落ちた串焼き
「うっわあ! これってほぼお祭りじゃん」
「すげえ」
ララが、口をぽかんと開けて会場を見渡しながら言った。おれはそれに感嘆の言葉で応える。
ゴラルトの中央闘技場は、街の外れにあると聞いていたのに、着いてみれば街ごと呑み込むようなとてつもない大きさだった。
石造りの円形闘技場の壁が空を切り取っている。その中に人がこれでもかというくらい詰まっていた。参加者、見物人、賭け屋、物売り。普段の街人が全員いるくらいの人数に圧倒される。
いろいろな屋台を買いもせずに回っているうちに、太陽はどんどん高くなっていって会場全体が熱を持っているみたいに感じた。
「二人とも荷物に注意しろよ」
口をあけて会場を回っていたおれたちに向かってクロが言ってくる。
確かに、会場を眺めていると良くない人相の者を何人も見かけた。おれはローブを脱いでたたんで鞄にかける。ローブには小さからない魔石が留め具として付いているから少しでも目立つのを避けるために。
クロとララにも目くばせする。二人の首元に光る留め具の魔石はおれたちがフラクタルとして活動する試験の時、はじまりの洞窟で手にいれた。くず魔石だけど思い入れがある。
「受付? そんなの知るかよ。……なあ、これ食べてけよ! うめえぞ!」
大柄な男は串に刺さった肉をしきりに俺たちにすすめながら、他の客の相手をして言った。そのまま俺たちにも串焼きをすすめたけど、クロが首を振るとすぐに別の客に向かう。
「まずいな……正午までにエントリーしないとなのに」
クロが険しい顔でため息をついて言ってくる。
「まさか……こんなに広いと思わなかったからな」
おれとララもため息をつきながら人混みを見回して応えた。
もうすでに太陽が真上近くまでのぼっていた。朝ついてから、会場をぐるっと一回りしたのに受付が見つからなかった。見落としているのかもしれないけどなぜかあるのは屋台だけ。
最初は気にしてなかったけど、参加者の札を付けている者たちもなぜか今は周りにいなくなっていた。
「……あんたたちも参加すんのか?」
日に焼けた細身の若い男は、ララの方を見ながら串焼き肉を差し出しながら、声をかけてきた。ララは耳に髪をかけつつ、男の腕についている参加者の札から目を離さずに言った。
「そうなのよ。……でも受付が見つからなくて困ってるの。優しいお兄さんはどこに受付があるか知らない?」
ララが串焼きを受け取って聞いた。羨ましい……。50日振りのちゃんとした肉。あとで奪ってやる。
「受付? あんたたちどっから入って来たんだ? 南口に参加受付の立て札があるのを見なかったのか」
「!?」
クロは若い男の言葉を聞いてすぐに、ポシェットにしまっていたチラシを取り出して丁寧にたたんだ紙を乱暴に開いた。
「南口……書いてる。まずい、……会場の地図もちゃんとある。ここは物産エリアで、一般祭事の展示場みたいだ」
ララがすぐに紙を奪いとって地図に目を走らせる。
「えと、ここが物産展ってことは……」
「受付どっちだ……?」
おれはララとクロの顔を見上げる。二人の顔に小さく汗が光るのが見える。ララが何度か地図をひっくり返しながら頭上を見上げて、申し訳なさそうに言った。
「ねえ、受付……間に合わなそう。正午前までに受付にお越しください、って書いてあるけど……私たちがいる物産展からは完全逆方向。案内してきたのにちゃん確認できてなかった、あたしの責任だよ。ごめん……」
「いや、チラシをちゃんと確認しなかった俺にも責任がある。すまん……」
クロがおれたちに向かって頭を下げる。
「いや……おれこそ、二人に頼りっぱなしで……」
ま、まあ良いんだ。黒パンが嫌いな訳じゃないし。他でも金は稼げる。だから、おれは言った。
「気にするなよ! 今日は物産展で色々うまいもんでも食って帰ろうぜ?」
「そっ、そうだよ! 串焼きなんて久々……うん、美味しい……え、待ってお肉ってこんなに美味しかったの!?」
ララがおれの言葉に乗ってお兄さんからもらった串焼きを頬張る。その美味しさにびっくりして呆然として言った。くっそーあとでおれもたらふく食べてやるんだ!
そこにクロがポツリと言った。
「いや……だから、そのうまいもんを食うために金を稼ぎに来たんだろ……」
「あ」
二人で固まった。ララの口から、たったいま入れたばかりの肉がぽろりと落ちた。そのやり取りを見ていた、串焼き肉をくれたお兄さんが首をかしげて聞いてきた。
「なんかお困り?」




