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神への祈り

 眠い。昨日は目を閉じても意識が落ちなかった。


 お陰でほとんど一睡もしていない状態で学校へ来ている。授業中は何度か気絶しかけた。


 眠そうな俺を見て、クラスメイトや先生は勝手に作家業が忙しいんだと好意的な解釈をしてくれたが、実際は違う。今はとてもじゃないが小説なんか書いていられるマインドではない。


 ネット有名人のシャドウでも結構な騒動となったが、グラシアス・ヒル・コーポレーションの不祥事と来れば、さらなる桁違いの騒動が起こるに違いない。紹介される場所もスポーツ新聞から大手新聞紙に変わるだろう。まずイタズラでしたで済まされるとは思えない。そうなれば回転寿司で騒動を起こした奴らも俺に同情するだろう。


 なんてことだ。元はと言えば鮫島たちをちょっと懲らしめたかっただけなのに。


 真偽はいくらか怪しいが、鮫島一味は現在揃って発狂し、全員が閉鎖病棟にブチ込まれているという噂が流れている。確かめる術はないが、あれだけの炎上を経験していればメンタルの閾値を超えている可能性は十分に考えられる。


 シャドウは亡くなった。テレビではまたネットの誹謗中傷についての番組が思い出したかのように放送されている。おそらく誹謗中傷している本人らは見ていないし見ても自分のことだとは思わない。自分は正しいことをやっているとすら思っている。だからこそこの社会が持つ宿痾は根治されないのだ。


 おそらく今度のターゲットであるグラシアス・ヒル・コーポレーションもタダでは済まないのだろう。目的も情報の入手経路も不明だが、煉獄のスケキヨは確実に激ヤバのネタを持ってくる。直前になって知らされるまで、それが何なのかは分からない。


 そしてそのネタが投下されれば、岡さんも――


 そう考えると背筋が寒くなった。祖父や親がどれだけクズだろうと、彼女には何の罪もない。だが、決して世間はそのようには見てくれないだろう。そして、俺はその引き金に指をかけている。これでまともな精神状態でいられるならそっちの方がおかしい。


「鬼頭君、大丈夫?」


 完全に油断している所に声を掛けられたせいで心臓発作でも起こしそうになるぐらいビックリする。声のした方を見やると岡さんがいた。俺の天使。そして、日本の至宝。


「え? いや、何か?」


 動揺しまくりながら自分でも意味の分からない返事を発した。


「なんか、すごく青い顔をしていたから」


 でしょうね、とは言えない。


「あ、あ、ああ、そう? まあ、だ、だ、だ、大丈夫だからさ。何もない。何もあらへんよ~」


 ――不審者、全開。


 どれだけ動揺を隠すのが下手なんだろうと自分に呆れながらお茶を濁す。もう彼女にどんな顔で接したら正解なのかも分からない。


「そう……」


 彼女は本気で俺を心配してくれているような顔をしていた。この娘に俺は弓を引くのか。自分がとんでもない外道に思えてきた。


 これ以上追及しても意味がないと悟ったのか、彼女は話題を切り替える。


「じゃあ、今日も図書室で」


「あ、うん。じゃあ、そういうことで」


 ここのところは毎日図書室で一緒に読書をしている。私語があまり許されない環境なので、二人でじーっと本を読んでいるだけ。それでも、俺にとっては十分幸せな時間だった。


 間もなくその幸せですら自らの手で壊すことになるのか。そう思うと寂しいというより怖くなってきた。


 SNSでトラブルを引き起こす奴はアホだと思う。それは今でも変わらない。だけど、俺は現状そのトラブルに陥る状況を強いられている。熱いと知っている炎に自分から飛び込むのは勇気が要るというよりもしんどい。ただ傷付くだけだと知っている行為をなぜメンヘラでもない俺がやらないといけないのか。


 放課後は岡さんと約束通りに図書室へとやって来た。互いに読みたい本をじっと読んでいる。ダメだ、今日に限って言えば内容が頭に入ってこない。小説の結末よりも俺の人生がバッドエンドになるんじゃないかという恐怖の方が圧倒的に勝っている。


 岡さんの顔を見る。夢中になってミステリを読み耽っている。何かが伝わったのか、ふと顔を上げた彼女と視線がぶつかる。慌てて目を逸らした。視界の端で、かすかに岡さんの口角が上がる。


 あの微笑みを、いつまで経っても見ていたい。彼女が悲しむ顔なんて見たくない。


 神よ、いや、今回の場合は煉獄のスケキヨか。


 どうか彼女の微笑みを奪わないでくれ。この俺から、わずかな人生の楽しみを奪わないでくれ。


 お願いだ。お願いだから――

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