38:ある事実を知る
もしナスターシャ姫が好意で皇妃にアケビを贈っていたのなら。
ナスターシャ姫が亡くなった後、エドワード様に相談すればよかったはず。
今、私に言った「アケビの味を思い出し、皇女ナスターシャのことを恋しく思うのです」を伝えれば、エドワード様は心を動かし、アケビを皇妃に贈ったかもしれないのに。
でも皇妃がエドワード様に尋ねないということは。
やはりナスターシャ姫は、自らの意志でアケビを皇妃に贈っていたわけではない。
ナスターシャ姫をだしに、私からアケビを手に入れようとするなんて……。
エドワード様は、ナスターシャ姫を失い、深い悲しみと共に生きている。
クラウスだって妹の死を深く悲しんでいた。
それなのにこの皇妃は彼女の死さえも利用している……!
こんな猿芝居なんてせず、ただ普通に「アケビが食べたいので、なんとかできませんこと、セシル様?」と言われた方がよっぽどましだった。
でも皇妃はナスターシャ姫の名を出した。
その名を出してでも、アケビが欲しかったというの?
前世の私は遠足で、おやつ代わりに食べたような物なのに!
待って、何かが、何かが引っ掛かる……。
ここで怒りのままに「アケビは無理です」と断ることもできるけれど。
「分かりました。実は先日、アケビをウッド王国で食べたばかりです」
「え!」
「舞踏会が開催されますよね。そこでは私達の婚約も発表されますから、ウッド王国を代表し、エドワード王太子様がいらっしゃる予定です。王太子様に頼めば、アケビを持ってきていただけるかもしれません」
皇妃の顔が見る見る間に笑顔になった。
入り込んだ。がっつり彼女の懐に。
もう皇妃は私のいくつかの提案にさえ、今後は応じるはずだ。
「セシル様、とても嬉しいわ。ぜひ、エドワード王太子様に話してくださるかしら?」
「承知いたしました。皇妃エリザベータ様」
私がニッコリ微笑み、皇妃は満足し、話題は舞踏会で着るドレスに移る。
そして皇妃が開催したお茶会は――終了した。
◇
皇妃のお茶会を終えた私は、トニーと共に離れに戻った後、すぐにエドワード様に手紙を書いた。そして早馬でこの手紙をウッド王国にいるエドワード様に届けてもらうよう、手配する。
さらにクラウスが戻り、夕食となるその前に、私はオルガと話をした。
そこで……ある事実を知ることになる。
それは……私が一つの真実に行きつく大きなヒントになった。
舞踏会まで残り日数は少ない。
その日々の中で私は、準備することになる。
何度かエドワード様と手紙のやりとりをして、そしておじいちゃん植物学者のピーター子爵に話を聞いた。さらにナンシー男爵夫人に協力を頼み、あることも調べてもらった。加えて私は様々な人物に連絡をとり……。
その一方で日々の日常をこなした。
宮廷画家のイワンのアトリエに足を運び、肖像画を描いてもらった。トニーからガントレットを使った防御術も少しずつ教えてもらっている。クラウスと共に仕立屋と打ち合わせし、ドレスに使うレースや刺繍を選んだ。宝石商から上がってきた結婚指輪のデザインも確認している。
既に私の中で、準備は整った。
シュガークラフトは手札の一つだったが、もう出し惜しみする必要はない。皇妃にはメッセージカードを届け、二人きりでのお茶会を提案した。前回のような面倒なお茶会は御免だったからだ。でもそんなことは、皇妃には言えないので、こんな提案をしていた。
「素敵なシュガークラフトを取り寄せることができました。蝶、王冠、雪の結晶などとても素敵なものです。すべて皇妃様にお渡しいたします。それを他の皇族やマダムの皆様に配るのは、皇妃様からしていただいて構いませんわ。ですから二人だけで、お茶会はいかがですか?」
つまり私が用意したシュガークラフトだが、皇妃にすべて渡す。後はそれをあたかも自身が手に入れたかのように、配ればいいと提案したのだ。ただし受け渡しをするお茶会は、二人きりで。
皇妃の答えは言うまでもなく「イエス」だった。
二人きりのお茶会で、相手を一方的に褒めるなんてあり得ない。皇妃のセオリーに沿ったお茶会ではなく、それは私が主導するお茶会になった。
お茶会というより、もうシュガークラフトの受け渡し現場という感じだったけれど。
ともかくこうして時間は着々と流れ、舞踏会の前日を迎えた。
アイス皇国では、朝から雪が降り始めている。
翌日の舞踏会に参加するため、国内の地方貴族も宮殿に集結しつつあった。同時に。隣国の王族や皇族も、続々とアイス皇国に入国していた。
「クラウス殿下、セシル嬢、しばらくぶりです。今回はお二人の婚約発表となる舞踏会にお招きいただき、ありがとうございます。ウッド王国を代表し、二人を祝福したいと思います」
金髪碧眼の甘いマスクのエドワード様が、アイス皇国へやって来た。



















