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夜明け

 


 二人が解放されたのは、祭りの喧騒が完全に引いた、深夜だった。



 再審は、形だけ行われる。

 本物の魔石と、ガレスの自白、王国お抱えの鑑定士の保証。覆しようがなかった。


 それでも、手続きというのは時間がかかるもので、クロとララが医務室から出てきたのは、空に星が戻ったころだった。






 おれは、医務室の前で、ひたすら待っていた。


 待つ理由は、自分でもうまく分からなかった。もちろん、助けた礼なんかが聞きたいわけじゃない。それだけが確かだった。


 扉が開く。

 クロが先に出てきて、おれとまた目が合って、足を止める。


 ララが、足を止めたクロにぶつかりそうになって、それからおれに気づいた。髪を切られたララは、おれと目が合うと、すぐに逸らした。


 誰も、何も言わなかった。


 誰も一言も発しないまま城をでて、城下町を歩く。祭りの跡がところどころに残った風景は普段の街よりもなぜか寂しく見えた。






「……魔石」


 先に口を開いたのは、クロだった。おれを見ていた。


「ああ」


「犯罪だぞ」


「そうだな」


「……馬鹿かよ」


 クロの声が、震えていた。怒っているのか、泣いているのか、おれには分からなかった。


「修復がばれたらどうなるか、お前が一番知ってるだろうが! なんで、そこまで……」


 そこまでして、おれたちなんかを。


 その先は、言わなかった。けど、聞こえた気がした。おれは何も言わないで肩をすくめる。


 そして、ずっと聞きたかったことを、やっと聞くことにした。


「なあ、なんで……おれを追放したんだ」


 ララが石畳に残ったカラフルな模様を擦っていた靴を止めた。






 クロは、長いこと黙って、それからララと目を合わせた。


 クロが、石畳に腰を下ろしておれの足元にドサッと座りこむ。勇者と呼ばれた男が、疲れ切った声で、ぽつりと言った。


「お前……自分の鑑定が、どれだけのもんか、分かってないだろ」


「……あ?」


「フラクタルの魔石が国宝級だって、国中が言ってんだぞ。……鑑定したのはお前なのに、みんな『フラクタルの剣士と勇者』の名前だけ知ってる」


 おれは小さく、おれのことを知ってる人だって少しはいるだろ、と突っ込んだ。


 ララが、後ろで小さく言った。


「あたしたち、気づいてたの。途中から。フラクタルが大きくなってるんじゃないって」


 風が、吹いてララの短い髪を揺らす。クロが続けた。


「言っただろ、何度か。お前はおれたちと組んでる場合じゃない、もっと上に行ける、独立しろって。でもお前、笑って流すだろ。『おれは役立たずだから、二人がいないと』って。本気で、そう思ってやがる」


 ——思っていた。本気で。


「だから」


 クロがおれの足を強めにつついて言った。


「憎まれた方が、お前は出ていくと思った。役立たず、もういらない、そう言えば、お前はおれたちに気兼ねなく自由になれる。……そう、思ったんだ」


 ララが、追放の日、おれに蹴りを入れた。


 クロの腕に、自分の腕を絡めた。あのときの、わざとらしいほどの冷たさが、今、別の形をして戻ってくる。


 あれは、おれを送り出すための、芝居だった。


 下手くそ。


 おれの中で、ずっとたまっていた感情が形をなくしていく。


 そんな勝手な優しさで、人を放り出しやがって。……おれがどんな気持ちで。


 言いたいことは、山ほどあった。


「っ、ふざっけんなよそんなの……言ってくれねえと分からねえよ! 言葉にしろよ。おれだって……おれだって、なんで追放されたのか、聞けばよかったけど! 分かるわけないだろ!?」


 言ってしまってから、気づいた。


 おれたちは、三人とも、同じだったのかも。


 一番大事なことを、言わない。言えば壊れると思って、黙ったまま、勝手に相手の気持ちを決めて、すれ違った。


 ララが鼻をすする。クロが、だから何度も言ったろ、と苦く笑った。


 空を見上げる。誰も、ごめん、とは言わなかった。おれも言わなかった。


「……手、治るのか」


 しばらくして、クロが聞いた。ばれてたみたいだ。


「分からん」


「……鑑定は」


「目は、無事だ。手が利かなくても、鑑定士は続ける」


 そうか、とクロは言った。それきり、また黙る。おれたちは星が、少しずつ薄くなっていくのを見ていた。じきに、夜が明ける。


 おれは、膝の上の右手を、左手でそっと包んだ。感覚のない指は、もう元には戻らないだろう。……フラクタルにいた頃のおれは、もう、いない。


 でも、と思う。


「……なあ、二人じゃ、やっぱり魔石の真贋も分からないんだろ」


 クロが、ぴくりと反応した。ララは、後ろでしていたあくびを止める。


「鑑定士、一人、要るんじゃないのか」


 言ってから、おれは前を向いた。


 返事は、すぐには来ない。気になって二人を見そうになる。でも、


 代わりに、左の肩に、ララの頭が乗った。反対側で、クロがおれの手を握った。


 夜明けの街は温かく光っていた。








ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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