9.水の元素の
水が流れる音と、俺たちの足音が反響するだけ……本当に静かだな。
大きな水のカーテンの先は、元素神の力の象徴が台座に祀られている祭壇。
「あ!誰かいますよお師様!」
「ん!?」
もぞもぞと動く……獣の毛?
「ソノラ下がっていなさい、オオカミのような野生動物だとしたら危ない」
警戒しながら階段を上り、確認すると……拍子抜け。
「はぁ〜〜〜〜〜……」
「お師様?誰ですかこのおじさ……くっさぁい……」
足にしがみついたまま覗き見したソノラ。鼻をつまみながら、俺にも刺さることを言ってくれる。
でもまぁ、確かに臭い。
酒、くさい。
「くぉら!クロン!!起きろ!!」
「ぐぉ〜〜……」
よく見りゃ周りに酒瓶やら樽やら壺やら……どんだけ飲んだんだ。呼びかけにも応えりゃしない……。
「こいつは水の代表守護騎士で、俺の同期のクロンダイクっていうんだが……見てわかるように酒好きな奴でな」
「職務中に……?お師様、さっきの水の玉に入れて強制的に起こすのはどうでしょう?」
壁側にいた水球がじりじり近づいてくるんだが……なんとなく感じてたけどソノラって殺意高めなのかな。
「ね、なにしてんの?」
「「わっ?!」」
近づいていたのは水球だけではなかったらしい。不覚……こんな真隣にくるまで気付かないなんて。そりゃ入り口であぁなったのも仕方ない……精進しないとなぁ。
「な、なにしてるって……君こそ、いったい……」
フードを被った小柄な子だ。誰もいないはずだろう神殿内を平気でうろついていて、水球に排除される様子もないってことは関係者か?
「この人の、弟子」
フードの子が指差したのは、クロン。
「そうなんですね!僕と一緒ですね!」
「……一緒?」
「ああ、俺は火の守護騎士のレイル・スプリッター……急用でここに来たのはいいが、クロンがこれじゃ話もできないし困ってたんだよ」
ふむふむ……と、頷きながら、クロンの鼻をつまみ、
「こっちも困ってたんだ、ねぇおっさん?付き合ってくれない?」
「お、おっさん……っ?!」
「ちょ、ちょとあなた!僕ソノラ!お師様におっさんなんて失礼です!せめて様をつけてあげてください!それに!名を名乗ったのだからあなたも!」
ちょっと違う。違うけどありがとうソノラ。
自分より小さい子に怒られ、渋々と言った様子でフードの子は教えてくれた。
「サラ……――」
「サラさんって言うんですね!フードもとりましょう!」
「わ、わ、やめろよっ!、」
なんかゴニョっていたが、ソノラの勢いに負けて顔も確認させて頂けた。
猫のような大きな青い瞳に、サラサラの水色の髪っと……名の通り、可愛い女の子じゃないか。
「サラ、ね?付き合うっていうの、どういうことかしっかり話してくれるかな?」
「ちっ……う〜〜」
顔を見られたのが相当恥ずかしかったのか、すぐにかぶり直して威嚇するみたいに唸っている。
「今のこの状態に関係してるんだろ?助けてやるから、話してみ?」
「言ったな?なら、俺に付いてダンジョンに行ってくれ」
「俺……?ダンジョン……って……行くにしても手続きが……」
どこか焦りが見えるのは分かる。だが、そう簡単に他元素のダンジョンには入れない。証明も許可もないのに手を出すと、特に報酬面で揉めるからな。
たとえ俺が、代表の位置にいるとしても、ホイホイ了承して勝手に手伝ってたら、なんの為のルールなのか意味を持たないし、示しもつかない。
「……酒を飲んで、酔いつぶれてるのは確かだけど……でもこれは、毒のせいって……解毒法も効かないって大騒ぎになって……色々調べて、稀に報酬の中に特別な万能薬が出るって分かって……みんな……」
……特例を除く。
「お師様……」
「ん、心配すんな」
フードで見えないが……鼻をすすって肩を震わせている女の子の願いを突っぱねるほど、嫌な大人じゃないつもりだ。
守護騎士たちが留守の理由もわかったし、戻ってもらう為にも、やることはひとつ。
「時にソノラ。今のところ身体不調や痛みはないかな?」
「あ、はい……ないどころか、いつもより元気なような気もします!」
「じゃ、サラちゃんの願いを叶えに出発するかね?」
「はい!」
水の元素に触れたことで、ソノラの元素のバランスが少なからず、良い方に傾いたと見ていいだろう。これなら、同行させても問題ないな。
「来てくれる……の」
「泣くな泣くな〜!お……おっさんに任せなさい!」
「ありがとう!!……にぁっ……!」
喜び勇んで俺の手をつかんだ拍子にフードがまた外れた。キラッキラの笑顔……すぐにかぶり直すサラ。よっぽど顔を見られるのが嫌なのかな?かわいいのにもったいない。
「でも、ここに置いたままってのはどうなんだ?」
「重くて動かせない……のも理由だけど、眠り続けるだけの不思議な効果だけじゃないかもって……元素神様に守ってもらってるんだ」
身長は俺と変わらないが、がちがちの筋肉ダルマだもんな。仕方ない。
「なら安心、か……?よし、サラちゃん!行こうか!」
「……」
え?無視?なんで?




