テリヤキは世界を救う―救済のパーティー開宴!―
これは、人類が「味覚」を手放した後の世界の物語です。
シオンは、レシピ通りに焼き上がった「即席テリヤキバーガー」を、意識の戻らないタクの口元へ運んだ。
肉汁と、野蛮なまでに芳醇な甘辛いソースが、乾ききった唇をわずかに湿らせる。
「……おい、タク。……食え。……お袋のゼリーなんかより、一万倍……腹の底から熱くなる、本物のテリヤキバーガーだ」
タクの喉が、ぴくりと動いた。
次の瞬間、少年は本能という名の獣に突き動かされるように、バーガーに食らいついた。
――ガツッ、ムシャ、ムシャ……!
涙を流しながら、なりふり構わず貪り食う。
その一口ごとに、タクの肌に広がっていた黒い痣が、日の光に焼かれる霧のように薄れていった。
(……ああ、そうだ。これなんだよ、アリシア)
シオンの脳裏に、かつて鉄の味がするゼリーを啜りながら、痣に侵されて死んでいった妹の姿が過る。
あの時、俺がこれを食べさせてやれていたら。
あいつが最後に感じたのが、絶望的な冷たさではなく、この喉を焼くような熱さだったら。
救えなかった後悔が、義手を通じて黄金の熱に変わり、タクへと流れ込む。
「……食べろ。全部食って、お袋の呪いを焼き切っちまえ」
ニナも同じだった。
小さな口を精一杯開き、バンズにかぶりつく。
虚ろだった瞳に光が戻り、ソースで汚れた口元に、生きる意思が宿っていく。
「……食べてる……」
気づけば、リナも泣いていた。
天涯孤独になるんじゃないかと、夜ごと怯えていた二人が今、必死に生を噛みしめている。
『……バイタル、急上昇。脳内ドーパミン、規定値を突破。……成功です。味覚による「生の肯定」が、お袋の管理信号を粉砕しました。……マスター。アリシアさんは、今、あなたの隣で笑っているはずですよ』
セラの声が、わずかに震えていた。
「……うまい……。お兄ちゃん……これ……熱い……」
タクが生の喜びの声を上げる。
「お兄ちゃん……美味しい……美味しい……」
ニナのか細い声が、確かな生の実感を伴って響く。
シオンは最後の一つになったテリヤキバーガーを自分でも頬張った。
アリシアの分まで、その味を、熱さを、心臓に刻みつけるように。
「……ああ、最高に……うめぇよ、アリシア」
感傷を振り払うように義手で鼻を擦ると、最下層の人々が、次々と声を上げ始めた。
その瞳に宿っていたのは、羨望ではない。かつてアリシアも抱いていたはずの、生への渇望だった。
「救世主様……どうか……私たちにも……!」
懇願が一斉に溢れ出す。シオンはセラと顔を見合わせた。
「食わせてやりたいが……材料は?」
『もちろんです。下層の皆さんの分も、確保してありますよ。……さあ、マスター。あなたの妹さんが愛したかったこの世界を、テリヤキで塗り潰しましょう』
「……ああ、やってやろうじゃねえか。
よし、村のみんな――今日はテリヤキパーティーだ!死ぬほど食うぞ!」
「「「うおおおおおおおおっ!!」」」
セラフィオンのプラズマ・リアクターが起動し、地下街に黄金の残光が走る。
それは、死にゆく者のための鎮魂歌ではなく、今日を生きる者のための祝祭の音。
こうして――
史上最高に下品で、誰よりも優しいテリヤキパーティーが、始まった。
ついにシオンのテリヤキバーガーが人々を救う回でした。次回へ続きます。




