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『美味い』は禁止です。――それでも俺は、テリヤキを焼く  作者: 野村組
第1章:テリヤキ・レボリューション編
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テリヤキは世界を救う―救済のパーティー開宴!―

これは、人類が「味覚」を手放した後の世界の物語です。

シオンは、レシピ通りに焼き上がった「即席テリヤキバーガー」を、意識の戻らないタクの口元へ運んだ。

肉汁と、野蛮なまでに芳醇な甘辛いソースが、乾ききった唇をわずかに湿らせる。


「……おい、タク。……食え。……お袋のゼリーなんかより、一万倍……腹の底から熱くなる、本物のテリヤキバーガーだ」


タクの喉が、ぴくりと動いた。

次の瞬間、少年は本能という名の獣に突き動かされるように、バーガーに食らいついた。


――ガツッ、ムシャ、ムシャ……!


涙を流しながら、なりふり構わず貪り食う。

その一口ごとに、タクの肌に広がっていた黒い痣が、日の光に焼かれる霧のように薄れていった。


(……ああ、そうだ。これなんだよ、アリシア)


シオンの脳裏に、かつて鉄の味がするゼリーを啜りながら、痣に侵されて死んでいった妹の姿が過る。

あの時、俺がこれを食べさせてやれていたら。

あいつが最後に感じたのが、絶望的な冷たさではなく、この喉を焼くような熱さだったら。

救えなかった後悔が、義手を通じて黄金の熱に変わり、タクへと流れ込む。


「……食べろ。全部食って、お袋の呪いを焼き切っちまえ」


ニナも同じだった。

小さな口を精一杯開き、バンズにかぶりつく。

虚ろだった瞳に光が戻り、ソースで汚れた口元に、生きる意思が宿っていく。


「……食べてる……」


気づけば、リナも泣いていた。

天涯孤独になるんじゃないかと、夜ごと怯えていた二人が今、必死に生を噛みしめている。


『……バイタル、急上昇。脳内ドーパミン、規定値を突破。……成功です。味覚による「生の肯定」が、お袋の管理信号を粉砕しました。……マスター。アリシアさんは、今、あなたの隣で笑っているはずですよ』


セラの声が、わずかに震えていた。


「……うまい……。お兄ちゃん……これ……熱い……」


タクが生の喜びの声を上げる。


「お兄ちゃん……美味しい……美味しい……」


ニナのか細い声が、確かな生の実感を伴って響く。


シオンは最後の一つになったテリヤキバーガーを自分でも頬張った。

アリシアの分まで、その味を、熱さを、心臓に刻みつけるように。


「……ああ、最高に……うめぇよ、アリシア」


感傷を振り払うように義手で鼻を擦ると、最下層ロウアーの人々が、次々と声を上げ始めた。

その瞳に宿っていたのは、羨望ではない。かつてアリシアも抱いていたはずの、生への渇望だった。


「救世主様……どうか……私たちにも……!」


懇願が一斉に溢れ出す。シオンはセラと顔を見合わせた。


「食わせてやりたいが……材料は?」


『もちろんです。下層ロウアーの皆さんの分も、確保してありますよ。……さあ、マスター。あなたの妹さんが愛したかったこの世界を、テリヤキで塗り潰しましょう』


「……ああ、やってやろうじゃねえか。

よし、村のみんな――今日はテリヤキパーティーだ!死ぬほど食うぞ!」


「「「うおおおおおおおおっ!!」」」


セラフィオンのプラズマ・リアクターが起動し、地下街に黄金の残光が走る。

それは、死にゆく者のための鎮魂歌レクイエムではなく、今日を生きる者のための祝祭の音。


こうして――

史上最高に下品で、誰よりも優しいテリヤキパーティーが、始まった。

ついにシオンのテリヤキバーガーが人々を救う回でした。次回へ続きます。

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