エピローグ 完成した家の情景
本日2話目です。読み飛ばしにご注意ください。
あれから数年が経った、ある穏やかな日の午後だった。
窓から差し込むやわらかな光が、部屋の中に静かに広がっている。
部屋の棚にはこれまでエリック達が作ってきた品々が飾られていた。
石鹸、香り付き液体石鹸、様々な酒、香水、ガラス製品の数々、どれも丁寧に作り込まれ温もりを感じさせるものばかりだ。
その空間の中で、小さな足音が近づいてくる。
「父さん」
不意に呼ばれ、エリックは振り向く。
「ん?」
そこには、少し背が伸びた我が子が立っていた。
好奇心に満ちた目で、棚の上の製品を見回している。
「どうしてそんなに物作れるの?」
まっすぐな問いだった。純粋で、飾り気のない疑問。
エリックは一瞬だけ視線を落とし子供に向き直る。
「昔な」
ゆっくりと口を開く。
「うん」
子供は一歩近づき、続きを待つ。
エリックの言葉を一つも聞き逃すまいとするように。
エリックは少しだけ遠くを見るような目をした。
過去の記憶を手繰り寄せるように、静かに息をつく。
「動画を見て真似してただけだ」
あっけないほど簡単な答えだった。
けれど、その言葉の裏には、数えきれない失敗や試行錯誤、夜遅くまで続けた研究の日々が折り重なっている。
子供はその答えに、ぱちぱちと瞬きをした。
「動画?」
聞き慣れない響きに、首をかしげる。
その仕草がどこか可笑しくて、エリックは思わず笑みをこぼした。
「ああ」
短くうなずきながら、エリックは昔の自分を思い出していた。
画面の向こうの誰かの手元を食い入るように見つめ、同じようにやってみては失敗し、それでも諦めずに繰り返していた日々。
「説明すると長い」
そう言って、軽く肩をすくめる。
子供はまだ納得しきれていない様子で、棚をもう一度見渡した。
その目には、新しい世界への入り口を見つけたような光が宿っている。
エリックはその様子を見て、ふっと優しい表情になる。
商会の原点である石けんを手にとった。
「一緒に作ってみるか?」
その一言に、子供の顔がぱっと明るくなる。
庭では必死に材料を混ぜる小さな影が揺らめく。時折こぼれる笑い声。
かつてエリックが辿った道が、今、ゆっくりと次の世代へと受け継がれていくのだった。
これで完結です。
ここまで読んでくださり本当にありがとうございました。
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