第一話 「那月」
帰り道。
ふと目に留まったペットショップへ、
吸い寄せられるように足を向けた。
ガラス越しには、
小さな命たちが寄り添うように眠っている。
那月「……みんな、可愛いな」
誰に聞かせるでもなく、
ぽつりと呟いた。
みんな、
帰る場所を待っている。
迎えに来てくれる誰かを信じて。
……俺は。
もう、自分が帰る場所さえ
分からなくなってしまったのに。
胸の奥が、
少しだけ苦しくなる。
その時だった。
一匹の子猫が、
まっすぐ俺を見つめた。
――そういえば。
あの子は、今どうしているんだろう。
自然と、
一人の少女の笑顔が浮かんだ。
***
朝。
教室へ入ると、
俺の隣に見慣れない机が置かれていた。
窓際の一人席。
静かで落ち着く、この場所が好きだった。
周りが妙に騒がしい。
転校生が来るらしい。
先生「じゃあ、自己紹介をお願いします」
教壇に立った女子生徒が、
小さく一礼する。
栞「星野 栞です。」
「今日からよろしくお願いします」
――星野、栞。
その名前を聞いた瞬間、
心臓がドクンと鳴った。
昔、
毎日のように遊んでいた女の子。
……いや。
そんなはずがない。
目の前にいる彼女は、
俺の知っている栞とは
まるで別人だった_
同じ名前なんて、
珍しいことじゃない。
そう自分に言い聞かせる。
彼女は俺の隣の席へ座った。
一瞬だけ視線が重なる。
だけど、
彼女は何事もなかったように前を向いた。
***
昼休み。
席を立とうとして、
ふと目が止まる。
彼女の鞄で揺れる、
小さなキーホルダー。
……嘘、だろ。
あれは。
昔、
俺達が手作りしてプレゼントしたものだった_
鼓動が速くなる。
気付けば、
俺は声をかけていた。
那月「ねぇ、君」
「そのキーホルダー、可愛いね」
栞は少し眉をひそめた。
栞「急に何?てか、あんた誰?」
その一言が、
胸に静かに突き刺さる。
やっぱり。
覚えて、ないんだ。
那月「あらら、冷たいの」
笑うしかなかった。
本当のことを言えば、
泣きそうだったから。
「俺だよ。」
その一言だけが、
どうしても言えなかった_
名乗ろうと口を開いた、
その瞬間。
一真「おい、おめぇ何してんだ」
勢いよく現れた一真が、
俺の肩を乱暴に掴む。
一真「昼メシ抜きにされてぇのか?」
那月「分かった、今行くって」
そのまま引っ張られ、
教室を出る。
振り返ることもできない。
背中越しに聞こえたのは、
栞「……変なの」
初対面でスタートを失敗した自分。
俺は何も言えないまま、
その場を離れた。
あのキーホルダーだけは、
間違いなく俺達が渡したものだった。
それなのに、彼女は俺を覚えていない。
どうして_
第2話へ続く▶︎




