には彼女への感謝と、彼女の様な存在になりたいという、新たな希望が芽生えていた。彼の影は光を飲み込み、世界を救う力、そして彼自身の存在を肯定する誇り高き象徴となった。
光を信仰するこの世界で、一人の少年が影を操る魔法使いとして、新たな歴史を紡ぎ始める。それは光と闇が交錯し、新たな調和を生み出す物語の始まりだった。




