39:趣向を凝らす
エドワード様は約束通り、アケビを持ってきてくれた。
私は皇妃にメッセージカードを書いた。
「Dear 皇妃エリザベータ
皇妃様がその味を思い出す度に
皇女ナスターシャ姫を想い出し
涙されたという思い出の果実。
そちらが手に入りました。
舞踏会の前にぜひお渡ししたいのですが
離れまで来ていただいてもよろしいですか?
Best regards セシル」
皇妃の返事は当然「イエス」だ。
皇宮からクラウスを遠ざけたくて建てられた離れ。
その一室に皇妃が来る。
そうまでしてでも果実を食べたいと思っていた。
さらに私を信じ、離れに来る。
ウッド王国で妃教育に明け暮れていた時。
同時に皇妃対策を考え、いくつものプランを用意した。
彼女の懐に入り込む。
これもその沢山のプランの中の一つだったが――。
ここまで上手くいくなんて。
「セシルお嬢様、ご用意できました。今日は格別に美しいと思います」
マリとエラにドレスに着替えさせてもらっていた。
姿見に映る私を見て、マリがうっとりするとエラは……。
「今日のヒロインは間違いなく、セシルお嬢様です。ご準備を手伝えて光栄です」
「マリ、エラ、ありがとう。舞踏会の前に、まだ一仕事あるから、行ってくるわね」
「「はい、セシルお嬢様、いってらっしゃいませ」」
二人に見送られ、部屋を出る。
クラウスの瞳に合わせたので、ドレスは浅紫色。
上質な光沢感を持つシルクサテン生地で出来ており、スカートにはシルクオーガンジーの三段フリルが重ねられている。フリルに施された大小のビジューは明かりを受け、煌めきを放つ。ウエストには濃い紫のベルベッドのリボン。
いつもの紫のマーブル模様の鉱石はペンダントにしてつけている。
髪はハーフアップにして銀細工の髪留めを飾り、耳にはお揃いのイヤリング。
そして手には……
今日はクラウスがくれた婚約指輪はお留守番。
手にはロイヤルパープルのミディアム丈の手袋……つまりはガントレットを装備している。浅紫色のドレスにピッタリあう。
その手袋をつけた手には、皇妃が愛する禁断の果実を入れた籠を持っている。エドワード様が、ウッド王国の王宮にある自身の温室から、わざわざ持ってきてくれたアケビだ。
皇妃を通すのは応接室ではなく、ホール。
一足先に部屋に着いた私は、用意したテーブルに籠を置いた。
籠には白い布をかけてある。
寄木細工でできたテーブルには、あえてクロスはしかず、木の器に盛り着けたお菓子を並べている。椅子の背もたれも寄木細工でできていた。さらに本来窓が見える場所に、金屏風が並べられている。東方から伝来したもので、クラウスが領地視察した際、アンティーク市場で見つけという。金屏風には鳥がメインで描かれている。だがよく見ると、アケビも描かれていたのだ。こういう偶然は運命だと思い、飾ることにした。
間もなく時間になるので、エントランスホールに向かい、そこで皇妃を迎える。
置時計を見ると、間もなく約束の時間だ。
ガタッという音と、入口に立つドアマンが扉を開けると……。
皇妃が登場した。
今日の舞踏会のために着ているドレスも相変わらずゴールド。
皇帝陛下は銀髪に、グレーがかかった銀色の瞳をしている。でもそれではドレス映えしないからかもしれないが……皇妃はここぞというドレスは、必ず自身の瞳であるゴールドを選んでいた。
今はそのゴールドのドレスに、赤みのあるオレンジ色の毛皮のローブをまとっている。
「皇妃エリザベータ様、わざわざ離れに足をお運びくださり、ありがとうございます」
「渡り廊下では遠いと思いましたから、馬車で来ましたの。このエントランスホールはとても素敵ね。でも遠いわ」
誰のせいで遠くなったのか。
全く他人事だ。
「本当にご不便をかけ、恐縮です。今日は趣向を凝らしたお部屋をご用意しましたので、どうぞこちらへ」
「ええ、案内してくださるかしら」
皇妃の後ろにはずらりとメイドと侍従と騎士がついて来ている。
こんなに連れてきても、全員、隣室で待機させるけれど。
ということであのホールに案内すると……。
二組の金屏風を見た皇妃は「まあ、これは……!」と一目散でそちらへと向かう。
ゴールドが大好きだから、この珍しい金屏風にも興味津々だ。
私の説明にも熱心に耳を傾けている。
「では皇妃エリザベータ様、金屏風についてはこの程度で。どうぞお座りください。このテーブルセットも東方伝来ですの。寄木細工の模様が、オリエンタルですよね」
「美しいわ。わたくしも金屏風とこんなテーブルを欲しくなってしまうわ」
「皇妃エリザベータ様が欲しいのでしたら、そちらの金屏風もこのテーブルセットも、進呈いたします」
この言葉に皇妃はもう上機嫌になる。その状態で、お供の方はすべて隣室へとお願いすると「ええ、それで結構よ」とあっさり応じる。
無防備だわ――と思うが、それを指摘するつもりはない。
ここまで短期間で皇妃の信頼を得られたのは上々。
ただ彼女の息子には苦労させられたが。
お互いに椅子に座ると、メイドが来て、ティーカップに注いでいるのは……緑茶だ。
「今日は東方つながりで、緑茶をご用意しました。お菓子も普段、皇妃エリザベータ様は召し上がらないものかと思います。どうぞ、今日は珍しいお菓子をお楽しみください」
笑顔で私は、皇妃にお茶とお菓子をすすめた。
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断罪されたい悪役令嬢VS.断罪されないでほしい私の攻防戦が今、幕を開ける――!





























































